プロゲーマー。それは、あらゆる種類のゲームをやりこみ、その才能を開花させ、企業などと提携して金を稼ぐ手段として確立した数少ない存在である。そして、騎ノ風市にも1人のプロゲーマー女史がいた。その名は・・・千葉崎紅羽と言う。
その日、環輝はいつもプレイしているアーケードゲームをするためにゲームセンターに来ていた。
環「今日もハイスコア更新しよっと!楽しみだし~!」
環輝がゲーム機体の近くへ行くと、すでに人だかりができていた。
環「誰かやってるのかな?ちょっと見ちゃおうっと。」
そこではフードを被った小柄な少女が目にもとまらぬ速さでボタンとレバーを操作していた。
?「・・・・・」
環「(すごい・・・あんな素早い操作見たことないし。)」
その美しいプレー見とれる環輝。少女はその後何度かプレイをしてスコアを更新するとゲーム筐体から離れた。
?「・・・これでこのゲームもコンプリートだねっ。」
少女は小声でそう言うと、ゲームセンターから出て行った。
環「あの子・・・すごい、ちょっと話してみよっと。」
環輝はゲームセンターを出て、先ほどの少女に追いつき、声をかけた。
環「あの・・・さっきの操作素敵でしたし!」
?「ん?あたしに話しかけるとは・・・キミ物好きなんだね?」
少女はフードを取ると、環輝の方を向き顔を見せた。少女は幼い顔立ちでピンク色の髪をしており、セミロング程度の長さの髪を派手なリボンでまとめている。その姿は立屋敷苺瑠にそっくりだった。
環「あれ、苺子じゃん。」
?「苺子?あたしはそんな子知らないよ。他人の空似じゃないかな?」
環「あ、そう言えば髪型とか喋り方とか少し違うし。」
?「あたし多分キミの言っている苺子という子にすごく似てるんだろうね。自己紹介まだだったね。あたしは千葉崎紅羽。プロゲーマーをしているんだよ・・・とはいっても信じてもらえないよね。」
環「ううん、環輝は信じるし。あのプレイの腕は只者じゃないって見ててわかったから。ハンドルネーム教えてくれれば誰だかわかるかもだし。」
紅「ああいう筐体ゲームでは埼玉クイーンという名前を使ってるよ。」
環「埼玉クイーンって、埼玉県(さきたまけん)中のあらゆるゲームのスコアで1位をキープし続けているあの埼玉クイーン!?」
紅「そうだよ。あたしからも聞かせてもらうけど、キミは4位ぐらいにいるAnzu wingじゃない?」
環「すごーい!なんでわかっちゃったの?」
紅「何度かイベントや大会で君のことを見たことがあったから。あたしの見立てだけど、キミもなかなかの腕を持ってるよね。」
環「ありがとうございます。とはいえまだまだの身だけど・・・」
紅「ううん、キミならもっと能力を伸ばせると思うよ。ゲームの腕を上げるのに必要なのは日々の積み重ねだよ。」
環「そうだ、環輝たちの秘密の場所に案内するのでもっと色々お話聞かせてください!」
紅「今日は仕事もないし暇だから別にいいけど・・・あたしがキミの秘密の場所に出入りしてもいいの?」
環「もちろんですよ!紅羽さんと同じ名前の人たち心当たりありますし!」
紅「同じ名前?よく分からないけど今暇だし連れてってくれるなら行くよ。」
紅羽は自分が暇だったのもあってか、環輝について行くことに決めた。
紅羽が環輝に連れられてやってきたのは地下書庫だった。地下書庫には愛麗と凛世、苺瑠、そして禰恩が来ていた。
紅「ふーん、この町の地下にこんな場所があるとは知らなかったよっ。」
麗「あれ、環輝来てたの・・・その人誰よ!?」
凛「またここの存在を知る人が増えてしまったみたいですね。」
苺「うむ?我に少し似ているな・・・」
紅「あれ~?キミあたしにそっくりだね!ドッペルゲンガーかな?」
禰「新しい人?誰・・・あ!紅羽姉じゃん!」
紅「あ、禰恩ちゃん。禰恩ちゃんもここの関係者なんだねっ!」
凛「お姉さんってことは、禰恩さんのお姉さんなんですか?」
禰「うん。あたしのすぐ上の七女、紅羽姉だよ。ゲームが得意で今はプロのゲーマーをしているんだよ。」
麗「そうなの・・・良かったぁ・・・」
