私、鮫川城人は騎ノ風市の女子高水晶学園に努める数学教師だ。
この学校は私立であり、非常に設備がよくエアコンや暖房はもちろん、学食は一流の店がそろい学力レベルこそ中堅ではあるが、
生徒の個性を伸ばすべく様々な分野に特化した授業が行われている。種類も一般的な物から専門的なものまで生徒が好きな授業を取って学べる。
だが、私が気になるのはそんなことではない。この学校、女子高であるがゆえに女子同士で恋愛・恋人関係にあるというケースが非常に多い。
私は同性愛についてはよくわからないが別に不快な物だとも思わない。普通と違うからという理由で避難や差別を行う方こそ愚の骨頂ではないだろうか?
・・・話が反れてしまったが、今回は同性愛についてしっかりとした知識を持っておこうと思い、私のクラスの生徒の何人かに話を聞くことにした。
皆も話しづらい内容だろうなと思ったので騎ノ風イノンの奥にある個室タイプの料亭で食事をおごるという条件と引き換えにいろいろ教えてもらうことにした。
今回来てもらったのは都合のついた愛麗、凛世、和琴、咲彩、柚歌、苺瑠、奈摘、嘉月の8人だ。
鮫「皆、今日は休日なのに集まってもらってすまないな。」
麗「急にあたしたちをこんな高級そうな料亭に呼び出してどうしたの先生?」
鮫「私は教師という人間は色々な価値観について学んで、どんな人間が生徒であっても誠実に対応できる知識が必要だと思っているんだ。
だから今日は私に同性愛について詳しく教えてくれないだろうか?ほら、お前たちクラスで誰かしらと恋人関係になってるわけだし。」
凛「そうですね・・・私は現に愛麗と恋人関係です。」
麗「なんだそんなことか。いいよ、絶対に偏見の目を向けないなら教えてあげる。皆いいよね?」
柚「ボクは全然かまわないよ。」
奈「わたくしもオッケーですわ。」
嘉「ウチもええよ。」
和「織田倉と花蜜がいなくてよかったわね。あの2人見境なく食べるから。」
鮫「ありがとう。それじゃさっそく最初の質問をさせてもらう。」
鮫「まず、お前たちはなぜ恋愛の相手に男性ではなく、女性を選んだんだ?」
麗「うーん・・・あたしは男が大嫌いだからかな?」
鮫「男が嫌いというと?」
麗「昔男に乱暴されてそれ以降ちょっと・・・嫌悪感を持つようになっちゃったんだ。」
鮫「そうなのか、大変だったんだな。」
麗「こうなっちゃったら独身覚悟しなきゃなーって思ってたんだけど、ある時和琴から女の子同士の恋愛を描いた小説を借りたのよ。
それ読んでみたらはまっちゃって・・・あたしも女の子と友達じゃなくて恋人として恋愛するなら楽しそうって思うようになったのよ。」
和「そう言えば貸してたわねその時に。」
麗「あたしと一番仲良かったのが凛世だったから、一緒に過ごしているうちに今みたいな関係に自然に発展してたのよね。」
鮫「そうなのか・・・凛世、なぜ愛麗と付き合うことを選んだんだ?」
凛「私も愛麗と同じで殿方が嫌いだったんです。特に京都にある親戚の実家に監禁されてた時、その・・・」
和「夜光、あんまり話しづらいんなら無理しなくていいのよ?」
凛「はい・・・その実家で親戚男性たちが・・・その、股間のあれを向けて脅してきたり、逆らったらこれで妊娠させるとか言われまして・・・
結局何もされなかったんですけど、後遺症であれが怖くなってしまいまして殿方も苦手に・・・脱出して騎ノ風市に戻った時一番仲の良かった愛麗と過ごすようになってとても楽しくて。どうせなら愛麗とずっと一緒にいたいと思ったので長く一緒に過ごしていたら・・・その後は先ほど愛麗と同じ感じですね。」
鮫「つまり2人はそれぞれ男になにかしら酷い目にあわされた結果、惹かれあったってことなのか。」
麗「そう言うことになるわね。」
鮫「それで、2人は今幸せか?」
凛「はい。幸せですよ。」
麗「もちろん。後悔なんてしてないわ。」
鮫「そうか。そう胸を張って言えているのなら、今後も大丈夫そうだな。2人ともありがとう。次は・・・」
嘉「なら次はウチが同性愛に対する偏見について話したるで。」
鮫「それじゃ早速質問させてもらうけど嘉月は奈摘と付き合っていて偏見の目を向けられたことはあるか?」
嘉「偏見の目なぁ・・・あるで。」
鮫「どんな目を感じたことがある?」
嘉「女の子同士で付き合うん言うのは、人間の中では気持ち悪いことって言われとるからなぁ。無論これは男同士も同じや。
例えば鍵と錠は2つあって初めて機能するものやん。それに加え凹と凸の違う形のものが組み合わさってないとあかん。
女同士で恋愛するのは2つとも錠であるみたいなもんやし、逆に男同士の場合は鍵2つって感じやな。」
