3年A組鉄拳先生 その5

この作品はドラマ形式でお送りいたします。
キャスト 水萌=鉄拳先生 咲彩=神原先生 他の1組メンバー=A組生徒 理事長=おじいちゃん先生 教師1・2・3=モブの中年男

ここは、騎ノ風市にある県立高校騎ノ風学園。この学校は元々エリート進学校と言われていたがここ数年で急に荒れはじめ、不良と呼ばれる生徒がたくさんいた。
そこに鉄拳直という教師がいた・・・彼女は自慢の拳で生徒たちと語り合い、時に生徒を助けていた。そんな彼女を周りの人たちはこう呼んだ。「鉄拳先生」と・・・

最終回 さらば熱き鉄拳教師!お前ら立派になるんだぞ!

文化祭が終わってから1か月。鉄拳先生は相変わらず気落ちした日々を過ごしていた。
自分はどうすれば朝霧先生を救えたのか・・・それを考えるばかりだった。
水「アタシのせいで朝霧先生は死んだ・・・人一人救えないアタシに教師をやる資格なんかない・・・」
麗「あいつほんとに覇気無くなったわね。」
和「ここ1か月朝霧朝霧言ってるけど、付き合ってたのかしら?」
凛「それよりも・・・鉄拳先生に元気がなくなったことで物足りなくなりましたね。」
柚「うん、ボクもそう感じていたよ。前はこんな気持ちなかったのにね。」
陽「それだけわたしたちが先生を信用できるようになったってことなのかなぁ。」
エ「だと思う・・・最近は不良の演技しなくても普通に生活できるようになった・・・」
麗「思えばこのクラスもあいつが来てから変わったものよね。不良のふりして迷惑行為おこさなくなったし。」
環「それにナディアももうすぐ復学するって言ってたしね。だけど鉄拳があの様じゃ、ナディアが復帰したとしても楽しいクラスにはなれないわよね。」
最初はあれほど毛嫌いしていた鉄拳先生をA組生徒は全員で心配していた。

数日後・・・鉄拳先生は理事長室にいた。
じ「ふむ・・・ここに来てまだ短いというのに辞めるのかい?」
水「はい、この学校の秩序に逆らったことで何人もの人間の人生を狂わせてしまった。それは事実ですから。」
じ「ワシは君に期待しておったんじゃがな。」
水「期待ですか・・・こんなアタシに何を・・・」
じ「君は1年前に起こった南川町の爆弾事件で妹さんを失くしておられるじゃろ。君の妹さん、鉄拳桐は当時この学校に在籍していた。
しかし、この爆弾事件を起こしたのはこの学校の前の理事長じゃった。前の理事長は桐君の死を事故死扱いし揉み消した。
結局その後理事長は逮捕されたが、君たち遺族の怒りが収まるはずもなかった。おまけに理事長は釈放され、不正をした過去を隠してこの学校で事務長をしている。
君が教師になったのは、前理事長のような教師をもう出さないようにするため・・・じゃなかったのかのう。」
水「確かに教師を目指したのはそのことがきっかけです。悪いことや不正をする奴らをアタシの拳で叩き直してやる!それをきっかけに教師を目指しました。
ですが、今はA組の奴らと過ごす日々が楽しくて。そんなことすっかり忘れてましたよ。」
じ「そうなのか・・・ワシとしても不良だったA組の子たちをあそこまで大人しくさせてくれて鉄拳先生には感謝だけでは足りんよ。
悪行三昧だった教頭、沼田、大林の3人がこの学園を去ったのは君のおかげだ。出来ればもう少しここにいてほしいのだが・・・」
水「私だってそうしたいですけど・・・」
じ「朝霧のことを気に病んでいるのか。彼女は君のせいで死んだわけではないのだから、そこまで背負わなくても・・・」
水「いえ、あの時朝霧先生を止めるすべは何かしらあったはず。それでも彼女を死なせてしまった私は教師失格です・・・」
鉄拳先生はそれだけ言うと、辞表を置いて出て行った。
じ「・・・こればかりは彼女の問題かもしれんな。すぐに受理はしないでおこうかのう。
それに・・・彼女のような教師が少なくなった今、適切な教育ができなくなったこの学校も潮時かもしれんしな。」

鉄拳先生がいなくなるという噂は瞬く間に学校中に広まった。そのこともあってか鉄拳先生に嫌味を言う教師が以前より増えたのだった。
教師1「鉄拳のやつ辞めるらしいね。」
教師2「ま、いいんじゃないの」
教師3「あいつはこの学校の秩序に逆らう癌だしね!」
咲「ちょっと!そんな言い方はないでしょう!?」
教師1「何?神原先生はあいつの肩もつの?」
教師2「見損なっちゃったなぁ・・・」
教師3「ま、鉄拳に毒されたんでしょ。そのうち元に戻るって。」
咲「私から見れば同じようなことを繰り返す貴方たちの方がよっぽど情けないです!」
教師1「うるせえんだよ先輩様に逆らいやがって。あっち行ってろ!」
咲「私だって貴方たちみたいな人とは一緒にいたくないので失礼します!」
神原先生は嫌味を言う教師トリオに怒鳴り返し、鉄拳先生の近くに戻った。
水「神原先生・・・なんだかすいません。」
咲「いいんですよ。悪いのはあの人たちです。それに・・・鉄拳先生みたいな教師の方が私は好きです。」
水「そう言ってもらえると嬉しいですよ。」
咲「早く・・・元気になってくださいね。」
水「ええ、ありがとうございます。」
神原先生などの味方はいたが、それでも鉄拳先生の心のモヤが改善することはなかった。

