プリンケーキ失踪事件

お菓子作りが好きである生泉愛麗は2月1日にケーキを作っていた。
今回作っていたのはプリンケーキでお菓子作りを何度もやってきた彼女でも初めて作るお菓子である。
作るにあたって色々試し、着ている服がプリン液まみれになっても気にせず作り続けてようやく
完成にたどり着いた。初めてながら味もよく、彼女にとっては自信作であった。
あとは一晩冷蔵庫で固め、次の日に友人に振舞う予定だったのだが・・・事件は起こった。
麗「あ!あたしが作ったケーキがなくなってる!」
ケーキを冷蔵庫に入れて、一晩たった夜・・・つまりは2月2日の夜のことだった。
愛麗がプリンケーキの様子を見ようと冷蔵庫を開くと、皿からプリンケーキがきれいさっぱり無くなっていたのであった。
麗「誰よ・・・誰よこんなことしたの・・・」
?「愛麗ちゃんどうしたの!?」
その声を聴いて愛麗の下の部屋に住んでいる鶴来奏が愛麗の部屋にやってきた。
奏は愛麗やその姉の創よりも年上で、愛麗が小さいころから世話を焼いていたが、やりすぎてしまう一面があり、
その部分でそれなりに愛麗に負担をかけているが本人は気づいていなかったりする。おまけに指摘すると逆ギレするほど性格も悪い。
ちなみに愛麗、楓、創の部屋の合鍵を保有しており、こっそり3人の部屋に忍び込むことも・・・
麗「奏さん・・・あたしのケーキが無くなっちゃったんだ・・・」
奏「ケーキ作ってたの?」
麗「うん・・・朝に作って冷蔵庫でずっと固めておいたんだけど、今見たら無くなってて・・・」
奏は愛麗の部屋の冷蔵庫を見てみる。するとケーキの欠片が残った皿があるだけになっていた。
奏「これは・・・確かに誰かが食べちゃったみたいね・・・よし!ここは愛麗ちゃんの面倒を小さいころから見てきた私の出番だよ!
愛麗ちゃんのプリンケーキを食べた人物を探偵奏ちゃんが探しちゃうよー!」
麗「余計な事しなくていいよ・・・」
奏「愛麗ちゃんはこのままでいいの?そのプリンケーキ自信作だったんでしょ?」
麗「そうだけどさ・・・」
奏「それなら私が可愛い愛麗ちゃんの無念を晴らしてあげる!
まずは・・・愛麗ちゃん、昨日部屋5人ぐらい誰か呼んでたよね?その5人を明日呼び出して!尋問するから!」
麗「分かったわよ・・・(嫌な予感しかしない・・・)」

そして次の日の2月3日。愛麗の部屋に昨日愛麗の部屋に来た容疑者候補の5人が揃った。
凛「急にどうしたんですか生泉さん?」
和「ずいぶん急な呼び出しよね。」
嘉「今日もなんかあるん?」
奈「それより・・・あの人は誰ですの?」
麗「ごめん・・・あたしじゃあいつは止められないのよ・・・」
奏「それでは早速尋問を始めたいと思うよ!今日貴方たちを呼び出したのは他でもないよ。
昨日、愛麗ちゃんが朝早起きして作っていたプリンケーキが無くなっちゃったんだ!
