伝説のカレー屋

夢源学園の学食には生徒の多彩な好みに合わせて様々な有名レストランが支店を出している。
その中でも特に人気があるのが、経営者が辛さをとことんまで研究し尽くして作っているというカレー屋なんだとか・・・
「ねーみんな!今日のお昼学食のカレー屋いかない?」
「カレー屋か、たまにはいいんじゃない。」
「花蜜さんが言っているのってあの有名なカレー屋さんですよね。」
「ウチもええよ。せやけどあのカレーって辛いんやっけ。」
「あたし食べたことないけど、辛さは段階があるみたいね。環喜は食べたことあるんだっけ?」
「あるし。辛さは1~10まであってその上には獄辛っていうのがあって獄辛を食べきると料金ただになって賞金と特典貰えるんだってさ。」
「よくあるチャレンジ激辛グルメ見たいね・・・」
「今日は獄辛に挑戦して特典貰おうと思ってさ。あいあいたちに見届け人になってもらいたいんだよねー。」
「環喜って辛いのそんなに好きだったっけ?」
「甘いの以外は問題ないし。これでも甘味以外の味覚は鈍感だからやれる気がするの。」
「・・・大丈夫なんやろうか?」
「まあ、辛さに耐えられなくて泣きわめく結果になると思うわよ。」
「あー!獄辛完食できるって信じてないんだ!それなら目の前で食べちゃうんだから。さ、行こ!」
「これはもう行くしかなさそうですね・・・」
「ま、泣きを見るのは獄辛に挑戦する環喜だけだし、あたしらは自分に合ったカレー食べればいいだけよ。」
「それもそうやな。」
愛麗たちは環喜に連れられ学食に向かうのだった。

学食のカレー屋に行くと調理担当のロボットたちが受付をしていた。昼時をやや過ぎておりあまり混み合っていない。
「イラッシャイマセ。ショッケンハソチラノキカイデオカイモトメクダサイ。」
「食券機はここか・・・ふーん、カレーライスだけだと思ってたけど、ナン、パン、うどんも選べるんだ。」
愛麗はスマホを操作して食券機で3辛のカレーとナンを購入した。
「愛麗ちゃんそこそこ上行くんやな。」
「辛いのは嫌いじゃないし、旨味も辛味と同じぐらい感じたいならこれぐらいかなって思ったの。カレーは家でもたまに作るからね。」
「そうなんやね。ウチは食べられなくなったら嫌やから1辛にしとこっと・・・」
嘉月は1辛のカレーとライスを購入した。
「私は4辛にしますね。」
「4辛!?なかなか挑戦者ね凛世・・・」
「それと・・・そばはないのですかこのお店?」
「スイマセン、ソバノヨウイハアリマセン。」
「それならうどんにしますか。」
凛世は4辛のカレーとうどんを購入した。
「環喜は・・・獄辛!」
環喜は迷わず獄辛のカレーを購入した。すると・・・
「ほう・・・獄辛に挑戦するって子は久しぶりだな。」
厨房の奥の方から一人の料理人の風貌をした男が出てきた。
「おっさん誰だし?」
「俺はこの店のオーナーさ。今日は何となく獄辛に挑戦したいって奴が現れる気がして奥のモニター室にいたのさ。ここは本店じゃねえし女子高だからめったに来ないんだけどな。」
「ロボットが大体管理してるからねここの学食。」
「それよりも、嬢ちゃん獄辛はすごく辛いぜ?挑戦を取り消したいなら今のうちだ。」
「何言ってんのおっさん。買ったんだからもう後には引けないっしょ?」
「そうかい。ま、泣きを見ないように気をつけな。制限時間は20分。それ以内に食べられたら特典と賞金をやるよ。」
「おーし!やってやるんだから!」
「それじゃ・・・今からスタートだ!」
オーナーの男が一台のロボットを操作して環喜がカレーを食べ始める時間からタイムを計り始めた。
「まずは一口食べてみよっと・・・」
「(ふん、6割の奴はここで泣きを見てリタイアするんだぜ。)」
しかし、オーナーの思惑とは逆に環喜は平然としていた。
「結構辛いけど・・・これは食べ甲斐があるじゃん!」
「やるな嬢ちゃん・・・」
愛麗たちはそんな環喜を隣のテーブルから注文したカレーを食べながら見ていた。
「環喜制限時間内で食べなきゃいけないから大変そうね・・・あたしたちはゆっくりカレー食べよっか。」
「はい。」
「せやな・・・」
「さーて、どんなもんかなっと・・・うわ、3辛でも中々辛いわよこれ。」
「ウチは1辛やからそんなでもないわ。」
「そうですか?中々美味しいですけど。」
「凛世は4辛で大丈夫なの?」
「ええ。家のお蕎麦とコラボしてほしいぐらいの味ですよ。」
「確かに味はいいわよね。辛みの中にうま味が隠れているって感じ。」
「凛世ちゃんの家の蕎麦とも相性ええかもしれんなぁ。」
「ここまで辛いと叔父さんが嫌がるかもしれませんけどね。」
愛麗たちは楽しく談笑しながらカレーを食べ進めるのだった。

