騎ノ風市の町中にプロも訪れる楽器店があった。若い世代から高齢者まで愛されておりneomarinの禰恩も楽器のメンテナンスのためにここを利用している。
店「あ、禰恩ちゃんいらっしゃい。今日はどうしたの?」
禰「ギターの弦が切れちゃって。新しいの買いに来たんだけどいつも買ってるやつを張りなおしてもらえる?」
店「了解。だけど今日はもっと質のいい弦のが入ってるけど、そっちにしてみない?」
禰「興味あるけど、あたしはいつもの弦が一番自分に合ってると思ってるから遠慮しておく。」
店「分かったわ。それじゃ15分ぐらいで終わると思うから店内で待っててもらえる?」
禰「はーい。待ち時間は楽器をいろいろ見て回ってみようっと。」
禰恩はギター、ベース、ドラム、トランペットなどの楽器を見て回る。
禰「このギターいいかも。新調したいけど・・・今の子にも愛着あるからなかなか難しいわね。」
夢中に楽器を眺める禰恩。その時、店のドアが開き新しい客が入ってきた。
店2「いらっしゃいませ。」
?「すいません、シンセサイザーのメンテナンスをお願いします。」
店2「かしこまりました。15分ほどかかりますので店内でお待ちください。」
入ってきた客は凛世だった。愛用のシンセサイザーのメンテナンスに来たようである。
禰「お、凛世じゃん。今日は楽器のメンテナンスかな?」
凛「あら禰恩さん。ここにはよく来るんですか?」
禰「そうだよ。音楽や楽器とかの買い物や修理はここに頼んでいるからね。」
凛「そういえば禰恩さん先日新曲出しましたよね。配信サイトで聞かせていただいたのですが素敵でした。」
禰「一応プロのミュージシャンだから曲は出すよ。曲作らないとただの無職と何も変わらなくなっちゃうしさ。」
凛「禰恩さんってボーカルでしたよね?楽器とかもおやりになられるんですか?」
禰「大学の時にミュージシャンとして必須になると思って最低限は学んでいたんだ。ギターとベース、ドラムあたりならできるよ。」
凛「オールラウンダーってやつですね素敵です!私はピアノとシンセサイザーしか弾けないものですから羨ましいです。」
禰「ピアノできるっていいじゃん。あたしピアノだけは昔から全然弾けなくてさ、作曲とかやる時もパソコン使ったり真凛姉にサポートしてもらうことも多いんだよね。」
凛「そうなんですか。私は歌って楽器も弾けるアーティストって憧れます。私はピアノ専門みたいなものですから・・・禰恩さんがアーティストを目指したきっかけってどのようなものなのですか?」
禰「そうだな・・・ちょっと重い話が含まれるけどいいよね。まずあたしってキラキラと言うかそんな感じの名前じゃない。凛世はさ、自分が会社の人事だったとして禰恩なんて名前の子が面接に来たら採用する?」
凛「私は名前で人を判断するつもりはないので、面接を通じて勤務などによる問題などが無さそうであれば採用しますね。」
禰「凛世はほんと優しいね。だけどさ、現実の奴らは変な名前がついているっていうだけで落とすとかいう奴もかなりの数いるのよ。しかも、うちは特殊な家庭環境であたしや他の姉妹にとって悪ほどではないけど厄介な人がいたの。」
凛「それって前に何度かおっしゃっていた禰恩さんのお父様ですか?」
禰「バカ親父も別の意味で厄介だったけど、それ以上に怖かったのは長女の晴海姉さんで今は会社の経営している女社長。晴海姉さんは母親が貴族の家系でそれを誇りに思っていてあたしたちに堅実に生きて欲しい気持ちが強かったの。だから安定しない夢を目指す人っていうのが嫌いもしくは理解できなかったんだと思う。この前地下書庫に連れてきた妹のこよちゃん・・・こよりのこと覚えてる?」
凛「はい、確か美術大学で講師をしている方ですよね。」
