短編集3

嘉「あ、奈月ちゃん。スカートの裾が少しほつれてるで。」
奈「あら、気づきませんでしたわ。」
嘉「ウチが応急処置したるよ。それお気に入りのスカートやろ?」
奈「ありがとうございますわ。ではよろしくお願いします。」
嘉月はソーイングセットを取り出すと手慣れた手つきで奈月のスカートのほつれを直していく。
嘉「ほい、これで完了やで。しばらくは大丈夫やと思うけど、気になるんやったら洋裁店に直してもらってな。」
奈「さっきまでのほつれがウソのように綺愛麗ですわ・・・ありがとうございます嘉月さん。」
嘉「ええって。ウチにとっては簡単なことやし。」
奈「わたくしは家事はあまり得意ではないので、それを簡単にやってしまうのはすごいと思いますわ。」
嘉「うーん、これ家事っていうよりウチのやってることに繋がってるから覚えたようなもんやからなぁ。」
奈「衣装づくりのことですわね。」
嘉「せやな。服のデザインをしているうちに自分で作りたくなってな。少し布買うて来て作ってみたんやけど・・・すごく楽しかったんや。
それから趣味で洋服作るようになったんやで。」
奈「嘉月さんのコスプレ衣装の出来はすごくいいですものね。料理に関してはいつごろからやっていたんですの?」
嘉「料理?ああ、そっちはウチが小さいころに読んだグルメ漫画にかっこいい料理のできる女の子がおったんや。
その子の信念すごいんやで。うまい料理が作れるなら死んでしまったってかまわないって言っとったんや。」
奈「料理に命かけてますわねその子・・・」
嘉「その子の名言とかいろいろ読んでたら料理がしてみたくなってな、伯父さんも大変そうやし家事の肩代わりできればええなって思って始めたんや。」
奈「その動機、とても立派だと思いますわ。」
嘉「ウチの身内は今は伯父さんと博美姉ちゃんだけやしな。少しでも2人の負担を減らしたかったんや。」
奈「その小さな心がけが今の嘉月さんの特技に繋がっているのですわね。」
嘉「そうなんかもしれへんな。ウチはそんなこと意識したこともないんやけどね。」
奈「わたくしはそんな欲にまみれない嘉月さんのこと好きですわよ。」
嘉「そうなん?なら、これからウチんち行こ。ウチが変な気持ちをすっきりさせる料理作ったるよ。」
奈「いいんですの?」
嘉「ええって。ウチにはあまりお客さん来うへんし、奈月ちゃん一人ぐらいなら問題あらへんって。ほないこか。」
嘉月は奈月の手を取ると、自分の家に向かって歩き出す。家に向かう途中、お互いに心の中でこう思ったのだった。
奈「(嘉月さんは変な気持ちがわたくしからの恋心であると気付いているのでしょうか・・・)」
嘉「(奈月ちゃんと一緒にいたくて変な気持ちをすっきりさせるなんて口実で連れてきてしもた。よくよく考えたらこれってデートやんなぁ・・・)」

2、鮫川先生と実力テスト

ここは水晶学園1年担当教師用の職員室。水晶学園では効率化を図るために職員室が学年ごとに職員室が別になっているのである。
1組担任である鮫川先生はある資料に目を通している。
鮫「ううむ・・・あいつらの才能は十分に分かっている。だが、基本科目の成績を上げるにはどうすればいいのか・・・」
柚「鮫川先生。何見てるんですか?」
鮫「あ、暮沼先生・・・このまえの実力テストのうちの生徒たちの結果を見ていたんです。」
柚「ふうん・・・あたしにも見せてくださいな。あの子たちの事だしそんなに悪い成績でもないでしょうに・・・」
暮沼先生は1組の成績表を覗き見る。用紙には出席番号順に以下のように書かれていた。
名前
天宮城 76 80 87 75 95
色部 89 77 94 96 98
織田倉 67 78 99 92 80
神宿 99 93 90 96 97
西園寺 70 75 81 93 95
立屋敷 97 69 70 92 86
生泉 96 99 89 90 92
花蜜 73 90 81 65 99
眞武 91 82 74 84 81
夜光 99 75 83 94 90
雷久保 80 71 79 88 99
鷲宮 71 96 75 79 98
ラニー 59 87 93 77 86

 

