新春のとんでもないすごろく大会

1月5日の事だった。愛麗たちは去年全員が集まれなかったこともあり、日程を調整して14人全員の都合がついた1月5日に新年会をやることにした。
会場は新年ということで君佳の店を借りることができなかったので、14人が入れる部屋がある奈摘の家の一室でやることになった。
いつも通り飲み食いしながら、のんびりしていると水萌が急にこんなことを切り出した。
水「なあ皆。いつも通り飲み食いしているだけじゃ飽きるだろうし、今年はこういうのやってみないか?」
水萌は一つの箱を取り出した。それはすごろくであった。
柚「すごろくかあ。お正月の定番だよね。」
麗「それどこのメーカーのやつ?ずいぶん大きいけど・・・」
水「知らない。アタシの家にいつの間にかあった奴なんだよな。」
凛「いつの間にあったって・・・神宿さん、そのすごろくに悪霊が取りついていたりしませんか?」
咲「うーん、特にやましい霊は憑いていないみたいだけど。」
櫻「躊躇しているのもあれだしやってみようよ。やれば何かわかるかもよ?」
ア「そうデスね。やってみるデス。」
エ「こういうのやったことないから楽しみ・・・」
水「おし、満場一致だな。ならさっそく準備するか。」
水萌は箱からすごろくを取り出し、テーブルの上に設置する。
奈「このモニターはなんですの?」
水「すごろくのマスが空白だからマスにとまった時の指示がこれに表示されるんだと思うぞ。」
環「なかなかハイテクなすごろくなのね。」
咲「それと、番号が振られた1~15までのカードが入ってるんだけどこれは何に使うのかな?」
水「説明書によると一人一枚ずつ持つことになるらしいな。アタシらは14人しかいないから14までのカードを使えばいいだろ。」
柚「ならカードはボクが配るよ。」
柚歌は手慣れた手つきでカードを切ると、全員にいきわたるように配った。
陽「コマは一つしかないみたいだねぇ。」
ア「それなら全員で順番にサイコロを振って進めばいいデス。」
環「チーム分けとかしなくていいなんて便利ね。」
凛「まず誰からサイコロ振るんですか?」
麗「これを持ってきた水萌でいいんじゃない?14人でじゃんけんしてると時間かかるだろうし。」

水「それじゃ行くぞ・・・」
水萌はサイコロを振った。出てきた数値は4だった。
水「なかなかいいんじゃないか。4進むぞ。」
水萌はコマを4つ進ませる。すると、モニターに指示が表示される。指示は以下の内容だった。
『9のカードを持つもの、服を1枚脱げ。』
咲「えっ、なにこの指示・・・」
水「9のカード持ってるのって誰だ?」
エ「・・・私だけど。脱がないといけないの?」
エレナがそう言うとモニターにはこう表示された。
『すごろく中はここに表示される指示には絶対だ。逆らうのなら私が脱がすまでだ。』
するとモニターから手のようなものが飛び出て、エレナのケープをはぎ取ろうとする。
エ「・・・っ!」
モニターから飛び出した手は素早くケープを奪い取ってテーブルのわきに投げ捨て、モニターの中へ引っ込んだ。
エ「寒い・・・」
もともと体の強くないエレナはケープを取られただけでも体中に寒さを感じる。そのダメージは義手の関係でノースリーブしか着られないので尚更だ。
寒がるエレナをしり目にモニターには以下のメッセージが表示された。
『今脱がせた服を再び着るのは禁止だ。もちろんほかの連中が服を着せようとしてもだめだ。もし着ようとしたら・・・もっとひどい目に合わせる。』
麗「なんなのよこのモニター・・・」
和「このすごろくおかしいんじゃないの!?織田倉!あんたほんとにこれどこで買ってきたのよ!?」
水「だから知らないうちにあったんだっての!ったく、なんなんだよこれ・・・」
場が混乱する中、モニターの画面にこう表示された。