それで、昨日愛麗ちゃんの部屋に訪れていた貴方たち5人が容疑者候補なの!」
水「プリンケーキ?知らないぞそんなのは・・・」
奏「知らないなんて白を切るなんて怪しいわね!ええと・・・織田倉さんの所の皆野ちゃんだっけ?」
水「水萌だよ・・・」
奏「ええと、光香ちゃんだっけ?」
水「水萌だよ!!!めんどくさいな・・・愛麗も苦労してるんだな。」
麗「分かってくれる?」
水「ああ、分かるさ。アタシの姉貴も子供っぽいから。」
奏「ううーっ・・・そんなことより、今から尋問を始めるんだったら!」
麗「(はぁ・・・やっぱり嫌な予感しかしねえよ・・・)」
奏「それじゃ、奥の個室で尋問するから、一人ずつ入ってきてね。入ってこなかったら愛麗ちゃんと絶交してもらうから。」
麗「そこあたしのクローゼット部屋なんだけど・・・聞いてないし。」
こうして奏によるプリンケーキ失踪事件の尋問が始まったのであった・・・

容疑者1 御雲凛世
奏「それじゃ、まずは凛世ちゃん。昨日何時ごろ愛麗ちゃんの所に来たの?」
凛「はぁ・・・15時ごろですね。生泉さんがデートに誘ってくれたので、2人でイノンを見て回った後の15時に生泉さんの家に来た形になりますね。」
奏「それで、プリンケーキの存在は知ってたの?」
凛「知りませんよ・・・そもそも生泉さんが2月1日にケーキ作ってたこと自体知りませんでしたし・・・」
奏「ほんとかなぁ~?本当に知らなかったの?」
凛「知りませんってば!」
奏「声を荒げるなんてやっぱり怪しいなぁ・・・そのジーパンの中に証拠品でも隠し持ってるんじゃないの?」
凛「このジーパンは私にちょうどいいサイズですから中に物を入れるスペースなんてありません!」
麗「ってか人の彼女になにセクハラまがいのことしてんのよ!」
奏「愛麗ちゃん、これはセクハラじゃないの。尋問よ。」
麗「あんたが今やってることセクハラと変わんないと思うんだけど・・・」
奏「愛麗ちゃんは置いといて話を戻そうか。凛世ちゃんは愛麗ちゃんの部屋に来た時間以外は何をしていたの?」
凛「え・・・午前中は私の家で作曲してましたし、13時ぐらいは叔父さんに新作メニューの提案をしていました。
14時からは生泉さんに誘われてイノンモールのお店を見て回っていました。」
奏「ふむふむ・・・それじゃ、14時~15時は愛麗ちゃんと一緒にいたんだ。間違いない愛麗ちゃん?」
麗「うん。一緒に買い物してたわよ。服とかいろいろ見て回っちゃった。」
奏「それと、午前中のことを証明出来る人はいる?」
凛「はい、私の姉の穏佳がいます。」
奏「証拠取るから連絡してわたしに代わって。」
凛「そこまでするんですか・・・?」
奏「当たり前でしょ!愛麗ちゃんのプリンケーキを盗んだ容疑者候補なんだからね!」
麗「そこまでしなくてもいいよ・・・人が死んだわけじゃないんだし・・・」
愛麗は呆れた表情でやる気の奏を見ながらそう言った。
奏「ダメよ!やるなら徹底的にね!」
麗「はぁ・・・」
奏は凛世の携帯で穏佳に連絡を取らせ、奏に代わると凛世の午前中のアリバイ確認を行った。
穏佳は驚きながらも電話に出てくれ、凛世は確かに家にいて叔父へ新メニュー提供と作曲をしていたことを話してくれた。
奏「・・・はい、ありがとうございました。では失礼いたします。」
奏はその言葉を最後に電話を切った。
奏「アリバイは確認できたわ。」
凛「そうですか・・・それなら私は解放・・・」
奏「は?次はボディチェックよ。」
麗「何言ってんのあんた・・・」
奏「愛麗ちゃんはさっきからうるさいから外に出てて。私一人でやる。」
麗「そんなこと認めるわけないでしょ!」
奏「いいから出てってってば!」
奏は無理やり愛麗を追い出して部屋に鍵をかけるとボディチェックを始める。
奏「さ、ボディチェックを始めるよ。まずはジーパンを下ろして。」
凛「え・・・嫌ですよ・・・」
奏「いいから下ろせって言ってるでしょ!!!」
奏は嫌がる凛世を無視し、凛世のジーパンからベルトを無理やり抜き取り、
ジーパンの前ボタンを外してファスナーを下ろして無理やり下げる。
凛「きゃあ!!!ふざけないでください!」
奏「へえ・・・凛世ちゃんって黒下着なんだ・・・」
凛「なんでそんなところ見ているんですか!私は黒い色が好きなだけです!」