環「千葉崎って苗字だからもしかして禰恩さんたちの親戚かと思っちゃったから連れてきたんだし。だけど、禰恩さんのお姉さんってことは26歳なわけ?」
紅「そうだよ。26歳だけどたまーに子供のふりすると通用するんだよね。」
麗「紅羽さんが禰恩さんたちの身内だからよかったけど、あまりここは一般の人たちに知られちゃいけない場所なんだから気をつけなさいよ環輝。」
紅「心配しなくてもあたしは口固いから誰にも言わないよ。」
凛「それならいいんです。お茶入れますのでそこの椅子に座ってください。」
禰「紅羽姉、せっかくここに来たんだからさ、皆に仕事の話とかいろいろ聞かせてあげてよ。」
紅「いいよ。話は喉が渇くから少しお茶を貰ってからでもいいかな?」
紅羽は入れてもらった紅茶を少し飲むと、話をし始めた。
紅「あたしはプロゲーマーをしているんだよ。普段の活動は自分でゲームをプレイしてそのプレイ動画を投稿したり、あとは賞金の出る大会で優勝して賞金を貰ったりしてるよ。」
麗「プロゲーマーって仕事にできるものなんですか?」
紅「相当な実力がないと難しいね。あたしだってここまで来るのにありとあらゆるジャンルのゲームをプレーしてそのプレーをみている人たちへの魅せ方を研究してようやく今のスタイルにたどり着いたから。中には企業と提携してスポンサーとして活動を支援してもらっている人もいるよ。」
禰「日本でゲーマーが定着しだしたのってつい最近だからね。紅羽姉はプレーだけでなく騎ノ風総合大学でゲーム作りについても学んでいたから、自分でゲーム作れるんだよ。」
紅「だけど素晴らしいゲームはたくさんの人がいて初めて形になるものだし、あたし1人だとたくさんのユーザーを満足させられるような作品は作れないかな。役職に分けてもシナリオライター、グラフィッカー、サウンドディレクター、プログラマー、デバッガー、プロデューサー・・・それらの人たちが力を合わせて作って初めて形になるものだし、あたしができるのはゲームプログラム書くことだけだしさ。RPG○クー○みたいなソフト使えば1人でも作れるけど。」
苺「紅羽さんのゲームの実力はどこでどんな感じで身に着けたものなのだ?」
紅「昔からやってたら知らず知らずのうちに実力が上がってたんだよ。毎日プレーすることは心がけていたけどね。」
禰「紅羽姉は争い事が嫌いでね。あたしたちとバカ親父がいい争い始めたら一人で自室にこもってゲームやってたよね。」
紅「だって嫌じゃない。誰かが傷つけあうのを見るのって・・・戦いはゲームの世界で十分だよ。」
麗「紅羽さんってゲームかなりやってるのにしっかり仮想と現実の区別がついているんですね。」
紅「当然だよっ。プロゲーマーになるならそこは心がけないとね。最近はさ、どこかの専門家の一部がゲームやスマホは脳を壊すとかまるで違法薬物みたいな扱いをしているけどさ、あたしは毎日15時間ぐらいプレーしたり時には24時間続けてプレーすることもあるんだけど全然脳が壊れたって感じはしないのに・・・ゲームが毒ならあたしはすでに死んでいるはずだよ?」
環「過激な思想を未だに進行している奴も多いからね。うちの教授みたいに何かを否定しない研究すればいいじゃんって思うし。」
紅「だからこそあたしはゲームにもスマホにも毒はない。ただ、プレイする側が善悪をわきまえてないだけ。って思ってるんだ。」
凛「そのような考え素敵です。」
苺「加害者を憎んで物を憎まずってことなのだな。」
紅「ちょっと違うかもだけど、何でもかんでも規制しようとするのにはあたしは反対なんだよ。あたしたち姉妹は芸術関係や表現することで金銭を稼いでいる子もいるわけだからさ。あたしゲームを規制されたら多分死んじゃうと思う。」
禰「紅羽姉は春南姉によく怒られてたもんね・・・」
紅「あんな自分の家系が立派で長女だからって威張ってばかりの人知らない。ってか自分の手柄でないはずの家系を自慢するのって馬鹿みたいってずっと思ってたもん・・・」
禰「春南姉は貴族の生まれかもしれないけど、あたしたちの家系は録でもないもんね・・・」
環「紫穂さんも言ってたけど、春南さんってそんなに理解のない人なわけ?」
