騎ノ風市にはかつて、泥小路の名を名乗る貴族がいた。
しかし、貴族とはいってもたまたま事業が軌道に乗っかった成金であったがために、
調子に乗って市民には威張り散らし、騎ノ風市の土地を名家である西園寺家や鷲宮家から無理やり奪い取ったりしていた。
そのような横暴を働き、当時の泥小路家当主は他人を蹴落とすために様々な手段を使って多くの人を傷つけた。
そんな中ある小学生の活躍によってついに彼の悪行がばれ、泥小路家は失脚。多額の借金を背負い騎ノ風市から去って行ったのだった。
これは、失脚した泥小路家に残された子息のその後を描いた物語である。
泥小路家2代目当主・・・になるはずだった泥小路典子は騎ノ風市を去ってから荒れ始めた。
これまで通りに自分の命令が通らず、うっぷんがたまりまくった彼女は唯一の味方であった下僕1をいじめし始めた。
下僕1は泥小路に付いているという理由で彼女以外からも迫害されており、親にも仕方ない、従者の家系なのだから諦めろ
などという言葉を下僕1にかけられていたので、彼女は絶望に陥った。結果、彼女は自殺を図った。13歳というまだ若い年齢だった。
下僕1の両親は彼女の自殺によって発狂し、互いに責任を押し付けをしながら殺し合いをしていた所を警察に取り押さえられ精神病院に収監させられた。
八つ当たりの対象であった下僕もいなくなり、典子はその後中学校卒業後に家に金がないという理由から家を追い出された。
追い出される前に親から貰った住所を尋ねるとそこはパプだった。年齢を偽って働けとのことのようだ。
典子は仕方なく働き始めた。しかもそこはかつて住んでいた騎ノ風市にあるパブだった。
それに加え、彼女はかつて敵対していた存在達とチラシ配りの時に再開してしまった。
典「あの・・・これどうぞ。」
麗「はい・・・ってこれパブの広告じゃない!しかも男向けの・・・」
和「こういうのはちゃんと男の客に渡さないとだめでしょ。」
典「はい・・・スイマセン失礼しました・・・」
麗「あいつ泥小路に似てなかった?」
和「まさか・・・あいつがここにいるわけないじゃない。泥小路一族は騎ノ風市の市境をまたぐことすら許されてないんだし。」
凛「天宮城さん、泥小路さんの一族って最近は見かけてますか?」
奈「金融界では見かけなくなりましたし、一族自体はすでに没落したようですわね。」
麗「それなら問題ないんじゃないかな。一族は滅びて市境をまたぐこともできないなら、ここに現れたりしないと思うし。」
奈「だけど、何か嫌な予感が怒りそうな気がしますわ・・・」
典「あれは生泉たち・・・これは復讐のチャンスかも。」
奈摘の予想通り、典子は愛麗たちとの再会(一方的)をきっかけに良からぬことを考え始めた。典子はパブに戻ってあることを始めた。なんとパブを辞めたのである。そもそも泥小路家はすでに自己破産をしているので借金などが無かったので出来たことではあるが。まず彼女は泥小路家から出家し、騎ノ風市の東側に住むそれなりの金持ちの三ツ橋の家の養子になることにした。三ツ橋家が養子を募集しているのは実子である後継ぎに自覚を持ってもらうために利用するというかなり悪意のある内容であった。しかし典子にとっては好都合。彼女は三ツ橋家の養子になる条件をクリアし、泥小路の名を捨て下の名前も改名し、三ツ橋円子という名前になった。そして騎ノ風市の東端にある東騎ノ風高校に編入した。この高校は騎ノ風市の中でも一番低いレベルの学校だが彼女にとってはそんなことはどうでもよかった。高校への編入後、彼女は水面下で密かに動き出す。
典「ふふふ・・・覚悟しなさい生泉たち。これが私の復讐よ!」
典子が三ツ橋家の養子になってから数日後。騎ノ風市国立公園にある騎ノ風ドームでは展覧会「個性展」が行われていた。この個性展は騎ノ風市育ちで水晶学園を卒業し個性の尊重の大切さを学んだOGたちが今自分たちのやっている個人事業を紹介するための展覧会である。典子はこの個性展に目をつけ、復讐を仕込んだのであった。個性展には当然ながら興味を持った愛麗たちも来ていた。
麗「やっぱ騎ノ風ドームは広いわね。こんな大規模な展覧会を普通に開催できちゃうんだから。」
和「そうね。あたしもカウンセリング系に進んだOGに合えるって聞いて楽しみにしていたのよ。」
凛「音楽系の方もたくさん見られますね。」
エ「このイベントの出資の一部はおじい様がしている・・・」
