愛麗の醜い母

その日、愛麗は食事作りの当番であり準備のため管理人室に向かっていた。
「少し遅くなっちゃったわね。さてと夕飯の準備を・・・」
「愛麗!」
「え、今あたしを呼んだの誰よ・・・」
愛麗が入り口の方を向くとそこには小柄な女性がいた。その人物は愛麗の会いたくない人物である母親であった。
「・・・」
「無視しないで!」
愛麗が嫌そうな顔をして母親を無視するが母親の方は愛麗のズボンにしがみついて引っ張る。
「今更なんだよお前!離せよ!あたしに近寄るな!」
「お前とは何よ母親だ私は!」
「あたしはあんたをそう思ったことはないよ。さっさと消えて。」
「愛麗は私のこと何もわかってない!わがまま娘!」
「その言葉ブーメランになってんぞ?」
「そもそも悪いのは勝手に生まれてきた愛麗の方!私は悪くない!」
「はぁ・・・またそれか。あ、警察ですか?うちに不審者が・・・」
愛麗は女性の反応に呆れてスマホで警察に電話(をしたふり)をする。
「ちっ・・・逃げるか。」
そう吐き捨てると愛麗の母親は去っていった。
「あの人も懲りないな・・・いい加減にしろよ。祖父さんたちに頼んでこのマンションの入り口オートロック式にしてもらおうかな・・・」
愛麗は母親がいた場所に向かってそう吐き捨てた。

愛麗は晩御飯を作ると桜楽を呼んで一緒に食べながら桜楽に先ほどのことを話した。
「え、また母さん来たの?」
「うん・・・あとで祖父さんたちに報告しとくわ。」
「あの人すでにやらかして接触禁止命令出てるのに懲りないな・・・」
「会話してるだけで疲れんのよ。自分が何かあれば生まれてきたお前が悪いって・・・」
「一度母さんの頭の中がどうなってるか見てみたいよね。」
「知りたくもないけどねそんなこと。」
「それにしても、おじいちゃんとおばあちゃんあまり子育てが得意じゃなかったのかな?」
「馬鹿ね。祖父さんたちが子育てに失敗してたら教頭やってる伯母さんのことはどう説明するのよ?」
「あ、そっか・・・」
愛麗たちの伯母は無源学園の教頭である。非常に優秀な教師で教頭でありながらも学園の選択授業をいくつか持っており、愛麗たちからの評判もいい。
「それにあたしたちだって無源学園に入れるまで才能を開花させてくれたんだから、祖父さんたちの育て方が間違ってたわけではないはずよ。」
「確かに・・・今の発言は軽率だったよごめん。」
「全く、しっかりしなさいよ。未来の文学作家が失言なんてしたら大炎上よ今の時代は。」
「書いているのは官能小説だけどね・・・」
食事をしながらそんな話をしていると祖母が帰宅した。
「愛麗、桜楽。帰ったぞ。爺はまだ帰ってないのか。」
「祖母さんお帰り。ごはんできてるよ。今頃閉店作業している頃なんじゃないかな。」
愛麗の祖母は自転車や電気自動車、バイクを開発しているメーカーであるSouthの社長で御年63歳であるが30代ぐらいにしか見えないほど見た目が若い。さいたま市にあった本社を騎ノ風市に移転させたこととリモートシステムを導入したために家で仕事をすることが増えて家にいることも多くなったが、週に4日は愛車の大型バイクに乗って市街地にある本社に出社している。一方で愛麗の祖父はイオンモール騎ノ風のテナントの一角で玩具や模型を取り扱う店を開いている。元々は祖母の会社で開発技術者として勤務していたが58の時に退職して好きだった模型の店を始めたのである。また、生泉家の暮らすマンションの管理をしているのは祖父である。
「けっ、爺の奴楽しそうなこったな・・・それよりなんだか浮かない顔してるじゃねえかお前たち。おれに話してみろ。」
「やっぱわかっちゃうよね。実は・・・」
愛麗は母が先ほど奇襲してきたことを話した。
「またあのバカはここにきているのか・・・愛麗、怖かっただろう。」
「いや、もうなんか言ってることが意味わからな過ぎてほとんど真に受けなくなったけど。」
「いいんだよそれで。おれにだってあいつはどうしようもなかった。人の人格の中には生まれ持っておかしい場合もあったりするからな。」
「それでどうしようか・・・あの人何しでかすか分からないし。」
「しばらくマンションの警備を強くするか。それで見かけたら警察に突き出せばいい。悪いのはあいつだからよ。」
「それと、このマンションオートロック整備した方がいいと思うよ。あの人みたいに平気で入ってくる奴も多いんだから。」
「分かった爺に言っとくぜ。じゃ、おれも食事することにするか。」
祖母は愛麗の作った食事を食べ始めた。
「今日の晩飯も美味いな。愛麗、また料理の腕上げたか?」
「いやー、そんなんでもないよ。分量は結構適当なんだ。」
「そうなのか。ならお前の愛情がたくさん入ってるんだな。」
「うんうん。愛麗ちゃんの料理が家では一番おいしいもんね。」
「おだてたってなにも出ないよ?だけどありがと・・・」