奏は凛世のジーパンの下に穿いている下着をじっくりと見つめる。
奏「容疑者が警察にたてつかないでくれる?」
凛「あなたは生泉さんの知り合いでしょう!?」
奏「そうだけど、それに加えて愛麗ちゃんにつく悪い虫を退治する役割もあるの。」
凛「理由になってませんよ!」
奏「さて、次は上半身ね。頭とか胸の谷間にケーキの証拠があるかもしれないから、確認っと・・・」
奏はそう言うと、手で凛世の被っているピクチャーハットを払いのけ、凛世の胸を鷲掴みにした。その瞬間、滅多に怒らない凛世も限界が来たのか・・・
凛「あなたって人は・・・いい加減にしなさい!!!」
凛世の怒鳴り声と奏の頬に乾いた音が部屋に響いた。
結局急なビンタに怖さを覚えた奏は凛世の尋問をそこで終了せざるを得なかったのだった。
奏「愛麗ちゃんの彼女で大人しい大和撫子って聞いたから怒っても怖くないと思ったけど、叩かれて痛い・・・」
そんなこんなで尋問は次の容疑者に移る。

容疑者2 天宮城奈摘
奏「次は奈摘ちゃんだね。昨日は何時ごろに愛麗ちゃんの所に?」
奈「朝の8時ですわね。愛麗さんに今度嵐山出版ではない別の出版社の雑誌に連載する予定のアニメ原作の漫画を描くことになりまして・・・愛麗さんに案をもらいにきたのですわ。」
奏「案って何の案?」
奈「それは・・・漫画家としての企業秘密ですわ。」
奏「企業秘密ってすっごく怪しいなぁ・・・そういえば奈摘ちゃんの漫画って女の子同士がラブラブちゅっちゅするような怪しい内容ばかりだよね・・・?それにお嬢様だしやっぱりプライド高いから言えないだけだったりするの?」
奈「内容やプライド高さがなんだというんですの?わたくしは自分の好きなものを正直な気持ちで描いているだけですわ!」
奏「まあ凡人の私には芸術家の気持ちは理解できないや。」
奈「なんだかわたくしの漫画を馬鹿にされたみたいで不愉快ですわ・・・」
奏「別に馬鹿になんかしてないよ。それで、9時からの時間は何をしていたの?」
奈「家に戻って今月分の「Love!ヴァンパイアガール」を17時までずっと描いていましたわ。
一応こちらに完成した原稿の写真がありますわ!」
奈摘は奏にスマホの画面を見せた。そこにはしっかりとペン入れされた原稿が映っていた。
奏「これは証拠だね・・・それじゃ、奈摘ちゃんは愛麗ちゃんに会っていない残りの時間は漫画を描いていた、と・・・
だけど、それを証明できる人はいる?」
奈「万梨阿お姉さまが家にいましたから聞いてみるといいですわ。」
その後、奈摘の携帯から万梨阿に電話をかけた。
万梨阿の証言から、奈摘は自室でずっと漫画を描いていたことが証明された。
奏「万梨阿さんに聞いてみたけど、部屋でずっと漫画を描いていたことは証明されたわ。一応これでアリバイ成立ね。」
奈「分かってくれたんなら助かりましたわ・・・これで終わりですわよね?」
奏「え?まだ終わってないよ?次はボディチェックね。」
奈「あなた何を・・・」
奈摘がそう言いかけた途端奏は奈摘の背後に回り、先ほど凛世にしたように胸をわしづかみする。
奏「へー凛世ちゃんよりも揉みごたえがあるね。」
奈「や・・・やめてくださいまし・・・」
奏「ボディチェックだから無理。ほら、これ脱いで。」
奏は奈摘の水色のパーカーを無理やり剥いで投げ捨てる。
奈「ちょっと、何するんですの!」
奏「服の中にケーキを食べた証拠があるかもしれないでしょ?」
奈「そんな無茶苦茶な・・・」
奏「はいはい次は髪の毛を調べるからツインテール解くよ。」
奈「はあ・・・もうご勝手にしてくださいまし・・・」
奏は奈摘がツインテールに結わえているリボンを解く。綺愛麗な金髪が宙を舞い、その美しさは奏でなくても見とれるほどであった。
奏「綺愛麗・・・ってそうじゃなかった。髪の中に証拠がないか探させてもらいます。」
そう言うと奏は奈摘の髪の中を無造作に漁り始める。
奏「うーん・・・証拠がないないどこにも見当たらない!!!」
だんだんと奏が奈摘の髪を漁る動作が荒っぽくなっていき、髪も何本か抜け落ちてしまう。
挙句の果てには毟るような動作までし始め、髪を一度も切らずに大事に伸ばしている奈摘からすればたまったものではない。
