騎ノ風駅に併設された駅ビルの目立たない一角。そこに何とも神秘的なガラス彫刻の店、「ムラサキ彫刻ガラスギャラリー」が開店したという。
彫刻に興味のあるラニーが行きたがったので咲彩とエレナと陽姫の4人でその場所に向かった。店の中には店主と思われる紫髪の女性がいた。
?「いらっしゃい・・・ゆっくりてみて行っていいから・・・」
エ「神秘的な世界・・・」
陽「心なしか少し涼しいかも・・・」
ラ「素敵な空間デスね!どの彫刻もきれいデス。」
咲「ほんとだね。ついつい魅入られちゃうよ。」
そんな4人を見た店主が声をかけてきた。
?「貴方たち、彫刻に興味あるのね。若いのに珍しい・・・」
ラ「店長サンも中々若いと思うデスが。」
?「ありがとう。それとここに置いてあるのはほぼ全て私が作った作品。小さいものは販売もしているけど、大きいものは・・・高いよ?」
エ「どれぐらいするんですか・・・?」
?「あのタワーの彫刻は・・・300万円ぐらい。」
咲「やっぱり結構高いんですね。」
エ「私は300万円だったら出せないこともないけど・・・」
陽「レナちゃんお金持ちだねえ。」
?「つまり買ってくれるってことね?」
エ「・・・いいえ、買っても飾れる場所がないからいいです。」
?「そ、そう・・・ちょっと残念。」
ラ「そういえば店長サン、レナさんに少し似ていますネ。親戚デスか?」
エ「私・・・親戚ほとんど知らない。」
?「私にも同い年の姉妹しか家族がいないから違うと思う。あなたも私の妹にそっくりね・・・映画監督やっているセラフィっていう子なんだけど。」
咲「セラフィって・・・禰恩さんが言ってた妹さんの名前じゃない?」
?「禰恩・・・?、ああ、貴方たちが姉さんたちがよく言ってる私たち姉妹に似た子たちなのね・・・」
陽「禰恩さんの名前を知っているということはぁ・・・店長さんは千葉崎家の関係者なのぉ?」
紫「うん、私は千葉崎紫穂。千葉崎家の12女でガラス細工職人をしています・・・セラフィは私の妹、禰恩姉さんは私の姉。私と似ているっていうのは・・・貴方かな?」
エ「私ですか・・・?」
紫「禰恩姉さんから紫穂ちゃんと似ているのはエレナちゃんって子だってグループで聞かされていたから。それに私の店に偶然訪れてくれたのも何かの巡り合わせかも・・・よかったら奥のスペースで色々・・・お話聞かせてもらえないかな?」
咲「いいですよ。私たちも時間に余裕ありますし。」
紫穂の提案で咲彩たちは少し話をしていくことになった。
咲「・・・紫穂さんはそういった過程でガラス細工を学んだんですね。」
紫「そう、誰にも弟子入りせず大学で学んだの・・・実技は教授に見てもらいながら少しずつやって行った。」
エ「大変じゃなかったんですか・・・?」
紫「細かい作業好きだったからそうでもなかった。お店を開業する前は一心不乱にガラス細工を作る日々を送っていたし・・・」
陽「だけど、このお店の場所ってついこの前まで空いていたよねぇ・・・?」
紫「元々ネットショップで販売と発送をしていたの。収入に余裕ができたからここにギャラリー兼販売という形で店をオープンしたって感じね。」
ラ「ですが、なぜこんな目立たないような場所にお店を構えたんデスか?」
紫「洋服とかと違ってガラス細工って簡単に決めて買って帰れるものじゃないじゃない。だからこそお金に余裕がある時にここを訪れて作品を見たり買ったりしてくれればそれでいいって私は思っているの。」
咲「確かに、ガラス細工って高級なイメージが強いですものね。」
紫「高値なものは多いけど・・・入り口近くの棚に置いてある小型の作品なら1000円前後だよ?」
ラ「だけどやっぱりワタシは立派な彫刻がほしいデス。両親彫刻家なもので・・・」
紫「へぇ・・・あなたの両親彫刻家なんだ。」
ラ「ハイ!今は確かイギリスにある石像の修理に行っているはずデスね。」
