化学で美食を生み出す力

調理部である愛麗、嘉月、咲彩の3人と興味を持った柚歌と陽姫はある料理研究家の開いている料理教室に来ていた。なんでもこの料理研究家、科学の力で調理をする型破りな料理を作っている人なんだとか。その料理研究家住んでいるマンションの一室の前に来た愛麗たちはインターホンを押した。
麗「すいませーん。今日こちらの料理研究家さんの料理教室に来た者なんですが・・・」
愛麗がインターホンにそう言うと扉が少しだけ開いて中から女性が出てきた。その女性はなんと千葉崎萌黄だった。
萌「はーい今日の生徒はんやな・・・あら嘉月はんたちやないの久しぶりやなぁ。」
嘉「ここの料理教室って萌黄さんが経営しとるんやったんね。」
萌「違うで。ウチ料理は全然ダメなんよ。」
咲「かづちゃんこの方は?」
柚「知り合いなの?」
陽「見たことない人だねえ?」
嘉「咲彩ちゃんたちは初めてやったな。この人は萌黄さん。千葉崎姉妹の5番目なんや。」
萌「よろしゅうに。ウチ堅苦しいの嫌いやからフランクに話してくれて全然かまわへんからなぁ。」
麗「それで、ここの料理教室って誰が経営してんのよ?萌黄さんは料理しないんでしょ?」
萌「ここの料理教室は料理研究家でウチの妹の藍那ちゃんがやっとるんやけど・・・あの子怠け癖があってなぁ。ウチはその監視係みたいなもんや。」
柚「その藍那さんはどこにいるの?」
陽「わたしもそうだけど、お寝坊さんなのかな?」
萌「その通りや。まだ寝てるんよ・・・奥にいるから起こしてくるわ。ちょっと待っててーな。」
萌黄はそういうと奥の部屋に入っていった。萌黄が奥の部屋に入った時少し怒号のような声が聞こえたが気のせいだろう・・・しばらくすると眼鏡をかけた小柄な女性を肩に担いだ萌黄がやってきた。
萌「待たせてごめんなぁ。この子が藍那ちゃんや。うちらの仲では11女やからかなり下の方の子なんやで。ほら、起きい!」
那「・・・ううーん・・・この子達誰ですぜ?」
萌「今日の料理教室の生徒さんや。さっさと教える準備しい!」
那「はぁ・・・萌黄ちゃんはせっかちで嫌っすねえもう。」
萌「あんたが怠けてばかりやからウチらで監視しとるんやろ。監視されたくなかったらやることしっかりやるんや。」
那「わーたっての。あ、生徒さんたち。ちょいと準備してくるんで奥の調理室で少し待っててもらえるっすか?」
麗「分かりました。よろしくお願いします。」
藍那は愛麗たちに奥の部屋へ行くよう指示すると、準備のためにいったん戻って行った。

愛麗たちが入った部屋は調理室のはずなのだが、まるで化学実験室のような作りの部屋だった。
咲「これがプロの料理研究家さんの教室なのかな・・・?」
麗「なんだか化学質みたいな部屋よね。ビーカーとかメスシリンダーとかあるし。」
陽「隕石とか珍しい石はおいてないみたいだねえ。」
柚「まさか、そういう道具を使って料理を作っているのかな藍那さんは。」
嘉「そんなアホな・・・と言いたいところやけどその可能性も十分考えられるわな。」
愛麗たちがそんな風に部屋の感想を言い合っていると奥からエプロンと三角巾をつけた藍那が入ってきた。後ろには萌黄がしっかりついてきており、
萌「ウチはここで見張っとるからなぁ。真面目にやらん狩ったら許さへんで!」
那「分かってるっすよ。はーい。今日あちしの料理教室に来てくれた君たちありがとう。あちしは料理研究家の千葉崎藍那っす。それで今日のレシピは・・・」
咲「何を作るんですか?」
那「決めてなかったごめんっす。そうだな・・・5人ぐらいなら材料人数分あるしヒレステーキでも作りますかい?」
麗「ステーキなんて・・・いいんですか?」
那「いいっすいいっす。あちし1人暮らしだし肉ならたくさんあって余ってるっすから。それじゃさっそく作っていきますぜ。」