奈「いい加減にしてください!貴方さっきからわたくしの髪の毛を荒らしているだけじゃないですか!」
奏「証拠が見つからないんだからどうしようもないじゃない。」
奈「こんなずさんな捜査に付き合ってられませんわ!」
奈摘は服を着直し、髪を整えてツインテールに結わえ直すと怒って部屋から出て行ってしまった。
奏「あーあ・・・怒らせちゃった。まあいいや。次に行こう。」
ちなみに、部屋の外からは愛麗の謝る声がしていたが、奏には聞こえていなかった。

容疑者3 織田倉水萌
奏「次は・・・湊ちゃんね!」
水「水萌だっつってんだろうが!」
奏「ごめん、私人の名前覚えるの苦手なのよ。」
水「その割には他の連中のことはしっかり呼び分けてるじゃないか・・・」
奏「ごめーんね。瑞樹ちゃん。」
水「なぁ・・・アタシが冤罪だったらお前のこと殴っていいか?」
奏「いいわよ。こういうのには自信あるから。」
水「お前とはあまり関わったことないけど、愛麗との関係何なんだよ?」
奏「まあ昔ちょっと愛麗ちゃんとその姉と妹の面倒を見ていたの。無駄話はそこまで。さ、尋問をするわよ。」
奏は手慣れたように水萌の質問の答えを流すと、水萌の尋問を始めた。
奏「あなたはいつ愛麗ちゃんに会いに来たの?」
水「11時ぐらいだったな。愛麗に借りてた漫画と小説を返しに来たんだよ。」
奏「漫画と小説ね・・・どんな奴?」
水「これだよ。今度買おうかと思ってて、愛麗に借りて試し読みしたんだ。」
水萌は一冊の漫画を見せる。その漫画はと月光くの一舞夢(まいむ)という作品だった。
表紙にはくの一のようなコスチュームを着た銀髪の女の子が描かれている。
奏「エロマンガ読むなんて、美奈穂ちゃんは変態さんだね~」
水「はぁ、いちいち突っ込むのも疲れるわ・・・これエロマンガじゃないから。後水萌だ。」
奏「なんでこれ読んでるの?」
水「アタシに似てるんだよこの漫画の主人公。銀髪でポニーテールな所とかそっくりだ。それにカッコいいし・・・」
奏「この表紙に書かれている髪型は普通のストレートヘアじゃない。」
水「この衣装の時は髪下ろしてるんだよ。」
奏「それよりも・・・愛麗ちゃんに漫画を借りに来た時間以外は何していたの。」
水「家でコレクションの洋書を読んでいたよ。」
奏「それを証明できる人は?」
水「居ねえよ。家にはアタシ一人だけだったし。」
奏「ふむふむ・・・証明できる人はいないって事か。それならアリバイはないわね・・・」
水「そうだな。これで尋問は終わりかよ?」
奏「まだよ。ボディチェックがあるからね!」
奏はそう言うと、裁ちばさみで水萌の着ている服の前面を縦に引き裂く。
水「おい!アブねえだろ・・・ってなんだこれ!?」
ジャケットは金のボタンが外れるだけで済んだが、中の服はブラジャーごと縦方向に引き裂かれており、素肌が見えてしまう状態だった。
水「ふざけるなよ!この服高かったんだぞ!」
奏「だって、瑞奈ちゃん脱がそうとしたら殴ってきそうだから先手売っちゃった。ごめんね。」
水「そういう問題じゃねーよ!後で弁償してもらうからな。」
奏「はいはい・・・」
水「なんだその反省しない態度は!もうお前になんか付き合ってられるか!」
服を引き裂かれたことにより、水萌は怒ってしまい部屋の外に出て行ってしまう。
奏「まったく・・・犯人候補だってのに緊張感がないわね・・・瑞華ちゃんはクロ・・・さて、次々っと。」
奏は人の服を引き裂いたことに反省もせず、次の尋問に移るのだった。

容疑者4 雷久保嘉月
奏「あーあ疲れてきちゃった・・・」
嘉「いきなりなんやのんその態度・・・」
奏「だって前の3人が暴れたり怒ったりするから疲れた~!」
嘉「さっきから外で聞いてたけど、あんたが悪いことしたからなんやないの?水萌ちゃんなんか服破かれて怒ってたで。」
奏「だって瑞丸ちゃんとかヤンキーって怖いし。」
嘉「(水萌ちゃんは喋り方が少し乱暴なだけでヤンキーとかではないと思うんやけど・・・)」
奏「はあ・・・まあいいや。嘉月ちゃんはいつ愛麗ちゃんに会いに来たの?」
嘉「ええと、10時ごろやな。そこから1時間ぐらい愛麗ちゃんの部屋にあげてもらってお喋りしてたねん。」
奏「へえってことは・・・11時ぐらいまでいたって事?」