そこから1週間が過ぎた。1週間の間に鉄拳先生への暴言は日に日に悪くなっていった。
遂には神原先生以外の味方がいなくなり、職員室では鉄拳先生いじめが普通に行われるようになった。
鉄拳先生本人もすっかり自信を無くしてしまい反抗する力はおろか授業をする元気すらなくなっていた。
そんな時、緊急で学校集会が開かれることになり生徒や教師たちは体育館に集合した。壇上にはすでに理事長の姿があった。
じ「ええ、本日は皆さんに伝えたいことがあり緊急でこの様な形で集会を開かせていただきました。本年度を持ちまして騎ノ風学園は廃校することにいたします。」
集まった教師や生徒たちはざわめく。急な決定であるため、こうなるのも当然と言った感じだ。
じ「静粛に。私はこの数か月の間、この学校にある闇を嫌というほど見せられました。
違いを認められず、相手に違う所があれば責め立てる教師、自分の欲望に忠実でどんな卑怯な手を使ってでも相手を貶める教師、
そんな教師たちを見て荒れていく生徒たち・・・わしはもうこんな狂った学校を見続けるなんてごめんだ!腐りきった学校など廃校してしまった方がええわい!」
先ほどよりもざわめく生徒と教師たち。そこに教師トリオが名乗り出る。
教師1「理事長先生?私たちがいついじめをしたというのですか?」
教師2「そんなことした覚えもないんですけどねえ。」
じ「君たちは人を貶している自覚すらないのか・・・この学校にはもはやこんな腐った教師しかいない証拠じゃな。」
教師1「くそっ・・・急に廃校なんて認められるわけないだろここは県立高校なんだぞ!」
じ「わしは教育委員会に知り合いがたくさんいるんじゃ。頼めば申請は通るし、ここにいる生徒も100人程度。
今年度は3年生はもうすぐ卒業じゃし、在校生の転校手続きの責任はすべてわしがとる。それでいいじゃろう。」
理事長先生の言葉に先ほどまで騒がしかった体育館は一気に静まり返る。
しかし、壇上に登ってくる姿が1人。鉄拳先生だった。
水「理事長先生!急に廃校にするだなんてそれでいいんですか!」
じ「鉄拳先生・・・腐った教師を追放するには現代ではこれしか方法がないんじゃよ。」
水「だからって廃校にするなんて間違っていると思います!今いる生徒たちだって、この学校が好きで離れたくない奴だっているかもしれないじゃないですか!」
じ「じゃが、わしはもう耐えられん!学校の存在する目的は生徒たちの自主性を尊重しつつも間違った道へ進まないように指導することのはずじゃ!
その指導を行うべき教師がいじめのようなくだらないことをやっているようでは学校の存続なんてわしは認められん!!!」
鉄拳先生と理事長のやり取りを聞いた生徒たちからは「教師同士でいじめしてるの?」や「そんなことするやつ最低」などの声が多く飛び交う。
水「だったら・・・」
鉄拳先生は小さくそういうと壇上にあるマイクを取り、こう叫んだ。
水「だったら、変えていけばいいだけだろ!このいじめが蔓延した腐りきった環境を!」
マイクを通じた大声に先ほどまでひそひそ話をしていた生徒全員がだまり、体育館に静寂が走る。
水「みんな!それにいじめを平気でやっている教師共!よく聞け!
この学校は伝統ある素晴らしい学校だ!だけどな、今は腐った人間たちが運営しているから理事長だって呆れ果てている!!!
だったら過ごしやすい環境に作り変えてしまえばいいんだ!!!それにはアタシたち教師だけじゃなくて生徒みんなの力が必要だ!
一つずつ悪い要素を潰して行けばいつか必ず過ごしやすい環境はできるんだ!!!一緒に作っていこうじゃないか!!!
それに不正やいじめを平気でしている教師共!お前らは教師失格だ!生徒をひいきしたり、同僚をいじめているお前らに未来はない!
理事長先生がこの学校を廃校にするなんて言い出した最大の原因はいじめを楽しんでいる大人になりきれない腐った教師のお前らだ!
そんな奴らが教員採用試験に受かって教師をやっているなんてアタシには信じられない。教師は人の気持ちを理解してこそ初めてスタートラインなんだ!
ふざけた嫌がらせや気に食わないだけでいじめという名の犯罪をするような教師は全員はアタシのダイヤモンドの拳で制裁だ!!!
・・・ここを去る前にそれだけ伝えたかった。アタシ、鉄拳直は今月限りで騎ノ風学園を退職する。そして、このままだと騎ノ風学園も廃校だろう。
しかし、教師は変えられなくても学校は変えられるんだ!だから・・・」
鉄拳先生がそこまで言いかけた時、生徒たちから「鉄拳先生やめないでー!」などの声が聞こえる。しかも、中心になっているのはあれだけ鉄拳先生を毛嫌いしていたA組が中心だった。
麗「鉄拳!あんた勝手にやってきていなくなろうとしてんじゃないわよ!」
凛「そうです!あなたには学校を変えられる力があるのに今辞めるなんてもったいないです!」
和「あたしたちがこの腐った学校の改革ぐらい手伝ってやるわよ!」
柚「朝霧先生だって、鉄拳先生が教師を辞めることなんて望んでないよ!」
陽「だから、辞めるなんて言わないでぇ~!」
水「お前ら・・・アタシのこと慕ってくれてありがとうな。」
咲「それに、私だっていますよ。私朝霧先生のような人を一人でも多く救いたい。だから、この学校を変えていきましょう?」
水「神原先生・・・分かりました!」
鉄拳先生は皆の言葉をしっかりと受け止め、理事長に向き直る。
水「理事長!確かに最近はいじめをするような人間が増えている事態かもしれません。ですが、こんなにもこの学園を愛してくれている人間はいるんです!
アタシは辞職を撤回します。だから・・・騎ノ風学園を廃校にするだなんていわないでください!お願いします!」
じ「・・・素晴らしい、素晴らしいぞ鉄拳先生。今の時代にこんなに慕われる教師がまだいたとはな・・・
よかろう。鉄拳先生を騎ノ風学園の正規教師として今この場で採用しようではないか!騎ノ風学園の廃校の話もなしじゃ!じゃが・・・」
理事長先生は先ほどから教師1・2・3を始めとした後ろめたい気持ちでいる教師たちの方を向いた。
じ「だが、お前らは全員クビじゃ!」
教師1「そんな理事長先生・・・」
教師2「我々も学校のために心を入れ替えて頑張りますから・・・」
じ「ならん!貴様らの担当した生徒で本来高い成績を持つものが通知表で2や3をつけられたことで大学の合格基準に満たず就労もできずに、人生に絶望して引きこもりや自殺に走ってしまった人間が何人もいるのをわしは知っておるぞ!そんな適当な評価をする奴は我が学校にはいらん!」
教師たち「「「「そんなああああああ!!!」」」」
こうして騎ノ風学園の廃校は阻止され、悪いことばかりする教師は全員クビとなったのでした。
3年A組では正式に採用された鉄拳先生の声が今日も響き渡ります!
水「お前たち!授業を始めるぞ!」
このことを機に騎ノ風学園の運営は良い方向に向かい、数年後には800人近くの生徒が通う立派な進学校になりましたがこれはまた別の話。