藍那はそう言うと冷蔵庫から食材を取り出し、1人分ずつトレーに取り分けて愛麗たちに配った。
那「配り終わったっすね。じゃ、作っていきまっしょい!最初にやるのは肉を焼く前に大切な下処理っすね。肉をフォークを使って刺すと火が通りやすくなるし柔らかくなるっすよ。」
麗「こんな感じでいいのかしら・・・」
那「お、愛麗さん中々手際がいいっすね!」
麗「あたしあまりステーキは作らないんですけどやったことはあるので。」
那「そうなんすか・・・家庭的っすね!咲彩さんもいい感じっすよ。」
咲「私もたまに台所に立つことはあるんですけど、肉の調理はあまりしないんですよね・・・だかららっちゃんのを見よう見まねでやってます。」
嘉「ウチも肉はあまり取り扱わへんなぁ・・・」
那「嘉月さん、刺すときは肉全体にまんべんなく刺していくと綺愛麗になるっすよ。」
嘉「まんべんなく・・・あ、ええ感じなったわ。ありがとさん藍那先生。」
那「いやー先生なんててれるっすよ。」
萌「調子のって舞い上がるんやないで?」
那「分かってるっすよ・・・お、柚歌さんもお上手で。」
柚「ボクあまりこういうことやらないんですけど、感覚でやってたらできちゃったって感じなんですね・・・」
那「柚歌さんは多分天性の器用さを持ってるんすよ。あちしも最初から適当にやってたらできちゃったタイプっすし。」
柚「ボクより陽姫ちゃんを見てあげて下さい。彼女、細かい作業あまり得意じゃないって言ってたので・・・」
那「分かったっす。陽姫さんの所行ってきますわ。」
藍那は陽姫の元へ向かう。予想通り料理経験のほとんどない陽姫は調理にてこずっていた。
陽「刺すのはこんな感じでいいのかなぁ?だけど何度やってもお肉を貫通しちゃうよ・・・」
那「陽姫さん、それだと力入れすぎっすよ。もっと軽く刺す感じでいいんすよ。」
陽「軽く刺す・・・こうかなぁ。」
那「あ、お上手ですよ。それぐらいの軽い力で刺していけばいいんっすよ。それと・・・陽姫さんお料理あまりしたことないんじゃないっすか?」
陽「プロの目線から見るとやっぱりわかっちゃうんだね。わたし細かい作業とかあまり得意じゃないんだぁ・・・」
愛「今の陽姫さん料理の経験が薄かった頃のあちしと手際が似てたもんで。力を入れすぎてしまうっていうのは初心者にはありがちだから適度に力を抜きつつやることを心がけてみるといいっすよ。」
陽「ありがとうございまーす。」
那「さて、下処理が終わった肉に塩と胡椒をかけたら・・・焼いていきましょうか。」
麗「焼くのはいいにしてもフライパンとかガスコンロとか見当たらないんですけど・・・」
那「あーそんな危ないものは使わないっす。使うのはガスバーナー、三脚、鉄板っす。ちなみにソースとか混ぜたりする時はビーカーとガラス棒を使用していますぜ。」
嘉「それだと調理っていうより化学の実験みたいやな・・・」
那「嘉月さん、その通りなんす。あちしは大学の化学科を卒業しているんすよ。なので学んだ化学の力で料理を作る料理研究家なんす。調味料だって化学的に言えば原子が旨味を作り出しているような物っすからね!大学にいた頃読んだ本の著者にこんなことを言っている人がいたっす。「料理は化学の延長戦上にある」ってね・・・」
咲「藍那さんの言うことも一理あるとは思いますが、調理器具は普通のものを使った方がいいんじゃないですか?」
那「それじゃ化学科卒業した身としては面白みがないじゃないっすか。実験器具を使うことがあちしの個性なんすよ!」
柚「・・・面白さか。藍那さんの個性が出てて素敵だと思いますよボクは。」
那「柚歌さんはわかってくれるんすね!あちし嬉しいっす!」
柚「完全に理解できるわけじゃないけど・・・」
