ゆずはるとの出会い

柚歌と陽姫は帰り際に出会った苺瑠と咲彩と4人で学校帰りにデパートに来ていた。今は買い物を終え、休憩スペースで一息ついているところである。
「付き合っちゃってもらってごめん2人とも。」
「たまたま帰りの時間に合っただけなのだから問題ないのだ。」
「それに私たちも楽しかったよ。」
「よかったらあそこの喫茶店入らない?買い物付き合ってくれたお礼にボクと陽姫ちゃんで奢るから。」
「いいの?」
「いいんだよぉ。さあちゃんたちにはいつもお世話になってるからねえ。」
「咲彩君、柚歌君がせっかくこう言ってくれているのだからお言葉に甘えさせてもらうのだ。」
「うーん・・・そうだね。ゆずちゃんたちがそう言うなら入ろっか。」
4人は喫茶店に入り、テーブル席に通された。席に設置してあるタブレット端末で飲み物を注文すると厨房に注文を送信する。
「頼み終わったよ。」
「なぁ、柚歌君と陽姫君、それと咲彩君にもに聞きたいことがあるんだがいいか?」
「何かなぁ?」
「我は多胎児生まれゆえに小さいころは姉たちと一緒に病院で検査をする機会が多くてな、君たちって我が入院していた頃に咲彩君たちと友人関係になって、我が退院するころにはすでに友達になっていて紹介される形で我と知り合った・・・のは覚えているのだが、咲彩君たちとはどんなきっかけがあって友人関係を築いたのかが聞きたいのだがいいかな?」
「そういえば苺瑠ちゃんってボクたちが小学生のころは学校休みがちだったよね。」
「多胎児は色々検査があって大変なのだ。健康状態とかを見るために定期的に学校を休んで身体の検査をする必要があったんだよ。」
「そっか、なら話すよ。陽姫ちゃんはいいかな?」
「うんいいよ。あの時のさあちゃんカッコよかったし。あれは小学校の頃だったよねえ・・・そのころはねえ、わたしとさあちゃんが従姉妹の関係にあるなんて知らなかったんだけど・・・」
3人は苺瑠にも分かりやすく思い出を語り始めた。

咲彩たちは全員騎ノ風市の公立小学校の出身である。現在は無限学園にも初等部があるが彼女たちが小学生の時代には高等部しか存在していなかったのである。この小学校は将来的には騎ノ風を出て東京などの大都市で勤め人になる子が多い良くも悪くも平凡な子供の通う場所であり、極端に異端な咲彩たちは気味悪がられていたのである。咲彩たちが陽姫や柚歌と出会ったのは小学1年生の頃の話である。
「ねえ、あんたたち・・・」
「何々?」
「西園寺って身長デカすぎじゃない?」
「わかるー!なんで小学生なのにあんなに大きいんだろうね!」
嫌味や悪口大好きな3人組の女子の一人が陽姫の身長をネタにして馬鹿にする。しかもそれはわざと大声で聞こえるように言っていたので陽姫の耳にもしっかり届いていた。
「うう・・・好きで大きいんじゃないもん・・・」
「それとさー色部の髪型って変だよね。」
「わかるー!髪の毛球体にして派手なリボンつけてネズミ見たいよね。」
「それにいっつもわけわかんない絵描いてるよね。」
「ピカソにでもなろうとしているのかしらね!そんな風になれるわけないのにね!」
「(うるさいなぁ・・・)」
女子たちは続けて柚歌をお団子の髪型と絵を持ち出して馬鹿にする。柚歌は言葉にしないながらも心の中で不快感を示す。
「ちょっとあなた達!そういう言い方はないんじゃないの?そんな風に言われたら2人だって嫌な気持ちになるよ?」
「神宿・・・うっさいわね、私らはあくまで正しいことを言ったまでよ!」
「あんたも芸能人と学生兼任している優等生気取ってんじゃないわよ気色悪い。」
「自分はだれとでも仲良くなれるっていうアピールですかー?毎回テスト100点取ってるからって調子に乗っててキモいんですけどー!」
「あんたなんか将来芸能活動失敗して風俗行きでしょ!間違いないわ!」
悪口ばかりを口にする女子たちに向かって咲彩が注意をするが女子たちは言い返してくる。
「そういうことは関係ないでしょ!」
「はぁ?私らの生活では誰かをけなすのなんて当然なんですけど?」
