光り輝く気鋭の女優

水「なぁ、お前らに少し頼みたいことがあるんだけどいいか?」
和「織田倉があたしたちに頼みごとなんて・・・」
凛「珍しいですね。」
水「実は・・・今度の週末百合ヶ丘光さんが来るイベントに応募したんだけどさ・・・」
和「百合ヶ丘光・・・確か本名は千葉崎光で真凛さんたちの姉妹のうちの1人よね。大人気の女優さんだっけ?」
凛「織田倉さんって女優さん好きなのでしたっけ?」
水「そうでもねえけど・・・アタシ、光さんの事は好きで出演しているドラマや映画は全部見てんだよ。実はそのイベントのチケット、5人1組の特別券が当たっちまったんだ。この特別券があるとイベント後に楽屋で光さんと生で会うことができるらしいんだ。だけど5人そろわないとその権利が無効になっちまう。だから協力してくれないか?」
百合ヶ丘光はイベントが開催されるたびにチケットの中に特別券を仕込み、その特別券に当選したファンを楽屋に呼んで(勿論警備有)対談をすることで有名なのである。
凛「私は予定はないので別にかまいませんけど・・・眞武さんはどうなのですか?」
和「あたしに頼まなくても神宿とか西園寺がいるんじゃないの・・・」
水「咲彩たちは愛麗と一緒にその日料理教室に行くって言ってたんだよ。もう怜菜ちゃんとラニーに頼んであるからあと2人必要なんだ!」
和「分かったわよ。後で何か奢りなさいよ。」
水「ありがとな!イベントは週末の午後1時からだからよろしく頼むぜ!」
こうして、凛世と和琴は水萌に強引に誘われる形で週末のイベントに参加することになったのだった。

そしてイベント当日。百合ヶ丘光の姿に水萌は終始興奮しっぱなしであった。
光「皆さん、今日は私のイベントに来てくれてありがと~!」
水「うおー!光さん最高だぜええええ!!!」
和「こんなにはしゃぐ織田倉初めて見たわ。」
ラ「水萌サン楽しそうデスね!」
怜「人は見かけによらない・・・」
光「それじゃ、今日はこのぐらいでだけど・・・特別券が当たった幸運なファンたち、私の楽屋にぜひいらっしゃいね!」
光はイベントの終了間際になるとそう言って舞台から降りて行った。イベント自体は問題が起こることもなく無事に終了し、水萌たちは光のいる楽屋にやってきた。楽屋となっている部屋の中には光が待っていた。光は明るい茶色の長髪にヘアバンドをしていて身長は高く170cmはあるかなりの美人だ。
水「失礼いたします・・・」
光「あら、いらっしゃい。貴方たち5人が特別券に当選した幸運な美少女達なのかしら?」
水「光さん、サインください!私の名前を入れてもらえると嬉しいです!」
光「そんなに焦らなくたっていくらでも書いてあげるわ。キミの名前はなんていうの?」
水「織田倉水萌です!」
光「水萌ちゃんね・・・はい。大切にしてよね。」
光はサイン色紙に慣れた手つきでサインを書くと水萌に渡した。
水「ありがとうございます!私の家の神棚に飾らせてもらいます!」
光「そこまでしなくてもいいのに・・・水萌ちゃんって面白いね。」
凛「織田倉さんが丁寧に話しているの初めて見ました・・・」
光「水萌ちゃん以外の君たちは私に何か聞きたいこととかあるかな?特別だから下ネタ以外ならなんでも答えちゃうよ。」
凛「光さんって本名千葉崎ですよね?あなたの妹の禰恩さんからそう聞いたのですが・・・」
光「へぇ。禰恩と知り合いなんだ。キミのいう通り私の本名は千葉崎光で訳あり13姉妹の四女なんだ。だから生きるのにはなかなか苦労したよ。あまり人には言わないんだけど、姉妹の中で私だけ学歴が高校中退なんだ。私教師と相性悪くて、低い成績つけられたことがあって内申書で落とされてレベルの低い高校に行かざるを得なかったんだよ。昔は水晶学園もなかったからさ。」
ラ「教師と相性悪いってどういうことなのデスか?」
光「私結構はけ口にされてたんだ。ちょっと重い話になっちゃうけどいい?」
水「聞きます。光さんの話なら何でも聞けます!」
光「ふふ、水萌ちゃんみたいなファンに恵まれて私は幸せね・・・私は昔陸上競技の選手だったの。長距離走を専門にやっていたわ。昔はオリンピック選手の候補とまで言われたことがあったわね。」
ラ「そこまで実力があったのになぜ女優になったのデスか?」
光「高校の頃、生徒会長をやっていた春南が・・・春南ってのは私たちの姉妹の長女ね。当時春南は生徒会長をやっていたんだけど、途中でやる気をなくしたみたいで私に押し付けてきたの。当然私は断ったんだけど春南は教師の信頼を得ていたから教師の一人を利用して私を・・・階段から突き落としたの。」