禰「そうだよ。こよちゃん本当は画家になりたかったらしいんだけど、画家なんて目指したら勘当するって春南姉に言われて美大の講師に進路を変えちゃったんだよ。強く言うせいでこよちゃん以外にも姉妹には夢を諦めてしまう子が結構多かったの。あたしや翠子姉、真凛姉やセラフィを中心に結託した姉妹は晴海姉に反発して自分の好きなことを追いかけられる進路を選んで進んだんだけどね。」
凛「自分の好きなこと、やりたいことを否定されると辛いですよね・・・」
禰「それで結局家族はバラバラ。晴海姉は東京で会社立ち上げて騎ノ風から出て行って、あたしたちは騎ノ風の各地に別々に暮らして仲のいい姉妹以外とはもう5年近くあってないの。バカみたいな話でしょ。」
凛「そんなことありませんよ。今禰恩さんが連絡を取り合っているのって何人ぐらいなんですか?」
禰「真凛姉とは一緒に住んでて、翠子姉、光姉、萌黄姉、瑠璃奈姉、紅羽姉、こよちゃん、藍那ちゃん、紫穂ちゃん、セラフィかな。一応千葉崎ホームっていう11人でやってるSNSグループもあるのよ。皆忙しかったり、問題あったりするから滅多に会ったりはしないんだけど。」
凛「意外と人数多いのですね・・・」
禰「皆最終的に春南姉に反発して夢を目指す方向に進んだから。光姉と瑠璃奈姉は一度入った会社を辞めてそれぞれ女優となったのよ。翠子姉と紅羽姉はいじめや差別を受けていて引きこもりに近い状態だったからもはや普通に生きるなんて無理だってよく言ってたし。」
凛「禰恩さんは会社員になる道を考えたことはあるんですか?」
禰「それは一度もないかな。どっちにしろこの名前じゃ社会に気持ち悪がられるだけだし、愛嬌を見せるのも嫌いだったから。晴海姉とあたしたちはそのまま喧嘩別れって感じ。だけどそのおかげで今は大好きな音楽に触れていられるのが幸せよ。それに春南姉に嫌われたとしても真凛姉たちはそばにいてくれるしさ。やっぱり自分の人生やりたいことをやるのが一番よ。」
凛「私は禰恩さんが自分で選んだ道なら応援します!」
禰「ありがと凛世。そう言ってくれる人が一人でもいるだけで、また素敵な曲を作ろう!って気持ちが沸いてくるのよね。」
店「禰恩ちゃん、ギターの弦の張替え終わったわよ。」
店2「お客様、シンセサイザーのメンテナンス完了しました。」
禰「はーい。いつもありがとございます。」
凛「はい。ありがとうございます。」
2人は楽器を受け取り、代金を支払って楽器店を出た。
禰「楽器は声と同じぐらいアーティストにとって命だから大切にしないとね。」
凛「ええ、その通りです。私ももうすぐまた愛麗や天宮城さん、立屋敷さんと一緒に文化祭でライブするので・・・」
禰「楽器でライブってことは凛世は愛麗たちとバンドやってるんだね!」
凛「はい。シンセサイザーを弾くのはこの時期だけなんですよ。だからメンテナンスしないと不安でして。」
禰「いいなぁ・・・あたしもそういう仲間がいる環境に生まれたかったよ。そんなこと言ってもしょうがないけどさ。」
凛「その、もし文化祭の日に仕事が無かったら・・・プロの禰恩さんに比べればまだまだだと思いますが私達の演奏聞きに来てください。」
禰「もちろんだよ。むしろその日は無理やりにでもオフにして聞きに行くから!それじゃね!」
凛「はい。今日はお話を聞かせていただきありがとうございました!」
凛世はそう言うと、キーボードを背負い帰っていった。
禰「凛世に色々話せたからなんだかすっきりしたなぁ。さーてあたしも帰って真凛姉と一緒に次の新曲作ろうっと。」
禰恩はすっきりとした表情で伸びをすると、家に向かって帰って行った。誰かの心に響く新たな曲を作り出すために・・・