奈「あら、わたくしの家もしていますわよ?それ以外だと・・・」
陽「西園寺のおじいちゃんも出してるんだよ。あとは東の三ツ橋家が協力してるんじゃなかったかなぁ?」
ア「セレブは大変デスね・・・」
咲「占い師の方も少ないけどいるね。有意義な時間を過ごせそう!」
柚「美術系の人たちの絵はどれも素晴らしい作品だなぁ。」
嘉「奈摘ちゃんさっきからそわそわしてるけどどうしたん?」
奈「いえ、有名漫画家さんも来ているというので探しているだけですわ。」
水「そっか、緊張するよな・・・」
奈「(本当は先ほど泥小路のような人物を見かけたのでそわそわしているんですけどね・・・もしかしたら、わたくしの見間違いかもしれませんが・・・)」
愛麗たちの歩いているすぐ近くのブースの陰では典子が彼女たちを見ながら悪そうな笑い顔を浮かべていた。
典「ふふふ・・・あんたたちは今日で最後の命よ。」
それは、個性展開催数日前のことだった。このイベントを運営している機関のうちの一つは三ツ橋家であり、当然養子である典子も会場の手伝いをさせられていた。手伝いをしている時、典子はあることを思いついたのである。
典「(そうだ!このイベントは生泉たちも来るはず・・・この会場に細工をすればあいつらまとめて病院行きよ!)」
典子は義親や他の養子兄弟たちの目を盗んで、イベント会場に細工をし始めた。典子は騎ノ風市を去って貧困時代、養子時代と劣悪な環境で過ごしていたため、家や物を修理しているうちに大工的な知識が実についたのであった。会場を作ることもできれば逆に破壊できる細工をするほどまでに高い技術力を誇っていた。
典「私の技術力があれば建物を緩くするなんて簡単よ。さて、天井の仕掛けから始めますか。」
まずはドーム天井の鉄骨を緩くして、鉄骨にピアノ線を仕掛けた。三ツ橋家の他の養子や義親にばれないよう長いロープをピアノ線に括り付け、ロープを引っ張ると鉄骨が落ちてくるような仕掛けにした。ロープはすでにできているブースの裏に隠した。
典「これはフィニッシュの時に降ってくるようにしようっと。」
次に会場内に建てられているOGたち用のブースに少しの衝撃でブースが倒壊するように細工した。
典「このブース案外もろいのよね・・・だからこことここに傷をつければ簡単に壊れるはず。」
典子は作業用のカッターナイフでブースの特定の部分に切り込みを入れた。それに加えブースにもピアノ線を巻き付け、典子がピアノ線を引っ張るとほとんどのブースが倒壊するよう細工した。
典「ピアノ線って人も殺せるんだから本当に便利よね~!さて、作業に戻らないと・・・」
典子は何食わぬ顔で準備作業に戻ったのだった。そして誰にもばれることなくドーム内の細工は終了した。
愛麗たちはそんなことに気付くはずもなく、個性展を満喫していた。ドーム中央にはステージがあり、でパフォーマー系や芸術系のOGによってパフォーマンスが行われていた。会場を一通り見終わった愛麗たちは観客席でステージで繰り広げられる個性的なOGたちのパフォーマンスを楽しんでいる。
姫「さっきの落語OGの漫談楽しかったのだぁ・・・我も早くあのような面白い話が作れるようになりたいな。」
咲「その前のマジシャンOGさんのマジックも凄かったなぁ。私も占いだけじゃなくてマジックもやってみようかな。」
陽「さあちゃんがマジシャン・・・ということはさっきのマジシャンさんが着てたエッチな服着るのかなぁ・・・」
咲「ちょっと・・・変な想像しないでよ。」
麗「ほら次のが始まるわよ。」
ア「次は大道芸のパフォーマンスデスね!ワタシ興味あるので楽しみデス!」
司「次は○○OGとその一座による大道芸パフォーマンスです。」
司会が紹介を行い、大道芸の道に進んだOGと仲間たちがステージに出てきたその時だった。
典「今よ・・・それ!」
典子は細工したピアノ線を切断する。すると仕掛けておいた止め板が外れ、ドーム中に地響きが起こる。
麗「なんか揺れてない?」
柚「地震かしら・・・」
咲「地震にしては大きすぎるでしょ・・・」
環「逃げた方が良くないこれ・・・」
姫「大変なのだ!周りのブースが次から次へと崩れているぞ!」
苺瑠が指さす方ではOGたちのブースが倒壊し悲惨な状態になっていた。料理系に進んだOGのブースでは料理を作るために火を使っているところもあり、ボヤ騒ぎ程度ではあるが、火事が発生していた。
