南の島でのハプニング その4

咲彩、愛麗たちが島の北と西に墜落したのと同じころ。島の南側にある海岸にも同じように自家用機の一部が墜落していた。
嘉「痛たた・・・みんな怪我はあらへんか?」
エ「飛行機が急に空中分解するなんて非科学的・・・」
ア「ワタシは大丈夫デス。あ、髪留めがまた壊れてしまったデス・・・予備のに付け替えるデス。」
陽「ええと・・・何があったのぉ?もう騎ノ風島に着いたのかな?」
鮫「のんきだな陽姫・・・」
南側に墜落したのは嘉月、エレナ、ラニー、陽姫、そして鮫川先生の5人だった。彼女たちもまた墜落の影響で怪我を負っていた。
鮫「だが、4人とも怪我だけで済んでよかった。あんな高さから落ちたんだ、死んでしまってもおかしくなかったからな。」
嘉「せやけど・・・愛麗ちゃんたちは無事なんやろか・・・」
エ「不安・・・」
鮫「そうだな・・・まずは手掛かりを探そう。あそこに集落がある、そこで聞き込みを・・・」
ア「だめデス!あの集落はまずい雰囲気がするデス!に近づいたら何をされるか分からないデスよ!?」
嘉「ラニーちゃんの言う通りやな・・・ここから見ても住民たちが変な雰囲気やし、近づかん方がええよ。」
鮫「確かに見た感じそうだな・・・だが、ここで待っていても襲われる可能性もある、集落を避けて反対側へ向かおう。」
嘉「せやな・・・ウチらが潜伏できる拠点は必要かもしれへんしな・・・」
エ「先生・・・」
鮫「どうしたんだエレナ?」
エ「あの集落の東側に森が見える・・・そこを通れば抜けられるかもしれない・・・」
鮫「そうだな、集落のど真ん中を通るよりかはそっちの方がいいかもしれない。あの森を通って、反対側へ向かおう。」

5人は何とか森に忍び込むことに成功した。
鮫「集落の近くにあるとはいえ、この森はあまり開拓されていないようだな・・・」
嘉「せやな・・・進みにくいから慎重に行かへんと・・・」
エ「誰か来た・・・伏せて!」
エレナの指示で全員が茂みに隠れる。エレナの予測通り、近くを何者かが通る。
男1「ドウヤラコノシマニシチョウサマカラノイケニエガキテイルヨウダ・・・」
男2「ソウナノカ・・・ソレナラミツケシダイツカマエナイトナ・・・」
男3「イケニエガイルカラオレタチハイキテイラレルヨウナモノダカラナ・・・」
男たちはそんな話をしながら嘉月たちには気づかなかったのかその場を通り過ぎて行った。
嘉「なんとか撒けたみたいやな・・・」
エ「だけどあの人たち・・・生きてる感じがしなかった・・・」
ア「顔色も悪くてまるでゾンビのようでしたネ・・・」
鮫「ふむ・・・これはあくまで私の推測だが、この島の住人はもうすでに生きていないんじゃないかな・・・」
陽「ということはぁ・・・どういうことぉ?」
鮫「ラニーの言うとおりゾンビのように一度死んだ屍が動いているのか・・・もしくは誰かに生かされているかじゃないのか。」
ア「ということは噛みつかれたりしたらワタシたちもゾンビに・・・」
エ「なんか怖くなってきた・・・ん?」
嘉「エレナちゃんどうかしたん?」
エ「こっちの方で物音が聞こえる・・・誰かが生活しているようなそんな感じの音・・・」
ア「エレナサンは遠くの物音まで聞こえるんデスよね・・・すごいデス。」
鮫「もしかしたら生きている人間がまだいるかもしれないな・・・エレナ、聞こえる音を頼りにその方向へ向かってみよう。」
エ「分かりました・・・音はこっちから聞こえます・・・」
エレナは聞こえる音を頼りに鮫川先生たちを導き、その方向に進んでいく。

エレナが聞き取る音を頼りに進んでいくと、小川のほとりに出た。その先にはログハウスのような家が建てられている。
鮫「家・・・こんな場所に誰か住んでいたのか・・・」
嘉「ドア開けてみる・・・?」
エ「その必要はない・・・家主が出てくる・・・」
ア「ということは・・・誰か住んでいるんデスね。」
その時、ドアが開いた。出てきたのは70代ぐらいの年齢だと思われる女性だった。
