この作品はドラマ形式でお送りいたします。
キャスト 水萌=鉄拳先生 咲彩=神原先生 他の1組メンバー=A組生徒 あかり先生=朝霧先生
ここは、騎ノ風市にある県立高校騎ノ風学園。この学校は元々エリート進学校と言われていたがここ数年で急に荒れはじめ、不良と呼ばれる生徒がたくさんいた。
そこに鉄拳直という教師がいた・・・彼女は自慢の拳で生徒たちと語り合い、時に生徒を助けていた。そんな彼女を周りの人たちはこう呼んだ。「鉄拳先生」と・・・
第4話 文化祭と時限爆弾
季節は秋。騎ノ風学園では文化祭が開催される季節になっていた。
やる気のないA組はしぶしぶではあったが、実行委員の和琴を中心に作業が進んでいた。
A組は出し物として喫茶店をやるようである。
水「おっ、中々できてきたじゃないか。」
和「暇そうにしてんなら手伝いなさいよ。あんた担任でしょ?」
水「いやーアタシは何かを作るのは苦手だからどうしようもないな。」
麗「あんたにも弱点あんのね。」
奈「何されても泣き言すら言わなそうですのに意外ですわ。」
水「お前ら・・・アタシをなんだと思ってるんだ!」
鉄拳先生は舐めてかかってくる愛麗と和琴を怒ろうとする。しかし、一歩踏み出したときにすぐ近くにあったペンキの缶を蹴り飛ばしてしまった。
姫「あーっ!貴様何するのだあああ!!!」
水「あ、お前ら・・・」
柚「これまだ使うのに・・・」
陽「先生邪魔しないでぇ。」
水「ああ、ごめん陽香・・・え?お前今アタシの事なんて呼んだんだ?」
陽「何言ってるの先生は先生でしょぉ?」
水「陽香~!先生はそう呼んでもらえてうれしいぞお~!」
鉄拳先生は感激のあまり陽姫に抱き着く。
陽「もう!作業の邪魔だから出ていってばぁ!!!」
結局、鉄拳先生は陽香に追い出されてしまった。
水「はぁ・・・盛大にやっちまったなぁ。許してもらえるかな・・・」
?「どうなさったんですか鉄拳先生。」
水「あ、朝霧先生・・・実は・・・」
鉄拳先生に声をかけたのは2年生のクラスを担当している朝霧先生だった。
彼女は2年生の教員の中でも人当たりがよく、男性教員からも人気のある先生であった。
あ「・・・それで生徒たちがやっていた文化祭の出し物の邪魔をしてしまったってことですか。」
水「はい。教室からも追い出されてしまって・・・情けないものです。」
あ「それぐらいなら誠意を持って謝れば許してくれますよ。あの子たち・・・A組の子たちが本当に悪い子でないことは私もわかりますから。」
水「そうですね。色々聞いて下さりありがとうございました朝霧先生。今からでもあいつらに謝罪してきます!」
あ「そうです。誠実さこそ生徒と向き合うのに一番大切なことですから。」
水「はい!では失礼します。」
鉄拳先生はそういうと教室に戻って行った。
しばらく鉄拳先生を見守っていた朝霧先生であったが、彼が去った後表情を歪めて
あ「・・・青春しちゃって、ああいう教師ってホントむかつく。」
と小さくつぶやいたのだった。
その後鉄拳先生はA組生徒の許しを得て、文化祭準備に復帰したのだった。
そして作業を進めること数日、生徒の数人がスマートフォンでどこかのサイトを眺めている様子が目に付いた。」
水「おい、しっかり作業しないと日が暮れるぞ。」
麗「ああ先生。それどころじゃないのよ。」
水「いったい何があったんだよ?」
凛「爆破予告状がこの学校に来ているみたいなんです。」
水「爆破予告状?そんなの嘘かハッタリだろ。」
和「そう思いたいんだけど、この予告状を送っている犯人、前に南川町で同じことをした見たい。その時は死人は出なかったけどけが人はそれなりにいたらしいわよ。」
ちなみに南川町とは騎ノ風学園のすぐ南の地域にある地名である。
水「南川町の爆破・・・?うっ、なんか急に頭が・・・」
奈「先生・・・?どうかしたんですの?」
水「いや、なんでもない・・・まあ、そんな変な噂気にするな。たぶんこの書き込みしている奴もいたずらでやっているだけだからそんなに心配することはないだろ。」