水「ひでえな・・・」
光「高所から落ちたせいで私は足を打って骨折して二度と陸上はできなくなってしまったの。その後は春南の強制指名で私は生徒会長に。慣れない仕事を大量に押し付けられた上に校内で誰かが問題を起こしたらすべて私の責任にされて反省文を綴る日々・・・ある日耐えられなくなった私は教師と喧嘩したの。その結果、その時期の成績を全て1にされて強制的に補習。高校と教師に失望した私は加害した教師に恨み辛みを全てぶつけて退学して、不良のようになってしまって毎日喧嘩に明け暮れる日々が始まった。高校の教師共が飲みに来てた繁華街に入り浸って闇討ちやってたの。もちろん盗んだりはしなかったけど。」
エ「中退して辛くなかったの・・・」
光「辛いわよ。春南は元凶の癖に私を毎日のように出来損ないと呼んで家から追い出すと脅したの。そんな日々を送っていたら虚しくなって、春南への復讐も兼ねて高認試験を受けて騎ノ風総合大学の演劇科に入学して一からお芝居を学んだわ。勉強は嫌いじゃなかったし元々演劇とかミュージカルを見に行くのが好きだったから。」
和「一連の騒動は他の姉妹に相談できなかったの?」
光「できるわけがないわ。翠子と紅羽は引きこもってたし、真凛も創作一筋だったから、春南を除けば私が千葉崎姉妹のお手本にならなければいけなかった。父さんは役立たずだったし相談機関や相談所も使えなかったもの。」
凛「好きなことを続ける道を絶たれ、姉から面倒事を押し付けられて教師からも目の敵にされて不良になったなんて、とても壮絶な人生を送られてきたのですね。」
光「だけど、この経験が役に立って今では色々な役に入り込めるようになったんだけどね。」
水「やっぱり、光さんは素敵な女性です。それにしても光さんをスケープゴートにした教師たちはアタシが殴り飛ばしてやりてえな・・・」
光「ありがとう水萌ちゃん。それ聞けただけでも嬉しいよ。質問はこれぐらいにして、次は私がキミたちにモデル歩きを伝授しちゃうよ。」
水「いいんですか!?光さんから直々に何かを教われるなんて・・・ありがとうございます!」
和「えー、あたしそういうの嫌なんだけど・・・」
エ「嫌と言っても無駄・・・水萌ちゃんがやる気全開・・・」
和「分かったわよ。しょうがないわね・・・」
早速光は自分がお手本となり、華愛麗なモデルウォークを披露してみせた。
光「モデル歩きは姿勢を良くして、こんな感じで歩くのよ。」
水「こんな感じか・・・?」
光「水萌ちゃんはちょっと動きが固いかな。姿勢を良くする必要があるとはいえ、もっと力を抜いても大丈夫だからね。」
エ「普段身体動かさないから難しい・・・」
凛「こんな感じですかね・・・あっ、出す足を間違えてしまいました。」
ラ「無理していたら身体が痛くなってきまシタ・・・」
凛世やエレナらも苦戦する一方で和琴は難なくモデル歩きをしていた。
和「こんなもんよね。」
光「和琴ちゃんすごく綺愛麗なフォームだね!もしかして経験あったりするの?」
和「ファッションモデルの経験はないけど、地元紙のモデルやってたことあったんで、その時の経験を思い出しながらやっていたらこんな感じかなと思ってやってみたの。まったく、これだから嫌だったのに・・・」
光「何かモデル時代に嫌な経験でもあったの?」
和「ちょっとね。嫉妬とかやっかみとか・・・そういうの嫌いなのよあたしは。」
光「そういう部分って多いよね。この世界には1番になることを目指してやってきている子が多いから。だけど、1番になること以外にも大切なことってたくさんあると思う。そういう人たちこそベテランになってもモデル活動をしている人なんじゃないかな?」
エ「確かに・・・本当に好きでやっている人は嫉妬とかしないし気にしてられない人も多いと思う・・・」
光「どこの世界に行っても醜いことをする存在はいると思うのよ。だからそういう人たちには関わらなくていいし勝負なんてする価値もない。私はそうやって考えてる。そういう人たちに負けるなってよく言われるけどそれもちょっと違うと思ってるんだ。」
水「ちょっと違うというと?」
光「私は純粋にお芝居がしたいから女優になったの。私に危害を加えてくる人たちに復讐したいとかを見返したいからこの道を目指したんじゃない。だから復讐云々言われると少し違うんじゃないかなって思っちゃう。」