家主である女性は嘉月たちのことに気付いて声をかける。
?「あら・・・お客さんなんて珍しい。」
鮫「あなたは・・・?」
?「まあそう固くならないで。私のことに驚いているでしょうし、家の中に入って話すわ。」
女性は嘉月たちを家の中に招き、自己紹介をした。
?「私の名前は大王正子・・・だけどかつては風見正子と名乗っていたわ。ここまで聞いてしまえば誰だかわかるかしらね。」
鮫「風見正子・・・どこかで聞いたことが・・・そういえばかつて市長の奥さんだった人がそんな名前だったような気がするが・・・?」
正「そうよ。私は今の騎ノ風市市長の奥さんだったのよ。あの人には捨てられちゃったけどね。
まあ聞きたいことはたくさんあるでしょうし、分かる限りのことはなんでも答えるわ。」
嘉「この島は一体なんなん・・・?なんでこの島の住民たちはウチらを狙うん・・・?」
正「この島はね、元々は騎ノ風市とは何の関係もない離島だったの。だけどうちの人・・・いや、今は市長かしらね。
かつて騎ノ風市は協調性派と個性尊重派が争っていたのは知っているかしらね。市長は表では個性尊重をうたっていたけど、
裏では個性を潰す協調性派の考えを推していたのよ。おまけに協調性派の中でも過激派が集まる平穏人生の会という組織まで作ってしまったの。」
嘉「表では善良で裏では非道な人間やったんやね。」
正「それで個性尊重派の人間は市長からの干渉を避けるためにこの離島でひそかに互いを尊重できる理想の社会を作るための研究をしていたの。
その研究の中心にいたのが、私の優秀な部下・・・伍代可愛と小泉眞理だったの。」
鮫「個性の研究をしていた人間が部下・・・ということはあなたが個性尊重派の・・・」
正「そうよ。個性尊重派を率いていたのは私なの。市長の暴走を止めて騎ノ風市をユートピアにするためにはそうするしかなかったのよ。
騎ノ風市の歴史書に名前のってなかったかしら・・・ああ、市長が近代の部分の歴史は隠ぺいしているみたいだから乗るはずもないか・・・
伍代に頼んで研究資料もFAXを使って送信したけど、市長の部下にすべて捨てられちゃったみたいだったから。」
鮫「あなたは、なぜそこまで知っているのですか?」
正「私はもう生きていないの。この島に市長の部下たちが奇襲をかけてきたときに殺されてね。
私がいるこの空間は特殊な作りで作られていて、私の意思で招く人を選べるのよ。
そこの水色の髪のお嬢さんは耳がいいみたいだし、きっとここを探り当ててくれるって思ったから。」
エ「私は1km先の物音も聞き取れますので・・・それにしても、あのゾンビみたいな島民ってなんなの・・・?」
正「あの人たちは市長の元部下よ。私たちがこの島でひそかに研究をしていることを突き止めた市長が奇襲をかけるときに使った・・・ね。
部下たちは私たちを皆殺しにしたわ。研究員は全員死亡、伍代も小泉もそして私も・・・
その後は市長の命令でこの島で人体実験の研究をしたり、兵器の開発をしたりともうさんざん。美しかった島は、一瞬で廃墟のようになってしまったわ。」
ア「それで、なぜこの島の島民は市長に見捨てられたデスか?」
正「明確な理由はわからないけど・・・やりすぎたことが原因かしらね。
未来都市騎ノ風の市長がそんなことをやっていたのだと知られたら、その座が危ういでしょうからね・・・」
嘉「自分は好き勝手に悪事を働いて、都合が悪くなったら切り捨てる・・・最低やな。」
正「市長はその後も隠ぺいを続けて、30年近く市長をやり続けているわ・・・
おまけに毎年のように才能のある人間を選び出して生贄という名目でこの島に投下しているの。
自分たちの元部下に襲われないよう。そして、罪滅ぼしにね・・・生贄を食べ続けたせいで部下たちはもう人間性を失って獣のようになってしまったわ。
本能だけで動いているって感じね。あれはもう人間と呼べるのかどうか分からないわね。」
話が長くなっちゃったわね。まあ、聞きたいこといっぱいあっただろうし当然よね。