咲「それに、同性だと子供が作れなくて後継ぎがいなくなるから、名家とかの場合は心配だよね。」
鮫「咲彩はやっぱり今でも、引け目を感じているのか?」
咲「ええ、私が神社の後継ぎを放棄したら直系では誰も次ぐ人がいなくなります。だけど私はみなちゃんと暮らしたいし、お祓いよりも占い師をやりたいんです・・・」
姫「家に継ぐ物があると大変だよなぁ・・・我の家も名家だからわかるのだ。」
奈「苺瑠さんはお姉さんがいらっしゃるのでは?」
姫「そうだな。我は末娘だし、親からは好きにすればいいと言われているのだ。茶道の才能もないみたいだしな・・・」
嘉「つまり背負う物がある人や同じ性別と恋愛することに否定的な奴が多いと同性が好きでも偏見視されて、強制的に辛い思いを持つってことなんや。これでええかなセンセ。」
鮫「ありがとう嘉月。次は、全員に聞きたいんだが・・・相手と結婚するために性転換したいって思ったことあるか?」
麗「それはない。」
凛「ありえません。」
嘉「男になるんはちょっとなぁ。」
奈「わたくしも性転換するのはお断りですわ。」
柚「ボクも嫌だな。」
姫「我も。」
咲「私もちょっと無理かな・・・」
和「あたしも。」
鮫「全員きっぱり否定の返事なんだな・・・」
奈「わざわざ自分の身体を改造してまで結婚を認めてもらうぐらいなら、認められなくたってかまいませんもの。」
凛「性転換するということは女であることを捨てることです・・・私からすればありえません。」
姫「痛みを伴う手術をしてまで性別を変えたくはないのだ。」
和「要約すると、少なくともここにいる全員は女性であることが嫌だと思っている奴はいないってわけ。」
鮫「ふむ、性別を変えてまで結婚を認めてもらいたいことではないということか・・・」
柚「性別を変えてやっと認められるぐらいなら、事実婚で十分だよ。」
奈「リスクが大きすぎますわよね。」
麗「胸を平らにしたりする手術代も相当かかるわよね。」
凛「なんだかこの話をしていたら気持ち悪くなってきました・・・」
嘉「ウチもちょっと・・・」
性転換の話題を出したせいなのか、愛麗たちの気分は全体的に気分が盛り下がってしまった。
鮫「なんだか悪いことを聞いてしまったようですまない・・・」
麗「いいよ、先生があたしたちみたいな以上性癖に歩み寄ってくれるって感じの姿勢立派だと思うし。」
和「まだまだに気持ち悪いとかいう奴も多いからね同性愛は。」
鮫「盛り下がってしまったところ悪いが、最後にもう一つ。自分の選んだ道に後悔していないか?」
麗「全然後悔してないわよ。凛世と色々なことするの楽しいわよ。」
凛「私も・・・愛麗とこれからもずっといたいです。」
奈「わたくしもですわ。百合漫画家という職業上、同性とお付き合いすることでよいお話が書けますわ。」
柚「ボクはむしろこれで良かったってすら思うよ。」
姫「うむ、これまで通りのやり方に従わず新しい生き方を選ぶのも悪くないのだ。」
嘉「考えのあわへん奴には適当に言わしとけばええねん。所詮そういう奴は流されてばかりの情けない奴や。」
和「あたしも小さいころからそういう本ばかり読んで育ったからかむしろ同性同士で結ばれるっていうのが当たり前のような感じだしね。」
咲「私も・・・みなちゃんと付き合ったおかげで実家を継いで操り人形のように生きなくてもいいんだって今では思えるような気がするよ。」
鮫「そうか・・・ありがとう。君たちの本当の気持ちを教えてくれて。」
鮫「これで今日の私からの質問は終わりだ。また聞かせてくれると嬉しい。いろいろありがとう、好きな物を頼んでいいぞ。」
麗「じゃあたしこの高級牛肉のハンバーグがいいかな。」
凛「あの・・・私はこの十割蕎麦でお願いします。」
麗「凛世、和風パフェ食べない?」
凛「あ、食べます。」
和「あたし焼肉にしようっと。天宮城あんたこの店来たことあるのよね?なんかおすすめない?」
奈「この郷土料理詰め合わせが美味しかったですわよ。」
和「ふーん、じゃそれも追加。」
柚「ボクはてんぷらにしようかな。盛り合わせで。」
姫「我は・・・この鍋で頼む。」
鮫「(みんな高いもの頼むなぁ・・・金足りるだろうか・・・)」
奈「先生、心配はご無用ですわ。お金が足りなければわたくしのカードで払いますから。ただ、そのお金は借金という形で扱わせていただきますわね。」
鮫「そうか・・・ありがとう(借金が増えてしまった・・・だけど話しにくいことを話してもらったんだ、これぐらいなんてことないさ)。」
鮫川先生は3万円しか入っていない自分の財布の中身を確認して、肩を落としながらも、奈摘の好意を受け入れることにしたのだった。