それから1週間後。生泉家のマンションには工事が行われ、認証システムとなっているカードキーを持つ者以外は立ち入ることができなくなった。
「昨日祖母さんが工事終わったって言ってたから今日からこのカードキーなくさないようにしないと。さて、学園に行くか。」
愛麗はカードキーでマンションのゲートを開け、夢源学園に向かった。しかし・・・愛麗がゲートを通る一瞬の隙をついて何者かがマンションに入り込んだのだった。そして放課後になり、愛麗は今日は一人で帰ってきた。凛世たちと市街地で遊ぶことになっているのだが、必要なものがありいったん家に帰ってきたのである。
「まったくあたしとしたことが忘れ物するなんて・・・」
愛麗が自室の部屋の鍵を開けると何者かの腕が急に飛び出し、愛麗を部屋の中に引き込んで押し倒した。
「きゃっ!ちょっと何・・・」
「あんた結構かわいい声も出せるんだ。意外だったわ。」
「・・・母さんか。不法侵入で訴えるよ?」
愛麗の身体の上には母親が馬乗りになっていた。先ほど侵入したのは母親だったのだ。
「つーかまえた。半日ここに潜んでいた甲斐があったよ。」
「何する気?早く降りなさいよ!」
「愛麗。あんたこれ苦手だったよね。」
母親はそう言って大きい挟を取り出して動かし音を聞かせる。
「ひっ・・・」
「あんた美容院にほとんど行かないからだらしない髪型してるね。切ってあげよっか。」
「それはやめて!」
「知ってるんだから。小学校の頃の教師に無理矢理髪の毛切られてそれ以降ほとんど美容院に行けないんだったね。だから私が切ってあげる。」
「頼んでないから!早くあたしの身体から降りろって言ってんだろ!」
「そんな乱暴な口きいて・・・見た目もそうだけど母さんそっくりで嫌になる!おとなしく私に従え!」
「嫌に決まってんだろ!」
愛麗は大事な髪の毛を切られまいと必死で抵抗を続ける。

愛麗が襲われているのも知らず凜世たちは愛麗のことを待っていた。
「愛麗遅いですね・・・」
「ったくあいつ何やってんのかしら。」
「あいあいが遅れるなんて珍しーよね。いつもなら環たちよりも先に来てて遅い!とか言うのに。」
「それはだいぶ昔のことだと思いますけど・・・わたくしが連絡してみますわね。」
奈摘がスマホで愛麗に電話をかける。だが愛麗は揉みあっているため繋がるはずもない。
「出ませんわ・・・何か事件に巻き込まれている可能性もありますわね。」
「皆さん、愛麗最近様子が変ではありませんでしたか?」
「確かに元気なかったわよねあいつ。それと何か関係あるのかしら。」
「あいあいの家に行ってみようか。」
「一応生泉の保護者に連絡しておいた方がよくない?アタシたちで収拾がつかない可能性だってあるし。」
「愛麗さんの保護者ってどちらさまでしたっけ?」
「おじい様とおばあ様ですね。」
「どっちに連絡すればいーのー?」
「今はどちらでもいいのでは?」
「とはいえどっちも店長と社長だからそう簡単に出られないでしょ。それに生泉の祖父祖母の連絡先知ってる奴なんて・・・」
「私知ってますよ。お二人とは顔見知りなので。」
「ああ、夜光だったら生泉と家も近いしあり得るか・・・さっさとかけなさいよ。」
「分かりました。おばあさまの方にかけてみますね。」
凛世は祖母の連絡先の方に電話を掛けた。

「それにしても会議とかない日は暇だな・・・ん、電話だ。」
祖母はかかってきた電話に出た。
「おう、誰だ?」
「ええと・・・夜光凛世です。」
「凛世か珍しいじゃねえか。いつもうちの愛麗が世話になってるな。」
「こちらこそ・・・それより、私たちこれから愛麗と遊ぶ約束してるんですけど連絡が取れないんです。」
「そうなのか、だけどおかしいな・・・あいつ結構時間には厳しい方だから遅刻なんてそう簡単にはしないんだけどな。まだ家にいるかもしれないからちょっと家の防犯カメラにつないでみるぜ。」
「お願いします。」
生泉家のマンションは祖父母が管理人である以上常駐しているわけではない上に2人とも仕事でいないときは不在になるので、それぞれの職場から防犯カメラにアクセスできるようにしている。
「よし、繋がった・・・ん!?」
祖母が確認した映像に映ったのは刃物をもって愛麗に馬乗りになっている母親の姿だった。
「どうかしたんですか?」
「ちょっとまずいことになってる。おれが今から言って愛麗を助けてくるから凛世たちは待っててくれ。30分以内にはそっちにつくようにさせるからな。」
祖母はそういって電話を切った。そして愛麗を助けるべくいったん家に変える準備を始めた。
「あいつ・・・いい加減にしろよな・・・」