『また、ゲームを途中で放棄した場合はこの場にいる全員を全裸に剥く。くやしかったらクリアするんだな。』
嘉「なんやのこれ怖い・・・」
奈「とにかく早くこのゲームを終わらせることが先決ですわ!次はわたくしが振ります!」
奈摘はサイコロを振った。出た数字は3だったので3つコマを進ませる。
凛「指示はなんですかね・・・?」
『3のカードを持つもの、髪をほどけ。アクセサリー着けてるやつは外せ。ショートヘアで何もしてない奴の場合は不問とする。』
陽「3のカードを持ってるのって誰・・・?」
奈「わたくし・・・ですわ。」
麗「奈摘なの・・・」
『自分の降ったサイコロで自爆とはなかなか愉快だなははは!』
嘉「このモニターなんで目の前で起きたこと把握してるんやろ・・・」
環「たぶん人工知能が搭載されているんじゃないかな?すっごく性格の悪い人工知能みたいだけど。」
奈「ええ・・・ですが、こんな触手みたいな気持ち悪い装置に髪を触られるぐらいなら自分でやります!」
奈摘は自分で髪を結わいているリボンに手をかけてモニターの指示通り髪をほどいた。
奈「いつも思うのですがちょっと動きにくくなりますわね・・・これでいいんですわよね?」
珍しく指示を聞いたことに期限でもよくなったのかモニターには以下の言葉が表示された。
『だんだん理解できてきたみたいじゃないか。それじゃさっさとサイコロを振れ。』
和「ねえ織田倉・・・このすごろく終わったらこいつ壊していい?」
水「構わないぜ。むしろアタシも同じ事考えてた。」
麗「愛は絶対脱がせないから・・・」
凛「愛麗・・・ありがとうございます。」
咲「みんなに犠牲が及ぶ前に早くゴールさせちゃおう。でないともっとひどいことになるのは目に見えてるよ。」
姫「よし、それなら次は我がサイコロを振るのだ!それ!」
モニターからの挑発を所々に挟みながらすごろくは進んでいくのだった。モニターの指示で

ある意味恐怖のすごろくを続けること1時間。コマはようやくゴール地点前までたどり着いた。
しかしここまでの間かなり脱がされたため、ほぼ全員が下着に近い状態になっていた。
エ「寒い・・・でもあと少し。」
麗「あたしは寒いっていうより恥ずかしい・・・」
凛「ここには女性しかいないんですしいいじゃないですか?」
和「まあそうね。無理して恥ずかしがる必要もないわよね。旅行とかで全員一緒に風呂に入った仲だし。」
奈「見えそうな部分は髪で隠せばいいですわ。それにしても・・・みなさんの身体いい素材してますわ参考になりますわね・・・」
嘉「奈摘ちゃん今はおさえるんや。」
柚「陽姫ちゃんの身体やっぱりすごいね・・・」
陽「あんまりみないでぇ・・・」
咲「もう、疲れてきたから早く終わらせよう?」
櫻「自分は全然恥ずかしくないよ?みんな気にしすぎじゃない?」
姫「(それは君の胸が薄いからなのだ・・・なんて言ったら櫻子君怒るだろうなぁ。)」
『ふはは!プレイヤーを脱がすのは本当に愉快だなぁ!・・・さて、次に5以上を出せば上がり。つまりはお前らの勝ちだ。
しかし、4以下の数値が出た場合はお前らの負け。この場で全員全裸になってもらう!』
嘉「え!そんなん嫌や!」
和「このすごろく本当にどこのメーカーが作ったのかしら・・・」
エ「案外アダルト系のグッズを出しているメーカーなのかも・・・」
ア「それなら脱げとかの指示があってもおかしくないデスね。」
柚「ボクはそれだと納得できないけどなぁ・・・それより、最後のサイコロは誰が振るの?」
陽「わたしが振るよぉ・・・」
水「陽姫、本当にいいのか?」
咲「うん、だってわたしは学級委員長・・・この14人の代表でもあるんだから!」
『なんだ友情ごっこかよ。女の友情なんて所詮すぐ壊れる儚いもの。俺には4以下がでて友情崩壊する場面が目に見えるぜ!』
凛「それはどうでしょうか。私は西園寺さんの振りを信じてますよ。」