萌「ごめんなぁ、この子こういうこだわりは譲らへんのよ。」
那「もちろん料理に使う実験器具は薬品の調合には使用していないものですし、殺菌して清潔にしてありますんで心配いらないっすよ。」
麗「それぐらいはしておいてもらわないと不安で使えたもんじゃないわよね。」
那「じゃ、あちしの話はここまでってことで、肉を焼いていくっす。三脚の上に鉄板を置いて、その下にガスバーナーを設置して焼いていくっす。火力が強いから自分を焼かないように気を付けるっすよ。それと、お好みで野菜とかフライも一緒に焼くとおいしいっす。ここにあらかじめ調理しておいた玉ねぎとか唐揚げがあるから好きなだけ持っていくっすよ。」
藍那は切って茹でてある玉ねぎや人参などの野菜と作っておいた唐揚げやカキフライを取り出して並べた。
咲「どれにしようかな・・・やっぱり王道の玉ねぎととうもろこしかな。」
嘉「玉ねぎととうもろこしは王道やな。レストランのステーキとかでも付け合せでついてくるのをよう見るわ。」
柚「ボクは茹でた人参にしようかな。肉が茶色だから彩りが良くなると思うよね。」
陽「わたしはウインナーにするよぉ。」
麗「陽姫は随分ガッツリ行くのね。そういうあたしも唐揚げ選んじゃってるけど・・・」
嘉「メインの肉と一緒にウインナーや唐揚げのような他の肉料理がのったメニューも定番やからな。」
那「みんな具材は選び終わったみたいっすね。じゃ、肉を鉄板に乗せて焼いていくっすよ。最初はガスバーナーの火を弱めにして弱火でじっくり火を通すっす。」
藍那はガスバーナーを点火し、弱火に合わせて鉄板を熱していく。
那「火の取り扱いは危険っすから火力が分からない、自信がないって人はあちしに必ず聞くようにしてくださいね。」
麗「バーナー使ったことないけど、栓開けて、これぐらいの火力でいいかな。」
那「愛麗さんお上手っすね。バーナーの使用経験ってあったりしますかい?」
麗「ありませんね。昔理科の実験で使った時ぐらいです。」
那「いやー・・・あちしは一発で火の調節できたことないっすからね・・・お、嘉月さんと咲彩さん、柚歌さんも中々お上手で。」
嘉「ウチはハンドバーナーを何度か使ったことがあるんで、その時の感覚を元にやってみたわ。」
咲「私の家IHコンロなのでこうやって火で直接焼くのって久しぶりで楽しいなぁ・・・」
麗「あれ?咲彩の家ってIHだったっけ?」
咲「最近母屋の一部をリフォームしたの。その時に危なくないようにってガス設備を電化したんだよ。」
柚「ボクは昔アウトドアで使った経験があるんです。それよりも陽姫ちゃんを見てあげてください。ちょっと心配なので・・・」
那「分かったっす。」
藍那はすぐさま陽姫の所へ向かった。陽姫はやはり使用に慣れていないのか、火を出すことにすら戸惑っていた。
陽「火を出すのはこのコックを捻ればいいのかなぁ・・・えいっ、あ!出たけど・・・すごく火力が高いぃ~!」
那「陽姫さんすぐにコックを元の方向に戻してくださいっす!」
陽「は、はいっ!」
那「危なかったっす・・・陽姫さん、分からないときはあちしに必ず聞いてくださいね。自分の料理教室で誰かが怪我するのだけは嫌なんすよ。」
陽「ごめんなさい・・・」
那「分かってもらえればいいっす。じゃ、あちしが教えるからその通りにやってください。コックは一気に開けずにゆっくり捻ってください。」
陽「こうかなぁ・・・」
那「いい感じっすよ。そうしたらバーナーの下にあるネジで火力を弱火に調整するっす。調整できたら鉄板の下入れて肉をじっくり焼いていくっすよ。
陽「わかりましたぁ・・・」
那「肉を火にかけてある程度時間が経ったらトングで肉をひっくり返して他の面を焼いて行って肉が自分の思う焼き加減に焼けたらさっき選んだ具材を鉄板に乗せて少し火を通したら・・・完成っすお疲れ様でした!」