「そーよ。あんた生意気なのよ。」
「気に入らない物の悪口言い合ってこその絆が私たちにはあるのよ。」
「(この子達と話が噛み合ってないよどうしよう・・・)」
「おいお前ら、そんなことでしか自分を守れないなんて終わってんな。」
話が通じず困る咲彩らに近寄ってくる人物が。咲彩とは幼馴染の織田倉水萌だ。
「織田倉まで神宿たちの味方するわけ?」
「ちょ、だめだよ行こ神宿だけならともかくさすがにヤクザの家系の織田倉敵に回したら私らの立場がやべえよ・・・」
「それもそうね・・・神宿、芸能人だからって調子乗ってんじゃないわよ!」
女子たちはそう言うとそそくさとその場から立ち去っていった。
「まったく、悪口のどこかが楽しいんだかオレにはわかんねえぜ。それにうちはヤクザの家系じゃねえんだけどな。」
「みなちゃん助けてくれてありがとう。西園寺さんに色部さん。大丈夫だった?」
「うん。あんなの気にしてないから。」
「わたしはちょっと傷ついたかなぁ・・・」
「お前ら少しは言い返さないとあいつら調子乗るぞ。」
「分かってるけど言い返すことでボクは無駄な時間を作りたくないんだよ。」
「わたし、言い返せないんだもん・・・わたしの言葉で相手が傷つくのいやだし。」
「色部の言い分は分からなくもないけど西園寺、お前はそういうところがよ・・・」
「・・・」
水萌の言葉を聞いた陽姫の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「あ、悪い・・・」
「みなちゃん、そう簡単に言い返せない子だっているんだよ。西園寺さんは嫌味ばかりのあの子たちのことも思いやれて優しいね。」
「神宿さんわたしは優しくなんかないよ、織田倉さんのいう通りただ体が大きいだけで弱いんだもん・・・」
「・・・みなちゃん何とかして。西園寺さんがいじけ気味になっちゃったのみなちゃんのせいだよ。」
「なんでオレのせいなんだよ、オレはただ本当のことを言っただけで・・・」
「そう、ならいいよ私がみなちゃんと違うやり方でなんとかする。」
「咲彩・・・」
咲彩は水萌そう言うと陽姫と柚歌に近寄ってこう言った。
「ねえ西園寺さんに色部さん。よかったらでいいんだけど私と友達にならない?」
「神宿さんと?」
「いいの?厄介者扱いされているわたしたちが友達で。」
「そんな他人からの評価なんて関係ないよ。私がなりたいからお願いしたいの。ダメかな?」
「まぁ、ボクはいいよ。陽姫ちゃんはどうするの?」
「もちろんだよぉ!よろしくねぇ。」
「あ、それとみなちゃんも友達になりたいんだけどいいかな?もうさっきみたいなことは言わせないようにするから。」
「構わないよ。」
「わたしは・・・さっき見たいなこと言わないなら・・・」
「みなちゃん。2人には優しく接してね?さっきみたいなこと言ったらだめだよ?」
「おう・・・」

それから1週間後。
「2人のことだいぶわかってきたよ。色部さんはお父さんがスポーツジムを経営していてでお母さんは画家っていう芸術一家なんだって。西園寺さんは郊外でお姉さんと声優のお母さんと暮らしているみたい。母子家庭大変そうだよね。あと2人は幼馴染で幼稚園からの付き合いなんだって。」
「よくそこまで聞き出せたな。」
「私の特技の占いを使って色々聞いたの。」
「あ、さあちゃんに織田倉さん。」
「何やってるの?」
「あ、はるちゃんにゆずちゃん。」
「もう愛称で呼び合ってんのかよ。オレが言うのもなんだけどお前ら結構合うんじゃねえか?」
「確かにそうかも。咲彩ちゃんはボクの描いている絵を褒めてくれるし、髪型に文句言わないし。」
「わたしも。さあちゃんってわたしと違って冷静でカッコよくて好きだよぉ。」
「なんかそういわれると嬉しいなー。」
「なんかお前が同性からモテる理由が分かった気がしたぜ。」
「みんな大変よ!」
そんな会話の最中、教室に駆け込んでくる人物が。水萌が当時から同じクラスでもあった愛麗と凛世だ。
「らっちゃん。あまり慌てたらだめだよ。」