環喜がカレーを食べ始めてから10分が経過した。カレーは半分ぐらいにまで減っていた。
「嬢ちゃんなかなかやるな・・・半分の時間でここまで食えた奴はそうそういないからな。」
「ふん、これでも甘味以外の味覚は鈍感な自信があるんだから!」
環喜は時間を気にしつつもカレーを口へ運ぶ。いくら味覚が鈍感とはいえ、眼鏡の奥の目には微量の涙が浮かんでいる。
「(もっとペースを上げないとまずそうだし・・・)」
「嬢ちゃん、なかなか辛そうだな。もしなんだったらリタイアしたっていいんだぜ?その場合4500円支払ってもらうけどな。」
「は?そんな高い金払えるわけないじゃん!」
「俺だってこのカレーに結構な材料費を注いでいるんだ。この学園の奴ならわかってると思うが言ってやる・・・こういう挑戦にはリスクがつきものなのさ。」
「なら全部食べ切ってやるだけし・・・辛っ!!!」
そして残り1分のところで最後の一口のところにまで来た。
「よし・・・あと少し・・・あれっ、手が動かない・・・?」
「効いてきたみたいだな。獄辛のカレーの中には時間差で辛さを感じる唐辛子の粉末が大量に入ってるのさ。これまでの辛さのダメージもあってみんな最後の一口まで行きついたら脳が限界の信号を発信して手が止まるんだ。今までの挑戦者たちのほとんどもそこで手が止まったもんさ。」
「うう、環喜ここまでなの・・・」
「環喜!あんたこんなところで倒れるような奴じゃないでしょ!」
「せや!」
「花蜜さんなら食べきれますよ!だって、最後の一口まで食べられたんですから!」
環喜の耳に隣のテーブルですでにカレーを食べ終えた愛麗たちが応援の言葉が届く。
「あいあい、りりりん、つっきー・・・そうだね、こんなところで倒れてらんないっしょ!」
環喜は愛麗たちの声援を受け取ると最後の一口を口に運んで食べきった。時間は・・・残り10秒でクリアだった。
「やったー!だけど疲れたし・・・」
「くそ・・・まさか獄辛をこんな若い嬢ちゃんに食い切られるなんてな。これは賞金だ!取ってけ!」
店長は環喜に賞金と特典を渡した。賞金は1万円、得点はこのカレー屋で頼めるメニューで使える半額クーポンが入っていた。
「おーしこれで今作っているPCの部品買おっと!」
「あんたまた新しいパソコン作ってるのね。」
「そーいやあいあいたちはカレー美味しかったの?」
「まあね。いい味だったわ。」
「辛さも楽しめていいお店ですね。近いうちにまた来ようかと思います。」
「ウチも1辛ならまた食べてもええかな。」
「疲れたから次の授業研究室で休むし。ねーりりりん。次の授業一緒だったよね?スマホかパソコンでデジタルノート取っておいて後で送ってー。」
「えっ・・・困りますよ。」
「ちょっと!凛世に変なこと頼んでんじゃないわよ!」
「愛麗、そうじゃないんです。花蜜さんと私次の授業一緒じゃないですよ?」
「あれ?りりりんの次の授業ってデジタルミュージック基礎だよね?環喜もそれだったはずなんだけど。」
「私の次の授業はデジタルミュージックによる作曲です。基礎はもうすでに知っているので実際パソコンで曲を作る授業をやっているんですよ。」
「えー!そんなぁ・・・」
「ま、頑張んなさい。」
「どれだけ疲れてても授業はでなあかんよ?」
「つっきーまで・・・あーあ、こんなことなら獄辛じゃなくて8辛ぐらいにしておけばよかったし・・・」
獄辛を食べて体力を消費したことで後悔する環喜だったが、口の中では未だに辛さが続いており、もう遅かった。