柚「だけどさ、鉄拳先生が来てからボクたち何かしら事件に巻き込まれているじゃない?だったら、警戒もした方がいいと思うよ。」
陽「そうだねえ。最近は何かしでかす人間の数が急増しているからねえ。」
エ「自分の身は自分で守れ・・・それがまかり通るなら、教師も大人も学校もいらないこの世は無法世界・・・」
麗「怜美、あんたいいこと言うわね。」
水「そうか・・・ならその時はアタシがお前たちの事守ってやるから心配するな!ほら、作業再開しろ。」
鉄拳先生はA組生徒たちに作業再開を促す。
水「(爆破予告状か・・・この学園はただでさえ恨まれる人間が多いからな、ちょっと調べてみるか。)」
鉄拳先生はその日から数日間、不審な人間や物がいないかを神原先生と共に調べ、調査をした。
しかし、結局何事も起こらないまま文化祭最終日になってしまった。
腐った教師が多いとはいえさすがの騎ノ風学園。文化祭は大規模に行われていた。
鉄拳先生は自ら率先して学校の監視役を引き受け、文化祭を見回りながら不審者がいないかを見て回っていた。
水「いやー騎ノ風学園の文化祭ってこんなに大きいんだな。」
咲「ええ、一応これでも名門校ではあるので・・・年々参加者は減っているんですけどね。」
水「それよりも・・・今日で見張りも最後です。犯人は最終日である今日を狙ってきているかもしれない。
重点的に見張ったほうがいいですね・・・」
咲「はい。そのつもりです。」
2人は再び見回りを再開した。文化祭の平和を守るために・・・
A組も喫茶店も好評価で全員で団結し、店番をしていた。
和「厨房!特性パフェひとつお願い。」
麗「はいよ。あ、オムライスできたから5番テーブルに運んで行って。」
和「分かったわ。」
エ「ブラックコーヒーの在庫・・・まだある?」
麗「ええと・・・もうないわね、悪いけど売り切れだって伝えて。」
料理の作成をするため、厨房はせわしなく回る。中にはこんな暴言を吐く人間も・・・
客「おい、早くしろよ!俺様はお客様だぞ!」
しかし、この客も馬鹿だった。相手はA組生徒。彼女たちに大人世代が作り上げた常識は通用しない。
和「順番も待てないんなら帰りなさいよ。」
嘉「せや。他の店でも行ったらええんや。」
柚「それと暴言吐いたから料金倍額もらうからね。」
客「ふざけんなよ!俺を誰だと・・・」
奈「欲求が通らなかったら無限ループですの?救いようのない男ですわ。」
凛「退場でーす!この人を退場させてください!!!」
環「はーい。」
客「うわああああやめろおおおお俺はお客様・・・」
厨房の隣のスペースにいた雪がパソコンのキーを押すと3台のロボットが裏から出てきて客男を捕まえると学校の外まで連れて行き、追い出した。
環「一般の会社もこういう人間がいたら追い出せる防犯システム設置すればいいのに。」
麗「ま、無理よねそんなの。大人なんて頭固い奴ばかりだし。でも鉄拳は・・・」
環「なに?鉄拳に惚れちゃった?」
麗「そんなこと言ってないでしょ。大人だけどあいつなら信用してもいいかなって思えるようになったの。どれだけ変な事件を持ってきたとしてもね。」
環「そうなんだ。ユキもその気持ちはなんとなくわかるよ。」
奈「すいません、追加注文お願いいたしますわ!」
麗「はーい。それじゃ作業に戻るわよ。」
環「分かったし。」
2人は会話をいったん中断すると、忙しない調理作業に戻った。
そして文化祭も中盤に差し掛かったころ。鉄拳先生は5度目の巡回を終えた。
水「結局何も見つからなかったなぁ・・・」
咲「考えすぎだったのかもしれませんね。」
2人がそんな話をしていたその時、校内放送から謎の声が流れてきた。
?「あー聞こえますか騎ノ風学園のみなさん。」
水「なんだこんな時に校内放送なんて・・・それにこの声は・・・変声機使ってるな。」
?「今から3時間後、体育館の大ホールにてこの腐りきった学校を爆破いたしますわ。」
