南の島でのハプニング その7

愛麗たちを乗せたエレベーターは最上階に到達した。ドアが開くと書斎のような部屋に出た。その真ん中には・・・市長がいた。
市「あれ?なんで君たちここにいるんだい?騎ノ風島の調査は終わったのかい?」
鮫「調査・・・終わってますよ。あなたが行った数々の非道の調査がね!」
鮫川先生はそういうと騎ノ風島で見つけた市長の悪事が記された書類を見せつけた。
市「なぜそれを・・・!」
麗「あたしたちを導いてくれたの。その書類を作った人物がね。」
ア「あなたの奥さんにもいろいろ聞いたデス。個性尊重派を叩き潰すために平穏人生の会を作ったと言ってましたヨ?」
市「それはおかしい・・・あいつらはすでに死んでいるはず。」
咲「この真実を誰かに伝えるために霊体になってまであの島に残ってたんですよ。あなたに相当恨みがあったんでしょうね?」
水「それに、市長なのにこんな怪しい廃ビルにいる時点でおかしいだろ。しかもこの部屋は綺愛麗・・・」
姫「つまり貴様がこの部屋に頻繁に出入りしている証拠なのだ!」
市「ぐっ・・・」
凛「私たち全員で昨日書類に一通り目を通しましたが、あなたは市長業務のほうでも随分汚職に手を染めているんですね。」
柚「用途不明の金がで合計5000万もある・・・この金で部下に好き放題人体実験をさせていたのね。」
柚「ボクも騎ノ風市のトップがここまで非人道的なことをしていたのには驚いたよ。」
エ「それに・・・30年前から見た目が一切変わっていないのに市長をやっているなんておかしい・・・あなた、すでに人間ではないんじゃないの?」
奈「あなた、部下が襲い掛かってくることを恐れて、若い才能にあふれた女性を裏でこっそりと生贄として島に送っていたみたいですわね。」
嘉「個性尊重派だった奥さんの正子さんや伍代所長や小泉所長もあんたが殺したんやんか。個性尊重派を追い出すために・・・」
鮫「私たちはこれだけの証拠を手に入れたんだ。いい加減観念したらどうだ!」
市「ふふふ・・・そこまで知られちゃしょうがないな。ここまで来てしまったからには真実を教えてやろう。まず、私は平穏人生の会の創設者だ。
表では個性尊重と個人の能力を伸ばすなどと言っているが、実際は集団主義を掲げ平穏人生の会の頭として裏で活動してきたのさ。用途不明の金はすべて平穏人生の会の活動と部下への支給物資として使ったものだ。
この世は勝ち続けられるものが強いのだ。負けてばかりのゴミなど人もどきの奴隷に過ぎないんだよ。
次に妻のことか・・・あいつは私のやり方に口出しばかりで腹が立ったから騎ノ風島に出て行った。しかし、完璧な私の人生に離婚なんて泥を塗るわけにはいかなかったんだよ。
だから、部下を大量に送り込んで殺させた。妻だけでなく妻に協力していた伍代や小泉もね。あいつら騎ノ風島では個性の研究をしていたみたいだけど、
あんな無駄なもの研究してなんになるっていうんだか。なんであんな女と結婚なんかしてしまったのか・・・今でも後悔しているよ。」
ア「この町のことをしっかり考えてくれていた正子サンにそんなことを言うなんてあなたは最低でしかないデス。」
市「ふん、勝手にほざいておけロシアかぶれが。さて、それじゃあ最後の質問に答えてやろう。私が30年近く容姿が変わってないことについてだが・・・それは悪魔と契約したからさ。
ある物を代償に私の容姿と若く保ち、筋力を衰えさせないようにしてくれてお願いした。結果私は覇王と呼ばれるほど強くなったんだ。」
咲「代償にしたある物ってまさか・・・」
市「察しがいいね。そう、騎ノ風島に送り込んだ部下たちさ。彼らの命を好きにしていいって言ったら契約してくれたんだ。だけど向こうから追加の条件で年に1回生贄が必要だって言われちゃってね。
だから毎年市議会で何もしない役に立たない議員を何人か脅して送ってたんだけどね・・・今年はそういうのがいなかったから個性尊重を掲げる学校の中でも特に優秀な君たちがむかついたから島に送り込んだんだよ。」
鮫「人の命を軽率にもてあそんで・・・自分がしたことがどんなことだかわかってるのか!!!」
市「分かりたくもないね。個性なんて言う人間の汚点を掲げて喜ぶお前らの考えなんか。それに騎ノ風総合大学も元々はこの町ででかい顔をしている女性共を突撃兵にするための軍事学校にするつもりだったのに、
いつのまにか分野が増えて軍事教育科には誰も入りたがらなくてつぶれてしまった・・・個性尊重派はどいつもこいつも私の考えの邪魔ばかりする!