嘉「まあそうやな。それで水萌ちゃんが来る少し前に愛麗ちゃんの部屋を出て、家に帰ったんや。
一応水萌ちゃんとは帰り道ですれ違ったわ。」
奏「その時何かなくなったプリンケーキについてとかの話はした?」
嘉「してへんよ・・・そもそも愛麗ちゃんがケーキ作ってることなんてさっき聞くまで知らへんかったし・・・」
奏「ケーキのことは知らなかったのね。それで、愛麗ちゃんに会いに来た用件は?」
嘉「愛麗ちゃんにこの前頼まれた写真を現像して持ってきたんよ。趣味のジオラマの写真らしいんやけど。」
奏「写真って・・・今はパソコンで取れる時代じゃないの?」
嘉「ウチの写真館ではデジカメの印刷サービスもやっとるんよ。」
奏「そうなのね。それはまあいいとして・・・愛麗ちゃんの所にいた時間以外は何をやってたの?」
嘉「家電量販店に新型のカメラを見に行ってたんやけど・・・」
奏「それを証明できる人は?」
嘉「ウチ一人で行ったから誰もおらへんよ?」
奏「ふうん・・・つまりアリバイを証明できる人はいないってわけね。」
嘉「せやな・・・こんな感じで良かったん? 」
奏「まあ尋問はこれで終わり。次はボディチェックね。」
奏はそう言うと嘉月の背後に回り込むとネクタイを器用に外し、ワイシャツのボタンを胸のあたりまで開く。
嘉「ちょ・・・なにすんねん!」
奏「これもボディチェックの一貫よ。この馬鹿でかい胸の中に証拠が隠されてるかもしれないでしょ。」
奏はそう言うと嘉月の胸をゆさゆさと揺らす。
嘉「やめいや!こんなことしたってなんも出てこうへんよ!」
奏「アリバイを証明できないってことは怪しいでしょ!」
彼女の特徴でもある大きなリボンの端を掴むとその端を引っ張る。
リボンは簡単に解け、紐状になる。
嘉「ウチのリボンになにを・・・」
奏「リボンの隙間に証拠があるかもかもしれないでしょ・・・鋏でチョキ・・・」
嘉「いい加減にせいや!あんさんさっきから意味のないことばかりしよって・・・もうええわ!」
嘉月は怒ってリボンを奪い返すと、部屋から出て行った。
奏「急になによう・・・ほんと1組って偏屈ばかりね!」
奏はほぼ逆ギレに近い形で、勝手に部屋を出て行った嘉月を罵った。

容疑者5 眞武和琴
奏「はい5人目ね。」
和「何その投げやりな態度は・・・」
奏「いやもうめんどくさくてさ・・・」
和「警察だってそんな態度はとらないと思うわよ・・・」
奏「和琴ちゃんは真面目だなぁ・・・」
和「あんたが不真面目・・・っていうか適当過ぎるだけよ。」
奏「まあいいよ。それじゃ尋問するよ。和琴ちゃんが愛麗ちゃんに会いに来たのは何時ぐらい?」
和「13時ぐらいね。生泉が心理学面白そうっていうから、いくつか面白そうな心理テストをピックアップして
色々出題してたのよ。だけど御雲と14時からデートするっていうから13時40分には帰ったわ。」
奏「ふんふん・・・それ以外の時間は?」
和「自宅の本屋で本の整理とカウンセリング業務ね。あたしの家の本屋大きいんだけど、
その分商品管理をしっかりしないとダメだから・・・」
奏「それを証明できる人はいる?」
和「午前11時ごろに神原が買い物に来てたからあいつに聞けば分かるわよ。」
奏「咲綾ちゃんか。ちょっと連絡取れる?」
和「ちょっとまってて・・・あいつと普段あまり連絡取らないから連絡先探さないと・・・」
その後、無事咲綾に連絡が付き、彼女の証言「みっちゃんは11時ごろは家で本の整理をしていたよ。」
という発言を聞くことができ、和琴のアリバイが証明された。
奏「・・・これで和琴ちゃんにもアリバイが成立するってわけか。」
和「分かってくれればいいのよ。それじゃあたしはこれで・・・」
奏「なに勝手に出ていこうとしてんの?ボディチェックがまだでしょ?」
和「あんた何言って・・・」
奏「大柄だし少し弱らせるか・・・ちょっとごめん恨まないでね。」
奏はそう言うと和琴に向かってタックルをする。油断していた和琴は突き飛ばされ、後ろにある愛麗の服が入っている
クローゼットに叩きつけられた。和琴がぶつかった衝撃でクローゼットの中にしまってある服が飛び出した。
飛び出した服は和琴の体に覆いかぶさる。
和「痛った・・・急になにすんのよ!ってかこれ生泉の服じゃない・・・身動きが取れないわ・・・」
奏「これで調べ放題ね。さあ・・・さあ・・・」