咲「爆破するですって!?」
?「あ、警察に連絡したりしたら、今すぐ爆破させるんでそこよろしく。」
水「爆破予告は本当だったのか・・・止めるぞ!」
咲「ええ、爆弾を早く探さないと。」
2人は爆弾を探すために体育館に向かった。
水「爆弾はどこだ?」
体育館に到着した鉄拳先生と神原先生は爆弾を探す。
校内放送が体育館には届いていなかったのか、騒動に気づいていない生徒による演劇の出し物が行われている。
咲「ここの生徒は放送には気づいていないみたい。」
水「それだと大きくは動けないな。バレたら外以上のパニックになるだろうし。」
あ「あら、鉄拳先生に神原先生どうしたんですか?」
水「朝霧先生。先生はここで何を?」
あ「私はここで体育館の監視をしていました。」
水「それならちょうどいい。朝霧先生も手伝って下さい。」
あ「何を手伝えばいいんですか?」
水「この体育館に爆弾が仕掛けられているみたいなんです。」
あ「爆弾!?」
咲「あまり大声出さないで下さい。ここの生徒にバレたらパニックになりますから。」
あ「そうねごめんなさい。なら神原先生はそこから行ける舞台下探して
鉄拳先生はそこの階段を登って舞台の上を探して下さい。」
水「朝霧先生は?」
あ「私は演劇部の倉庫探しますので。」
水「わかった。見つけたらすぐに連絡して下さい。」
3人はそれぞれに別れ、爆弾探しをすることにした。
咲「ここが舞台下かぁ。演劇部に関わったことないから入るの初めてだなぁ。」
舞台下に来た神原先生は爆弾を必死に探すのだった。
咲「特に怪しいものは見当たらないなぁ・・・」
あ「神原先生!」
咲「朝霧先生。爆弾は見つかりました・・・」
あ「悪いけど、眠ってなさい!」
朝霧先生は神原先生に突進した。突き飛ばされた神原先生は舞台下の壁に激突し、気絶してしまった。
あ「悪いわね神原先生。これも私の計画を実行するためよ。さて、もうすぐ演劇が終わるし、実行はその時ね。」
朝霧先生は目を光らせながらそう言ったのだった。
水「舞台上を一通り探したが何も見つからなかった・・・あ、そろそろ演劇が終わるな。」
鉄拳先生は生徒が去っていた誰もいない舞台を見ていた。そこに1人の女性が昇ってきた。その女性は・・・
水「朝霧先生!?」
あ「演劇の舞台を鑑賞していただきありがとうございました。ただいまより、この学校を爆破します。」
その言葉を聞いた瞬間、体育館中がパニックに陥った。
水「爆弾犯は朝霧先生だったのか!?早く止めないと!」
鉄拳先生は舞台に向かって急ぐ。
あ「さて・・・まずはどこを爆破・・・」
水「朝霧先生!」
あ「あら鉄拳先生。何か御用ですか?」
水「爆弾犯は貴方だったんですか!?」
あ「そうですよ?まあ言ってませんでしたからね。」
水「なぜこんなことを・・・」
あ「この学校に対する復讐ってやつね。私はかつてこの学校の生徒でね、当時は演劇部で活動していて役者を目指していたの。
だけどそれを妬んだ同級生や教師に執拗ないじめを受けて、内定も本来5を取れるはずの成績をキープしていたのに2か3ばかり。
結局私は高校を中退して劇団に参加しながら合間に勉強をして大検で大学に行ったの。だけど劇団でも才能がないからやめろと言われ、クビになった。
私は教職を取って卒業したけど教師にはならなかった。またいじめられるのが嫌だから。だけど入社した民間企業ではまたいじめにあった。
私は毎日のように泣いていた。そんな時、教員免許が目に入ったの。この学校に入って今度は私が復讐してやるって気持ちが湧き上がってきた。
私は学校にいじめられた。それなら今度はこの学校を潰して復讐してやるまでよ!」
水「・・・なんだ、お前もたいしたことない奴だったんだな。」
あ「ああそうよ。私はしょせん屑よ!特にあんたみたいな正義感が一番嫌い!生徒の前で正義の味方気取って楽しい?そういうの気持ち悪いのよ!」