「今はそれどころじゃなくて・・・あたしらのクラスの給食が何者かに食べつくされたらしいのよ。」
「給食室に誰かが忍び込んでやったらしいんです。」
「そんなことあんのか?」
「担任がこれからクラスに全員集めて尋問するって・・・」
「お前ら席に就け!これから尋問の時間だ。一人たりとも逃げることは許されないからな!」
担任教師が教室にやってきて地獄の尋問の時間が始まった。

全員が座席に座ったのを確認すると担任教師からの尋問が始まった。
「この中に給食を勝手に食べた大馬鹿者がいる。一人一人問い詰めさせてもらうから覚悟しろよ?」
そう言うと教師は生徒たちの座席の周りをゆっくり歩きだした。
「夜光、お前じゃないか?こんな立派なヘッドフォン持ってるくせにお前って母子家庭だったよな?食費カツカツなんじゃないのか?」
「私は食べてません・・・」
「そうか、それじゃ西園寺かな?」
「なんでわたしなの・・・」
「だってお前の家母子家庭じゃん。声優なんて不安定な仕事をしている親なんだからろくに食べてないから給食を奪うのも当然ってことだな。」
「そーよ絶対あんたよ!」
「西園寺ってがめついのね!」
教師の言葉に先ほど陽姫に嫌味を言っていた女子たちが乗ってきた。
「わたし・・・食べてないもん・・・」
「色部も怪しいんじゃない?」
「あいつの家職業不安定だもんね画家とスポーツインストラクターだし。」
「色部、お前なのか?」
「先生、それ職業差別ですよ。ボクの父と母はどっちもそれなりの収入は得てるんですけど。」
「そうかい・・・ああもう誰なんだ!さっさと名乗り出ろお前ら永遠に帰れないぞ!」
「もう西園寺のせいでいいんじゃない?」
「そーよ。身体でかいんだから食べる量も相当だろうし。」
「・・・まあ確実この中の誰かなんだし西園寺でいいか。そういうわけだ、お前生徒指導室に来い!」
「えっ、ちょっと・・・やだっ!」
「おかしいと思います!それでいいんですか先生?」
「なんだ神宿、優等生だからって調子に乗るなよ?お前の成績のせいでどれだけ勉強ができない奴の不安をあおっているのか知ってるのか?」
「それは今は関係ないですよね?どうしてやってないって言っている西園寺さんに罪を押し付けるんですか?」
「こいつらが西園寺が怪しいっていうから。」
先生は陽姫に嫌味を言っている女子たちを指して言った。女子たちは不敵に笑っている。
「なんで一方的な生徒の言い分を信用するんですか?」
「こいつらなら信用できるんだよ。お前らと違って俺とも積極的にかかわってくれるし。」
「(そういえば先生あいつらのことは全く疑ってなかったけどそういうことか・・・)」
「まあ、これが万が一冤罪だったとしても俺は指導をしたまでのことだからクビにはならない。おら西園寺行くぞ!」
「(どうしよう・・・何とか策を考えないとはるちゃんがありもしない罪をかぶせられちゃう・・・)」
行き詰る咲彩に水萌が助け舟を出す。
「先生!まだ終わってないぜ?西園寺!お前の苦手な食べ物ってなんだ?」
「えっと・・・お漬物かなぁ?」
「そっか!なら陽姫ちゃんは犯人じゃないよ。」
水萌に続き柚歌も声を上げた。
「なぜそう言い切れる!?」
「今日の給食の野菜には白菜の漬物があったけど、犯人によって食べつくされたうちのクラスの給食は漬物だけ残したわけでもなく全部食べられていた。陽姫ちゃんは嫌いなものをどうしても食べなければならない時はすごく時間がかかるんだ。」
「それが理由になるとでも思ってんのか!」
「少なくとも尋問とか言って生徒を長時間監禁するあんたよりはよっぽどの理由だと思うけど?」
「生泉・・・お前まで口出すのか!」
「いい加減にしろよお前。教職に就いているいい大人が子供を監禁して恥ずかしくないの?」
「お前・・・俺だって大変なんだぞ理解しろ!今度お前の成績下げてやるからな!」
「先生は愛麗のこと通信簿持ち出してで脅すんですね。教師としてやってはいけないことやるんですね。」
「夜光まで・・・それよりも真犯人をどうやって探すっていうんだよ!」