紅「そうでもないけど、あたしたち以上に頑固な人だから常に干渉して来て・・・ゲーム取り上げられそうになったこともあったんだよ・・・」
禰「紅羽姉は学校の勉強はかなり出来ていたのにゲームばかりやってて引きこもりがちだったからよく怒られてたもんね。」
紅「確かにね・・・昔は学校に馴染めなくて辛くて恐ろしくて未来が来るのが嫌でしょうがなかったよ。だけど今はそんなこと全然ないんだ。」
凛「紅羽さんはいつごろから楽しく生きられるようになったんですか?」
紅「大学に入って好きなことを勉強するようになってからだね。騎ノ風総合大学にゲーム科が無かったら今でも引きこもってたかも・・・大学に入るまでは周囲に色々非難されていた影響でゲームをすることが悪いことなんだって自分で思っていたから。」
麗「大学の環境が紅羽さんの固定概念を破ってくれたってことなんですね。」
紅「そうだよ。君たちもまだ若いんだからさ、自分の好きな物だけは大事にしてねっ。あ、嫌いなものからは全然逃げちゃっていいから。」
苺「好きなものは大事にするというのは分かるが・・・嫌いなものから逃げてもいいのか?」
紅「人の考え方によるだろうけど、身に着けるのは自分がやりたいことに対して最低限のものでいいと思うんだよねあたしは。よくさぁゲームばかりしてないで外で遊べとか、自然と触れ合おうとか平気で言う人いるけどあたし虫とか動物とか昔からすごく苦手でそう言う意見を聞くたび嫌だったんだ。」
凛「ただでさえ周りになじめず辛い思いをしていたのに、そういった人たちからの意見にも苦しんでいたのですね・・・」
紅「うん、だからそう言う人たちの意見をシャットアウトしてゲームにのめり込んでたら、いつのまにか実力がついてたの。それにあたし今でも虫とか苦手だけど全然苦労してないんだよ。だからこそそういう風に言えるんだと思うんだ。」
麗「周りの批判をはねのけて、
紅「そうだね。あたしは道を切り開くことに成功したからこそ、今が楽しいんだよ。口うるさい長姉も今はいないからね。」
環「紅羽さん、せっかくだからこのアーケード格闘ゲームで環輝と勝負してほしいし!」
紅「ここってゲーム筐体もあるんだ・・・いいよ!早速勝負しようか!」
環輝の提案を紅羽は受け入れ、格闘ゲームで勝負することに。10回勝負したのだが、対戦結果は紅羽の10勝0敗となり紅羽の完全勝利で終わった。
麗「・・・これで紅羽さんの10勝連続勝利ね。」
凛「あのレバーを押しながらボタン操作も行う手さばき、只者ではないのが分かりますね。花蜜さんも中々すごい操作していますけど・・・」
環「うーん、10回戦って1回も勝てないなんて悔しいし・・・」
紅「プロゲーマーなんだから負けるわけにはいかないよ!・・・あ、もうこんな時間かぁ。あたしそろそろ帰らなくちゃ。」
苺「もっとゆっくりして行けばいいと思うのだが・・・」
紅「明日新作ゲームが発売するからそれを買ってきて評価しなきゃいけないからね。プロゲーマーにとってゲームは遊びのようで遊びじゃない所もあるから。あ、そうだ・・・またここに遊びに来てもいいかな?気に入っちゃったんだよここの雰囲気・・・」
凛「禰恩さんのお姉さんならいつでも歓迎しますよ。」
環「また色々と勝負して欲しいし。」
紅「もちろんいいよ!今度は苺瑠ちゃんたちも勝負しようね!それじゃまた暇ができたら来るから!それとゲームは楽しい物であって、毒じゃないってことを覚えておいてね!」
苺「うむ、しっかり覚えておくのだ!」
紅羽はそう言うと、書庫から出て行った。
環「また紅羽さんと勝負するときに備えて対策考えよっと!」
麗「それにしても楽しい人なんですね、紅羽さんって。」
凛「あんな感じの姉妹がいたら、毎日が楽しく過ごせそうですね。」
禰「いいでしょ。あたしにとっても自慢の姉の一人だからね!」
禰恩は愛麗たちに胸を張ってそう答えたのだった。
一方、書庫を出た紅羽はこんなことを考えながら、帰り道を歩いていた。
紅「また楽しいこと見つけちゃった。今度使っていないサブのゲーム機持ち込んであそこでガッツリプレーしてみるのも悪くないかもしれないね!」