柚「みんなすごく成績いいですねえ~!5組の子たちも実力テストだからって手抜きしないでこれぐらいやってくれればいいのに・・・」
鮫「5組の子たちは運動好きばかりですからね。だけど佐伯と桃瀬と君浪の3人は成績良かったんじゃありませんでしたっけ。」
柚「確かにその3人はいいんだけど、忍ちゃんとかまともにやってくれないし、玉川ちゃんは頭はいいのに休みがちで授業受けられなくて・・・」
鮫「氷室は気難しいところあるし、玉川も休みがちですからね・・・そちらのクラスもいろいろ大変ですね。」
柚「1組の子たちはこんなに成績いいのにこれ以上何を望んでいるの?」
鮫「成績表を見ていると生徒によってはばらつきが多いことが分かってきまして・・・特に環輝は国語や社会と他の科目の差が大きいし、
壱姫は数学と英語が全然ダメだ。ポーラは国語が悪いし、エレナも理系はいいけど文系があまり良くない・・・」
鮫川先生がそこまで言うと暮沼先生は急に机を叩き、怒った様な口調で話し始める。
柚「あのさ、さっきから聞いていればなんなの?」
鮫「暮沼先生?急に怒り出してどうしたんですか?」
柚「あたしから見ればみんなよくできてると思うよ?苦手とはいえ50点以下の点数取っている子は一人もいないし、
南瀬さんや神塚さんはほとんどの科目が90点以上じゃない。貴方はこの子達をこれ以上追い詰めたいの!?」
鮫「・・・すいません暮沼先生。私成績の事となるといつもあいつらの進路を心配して躍起になってしまって。」
柚「心配する必要なんてないよ。だって、あの子たちはもう明確な夢を持ってるんだから。鮫川先生は真面目すぎるのかもしれないわね。」
鮫「よく言われますね・・・」
柚「もうちょっと肩の力を抜いてもいいんじゃないかなってあたしは思います。では失礼しますね。」
暮沼先生はそういうと自分の席に戻って行った。
鮫「暮沼先生の言う通りだ・・・また悪い癖がでてしまったな。今後はあいつらのこともっと褒めるようにするか・・・前から何も変わってないな私は・・・」
鮫川先生は、自分の生徒にまだまだ無理解であると再認識してしまい肩を落とすのだった。

3、愛麗の大好きな店

ある日の事。愛麗、凛世、和琴の3人は愛麗の祖父が管理するアパートの東棟1階にテナントとして入っている喫茶店で食事をしていた。
麗「決めた。あたしはミートソースパスタにしようかな。」
凛「愛麗は相変わらずここのミートソースが大好きなんですね。」
和「飽きないわけ?たまには違うの頼んでみるのも新しい発見があるかもしんないわよ?」
麗「それも一理あるね。だけどここのやつは特別だから・・・」
和「なんか理由がありそうね。」
麗「理由?あるけど・・・」
和「どんな理由よ?」
凛「私も聞いたことないので知りたいです。」
麗「凛世がそう言うなら話すよ。あたしが坂戸から騎ノ風に来たとき、祖父さんに個々の喫茶店に連れてきてもらってさ。
その時この喫茶店で食べた味が忘れられなくてね。それからずっと好きなのよ。」
和「誰にでも忘れられない味ってあるわよね。あたしも父さんの料理が一番好きかな。」
凛「私も蕎麦が好きですけど、一番好きなのはどんな職人さんのよりも叔父さんの打ったそばですね。」
麗「2人も大切な味ってあるのね。身内が料理人だとより親しみが沸いていいと思うな。あたし料理人が身近にいないから。」
和「その代わりにあんた自身が料理上手じゃない。」
麗「そうだけど、プロとは違うもの・・・それにこの店のミートソースの味がどうしても出せないのよ。」
凛「プロの方の味って秘密にしている部分も多いですからね。」
麗「よし、ここでパスタ食べ終わったらやるわよ!」
和「何やんのよ・・・?」
麗「何とかしてこの店の味を出してみるための試作よ!」
凛「愛麗、あまり食べすぎると体を壊しますよ?」
麗「う・・・それもそうね。ならひかえめに作ってそんなにたくさんは食べないようにするわね。」
凛「それならいいですけど・・・」
和「夜光の基準だと少しならいいんだ。」
凛「愛麗は何かを作ることに関しては昔から熱心になることが多いんですよ。」
麗「料理もモノづくりの延長線上にあるとあたしは思ってるからね。」
和「料理もモノづくりとそんなに変わらない。か・・・ま、あたしは嫌いじゃないわよその考え。」
だが、そんな会話をしながら和琴は心の中でこんなことを思っていた。
和「(ここの店あたしの父さんの弟子の店だから父さんに聞けばなんかわかるんじゃないかなー・・・と思ったけど、
南瀬の奴楽しそうだから黙っておこうかな。)