「おばあ様との電話切れちゃいました。」
「それで生泉は?」
「今はまずいことになっているとおばあ様は言ってました。必ず助けてくるから私たちは今いる場所で待っててほしいと・・・」
「それってあいあいが誰かに襲われたりしてるってことじゃん!助けに行った方がよくない?」
「助けに行くにしても襲われている相手が大男とかだったらどうすんのよ!助けに行ったアタシらまで危ない目に遭うじゃない。」
「ですが、ここで待っているわけにもいきませんわよね。」
「相手が大男だった時に環喜たちが対応できるもの・・・そうだ!みんなこのアプリダウンロードして!」
「なんですかこれ?」
「防犯ブザーのアプリ。前に作って市の公式アプリストアに上げておいてよかったよ。」
「花蜜が作ったの?」
「そ。このアプリはテロ組織とかに奇襲された時にも使える便利な奴で、ボタン押すだけで80デシベルの大音量が流れるんだ。あいあいを襲っているのが危ない人物だったとしても周囲の家に危険を知らせられるんだよ。」
「これやったらあたしらの耳潰れんじゃないの?夜光は難聴だからいいとしても・・・」
「眞武さん、私も右耳はしっかり聞こえるんですよ?」
「その辺の対策もしっかりやってるよー。設定でサイレントもーどんびすれば危険な行為をしている人だけをセンサーで読み取ってその人だけに聞こえるように鳴らすこともできるから。」
「そのサイレントモードですと周囲に危険を知らせることができないのでは?」
「そっかー・・・その辺はまた修正しないと。」
「前々から思ってたけどあんたの技術力すごいわよね。鷲岳と組めばノーベル化学賞とれるんじゃないの?」
「お褒めの言葉どーも。それよりもあいあいの家に早く行こう。」
防犯ブザーアプリをインストールした凛世たちは愛麗の家であるマンションに向かった。