・・・さて、ここまで真実を知ってもらった君たちには死んでもらおうか。そして島でけだものな私の部下たちの餌になってもらうよ。はあああああああ!!!」
市長はそういうと体を変化させ始めた。体が変化した市長は毒々しい体色の悪魔に変化していた。
市「これが私の真の力だ。全員纏めて八つ裂きにしてくれるわ!」
市長はそういうと、愛麗たちに襲いかかる。市長の攻撃をなんとかよけたはいいものの今の市長には勝ち目はない。
麗「これどうすんの・・・勝てるわけないよ・・・」
水「さすがに規格外だ・・・」
鮫「どうすれば・・・そうだ!正子さん力を貸してください・・・」
鮫川先生はそういうと、島で正子から受け取った水晶を取り出して祈りを込める。
エ「先生それ持ってきてたの・・・」
鮫「ああ、正子さんが言っていただろ、この水晶には1回だけ願いをかなえてくれる力があるってな!」
市「な・・・それはまさか・・・」
鮫「水晶よ、この悪しき者に魂を売った汚らわしい男に罰を!」
鮫川先生がそう言うと水晶から光が放たれ、市長から悪魔の力を奪い取る。
市「ぐああああああああ!!!」
悪魔の力を吸い取り終えた水晶は、鮫川先生の手から離れて、光り輝く光線を市長に向かって放つ。
市「な・・・何を・・・・ぐはっ・・・」
光を浴びた市長はその場に倒れこんでしまう。
嘉「死んでもうたん・・・?」
鮫「いや、生きているはずだ。正子さんは憎しみがあるからって人を手にかけたりするような人じゃないからな。」
そこに、10人近くの部下を連れた若い女性が入ってきた。
女「市長!あなたの悪事は・・・あれ?」
女性は倒れている市長と佇んでいる愛麗たちを見てこういった。
女「ビルの場所間違えたのかな・・・」

その後警察が入り現場の調査をし、市長の指名手配を行った。警察が来たとき気絶したはずの市長はすでにいなくなってた。
しかし、騎ノ風市中に捜査網が張られたので捕まるのも時間の問題だろう。現場検証が落ち着いたとき、10数名の部下と共に突入してきた女性が口を開く。
女「改めまして自己紹介します。私は大王崇子、この市の副市長をしている者です。」
咲「こんなに若いのに副市長・・・?」
鮫「それに大王ってまさか・・・」
崇「ええ、私の母親は大王正子です。といっても市長との子供ではなく、私は騎ノ風島出身です。」
凛「騎ノ風島出身ってことは、あの島で生まれ育ったということですか?」
崇「はい、私は正子と一緒についてきた男性研究員との間の子です。生まれてしばらくは平和に育っていましたが・・・
突然平穏人生の会の襲撃を受けて親は殺され、小さかった私は脱出用カプセルに入れられて海に逃がされました。
その後運よく本州にたどり着き、神奈川県の孤児院で拾われそこで育ちました。孤児院にいるときに私の両親を殺した人間が騎ノ風市の市長であることが分かりまして、
それを機に騎ノ風市の調査を始め、孤児院を出て埼玉県(さきたまけん)に移り住み、3年ほど前に騎ノ風市役所に入って内部のデータを色々と検証していました。」
柚「そこまでやってばれなかったのね・・・」
崇「まあ運が良かっただけですけどね。あとは市長が単純だったとかそう言うことも考えられますけど。調査を進めていくうちに
私の調査に協力してくれる仲間たちも増えてきて、スムーズに調査が進みました。そしてついに市長が私の母である大王正子を殺した証拠を見つけたんです。
それ以外にもたくさんの資料が出てきました。5000万円の横領、身勝手な理由で住民を生贄にしたこと、そして・・・平穏人生の会のトップであったこと。
私はこれらの証拠を使って着々と準備を進め、出世もして半年で副市長となり、市長の話をこっそり聞いてしてさらなる証拠を集めました。
証拠は資料室の中にたくさんありました。どうやら市長の悪事を知っていた人がFAXを用いて内部告発をしたみたいですが、もみ消されたようですね。」
鮫「市長の後任や平穏人生の会の構成員たちについてはどうなっていくんでしょうか。」
崇「構成員は捕まえたものは全員刑務所に行くことになるかと思います。市民にけが人が100人近く出ているのでその代償は大きいと思います。