姫「我もなのだ。陽姫君はこういう時にやってくれるタイプなのだ!」
咲「はるちゃん!お願いね!」
陽「まかせてよ・・・それ!」
陽姫はサイコロを投げた。出た数値は・・・6だった。
『何いいいいい!5どころか、最高数値の6を出しただと・・・』
麗「よし、勝ったわ!」
和「これで上がりよ!」
和琴が進めたコマはゴールと描かれたマスに到達した。
『いや、これはミスだ。ゴールまでのちょうどの数値である5が出ないと上がれない・・・』
奈「あら?あなたさっき5以上が出ればあがりだとおっしゃいましたわよね?」
麗「録画もしてあるわよ。」
愛麗は愛用のビデオカメラで映像を再生する。そこにはモニターが5以上でお前たちの勝ちという文字を表示している映像がしっかり残っていた。
『ぐぬぬ・・・卑怯者どもめ・・・』
和「卑怯なのは勝手にルールを変えようとしたあんたでしょ?」
凛「すごろくの支配者であるにもかかわらず、プレイ中にルールを変更しようとするなんて・・・お仕置きが必要ですかねえ?」
水「よし、遊びは終わりだ。こいつを今から破壊・・・」
ア「待つデス!まずやることがあるデス!」
麗「何するのよ?」
ア「服着ましょうヨ・・・」
エ「寒い・・・」
櫻「それにこのモニターを調べてどこの会社が作ったすごろくなのか調べる必要もあるね。」
水「そうだったな・・・少し熱くなりすぎてたぜ。」
一回落ちついた14人はすごろくの時にモニターの指示で脱がされた服を着た。そして、このモニターを調べた。
麗「開発会社は・・・ブラザー・アイランド社ね。」
和「聞いたことない会社ね。」
奈「調べましたけど最近できた会社のようですわ。ブラザー・アイランド社は雑貨を作っている会社のようですわ。」
柚「他に何か変わったことない?」
奈「ええと、あ!代表取締役が山島信玄・・・」
麗「この前山島の言ってた新事業ってこういうことだったの?」
凛「ですが、山島先生はマッサージ店をやっているって言っていたような気がしますが・・・」
奈「ごめんなさい、代表取締役の名前読み間違えてましたわ。正しくは山島信虎ですわね。」
咲「山島信虎・・・どこかで聞いたことがあるなぁ。」
姫「うむ、山島の親族であることは間違いなさそうなのだ。」
陽「・・・」
山島信虎という名前を聞いた瞬間、陽姫は身をふるわせ始めた。
和「西園寺どうしたのよ?」
陽「こいつ・・・だよ・・・」
咲「はるちゃん?」
陽「みんな忘れたの!?こいつ、わたしの身体の成長が早いことを馬鹿にした上に愛麗ちゃんの髪を無理やり切った最低の教師じゃない!」
麗「信虎ってまさか小学3年のころあたしたちの担任だった山島の兄・・・どうりであたしも名前を聞いた時嫌悪感を感じたわけだわ・・・」
和「だけど、そんなひどいことをした奴が何で騎ノ風に?」
咲「騎ノ風市に悪人追放法が正式に認められたのは私たちが5年生の頃・・・ちょうどことちゃんが転校して来て泥小路さんといざこざを起こした時期だったの。」
水「それまでは元々やっていた仕事を強制退職させられる決まりはあったんだが、追放まではなかったんだよな。」
麗「あいつのうのうとこんなバカげた商品を作って代表取締をやってるなんて許せない・・・」
奈「みなさん彼に腹を立てるのはわかりますがいったん冷静になってくださいまし。」
姫「確かに奈摘君の言い分もわかるが今は怒りを抑えられる状況では・・・」
奈「わたくしにいい考えがありますの。皆さんは今回はわたくしにまかせていただけませんか?」
麗「奈摘がそう言うならいいけど、あたしたちに手伝えることない?」
奈「そうですわね・・・なら、ブラザー・アイランド社に送りつけるクレーム手紙を作っていただけませんこと?」
咲「クレーム手紙なんて作ってどうするの?」
奈「それは・・・このようするのですわ。いずれ、ブラザー・アイランド社は窮地に陥るはずですわ。」
