ある日のイオンモール騎ノ風。愛麗と凛世がたい焼き屋で購入したたい焼きをベンチに座って食していた。
「やっぱたい焼きはチョコクリームが一番よねえ。チョコクレープとかチョコアイスもいいんだけどやっぱ通はチョコたい焼きよ。」
「愛ちゃんは本当にチョコのたい焼きが好きなんですね。私はこっちの餡子の方が好きですけど・・・」
「まあね、ここの店のは中々好きな味なのよ。だけどあの店の味には敵わないんだよなぁ。」
「あのお店?」
「ちょっと前まで弦平の美味いもん市場に美味しいチョコたい焼きのお店があったんだけどこの前久々に行ったら閉店してたんだよね。美味しかったのに。」
「そうなんですか?」
「噂だと今ではキッチンカーで営業しているって話も聞くんだけど市内じゃ見かけたことないし・・・あの味が恋しいのよね。」
「(愛ちゃん辛そうです・・・よし、私が愛ちゃんが大好きなお店を愛ちゃんに内緒で必ず探し出します!)」
「凛?どうしたのよ?」
「いえ、何でもないです。そんなに素敵なお店なら私も食べてみたかったなーって思ったんです。」
「そう。なんか悪いわね。キッチンカーの場所が分かれば連れて行ってあげられるんだけど・・・」
「心配しなくても大丈夫です。愛ちゃんが好きなたい焼き屋は私が探し出して見せます!」
「え、なんでそうなるの???そもそも凛ってあの店に行ったことないんじゃ・・・」
凛世の言葉に愛麗は怪訝な顔をするしかなかった。
次の日、凛世は食堂にとある人物を呼び出していた。
「おーいりんりん!こっちだよー!」
「氷沢さん。わざわざありがとうございます。」
「別にいいよ。授業休みで暇だったし。それでお願いって何?」
「愛ちゃんの好きだったたい焼き屋さんを探すのを手伝ってほしいのです。」
「あいあいの好きなたい焼き屋さんねえ・・・お店の名前とか言ってた?」
「名前は分かりませんけど弦平に少し前まであったお店だとおっしゃってました。」
「ふーん・・・ちょっとお店のアーカイブ漁ってみるかな・・・弦平のたい焼き店っと。」
は得意のパソコンさばきで手持ちの小型タブレットで検索し始めた。
「出たっしょ。多分ここじゃね?」
が見せたタブレットの画面にはプレハブ小屋に旗と暖簾がかかったお店が表示されていた。
「お店の名前は最強のたい焼き屋・・・っていうみたいですね。」
「口コミによれば最強のたい焼き屋、今はキッチンカーに鞍替えして騎ノ風のいろんな場所で営業してるってさ。今日は・・・百知駅の近くで営業してるっぽいね。」
「百知駅ですか・・・授業が終わったら早速行ってみます!比沢さん、探すの協力下さってありがとうございました。」
「別にお安い御用だしそれより・・・ねえりんりん。お礼は?」
「ええと、今持ち合わせないのでこれでなんとか・・・」
凛世は食堂で買っておいた食券(大盛り蕎麦かつ丼セット1000円)を環希に渡した。
「大盛り蕎麦の食券じゃん!こんなに貰っちゃっていーの!?」
「私は愛ちゃんの喜ぶ顔が見られればそれでいいんです。」
「そっか。あいあいは幸せもんだね。」
「授業終わったらお店に行ってみますか・・・あ、だけど今日は私最後の時間まで授業が入っていたのでした・・・営業時間は17:00までみたいですけど間に合いますかね・・・」
凛世は授業が終わると百知駅へ向かった。駅前にはキッチンカーが止まっており、最強のたい焼きという看板が乗っている。しかし、もうすでに営業時間を過ぎており、少し若い感じの女店主が店じまいの準備をしていた。メニューにはたい焼き(餡子、チョコ、ホワイトチョコ、カスタード、苺クリーム)とタコ焼き(お好みソース、塩、激辛、チョコ)が書かれている。
「あの・・・」
「なんだい可愛いお嬢ちゃん。今日はもう店じまいなんだ。次は金曜日にまた来るから今日のところは帰りな。」
「私の話を聞いていただけないでしょうか?私の友人がここのたい焼きが大好きなんです。ですがお店が閉店してしまったことですごく悲しんでいたんです。」
「ふうん・・・アタイはたい焼きやたこ焼きを提供するのが仕事だから客の顔なんかそんなに覚えちゃないけど見せてみな。」
「この子なんですけど・・・」
凛世は店主に愛麗の写真を見せた。
「ああ、このオーバーオールの子か・・・なんか独特の可愛い感じだったから珍しく覚えてるよ。君はこの子のコレかい?」
女店主は小指を立てて凛世にそう聞いた。