和「ちょ・・・やめなさいよ!」
奏は散らばった服の上から和琴にのしかかると無理やり和琴のお下げ髪を掴むと、お下げに結んであるヘアゴムを解いていく。
和「三つ編みセットするの大変なのに何してんのよ!」
奏「髪の毛の隙間に証拠があるかもしれない・・・」
和「無茶苦茶なこと言ってんじゃないわよ!」
奏「破天荒なことをやり遂げることによって、新しいことが分かったりするのよ!」
和「それ破天荒の本来の意味じゃないから!」
奏「いいの!さ、次はその色々入ってそうな腰の上着を見せ・・・」
和「(やばい・・・上着には携帯用のサバイバルナイフが入ってるから余計疑われる・・・何かいい案は・・・そうだ!)」
和琴はとっさに自分の腕に護身用で付けている刺の装飾のついたブレスレットを奏の手の方に向ける。
和琴が目論んだ通り、ブレスレットの刺は奏の手に突き刺さる。
奏「いったーい!!!血が出る~!」
奏が怯んだすきに和琴は服の山から抜け出し、奏の背後に回ると腕を奏の体にまわして捕まえる。
和「これ以上何かされたくなかったら、とっととあたしを解放しなさい。」
奏「あんた卑怯よ!」
和「なんとでもいいなさいよ。それとあんた・・・こんな尋問の仕方じゃ絶対に犯人見つけられないわよ。」
和琴は冷静にそう吐き捨てると奏を壁に叩きつけて、部屋を出ていく。
奏「まったく、何よあいつ!愛麗ちゃん友達選び間違えたんじゃないかしら・・・」
和琴の言葉もむなしく、奏は全く反省しようともしていないようである。

尋問を終えた奏は個室から出てくる。奏が部屋から出て最初に目にしたのは怒りの形相でこちらに詰め寄ってくる愛麗だった。
麗「ねえ・・・ちょっといい?なんで尋問とか言ってこんなことしたの?」
奏「尋問のためよ。悪く思わないでね愛麗ちゃん。」
麗「尋問?こんなのが尋問なの?人の洋服傷つけて、ただで済むと思ってんのあんた?」
奏「何その態度。私は愛麗ちゃんのためを思って、容疑者たちに尋問してるんだよ。」
麗「尋問って言って服を切り裂いたりしていいとでも思ってるの?」
奏「はいはい。まずは愛麗ちゃんと容疑者たちが出会った時間を書きだしてみるか・・・」

8時~9時  奈摘と漫画の打ち合わせ
10時~11時 嘉月が写真を持ってくる
11時~12時 水萌が漫画を返しに来る
13時~13時40分 和琴が心理学を教えに来る
14時~15時 凛世と外でデート
15時~16時 凛世と家でデート
17時    プリンケーキが無くなったことに気付く

奏「やっぱりこれだけだと分かりにくいわね・・・ただこれから言えるのはプリンケーキが無くなったのは空白の
時間である16時~17時の可能性が高いわね。さて、次は現場検証をしないとね。」
奏は次に現場である愛麗の部屋の調査を始める。
奏「ん・・・ここに髪の毛が落ちてるわ。この髪は・・・黒色ね!」
凛「現場検証なのに・・・手袋もつけずにやってますね・・・」
水「指紋付くぞ・・・」
奏「ほかにも証拠は・・・あ、飲みかけのいちご牛乳があるわ。これも立派な証拠ね。」
麗「(それさっきあたしが飲んだ奴なんだけど・・・)」
奏「さて、あとは・・・冷蔵庫の確認をしようかな。ええと・・・あ、これがケーキを乗せていた皿ね。」
奏はケーキが乗っていた皿を取り出した。
奏「犯人は皿を舐めないタイプなのね。もったいない。私だったら舐めまくっちゃうな~。」
奏のその言葉を聞いた愛麗はあることに気付く。
麗「ねえ奏さん・・・ちょっとその皿見せてくれない?」
奏「だめよ。これは事件の大切な証拠なんだから。」
麗「その皿に犯人が分かる決定的な証拠があるかもしれないのよ。」
奏「そうなの?それじゃ、ちょっとだけね。」
奏は愛麗に皿を渡す。愛麗はその皿を照明に照らした。すると、何かを悟ったかのように急に口を開くとこういった。
麗「それじゃ、今から犯人の発表をするよ。」
凛「犯人が分かったんですか生泉さん!?」
水「誰なんだよ?」
和「まぁそんなに慌てないでゆっくり聞きましょう。」
奈「なんだか急展開ですわね。」
嘉「一応日常系百合小説にギャグを加えた世界なんやからええんやないの。」
和「雷久保、それ言っちゃダメな事よ。」