紫「世界的に活躍しているんだ・・・私には全く縁のない世界だな。」
ラ「紫穂サンもこれだけのものを作れるのデスから、展覧会と化に出せば高く評価してもらえると思うデスが・・・」
紫「うーん・・・そういった展覧会に私の作品を出して有名になりたいわけじゃないの。」
エ「どういうことなんデスか?」
紫「私は人に認められるガラス細工よりも、自分が見て楽しめるガラス細工を作りたいって思っているの。それに元々はネットショップ以外のお店だって出すつもりなかったし・・・大衆に受けることよりも私の作るガラス細工を心から気に入ってくれた人にだけ買ってもらいたいかな。」
陽「それってぇ・・・自己満足ができればいいってことなのぉ?」
咲「はるちゃん、その聴き方は失礼だよ。人は物事に取り組む目的がそれぞれ違う物なんだよ?失礼なこと言ってすいません紫穂さん・・・」
紫「別に気にしてないよ・・・ガラス細工が飛ぶように売れているわけじゃないし、姉妹の中では私の稼ぎは褒められた金額じゃないもの・・・だけど、自己満足とどれだけ罵られたとしても私は自分の考えを曲げたりしないつもり。私にとってガラス細工はライフワークという形で死ぬまでやり続けたい。お金は生きていけるための最低限あれば十分。それが私の考えだから・・・」
ラ「ワタシは紫穂サンの考え、しっかりしていて好きデス。有名になることを目指すことだけが芸術家じゃないデスよね。」
咲「私も考えを貫ける紫穂さんみたいな人、憧れちゃいます。私も家業と進みたい目標が一致していなくて悩んでいるから・・・」
紫「自分の行きたい方向に行けるよう動き続けていればその悩みは自然と消えていると思うよ・・・私もそうだったから。」
ラ「紫穂サン・・・ワタシ、紫穂さんの作品の中でこれが気に入ったので買わせてもらいたいデス。」
ラニーは紫穂に店舗の方においてあったと思われる小型のガラス細工を取り出してそう言った。
エ「ラニーちゃんそれダメ。勝手に持ってきたら泥棒と間違えられちゃう。」
紫「良いよ・・・店の外に持ち出しているわけじゃないし買うつもりなら泥棒なんかじゃないもの。それとうちは電子決済システムのみのお支払になるけどいいかな?ICカード持っている?金額足りないならチャージもできるけど・・・」
ラ「ハイ、それならチャージもお願いするデス。」
電子決済システムとは、最近騎ノ風市全域で導入された共通のICカードに金をチャージして、そのカードで買い物などの支払いができるシステムの事である。支払った分の金額は店主の口座に振り込まれるという画期的なシステムだ。クレジットカードを持ちづらい未成年にとってはありがたいものである。
紫「はい、ありがとうござ・・・あら?」
咲「どうかしたんですか?」
紫「おかしい・・・今月も何人かはガラス細工を買ったんだけど、売上金が今ラニーさんが買ってくれたガラス細工分の金額しか入っていない・・・」
陽「それってぇ、誰かが紫穂さんの口座に不正アクセスを働いて売上金を抜き出したんじゃないかなぁ?」
紫「そんな・・・今月は100万近い作品がいくつか売れたのに、このままだと今月でお店を閉店せざるを得ない・・・」
ラ「閉店デスか!?そんなの嫌デス!」
紫「テナント料が払えないのであれば退去するしかない。それがお店を出すものの宿命だから・・・」
陽「こんな素敵なお店なのに、誰かの卑怯な行為で潰されちゃうのってあんまりだよぉ。」
咲「一体誰がこんなことをしたんだろう?」
エ「・・・紫穂さん、私に電子決済システムを使っているパソコンを見せていただけませんか?」
紫「どうするの?」
エ「私にはそこそこ機械の知識がある。だから、システムのどこに不正が起きたかを探ることぐらいならできるかもしれない。」
陽「だけど、レナちゃんは作るの専門じゃなかったっけ?」
エ「そうだけど、少しでも力になりたい。私はこの店の雰囲気が好き・・・できる事なら助けたいから。」