市長は選挙によって決まるでしょうね・・・ですけど私も出馬し、未来の騎ノ風市のためにできることをしていこうとは思ってますから。」
咲「もし市長になったらこんな残酷なことが二度と起こらないような騎ノ風市を造ってください。私たち全員で崇子さんのこと応援していますから。」
崇「はい!ありがとうございます!」

その後はとんとん拍子に捜査が進み、市長は結局逃げ切ることができず下水道にいた所を見つかり、逮捕された。彼を尋問することによって新事実が次々に発覚していった。
騎ノ風島のホームページやパンフレットは市長が偽造したものであった。生贄として連れて行く人間に偽造したものを見せて、普通の観光地であるように見せかけていたのだという。
取り調べの終了後の裁判で市長には無期懲役が言い渡された。それに加え、悪魔との契約の代償なのか牢獄で幻覚を見るようになり、毎日のように苦しんでいるという。
大王崇子は市長選挙に出馬し、28歳という若さながら市長に当選した。彼女は個性尊重派の考えの持ち主なので騎ノ風市をいい街にしてくれるだろう。
平穏人生の会は頭である市長が逮捕されたことによって、事実上の解散となった。今後は無差別テロも減るだろう。
しかし、風の噂では逃げ切った残党や今回は活動に参加していなかった愛麗の父親などが新たな平穏人生の会として活動しているようであり、油断はできない。
芝原葵は水晶学園を去った。平穏人生の会が解散し、立場が危うくなった今これ以上騎ノ風市にいるのは危険だと感じたのだろう。
結局彼女は水晶学園教員陣には素性を明かさずに学園からいなくなってしまった。5組の生徒は悲しんだが、後任に彼女の後輩である東京大学生物学部卒業生の芝沼柚洙先生が来たことによって、その悲しみはどこかへ行ってしまったようである。芝沼先生も芝原と同様変な生物を作る趣味はあったものの平穏人生の会とは無関係であり、変人寄りのおっとりした性格の持ち主なので水晶学園にもそのうち慣れるだろう。
こうして、平穏人生の会が仕組んだ1組メンバーと鮫川先生を巻き込んだ壮絶な大事件は幕を閉じたのであった・・・
それから数日後・・・水晶学園では2学期が始まった。1組は理科の授業のようで、さっそく赴任したばかりの芝沼先生が教壇に立っていた。
柚「まず授業を始める前に・・・あたしの先輩が粗相を犯したことを謝ります。ごめんなさい・・・」
咲「芝沼先生は何も悪くないですよ・・・」
柚「だけど、先輩は1組の子たちを脅したりしていたって前々から電話で聞いていたし・・・」
姫「そうなのだ。我らだって芝原先生に脅されるようになったのは最近になってからだからそんなに長い期間脅されていたわけじゃないし。」
柚「苺瑠の言うとおりね。貴方には何の責任もないと思う。」
凛「そうです。仲良くやりましょうよ。」
柚「こんなにやさしい子たちばかりなのになんで先輩はあんなことしたんだろう・・・」
麗「芝原先生って大学時代からあんな感じだったの?」
柚「うーんそんなことはなかったんだけどな・・・あたしが大学を卒業する頃に教員にも慣れたけど能力を認められてある組織に入ったって自慢げに言ってたけど・・・
それからちょっと怖い感じになっちゃって、あたしとも疎遠になってたんだよね。」
水「平穏人生の会とかかわった結果、悪い方向に進んでしまったんだなあいつは・・・」
環「それよりも早く授業を始めたほうがいいわよ。水晶学園は授業時間が短いとはいえ、内容は多いから。」
柚「そうだね・・・それじゃ、授業をはじめまーす。教科書70ページの遺伝についてのところから始めるね。」
環輝の指摘で授業を始めていく芝沼先生。その様子はまだ緊張しているようだったが、次第に緊張も解けていくだろう。
平穏人生の会の崩壊によって一部の人間が入れ替わった騎ノ風市。今後どのような発展を遂げていくのか・・・それは誰にもわからない。

~おまけ~
麗「そういえば潜水艦って乗り捨ててきちゃったけどどうなったんだろ?」
エ「問題ない。私が家の人に頼んで回収させたから・・・しばらくあの潜水艦の研究する・・・」
凛「鷲宮さんが回収したのなら問題なさそうですね。」