愛麗は髪を切り落とそうする母親との抵抗を続けていた。
「ねえ愛麗、そろそろあきらめなさいよ?疲れてきたんじゃない?」
「疲れてなんてねえよ!」
「このマンションの周辺はこの時間帯は人もほとんどいないから助けてくれる人もいない。詰んでるのよあんた。」
「詰んでるのはお前の方だろ!子供を欲しがったくせに結局育てられないからって虐待して!自分が何をしたかわかってんの!?」
「なんで説教するのよ・・・あんたのそういうところが母さんに似てて大嫌いなの!!!」
「(もうダメっ!)」
母親はそういって愛麗の身体に挟を突き立てようとしたその時、母親の様子が急におかしくなった。
「うあっ!なんだよこのうるさい音は・・・!」
「(うるさい音?でもあたしにはなにも聞こえない・・・だけどこの状態から逃れるなら今だ!)」
うるさい音は母親だけに聞こえているようだ。愛麗は母親がひるんだ隙に突き飛ばして距離を取り、馬乗り状態から逃れた。
「はぁ・・・なんとか逃れられた。」
拘束から逃れた愛麗が安堵の表情を浮かべていると凛世たちが走ってきた。
「愛麗!助けに来ましたよ!」
「凛世!みんなも!」
「あれ、あいあいを襲ってるの大男じゃないじゃん。」
「誰よそこでのたうち回っている女?」
「あたしの母さん・・・恥ずかしすぎてそう思いたくないけど。」
「うるさいうるさいこの音止めて!」
「この音はわたくしたちの意思でしか止まりませんわよ?あなたですわよね愛麗さんに襲い掛かっていたのは。」
「だってこいつがっ・・・母さんに似ててムカつくから・・・うああああ!!!」
「こいつのいってる母さんって誰の事?」
「愛麗のおばあ様のことだと思います。愛麗とおばあ様は髪色も似てて雰囲気がそっくりなんですよ。」
「生泉のばーさんってすごい人じゃない。Southの社長でバイクや自転車の修理はお手の物、車体のデザインまで自分で考えることもあるんでしょ?」
「ええ。騎ノ風の起業家トップ10にも入っている素晴らしいお方ですわね。雑誌でも何度かお見かけしたことありますわ。」
「・・・なんでこの人はダメだったのかしらね。」
「知らないし知りたくもないわよ・・・」
その時、バイクのエンジンのけたたましい音がしてマンションの駐車場に大型バイクが入ってきた。乗っていたのは愛麗の祖母だった。
「愛麗!」
「祖母さん!仕事は・・・?」
「凛世から約束の時間になってもお前が来ないって言うから連絡貰ってマンションの監視カメラ見たら馬乗りになってるお前見て大急ぎで抜けてきたんだよ!怪我はないか?」
「うん、先に凛世たちが着て色々と助けてくれたから。」
「そっか、お前が無事でよかったよ・・・おい、てめえ人の大事な孫に馬乗りして暴行しようとしてたんだ?」
「愛麗が悪いの!自分勝手でわがままだから・・・」
「それは愛麗の事じゃなくてさ・・・まんまお前のことだろうがよ!」
祖母はそう言うと母親の胸倉を掴み上げた。
「離しなさいよ!」
「お前、どれだけ娘を傷つければ気が済むんだよおい?」
「知らない、私は子供が欲しかっただけ!だけど私のいうこと聞かないから・・・精子バンクで優秀な大学教授の遺伝子入れたのに!」
「はぁ・・・お前さ、生まれてすぐの赤ちゃんが天才頭脳と聞き分けの良さを持って生まれてくるとでも思ってんのか!?んなわけねえだろうがよ!子供はな、何年もかけて色々なことを覚えて育っていくもんなんだ!生まれてすぐに聞き分けのいい奴なんかいねえんだよ!そんなことも分からねえからてめえは落ちぶれたんだよ!」
祖母はそう言うと、母親を投げるように離した。
「いいか・・・二度とここに近づくな。それと身内の温情でてめえをうちのさいたま支店に雇っていたけどクビだ。愛麗にこんなことをしようとした時点で人間として終わってるからな。」
「え、それじゃ困る・・・」
「お前が困ろうが関係ねえんだよ。それと接触禁止命令を破ったことで警察にも連絡したからお前はもうじき逮捕される。」
「私は何も悪くない!悪いのは勝手に生まれてきた愛麗と桜楽!」
「いい加減にしろよ・・・もうこいつと意思疎通できる気がしねえ・・・」
祖母があきれ果てた時、普段はパトロールをしているロボット警察隊が到着し母親を拘束した。
「離せ!私は悪くないんだ!」
「アバレルナ!オトナシクツイテコイ!」
ロボット警察に抵抗をするが、パトカーに乗せられ母親は連行されていった。

そして後日・・・あの騒動の後流石に改めて予定を合わせて愛麗たちは繁華街で遊んでいた。
「悪いわねあたしのせいで改めてになっちゃってさ。」
「いいんです。私たちにとって愛麗は大切な存在で欠けてはいけないんですから。」
「それにしてもあいあいの実の父母ともにクズって虚しいよね・・・」
「まあ母親はもうどうしようもないけど・・・あの平穏人生の会の父親はハッタリを言ってただけだってこと分かったんだ。」
「それってどういうことですの?」
「あの後祖母さんがチャットであたしの実の父親に当たる人とコンタクトを取ってくれたんだけど、父親はアメリカの大学で大学教授をしていて曾祖母さんの教え子だったんだってさ。」
愛麗の曾祖母は90歳近くの年齢ながら現在も生きており、今はアメリカに住んでいる。元々祖母が城南一族から継いだものづくりの会社をバイクメーカーにしてしまったことに嫌気が差して海外へ出て行ってしまったのだが、関係は途切れておらずたまに連絡を取り合う間柄ではあるのだ。
「あたしはその大学教授が精子バンクに預けている奴から生まれたんだって。まあ、この国だと多様性が推し進められた騎ノ風には合法の精子バンクはあるらしいからそこを利用したんじゃないかな。」
「ですがあのお母さまに精子バンクを利用できるほどのお金があるとは思えませんわ。」
「金の出どころについては知らないけど・・・深く考えない方がいいのかもね。」
「愛麗、私は愛麗の生まれがどんなものであっても気にしませんから。」
「いや、あたし今は祖母さん家の正式な子供になってるから別にいいのよ一応城南の血筋ではあるし。ま、血筋なんて関係ないわよね。」
「ええ。一般的な名家と言われているわたくしの家でも全員が優秀というわけではありませんもの。」
「アタシの母親もマッドサイエンティストだし、生泉の意見に全面同意するわ。」
「環喜もあいあいの意見にさんせーい!」
「ふふ・・・あんたたちと出会えてあたしは幸せ者ね。」
愛麗は自分の意見に同調してくれた凛世たちを見ながらこう思ったのであった。
「(血筋よりも信頼や友情で繋がった友達の方が大切な存在になることだってあるもんね。母さんには理解できないんだろうけど。)」