「はい。この子このお店のチョコレート味のたい焼きが大好きなんです。だけど最近食べられてないみたいで恋しそうにしていました。」
「おいおい君は恋人かどうかについて結構あっさりと答えるんだな。」
「実際私、彼女でもありますから。」
「そうかい。そういえばこの子週1の頻度で来てくれて一度に10個ぐらいは買って行ってくれたな・・・なんか悪いことしたね急に店閉店させちまって。最近実店舗だけでやるならキッチンカーに変えちまった方が色々な場所で商売できるからいいなって思ったのさ。アタイは市内3か所ぐらい回って週5で営業してるんだけどこの子どこに住んでるんだい?」
「恋蔵です。」
「そうか・・・あっちの方では店が出せる場所ないからなぁ。今は宇治小路の駅前、飛鳥橋のショッピングモール、そしてここ百知の駅前の3ヶ所でしか出してないんだよ。」
「そうなんですか。ですがこの子時々飛鳥橋の方へ買い物行くのですが・・・主に休日にですけど。」
「飛鳥橋での営業は水曜だけだからな。あそこは人気があってね、他の日は他のキッチンカーが出店しててうちでも水曜の営業許可取るだけでもやっとだったんだ。そうだ、あんたあの子の恋人なんだろ?これ、渡してやってくれないか?」
女店主はフリーザーバッグに入った何かを冷凍庫から取り出して凛世に渡した。
「これは?」
「チョコレート味のたい焼きさ。あの子がまた来た時のために売れ残りを冷凍しておいたんだよ。味は問題ないはずだし、10個入ってるから良かったら君も含めて一緒に食べな。」
「ありがとうございます。」
「ま、アタイ熱心なファンには優しいもんさ。恋蔵で営業させてもらえる場所がないかもう一度探して見るよ。それとこれ店のチラシね。割引券も入れておいたから今度来た時にでも使ってくれ。」
店主は凛世に割引券付きのチラシも渡してくれた。
その日の夜、凛世は愛麗の住むマンションに向かった。入り口のインターフォンを手に取ると愛麗の部屋へかける。
「はーい。どちら様ですか?」
「愛ちゃん。私です。」
「凛じゃない・・・どうしたのよ?眠れない?」
「愛ちゃんに渡したいものがあるんです。これなんですけど・・・」
「何それ・・・たい焼き?凛が作ってくれたの?」
「今回は違います。愛ちゃんが昨日言っていたお店に私行ってきたんですけどの愛ちゃんの写真見せたら覚えていてくださってこれをお店の方が渡してほしいって・・・」
「そうなんだ。よかったら上がって頂戴。」
凛世は愛麗によって管理人室に通された。凛世はたい焼きと割引券を愛麗に渡し、事情を説明した。
「事情は理解したわ。あたしのために悪かったわね。」
「いいんですよ。私は愛ちゃんの喜ぶ姿が見たかっただけですから。」
「凛の優しさ、嬉しいわよ・・・そ・れ・よ・り・も!」
「どうしたんですか急に怒りだして・・・」
「環の奴店の情報調べただけの癖に食券1000円も凛から持ってったの!?・・・そんなにしばかれたいのかしらねあいつ。凛、スマホ出して。あたしが食券分の金払うから。」
「いいんですよ。私がお願いしたんですから。」
「そう。だけど今後は気をつけなさいよ。環だけじゃなくて琴とかも調べたら対価としてお金請求してくることも多いから・・・はい。これお礼。」
愛麗はそう言うと解凍して焼き直した綺麗に切ったたい焼きを皿に盛りつけ、バニラアイスを添えたデザートを凛世に出した。
「これは?」
「このたい焼き使って作ったデザート。前に食べてみたかったって言ってたでしょ。」
「いいのですか?」
「凛はあたしのためにこの店を探してくれたんでしょ。だからお礼よ。」
「ありがとうございます。では・・・いただきますね。」
凛世はデザートを口に運ぶ。濃厚なチョコレートの甘さが口いっぱいに広がった。
「このたい焼き、とっても甘いんですね・・・それでいてチョコの濃厚な香りもたまりません・・・何気にアイスとの相性もいいですね。」
「でしょ。甘すぎないスイーツが流行っているのとは逆行した感じ甘ったるさが強い味なのよね。だから好きなのよ。」
「愛ちゃんの大好きな味、探し出すことができて良かったです。」
「凛みたいな思いやりのある恋人がいてくれてあたしは幸せ者だわ。」
スイーツを美味しく食べる凛世を眺めながら、愛麗は穏やかな表情をしてそう言ったのだった。後にあのたい焼き屋は恋蔵駅の駅ビル前で週に1回営業をするようになるのだがそれはまた別の話である。