3年A組鉄拳先生 終わり

こうして、全5話に渡った3年A組鉄拳先生は終わりを告げたのだった。
水「いやー今回は疲れたなぁ。半生分ぐらいの演技力を使い切った感じだ。」
咲「みなちゃん名演技だったね。」
麗「最後の方の叫びを見ていて、水萌はあんな声も出せるんだなって新しい面も見えたしね。」
和「お芝居に慣れていない先生たちみんなにも協力してもらっちゃって、後でお礼しないとね。」
凛「今気づいたのですが、今回鮫川先生出てませんでしたよね・・・?」
姫「監督の話によると鮫川先生は今回のドラマの世界観にあっていなかったようなのだ。」
ア「そうなんデスか。まあ、ずっと入院しているだけ役だったワタシよりはましデスよ・・・」
咲「先生たちも出演していただきありがとうございました。」
蒲「いえいえ。まさかこの年で俳優デビューすることになるなんて思いませんでしたがね。」
じ「ワシもいい経験になったわい。」
あ「演技してみるのも悪くないわね。しかも私は重要な役をやらせてもらっちゃってよかったのかな?」
沼「あたしの演技に驚いちゃったでしょ?どうだったかな?」
零「あれは普段の芝沼先生からは想像できないほど怖かったのであーる・・・」
林「生徒のためならこのぐらい当然だ!先生楽しかったぞ!」
環「結局このドラマの評判ってどんなもんだったんだろ?」
エ「調べた・・・平均8.2ぐらい、最終回は高めで10.5・・・地方放送局のドラマとしては成功したほう・・・」
奈「あとはブルーレイBOXの売り上げ次第ですわね。」
水「おいおい・・・続編まで作る気かよ。」
柚「これだけ人気なら、続編が作られるっていう可能性もあると思うよ。」
陽「みなちゃんの演技も評判良かったみたいだからねぇ。わたしもあれだけの長い台詞を殆ど噛まずに言えたのはすごいと思うなぁ。」
水「ありがとよ陽姫。だけど、疲れたからしばらく演技はしたくねーな・・・」
水萌は肩を落としながらそうつぶやくのであった。