水「文化祭にはな、復讐とは無関係なたくさんの人間が来ているんだ。その人間たちも傷つけると言うのか!」
あ「私の人生は終わったようなものだもの。教師になったのだってこの学校への復讐のため。人間だって嫌いだもの何人死んだってかまう物か。」
水「そうか・・・それがお前の答えならアタシは全力で止めなければならない。爆弾はどこだ!」
あ「言うと思ってるの?それに、こっちには人質がいるのよ?」
朝霧先生はリモコンを操作する。すると、舞台下で気絶していた神原先生の身体が装置に押し上げられ、舞台に上がってきた。
水「神原先生!・・・その首についているのは・・・」
神原先生の首には鎖が繋がれており、その隣の箱に繋がっていた。
あ「そ、爆弾はここでーす。神原先生の首につなげたわ。これを解いてほしかったら、私の復讐に協力しなさい。」
水「そんなことするわけないだろ!考え直すんだ!」
あ「うるさい!お前に何が分かるのよ!」
水「あんたが異常なことをしているっていうのはアタシでもわかるぜ。学校の平和を脅かす教師はアタシのダイヤモンドの拳で制裁だ!」
あ「ふん、熱いことを言っていれば生徒がついてくるとでも?・・・もういいわ。爆弾を爆発させてやる!」
朝霧先生は服のポケットからボタンのようなものを取り出す。
あ「これを押せば体育館は木端微塵よ!」
水「やめるんだ朝霧先生!あなたならまだやり直せる!」
あ「やり直せる・・・?聞き飽きたのよそんなの言葉!!」
そういうと朝霧先生はボタンを押そうとする。演劇を見ていた観客たちは我先にと体育館から出ようとし、押しあっている。
あ「やっぱり人間なんて醜いだけね・・・さようなら。哀れな騎ノ風学園。」
水「神原先生!!!」
朝霧先生はボタンを押す。しかし・・・爆弾は爆発しなかった。
あ「なんでよ、どういうことよ!私の爆弾設計は完璧だったはず・・・」
水「爆弾にすら見放されたか・・・哀れだな朝霧先生。」
あ「どこに行ってもいじめられる・・・努力しても夢はかなわない・・・爆弾にすら見放される・・・もうこんな世界嫌!」
朝霧先生はそういうと、薬の瓶を取り出し、それを服用する。鉄拳先生はそれを必死に止める。
水「あれは毒薬・・・?そんなバカなことはやめるんだ!死んでも何も解決しない!」
あ「解決するわよ・・・だって、私を大切にしてくれた人なんていないもの!私はいなくなった方がいいもの・・・がはっ・・・」
朝霧先生は血の塊を吐き出した。そしてその場でもだえ苦しむ。
水「なんて馬鹿なことを・・・」
あ「別に・・・どうせ・・・私には夢も希望もないんだから・・・」
朝霧先生はそう言い残すと、死亡した。
その後、朝霧先生の死によって文化祭は大荒れとなり、理事長の独断で後夜祭は中止となった。
朝霧先生の遺体は遺族に引き取られることもなく無縁世仏に入ったそうである。後の調べによると朝霧先生は父親から虐待を受けていた上に15で勘当され、家を追い出されていたらしい。神原先生は頭を打ったものの無事であり、入院することもなく無事に復帰した。
ただ一つ変わったことがある、今回の朝霧先生の死で鉄拳先生が落ち込んでしまい、いつもの勢いがなくなってしまったのだった。
咲「鉄拳先生、次の授業始まりますよ。」
水「あ、ああ、そうだったな・・・」
咲「最近元気なさそうですけど大丈夫ですか?」
水「大丈夫だよ・・・」
咲「それならいいんですけど・・・」
水「(朝霧先生、あなたは死ぬとき夢も希望もないって言っていたけど、ここにいる腐った教師たちよりは幾分もましだよ。
ある意味あなたも犠牲者だったんだよなぁ・・・あなたがどれだけ傷ついても加害者はのうのうと反省もせず生きていく。
この世はそんな世界だ・・・苦しんでいる人も救えねえのになんで教師や警察がいるんだ・・・もう何もわからねえよ・・・)」
鉄拳先生は同僚が受けた理不尽と結果死に至ってしまったことに対して、心の底でやり場のない深い憎しみを燃やし始めていた・・・