それで、私からあなたたちにお願いがあるの。この島の北に伍代が所長をしていた研究所があるの。
そこの地下にこの島から唯一の脱出が可能な潜水艦があるわ。それに乗ってこの島から逃げて。
そしてこの島の事実を騎ノ風市に次げて欲しいの。もうこんな悲劇を繰り返さないためにもね。あ、それとそこの貴方。」
鮫「なんでしょうか?」
正「これを持っていって。」
正子は鮫川先生に水晶のような石を渡した。
鮫「これは・・・?」
正「それはね、魔法石なの。どうしようもないって状況に陥ったら使って。
1回だけその場であったことを打ち消してなかったことに出来るから・・・」
鮫「なぜそんなものを私に・・・?」
正「私も島中を見渡せるとはいえ、殺されてから何年もたってるから島の外のことまでは分からないの。
島民たちの噂によれば市長は魔獣と契約をしているらしくて・・・最後の手段として騎ノ風市を滅ぼすかもしれないわ。
だからその時のための対策。貴方、この子たちの保護者なんだから何があっても守ってあげなさい。」
鮫「分かりました・・・ありがとうございます。」
正「よろしくお願いするわね。未来の騎ノ風市のために・・・」
正子はそう言うと空間ごとどこかへ消えて行った。
鮫川先生たちが気が付くと、そこはただの森と小川があるだけの場所になっていた。
嘉「あれ・・・正子さんは?」
エ「家ごといなくなってる・・・」
鮫「・・・夢でも見ていたのだろうか。」
ア「たぶん夢ではないと思うデス。ワタシたちの中に先ほどの記憶があるならそれは夢ではなくて現実だと思うデス。」
鮫「そうだな・・・(先ほど正子さんから預かったこれもしっかりと存在しているしな)」
鮫川先生は手にあった水晶を見つめながらそう思った。
鮫「それより、早く島の北側へ向かおう。早いところ脱出して、私たちをだました市長の悪事を表に出してやろう。」
嘉「せやな・・・それがこの島を見守っている正子さんの願いやもんな。」
こうして嘉月たちは島の北にある個性第1研究所へ向かって歩き出した。

その頃、第1研究所では・・・
麗「咲彩~!」
咲「あ、らっちゃん!」
姫「みんな、愛麗君たち来たぞ!」
第2研究所から第1研究所へと向かった愛麗たちが無事に到着していた。
咲「無事でよかったよ・・・」
水「咲彩たちこそ無事でよかったよ。」
凛「それにしても第2研究所に比べておどろおどろしい雰囲気ですね・・・」
柚「まあそこは人体実験とか行われていた場所だからね。」
柚「それよりも、潜水艦がここの地下にあったって言ってたけど、動いたの?」
姫「それが・・・相当昔の高度な技術で作られているから環輝君でも分からないそうだ。エレナ君なら何かわかるかもしれないが・・・」
奈「ということはつまり・・・」
櫻「うん、詰んだかもしれないねこれは・・・」
麗「そんな・・・」
姫「だが、動いたところでエレナ君たちが見つかっていないのだから我らだけで脱出するわけにもいかないだろう。」
苺瑠がそう言いかけた時、けたたましい大声が響く。
男1「ソコマデダ!」
男2「ココニイタノカ・・・ウマソウナイケニエダ。」
凛「これってかなりまずいですよね・・・」
姫「みんな、早くこっちに入るのだ!」
男1「サセルカ!ウガアアアアアアア!」
男たちは愛麗たちにとびかかるが、苺瑠の機転で全員を研究所の中に入れ、扉を封鎖した。
男1「デデコイ!クッテヤル!」
男たちはそう言いながら、扉を叩き続ける。廃研究所なので割れた窓からも入れるのだが、獣に成り下がった男たちにそこまで回せる頭はないようである。
姫「何とかなったな・・・」
麗「だけどこの扉長くは持たないんじゃない・・・」
和「あたしたちは袋の鼠ってわけね・・・万事休す・・・」
咲「もうだめなの・・・?」
愛麗たちが諦めかけたその時、天井の方から声がした。
?「みんな!まだあきらめないで!」
この声は何者なのだろうか・・・?そして愛麗たちは嘉月たちと合流し島から脱出できるのだろうか・・・?