紫「ありがとう。これが売り上げを管理しているシステム・・・よろしくお願いする。」
エ「分かりました・・・」
エレナは店の売り上げを管理しているパソコンでシステムの中身を調べ始めた。そして30分後、不審な点を発見することに成功した。
エ「・・・見つけた。今から12時間ほど前に外部からのハッキングで電子マネー300万円近くが出金されている。」
紫「300万円・・・今月の売り上げとほぼ同じ金額・・・」
エ「だけど、私ができるのはここまで。相手を特定するのは私の技術力だけじゃ難しい。ハッキングの知識はないから。」
咲「そんな、せっかく原因を突き止めることができたのにここまでなの?」
陽「他に方法は・・・そうだ、環輝ちゃry」
ラ「環輝サンに頼んでみるのはどうデス?環輝サンならよくハッキングをやっていますし。」
陽「もう、わたしが先に思い付いたのに・・・」
エ「分かった、連絡してみよう・・・」
エレナは電話を取り出すと、環輝にかけて周りにも会話の内容が聞こえるようスピーカー状態にセットした。
その頃、環輝は家で次の研究発表会に提出する論文を書いていた。
環「うーん、この辺の文章の書き方がいまいちだし・・・愛麗にどうすればいいか聞いてみよっと。」
環輝が愛麗に電話をかけようと手を伸ばした瞬間、電話が鳴りだした。
環「あれ、レナちゃんからだ急にどうしたんだろ。はーい、環輝だけどなに?」
エ「環輝ちゃん?いまからハッキングってできる?」
環「問題ないけど、ハッキングしてほしいなんて急にどうしたん?そんなに急ぎの状況なわけ?」
エ「私の大切な人のお店の電子決済システムがハッキングされて売上金が盗まれちゃって・・・抜き出されているのは突き止めたんだけど、そこから先が分からなくて。」
環「不正アクセスで盗まれたのね。電子決算システムは便利だけどそれに便乗して悪行働くバカな奴が多いよね。分かったし、ちょっとそっちの電子決済システム内部に侵入させて貰うから場所教えて?」
紫「あの、その子本当に大丈夫なのかな・・・?喋り方も少しゆるいっていうか・・・ギャル系?だし。」
エ「環輝ちゃんは、悪い人相手出ない限り侵入してもデータを壊したりはしないので問題ないですよ。」
紫「そう、ならお願いするわ。」
エ「環輝ちゃん、場所は千葉崎ガラス彫刻ギャラリーっていうお店の電子決済システムの中ね。」
環「おけ、システムの中入ったよ・・・確かにお金を勝手に引き出された形跡があるし。じゃ、ちょっと解析してみよっと、なんか引き出し履歴の一覧によく分からない会社の名前みたいのが出てきたけど、こいつらが何かしたんじゃないかな?」
咲「その会社名ってなんていうのあんちゃん?」
環「株式会社ブラッドサウス・・・環輝も聞いたことない会社名だよ。」
陽「紫穂さん、何か心当たりはないのぉ?」
紫「ブラッドサウスか・・・そういえば数日前にそんな名前の会社が私の技術力を買うからってスカウトしてきたけど・・・」
ラ「その時、どんなことを言われたデス?」
紫「貴方のガラス細工作りの技術力を当社で生かしてみないかみたいなことを言われた・・・勿論急なスカウトなんて怪しいから断ったけど。」
エ「ちょっと私が公式ページに行って調べてみる・・・ブラッドサウスは創造することと想像することを力に新しいモノづくりを生み出していく企業です・・・って書いてある。」
咲「機械の建造からシステムの開発まで何でもやってるみたいだね。」
陽「ブラッドサウスはガラス細工の部門にも手を出そうと思って紫穂さんをスカウトしようとしたんじゃないかなぁ?」
ラ「デスがあいにく、紫穂サンが申し出を断った。なので腹いせに紫穂サンのお店の売り上げシステムをハッキングして売上金を奪い取った。ということなんデスかね。」
咲「確かにそうすれば話は繋がるけど、発想が単純というかなんというか・・・」
陽「要するにわがままってことだねえ?」