麗「静かに・・・あたしが見た所このケーキを乗せていた皿には明らかに唾液のようなものが少し付着しています。」
愛麗は皿をもう一度照明に照らす。すると、明らかに一部がテカっている。
麗「この部分にこの試験紙を付着すれば犯人を絞ることはできるわ。」
愛麗がそう言って取り出したのは試験紙だった。
麗「これは前にエレナちゃんに作ってもらった。ABO式試験紙よ。」
凛「なんなのですかそれは・・・?」
麗「凛世はリトマス試験紙って知ってる?」
凛「はい・・・液体につけて酸性かアルカリ性かを調べる紙ですよね?」
麗「その通り。これはその原理を利用して、血液につけると血液型の種類によってさまざまな色に変化するの。
A型は赤、B型は青、O型は黄色、AB型は緑、それ以外の特殊な奴は紫っていう具合にね。」
水「だけどその液体は血液じゃないだろう?」
麗「あまり知られていないけど、血液型と同じ成分が人間の体液にも含まれているから判定は可能なのよ。
これはエレナちゃんの発明品だから血液以外の体液にも対応しているの。」
和「鷲宮の科学力ってすごいのね・・・」
麗「それじゃ、さっそく使ってみるわね。」
愛麗は試験紙を一枚取り出すと、皿に付着している液体に付ける。すると、試験紙は白から見事な青色に変化した。
嘉「青くなったで。ということはB型やな。」
和「この中でB型は・・・天宮城だけよね?」
凛「ということは天宮城さんが・・・」
奈「そんなはずないですわ!わたくしはプリンケーキなんて知りませんでしたし・・・」
麗「みんな、騒ぐのは早いわ。犯人は奈摘じゃない。」
和「え、だけどその試験紙は青色に変化したじゃない。」
麗「うん、この判定は正確にでてるはず。奈摘じゃないとしたらこの中にもう一人B型の人物がいるって事。」
凛「私たち以外でこの場にいる血液型がB型の人ってまさか・・・」
麗「そうよね?・・・鶴来奏さん。貴方たしかB型だったよね?」
奏「え・・・なんで私になるの?私は確かにB型だけど証拠はあるの?」
麗「あるわよ。一つはあなたがあたしの部屋の合鍵を持っているって事。」
奏「それが何になるのよ?確かに愛麗ちゃんの部屋に自由に出入りはできるけどそれだけじゃ証拠にならないと思うけど。」
麗「そう、ならなんで最初あたしの部屋に来たときあたしが作ったケーキが”プリンケーキ”だって知ってたの?」
奏「あ、それは・・・」
麗「あたしはケーキ作ったとは言ったけどプリンケーキを作ったとは一言も言って無かったよね?」
奏「うっ・・・」
麗「それと皿に唾液がついていたのはあなたの意地汚さが皿を舐めようとして付着したもの。それと落ちていた髪の毛は黒く見えるけど・・・」
愛麗は落ちていた髪の毛を光に照らす。すると・・・
凛「茶色に見えますね・・・」
和「光にあてると見え方が変わるものなのね・・・」
麗「そしてこの茶色はダークブラウン・・・今のあなたの髪色と同じよね。奏さん。」
奏「ううっ・・・そうよ、愛麗ちゃんのケーキを食べたのは私。」
麗「なんで食べたの?あのケーキはここにいるみんなを今日呼んで食べてもらおうと思った自信作だったのに!」
奏「理由?ただ単においしそうだったから。それに誰があなたの面倒を見てあげたと思ってるの?不良だった創の暴力から守ってあげたのは私でしょ?」
麗「はじ姉の闘争心をあおって暴力の増長をしていた癖に何言ってるの?」
奏「何をいまさら。年下で胸ばかり大きいだけのチビ女は素直に私にしたがってりゃいいんだよ。私のお菓子は私の物だしあんたの作ったお菓子は全て私の物よ!」
水「すげー自分勝手だな・・・」
嘉「最低やなこの人・・・」
麗「絶対許さない。祖父さんに頼んでアパートから退いてもらうから。」
奏「ケーキごときに目くじら立てるなんて昔から全然成長してないのね。」
奏はそう言うと愛麗に対して構えの姿勢を取る。
麗「みんな下がって。ここはあたしが何とか押さえつける。この人のことはよく分かってるから行けるはず・・・」
奏「何ごちゃごちゃ話してるの。そっちが来ないならこっちから行かせてもらうわよ!」
奏は一直線に愛麗の方へ突っ込んでくる。愛麗はそれを見切ったかのように右へ避けると・・・
麗「人の物勝手に食べた上に人の友達傷つけて偉そうなこと抜かしてんじゃないわよ馬鹿女!」