「それなら簡単だよ。給食室には監視カメラが設置してあるでしょカメラの映像データを見ればいいんだ。先生、こんな尋問している暇があるならカメラの映像を見た方が早いですよね?」
「・・・それもそうだな。仕方ない、許可取ってくる。」
担任はそういって監視カメラの映像を確認しに行った。そして数十分後に戻ってきた。
「・・・見てきた。犯人はお前らか。」
担任は陽姫らに悪口を言っていた3人組の女子を指して言った。
「え?私たち何もしてないですけど?」
「嘘をいうな。お前らの姿がカメラにしっかりと映っていた・・・これが証拠だ!」
担任は撮ってきたカメラの映像を自分のスマホにから教室で映した。すると、給食に忍び込んで自分たちのクラスの給食をむさぼる3人の姿が映って見えた。
「そんなの合成でしょ!」
「そーよ!私たちがやったって証拠になんないわ!」
女子たちはかたくなにやった行為を認めない。
「・・・さっきから聞いてればあんたたちめんどくさ。なら合成写真かどうか環輝が見たげるよ。先生、画像データちょーだい。」
「ああ・・・」
環輝は愛用のノートパソコンを開くと担任からカメラの映像のデータを受け取り、映像解析ソフトで調べ始めた。
「ここをこうしてっと・・・」
環輝は画像解析ソフトで映像を分析していく。すると100%本人で間違いないという結果が表示された。
「はい結論出たっと。犯人はあんたたち3人。もう言い逃れはできないし。」
「お前ら・・・絶対に許さんぞ!指導室にこい!みっちり説教してやるからな!」
「「「なんでこうなるのよー!」」」
その後3人はみっちり絞られたという・・・

それから数日後、3人組も絞られたせいでおとなしくなり、悪口を言われていた柚歌や陽姫にも少し元気が戻っていた。
「はるちゃんゆずちゃん。何も言われなくなってよかったね。」
「悪口言われなくなったから絵に集中できるようになったよ。」
「わたしももう少しでやってないことを罪にされるところだったよぉ。さあちゃんたちありがとう。」
「いやーよかったな。神宿たちの連携のおかげで俺は助かったよ。」
「先生、いやもうあなたを先生とは呼びたくないです。私たちを勝手に疑って尋問してあろうことかはるちゃんに罪を着せようとしたんですから。」
「確かに咲彩ちゃんのいう通り中立に断たなければならないはずの先生がしたことは許されることじゃないですね。」
「そうだな。ここははぐらかさずに潔く自首した方がいいだろうな。」
「織田倉に色部まで・・・事件は解決したんだからいいじゃないか。」
「私たち、先生が罪を認めないなら市の教育委員会にこのことを訴えますから。」
「そんな・・・俺の教師人生はどうなるんだよ!」
「ま、お前は教師に向いてないってことだ。」
「小学生のガキにそこまで言われなければならないなんて・・・クソ!覚えてろよ!」
担任は咲彩たちに暴力をふるうのはまずいと言うことは理解していたのか、捨て台詞を吐いて去っていた。
「先生反省しないね・・・まあいいよ、はるちゃんゆずちゃん。これからもよろしくね。」
「うん!」
「もちろんだよ。」
結局担任は尋問と陽姫に罪を擦り付けようとしたことを認めることなく居座り続けたため咲彩たちは教師の罪も訴えた。その結果教育委員会が動き担任はすぐさまに変わることになった。なお、この教師は騎ノ風の市外で再び教師になったが何度も生徒を尋問して教員免許をはく奪されたそうな・・・なお、咲彩と陽姫が従姉妹であるということを知るきっかけになったのはまた別の話である。

「・・・昔にそんなことがあったんだよ。」
「そうだったのか。我らのいた小学校ってそんなダメな教育施設だったんだな。」
「だけど、この件をきっかけに夢源学園が初等部の設置に動いたんだ。」
「わたしたちは初等部には入れなかったけど、今は初等部のおかげで救われた子がたくさんいるんじゃないかなぁ?」
「うむ、我らは話を理解してくれる人たちの多い場所に住めて幸せってことなのだな。」
咲彩たちの過去話を聞いた苺瑠は穏やかな表情でそう言ったのだった。