典「まだまだよ・・・それ!」
騒ぎが起こっているドームの中を駆け抜けた典子はもう一つの仕掛けであるロープを引っ張った。
すると典子が細工した天井の鉄骨がステージの観客席めがけて降り注いできた。しかし・・・
ア「皆さんすぐここから離れるデス!」
咲「どうしたのラニーちゃん・・・」
ア「上から何か降ってくるデス!早くここを離れないと大惨事になる気がするデス!」
柚「だけどこれだけの人数を避難させるなんて・・・そうだ!」
麗「なんかいい案思いついたの柚歌!?」
柚「うんまあね・・・みなさん!観客席の中央部分から逃げて!上から何か降ってくる!!!」
柚歌は機転を利かせ、観客を中央部から退けていた。そのため鉄骨に当たって怪我をする人はいなかった。
ア「はぁ・・・危なかったデス。」
柚「間一髪だったよね。」
環「なんでこんなことにぃ~!」
しかし、典子はそんなこと知る由もなかった。鉄骨の落下する音を聞いて典子は勝利を確信していた。
典「よし!よしよしよしいいいいい!!!これで生泉たちは死んだはず・・・」
典子が喜びのあまり鉄骨が墜落した部分に躍り出ると、鉄骨に押しつぶされた人は1人もいなかった。
典「なんで・・・なんでよぉ!!!なんで誰も死んでないのよ!!!私の完璧な計画があれば今頃死んでるはずだったのに!!!」
和「あ、あんた・・・泥小路!生きてたんだ・・・」
奈「やはりあの時パブの広告を渡してきたのはあなただったんですのね。」
麗「今死んだはずとか言ってなかった?」
凛「つまり、この鉄骨落下はあなたが仕組んだということなんですね。」
典「そう、その通りよ。個性展なんていうふざけたイベントをしているみたいだからぶち壊してやろうと思ってね。このイベントの主催は私の家がやってるの。だからこのドームへの細工も私がすべてやったのよ!」
柚「君の家は自己破産してほろんだんじゃ・・・」
典「今は三ツ橋家の養子よ。名前も円子にしたわ!」
自分の犯行を自慢げに喋る泥小路。しかし、このことに一番激怒したのは愛麗たちではなく・・・
OG1「さっきから聞いていれば・・・」
OG2「そんなくだらない復讐のために私たちの大切な舞台を破壊したのね!」
OG3「泥小路・・・まだ生きていたの・・・私の妹を奴隷扱いしていたクズの娘!」
この展覧会のためにパフォーマンスや出し物の準備を1か月近く前からしていた水晶学園OGたちだった。
しかもOG3は典子が下僕扱いしていたうちの1人の姉であった。
典「あ、OGさんたち・・・あなたたちに恨みはないのよ。だけど私を迫害したあいつらを許せなくて・・・」
麗「嘘ばっかり。全部あんたのでっち上げた話じゃない。」
咲「それに、風のうわさで聞いたけど、下僕1ちゃんを自殺に追い込んだのよね?」
OG4「ねえ貴方たち・・・その話詳しく聞かせてもらえない?」
OG5「ことによっては私たちあいつを制裁しなければならないので・・・」
麗「いいですよ。泥小路の言ってることは全て嘘で本当は横暴で・・・」
愛麗は小学校時代の話をOGたちに包み隠さずすべて話した。これによって特に何もしていないのに晴れ舞台を破壊されたOGたちの怒りは全て典子に向けられた。
麗「・・・という事ばかりしていた最低人間なんですよそいつ。」
典「OGの皆さん落ち着いて・・・そいつの言ったことは全部ウソ・・・」
OG2「言い訳なんか聞きたくない。今水晶学園で実績のあるこの子の言い分の方がはるかに信用できるし。」
OG3「問答無用。こいつを制裁するわ。いいわよねみんな!?」
OG1「当然でしょ。」
OG5「さーて何をして制裁して差し上げましょうかねえ・・・?」
OG4「それじゃ早速・・・おらあああああああ!!!」
典「うぎゃああああああああ!!!!!」
その後、典子は降ってきた鉄骨にしばりつけられそこでOGたちから主に物理攻撃中心の制裁を受けた。
制裁が終わった典子は見るも無残な姿になっていた。
自称美人だった顔は腫れて内出血を起こしている。しかし、顔以外にはほとんど攻撃していないようである。
これもOGたちの策略で、顔以外の部分にはあえて攻撃をしないことによって典子のプライドを砕くということだったらしい。
典「私の・・・私の美しい顔がああああああ!!!」
OG全員「「「「「これが私たちの怒りよ!思い知った!?」」」」」