エ「陽姫ちゃんがいうとなんか違和感ある・・・」
陽「なんでぇ~?」
エ「自由奔放でマイペースなのってある意味自分に正直でわがままって意味だから。」
陽「そんなこと言うなんてひどい~!」
環「それより、こいつらどうするの?黒いデータネットに晒して売上金分の金取り返せばいい?」
エ「紫穂さん、どうするかはあなたが決めてください。」
紫「ブラッドサウスを残しておいたら、また別の人を毒牙にかけるかもしれない。環輝ちゃんのプランでお願い・・・」
環「おけ、それじゃさっさとやっちゃうし。」
その後、環輝はブラッドサウスの電子決済システムから紫穂の売上金分の金額を取り返し、悪事データをばら撒きブラッドサウスを追い込むことに成功したのだった。
そして後日・・・
ラ「紫穂サン、こんにちはデス!」
紫「いらっしゃい・・・あら、今日は他のお友達も来てくれたのね。」
凛「ここが神宿さんたちの絶賛したガラス細工店ですか・・・美しいですね。愛麗とも一緒に来たかったですが・・・」
柚「絵になりそうなものも多いね。」
環「ハルに誘われて来てみたけどいい場所だね。ハッキングで売上金を取り返したかいがあったし。」
エ「私たちの幼馴染のうちの3人・・・この前ハッキングをしてくれた環輝ちゃん、それと柚歌ちゃんと凛世ちゃんです。」
紫「この店の店主の千葉崎紫穂です。ゆっくり見て行ってね・・・」
凛「私音楽やっているので綺愛麗な音が出そうなガラス細工があれば欲しいと思ってます。」
紫「音を出すのなら、このコップがいいんじゃないかな・・・」
柚「ボクは絵を描いてるんでモデルになりそうなガラス細工があれば欲しいんですけど・・・」
紫「一番絵になりそうなのは・・・この家のガラス細工をいくつか並べてミニチュアの町みたいにするといい絵がかけると思うよ。あとはこのガラスの花瓶にお花を挿して描いてみるのもいいと思う。」
ラ「紫穂サン相手が求めている要望に対して的確にこたえられるなんてさすがプロだと思うデス。」
紫「そうかな・・・そう言ってもらえると嬉しいよ。」
凛「あの、私、ガラスのコップ買います。」
柚「ボクもガラスの花瓶買います。これに花を指せばいいモデルになりそうですから。」
紫「あ、代金なんだけど、この前のお店を守ってくれたお礼として好きなガラス細工、みんなに一つずつあげるわね。あの後、少し私のガラス細工の人気が出て売り上げも上がったから。」
凛「え、私たちは何もしてないんですよ?」
紫「いいの。あなたたちとはこれからも関わりを持っていきたいから・・・」
ラ「それならワタシも選ばせてもらうデス!」
咲「ラニちゃん、ガラス細工を落とさない様に気をつけてね。」
エ「それなら・・・私も選ばせてもらおうかな・・・」
環「じゃ環輝も。ガラス細工がインテリアに合ったら部屋の見栄えもよくなるし。」
紫「(こんな風に賑やかなのも悪くないかも・・・)」
ガラス細工を楽しそうに選ぶエレナたちを見つめながら、紫穂はそんなことを思ったのだった。
同じころ、東京のある場所で1人の若い女性と部下と思われる男性が話をしていた。
?「それで、ブラッドサウスは倒産したってこと?」
部「はい。何者かに外部から侵入され、隠していたデータを盗み出され、倒産に追い込まれたそうです。」
?「そう。それならあの会社は切り捨てて、ブラッドグループとは無関係ってことにしておいて。また新しい会社を立ち上げる準備をして。紫穂は後回しにして別の姉妹から狙っていくわ。」
部「はい了解しました。」
部下はそういうと部屋から出ていった。
?「紫穂ったら、いつの間にハッキング技術なんて身につけたのかしら。翠子に教わったのかしら?」
女性はそんなことをつぶやく。
?「ま、そんなことはどうでもいいわ。夢ばかり追いかける分からず屋な妹たちに教えてあげなきゃね。この貴族生まれの由緒正しきカリスマ企業経営者の長女、千葉崎春南がね!」