陽「つかれたぁ・・・でもできたよぉ。」
那「陽姫さんお疲れ様でした。他の皆さんも完成したっすね。」
咲「はい。藍那さん、はるちゃんに色々指導していただいてありがとうございました。」
嘉「ウチらは慣れてたし、問題なく綺愛麗に焼けたで。」
柚「ボクは他のみんなの手順を見よう見まねだけど、それなりのものにはなったからいいかな。」
麗「柚歌ってほんと器用よね。」
那「それでは早速いただきましょう。あちし普段から使っているソースも3種類ありますんでたくさん使ってどうぞ食べちゃってください!」
柚「ソースを入れる容器まで実験器具・・・徹底してるね。」
藍那はビーカーに入ったステーキソース、シャーレに入ったガーリックマヨネーズ、三角フラスコに入ったわさび醤油を取り出した。愛麗たちはそれぞれ好きなソースをステーキにかけて食べ始めた。
麗「まさか料理教室でステーキ作れるなんて思わなかったわ。」
咲「藍那さんの料理教室っていつもステーキのような料理を作ったりするんですか?」
那「いや、今日は特別っすよ。ちょうど具材があったのと、皆さんになんだか親近感がわいてしまって。」
柚「親近感?」
那「はい。あちしと陽姫さんすごくよく似てるなって思って・・・」
陽「わたしと?」
那「昔はあちし陽姫さんみたいに何をやってもなかなか上達しなかったんすよ。試行錯誤のなかようやく面白いと思えた化学に出会って自信が持てるようになったんす。」
陽「そうなんだぁ。わたしも得意なことや夢中になれること・・・天体観測と家庭菜園をもっと深くやってみるよぉ!それが自信につながればいいな。」
咲「はるちゃんなら自信持てるようになるよ。作ってくれる野菜もおいしいし、星のことならたくさん知ってるスペシャリストだと思うから。」
那「ところで・・・萌黄ちゃん、今日のあちしの教え方どうだったっすか?」
萌「まあ良かったんやないの。嘉月ちゃん達も無事調理を終えて美味しく料理を食べられたわけやし。せやけど、作るメニュー決めと生徒さんが来るときには起きていることを徹底せい。」
那「萌黄ちゃんは厳しいっすね。ですがこの評価を胸にあちしはもっと精進させていただきます。皆さんも良かったらまた来てください。あちしはいつでも待ってますからね!」

そして後日・・・愛麗は水晶学園の食堂テラスで料理教室を経験したことを凛世と和琴に話していた。
麗「・・・ってな感じで藍那さんの料理教室行ったんだけど、美味しいステーキ食べられるとは思わなかったわよ。」
凛「料理教室でステーキを作るというのはなかなかないと思いますので運が良かったのかもしれませんね。」
和「あたしたちも千葉崎姉妹のうちの一人にあってきてたんだけどね夜光。」
凛「はい。とても素敵な方でしたよ。」
麗「そうなんだ。ってか2人で出かけるなんて珍しいわね。」
和「2人だけじゃないわよ。織田倉と藤金と鷲宮も一緒だったし。」
麗「珍しい組み合わせじゃない。それで誰に会ったのよ?」
凛「四女で女優の百合ヶ丘光さんです。」
麗「有名女優に会えたなんて羨ましいわね。確か前に禰恩さんが言っていた女優のお姉さんだっけ?」
凛「そうです。ドラマとかで行っている演技の仕方について教えてもらいました。サインもいただいたんですよ。」
和「生泉もあってみたくなったんじゃない?連絡先聞いたし地下書庫の場所教えてあるから、呼べば来てくれると思うわよ。」
麗「うーん・・・急がなくても千葉崎姉妹全員に合う日会える日が近いうちに来る。そんな気がするわ。」
しかし、愛麗の何気ない発言から飛び出したこの予想は後にとてつもない大騒動につながることになってしまうのであった・・・