柚「OGさんたち容赦なかったね・・・」
咲「誰だってずっと前から準備していた者を壊されれば鬼になるよ・・・」
水「それにこの壊れようじゃ、もうイベント続行もできないだろうな・・・」
麗「今回の件は明らかに泥小路の非だし・・・」
柚「あいつもこれで少しは大人しくなってくれればいいけどね。」
姫「うむ、全くなのだ。」
環「あーあ・・・先輩たちの研究もっと見たかったなぁ。将来やろうと思ってる研究の参考にしようと思ったのに。」
愛麗たちは渋々ながらも崩壊してしまい続行不可になった個性展の会場を後にしたのだった。
個性展から数日後のこと。1組メンバーはクラスで全員で愛麗のタブレットを通してあるネットニュースを見ていた。そこには、典子がおこした個性展破壊の全貌を書いたニュースが載っていた。ニュースの内容は、典子が三ツ橋家の怒りを買い、養子愛組を解除される羽目になったことから始まっていた。また、典子は個性展を破壊したことにより、器物破損の罪で警察に逮捕されることになった。典子は取り調べでは「騎ノ風市の個性尊重なんかくだらない、だから私は個性展を破壊したのよ。OGたちの苦しむ顔を見て楽しかったわあはははははは!!!」と舞台にいた時とは違うことを言っているらしく、事件は主犯こそ逮捕はされたが愛麗たちもOGたちもやりきれない胸糞悪い結果に終わってしまったのだった。
麗「泥小路も今回はやり過ぎたわよね。」
和「やり過ぎってレベルのことじゃないと思うけどねあたしは。」
咲「先輩たちはある意味では私たちのせいで展覧会をめちゃくちゃにされちゃったんだもんね・・・」
水「そうだな・・・OGさんたちには悪いことをしたよ・・・」
柚「ボクたちが泥小路といざこざを起こさなければ今日のことは怒らなかったかもしれないね。」
陽「だけど泥小路さんはなんでわたしたちがこのイベントに参加していたの知ってたんだろう?」
凛「おそらく推測論で行きついたんだと思います。水晶学園OGたちが来る→私たち現役の水晶学園生徒は見に来るというような考えで。」
嘉「ウチらが来とらへんかったらOGさんたち完全なとばっちりになるところやったんやな・・・」
ア「だけど、皆さんが誰一人怪我なく無事でワタシは良かったと思うデス。」
環「そうよね・・・全員怪我なく帰ってくれたのは良かったじゃん。」
奈「わたくしが知り合った漫画関係のOGさんは気にしないで悪いのは貴方たちじゃないって言ってくれましたわ。」
姫「だけどやっぱりやりきれないのだぁ~!!!」
陽「皆のやりきれなさ、解消できる方法ないかなぁ・・・」
エ「三ツ橋家からOGさんたちに慰謝料払われたみたいだけど・・・泥小路を養子にした三ツ橋家も大変な損害を被ったはず・・・」
その時、クラスのドアが開いて何人か女性が入ってきた。
OG1「1組ってここ?ワタシ現役の時3組だったから入るの初めて。」
OG2「貴方成績あまりよくなかったものね・・・」
OG3「だけど今はクラス格差なくなっちゃったんじゃなかったっけ。だけど1組ってだけで憧れる~!」
OG5「貴方たち日々の模索や創作をさぼっていたからそうなったんですよ?」
OG4「うるさい万年トップが!」
咲「あなたたちは・・・個性展で制裁の中心にいたOGさんたち・・・」
麗「なんでここに来たんですか?」
OG1「いや、貴方たちが個性展をちゃんと見れなくて惜しそうにしてたからついね。」
OG3「気になってきちゃったってわけよ。」
ア「ですが皆さんは仕事しなくていいんデスか・・・?」
OG5「問題ありません。私たちは全員フリーランスで仕事をしているので休みを自由に選べますから。」
OG2「あなたたちの担任の許可も取ってあるし、可愛い後輩のために今日は色々教えちゃう!」
OG1「まあそんなに時間取れなくて30分ぐらいだけどね。」
咲「私たちのためにわざわざありがとうございます。今日はよろしくお願いします。」
OG1「任せてよ!それじゃあたしから始めるわよ。あたしは今友達と立ち上げた女の子がたくさん出てくるゲームを作る会社をやっていて・・・」
OGたち5人による6分ずつの説明会のようなものであったが愛麗たちは個性展以上に充実した時間を過ごしたのだった。
一方逮捕された典子は未成年でありながらも刑務所に収監されて
典「復讐してやる・・・復讐してやる・・・」
と呟くだけの廃人になってしまったそうである。