エ「光さんが女優のお仕事にとても誇りを持っているのが伝わってくる・・・」
ラ「好きなことを極めて、ここまで有名になった光サン素敵デス!」
光「それじゃ次は演技を教えようかな・・・?」
水「ぜひお願いします!!!」
その後も水萌たちは時間の許す限り、光からさまざまなことを教わったのであった。

光「今日はありがとう。楽しかったわ。」
水「いえ、私たちも光さんから様々なことを教えていただき、とても良い経験になりました。」
和「ほぼ織田倉の独壇場だったけどね・・・」
凛「私たち、本当に必要だったのでしょうか?」
エ「たぶん引き立て役・・・だけど、そんなポジションの人こそ縁の下の力持ち・・・」
ラ「エレナサンの言うとおりデス。時には脇役になるのも悪くないデスよ。」
水「なあ和琴。せっかくだしあそこの場所光さんに教えてもいいか?」
和「うーん・・・芸能人に教えて、TVとかでばらされると嫌なんだけどな。」
水「光さんはそんなことしないって!もし光さんがばらしたりしたら、その時はアタシが全責任を負うから!!!」
和「そこまでいうならいいわよ。あたしから見ても光さんが悪い人には全然見えないし。だけど、伝えるのはあんたから言いなさいよ提案者だし。」
水「ありがとう和琴。あの・・・光さん。」
光「ん?さっきから小声で話してたけど秘密の隠し事?私にも教えてくれるのかな?」
水「ええ、もちろん教えるつもりです。アタシたちここにある秘密の場所で色々なことをやって過ごしているんです。今忙しいと思いますが、時間ができたらここに来てみてください。光さんの姉妹・・・禰恩さんとか真凛さんも出入りしてますから・・・」
光「へえ・・・楽しそうじゃない。分かった、時間ができたら必伺わせてもらうわね。」
和「それとこの場所公表されていないあたしたちだけの場所なんで他言無用でお願いします。もしTVなどで発言してしまったら織田倉が責任取って取り返しのつかないことになる可能性も否定できませんのでよろしくお願いします。」
光「分かったわ・・・絶対に話さないようにするよ。約束する。その場所はキミたちにとって何よりも大切な場所なんだね。」
光は爽やかな笑顔でそう返した。
水「光さんの笑顔・・・どんな芸術よりも美しい!写真撮っていいですか?あとで写真見せて柚歌に描いてもらおう・・・」
凛「織田倉さん、そのあたりにしておきましょう。光さんだって困ってしまいますよ?」
水「あ、つい・・・」
光「良いよ気にしないで。私も今日は久しぶりに賑やかで楽しかったから写真の一枚ぐらい撮っても構わないよ。だけど、今日はもう遅いからこれぐらいにしておきましょうか。」
水「ありがとうございます!!!」
その後水萌は光の素敵な表情の写真を撮影することに成功。柚歌には絵を描いてもらい、写真自体は末代までの家宝にすると断言したのだという・・・

そして後日、和琴と凛世は水晶学園の食堂テラスで光と会ったときのことを愛麗に話していた。
和「というわけで織田倉に巻き込まれる形で百合ヶ丘光さんに会ってきたのよ。本名は千葉崎光さんで真凛さんたちの姉妹だというのも本当だったわよ。」
凛「モデル歩きのやり方やドラマとかで行っている演技の仕方について教えてもらいました。サインもいただいたんですよ。」
麗「へぇ・・・千葉崎姉妹ってほんと多才よね。それにしても有名な女優に会えるなんて、ラッキーね。とはいえ、あたしが行っていた料理教室の先生も千葉崎姉妹の11女藍那さんだったんだけどね。」
凛「愛麗はその藍那さんの所に誰といったのですか?」
麗「えーと、咲彩と嘉月、陽姫と柚歌とあたしで計5人ね。」
和「ほぼ調理部のメンツって感じね。西園寺は料理するイメージないから意外だけど。」
麗「陽姫は最後の方だいぶできるようになってたわよ。藍那さんと相性が良かったみたい。柚歌も料理初めてだったって言ってたけど、そつなくやってたわ。」
凛「色部さんは生まれつき器用な方なのでしょうね。」
和「そういや生泉、あんた藍那さんに地下書庫の場所教えたりした?」
麗「あたしたちの方は教えてくるの忘れちゃった。だけど、全員書庫の場所を知らなくてもそのうち集まるような気がするのよね。」
しかし、愛麗の何気ない発言から飛び出したこの予想は後にとてつもない大騒動につながることになってしまうのであった・・・