愛麗はそう言うと奏の腹に向かって足を蹴り込む。足は見事にクリティカルヒットし奏は床にたたきつけられる。
奏「痛った・・・」
愛麗はその隙を見逃さず、奏を紐でリビングが見える柱の部分に括り付けた。
奏「ちょっと!何するのよ!?」
麗「あなたにはそれ相応の罰を受けてもらうから。」
奏「分かったわよ!出ていけばいいんでしょ!!!」
麗「それだけじゃないよ。今日は祖父さんが遅くなるからそれまで・・・地獄を見せてあげる。」
愛麗はそう言うと冷蔵庫に向かう。中から黒いケーキのようなものが乗った皿を取出し、凛世たちの所へ向かう。
麗「みんな今日は変なことに巻き込んだりしてごめん・・・実はプリンケーキだけじゃなくてティラミスも作ってたんだ。お詫びに食べてってよ。」
和「プリンケーキ以外にもケーキ作ってたなんて、さすが生泉は一枚上手ね。」
凛「いいんですか生泉さん。」
麗「当たり前でしょ。ティラミス柔らかいし好きにフォークでつついていいから。」
愛麗はそう言うとフォークを渡し、友人に振舞う。奏はその様子を目の前で見せつけられることになる。それこそが愛麗が先ほど言った地獄なのである。
凛「生泉さんのケーキ美味しいです。」
和「ホントあんたって見かけによらずこういうの得意なのよね。」
奈「以前鮫川先生がおっしゃっていた通りパティシエ目指してもいいレベルだとわたくしも思いますわ。」
麗「そんなにおだてなくていいから・・・」
そんな状況を見せつけられ耐えられなくなった奏は愛麗に声をかける。
奏「あの・・・」
麗「何?」
奏「私にもクダサイ・・・」
麗「嫌。貴方にあげる分はないからそこで大人しくしていてね。」
奏「そんなぁ・・・ティラミスはプリンケーキより好きなのにぃ・・・スイマセン許してください皆様・・・」
麗「だってさ。どうする?」
凛「私は反対です。あの人に胸を掴まれた時のおぞましさが抜けません・・・」
水「アタシもだな。服引き裂かれたし・・・」
和「あたしも。こんな人とケーキ食べるなんて嫌。」
嘉「ウチのリボンを切ろうとしたことは許されることやあらへん。」
奈「わたくしの髪の毛を10本も抜いたんです。許す理由などありませんわね。」
麗「だってさ。諦めてね。」
奏「そんなぁ・・・すいません・・・すいません私が全部悪かったからぁ・・・」
奏は反省の言葉を並べ、愛麗たちに何度も謝罪をしたが結局許してもらえず、ティラミスも食べられず愛麗たちが仲睦まじくティラミスを食べる風景を延々と見せつけられたのであった・・・それに加え、このことを聞いて激怒した愛麗の祖父から合鍵を没収された上に退去勧告を出され、マンションから出ていくことになったのだった。彼女は騎ノ風市からも出て言ったようでその後の行方は誰にもわからない・・・

事件から数日後のこと。愛麗は凛世と和琴と一緒に黒船蕎麦で話をしていた。
和「ああ、奏にタックルされた時のまだ痛みが残ってる・・・」
凛「生泉さん、そういえば奏さんって生泉さんとどういう関係があったんですか?」
麗「あの人のこと?そうね・・・あの人とあたしが出会ったころは教育学部に通っていて教師になるのが夢だったらしいのよ。だけど・・・あの性格でしょ。騎ノ風市の教員採用試験には受からず、非常勤講師として働いてたらしいわ。」
和「それで、何がきっかけで生泉のマンションに住むきっかけになったの?」
麗「祖父さんと祖母さんは店の運営で忙しいし、母さんも坂戸在住だから昼間あたしとはじ姉と楓の面倒を見てくれる人を探していたみたいで・・・マンションの一室を半額で借りられて、教育のようなことができる・・・そういう所に飛びついたんだと思うよ。」
凛「そうだったんですか・・・」
麗「教育者になりたいって気持ちは本当だったんだろうけどね・・・」
和「誰でも挫折とかで周りが見えなくなると取り返しのつかない方向へ進んでってしまうもんなのよ。だからこそ周りをしっかり見ながら少しずつ進んでいくことが大切だとあたしは思うわね。」
凛「その通りですね・・・」
麗「それにしてもあの人今頃どこで何をしてるんだろ・・・反社会性組織に入って恨みを払すみたいなこと考えてなければいいんだけど・・・」
愛麗の考えたことは後に現実となってしまうのだが、それはまた別の話である。