奈摘は愛麗たちに自分の考えた作戦を伝えた。そして、その案はすぐに実行されることになったのだった・・・

後日、騎ノ風市の裏路地にあるブラザー・アイランド社の社長室では山島信玄の兄である山島信虎がたばこを吸いながらある資料に目を通していた。
虎「ふいー・・・今月も売り上げは上々っと。裏社会で商売することになるとは小学校教師をしていたころからはそうぞうもできないな。」
部下「信虎社長!大変です!」
虎「どうした?ここには警察が介入できないよう細工してあるはずだが・・・」
部下「わが社にこんなものが届いておりまして・・・」
部下は信虎に箱に入った大量の手紙を見せる。
虎「ほう、ファンレターか。嬉しいもの・・・」
部下「違いますよ!これはすべてわが社の製品へのクレームの手紙です!」
虎「俺の考えた雑貨をけなすとは相当肝の座った奴らなんだな。女だったら髪を切り刻んで・・・」
部下「社長・・・届いたのはクレームの手紙だけではありません。わが社の開発した脱衣すごろくを始めとしたほとんどの商品が返品されてきました・・・
わが社にはもう返品されてきた商品の分を支払う金が残っていません・・・」
虎「ここでの商売も潮時か。それなら会社をたたんで逃げるか・・・今度は東北辺りで商売を・・・」
?「その必要はないぞ山島信虎!」
虎「誰だ!?」
信虎が声を上げると何人もの警察がなだれ込んできた。
虎「サツか・・・」
警「騎ノ風警察だ。過去に行った傷害罪および、今回の詐欺罪でお前に逮捕状が出ている。」
虎「ちっ、勝手にしろよ・・・」
信虎はあきらめたかのように両腕を上げ、警察に身柄を拘束され逮捕されたのだった。

信虎が逮捕された翌日。ネットニュースや新聞には彼の逮捕のニュースが大きく載っていた。
麗「騎ノ風の裏社会で活動していたブラザー・アイランド社社長、山島信虎逮捕・・・あっけなく捕まったわねあいつ。
それにしてもクレームの手紙を作るの疲れたわ・・・14人で1000通は作ったもんね。」
柚「いやー・・・さすがのボクも疲れちゃったよあの作業は。」
環「だけど、手紙だけで逮捕までされるとは思わなかった。まあブラザー・アイランド社自体やばいものばかり作ってたみたいだし当然と言えば当然なんだけどね。」
奈「まあわたくしの方で手紙以外にもいろいろ仕込みましたから・・・これで騎ノ風市の闇社会がなくなってくれればいいのですけど。」
凛「それにしても天宮城さん、どんな手口を仕込んだのですか?」
奈「ふふ・・・それは天宮城家の人脈とネットを使って色々したのですわ。詳しくは内緒ですわ。」
和「あんた結構黒いことやってるのね・・・」
水「ニュース見て知ったけど、あのすごろくがリアル脱衣すごろくだったとは・・・こういう物作る奴の考えはわからねえな。」
咲「信虎は、なんでみなちゃんの家に脱衣すごろくがあったんだろうね?」
水「家族に聞いてみたけどアタシの姉貴がアタシ宛てに配達物が届いたから受け取って部屋に置いておいたんだってさ。アタシが頼んでもないものを受け取るなよ全く・・・」
姫「だが、結果的に悪が制裁されてよかったのだ。」
櫻「聞いた話によると山島信虎も平穏人生の会の残党メンバーだったみたいだし、捕まってくれてよかったよ。」
陽「新年早々平和になってよかったね!」
かつて自分を不登校に追い込んだ憎い相手が逮捕されたのがよほど嬉しかったのか陽姫は満面の笑みでそう言った。
咲「はるちゃんが嬉しいなら私も嬉しいよ。」
ア「これで一件落着デスね!」
麗「こんな目に合うのはもうこりごりだけどね・・・」
愛麗たちは新年早々悪しき存在からの差し金で脱衣を強いられることになった。しかし、見事にすごろくに勝利してかつて彼女たちを傷つけた悪を挫いた。
それは彼女たちの中にある「絆」の強さがもたらしたのかもしれない・・・