水晶学園は普通科目以外に専門的な選択科目を取り揃えている特殊な女子校である。なので教育実習のやり方も特殊であり、水晶学園に行く未来の教師候補たちは水晶学園に採用される前提での実習指導が行われている。今年も教育学部の大学から実習生がやってきた。
?「理事長先生に鮫川先生、本日からよろしくお願いいたします。」
理「君は埼玉教育大学からきた串町先生だね。今日からよろしくお願いするよ。」
串「はい、一週間という短い期間ですが生徒たちの力になれるようやらせていただきます!」
理「それとこちら、串町先生の教育実習を担当することになる1学年1組を受け持っている鮫川先生だよ。」
鮫「鮫川です。これから一週間よろしくお願いします。さんはこの学校に教育実習に来たということは水晶学園に採用されることが前提での実習を受けると言うことですね?」
串「はい!私、ずっとこの学校にあこがれを持っていて・・・学生だった頃才能が無くて過去に不合格になって入学はできなかったのですが、それだったらここにいる生徒たちの能力を開花させるためのサポートを行いたいとずっと思っていたんです!」
理「君の大学から送られてきた資料に担当したい科目が外国語系、特技に複数の言語を話すことと書かれているけど、配属された場合はその希望通りでいいのかね?」
串「はい。私は大学で様々な言語を学びました。こちらに採用されたら様々な言語や国の文化を生徒たちに教えていきたいと思っています。」
鮫「私のクラスは1学年の1組だけど・・・この学校はクラスに縛られないような環境づくりを行っているからあまり関係ないかな。」
串「先生の生徒さんたちってどんな子たちなんですか?」
鮫「悪いやつはいないんだけど性格的に厄介な奴が多いってところですね。だけどほぼ全員小学校からの幼馴染なのでいざという時の結束力は強いんですよ。」
串「そうなんですか・・・早く会ってみたいです!」
理「鮫川先生、あとはよろしくお願いしますよ。」
鮫「わかりました。では、教室に行きましょうか。」
串「はい!」
鮫川先生は串町先生を連れ、理事長室を出ると1組の教室へ向かう。3Fにある1組の教室の前に着くと説明を始める。
鮫「ここが私の担当している教室です。私が先に入って紹介しますので呼ばれたら入ってきてください。」
串「はい。分かりました。」
鮫川先生は串町先生よりも先に教室の扉を開け、中に入って行った。
鮫「お前たち席に着けー。」
麗「あ、先生来た。」
和「話の続き気になるけど後にするか・・・」
串「(可愛くて賢そうな子ばかり・・・これが才能を持つ子たちの集まりなんだな・・・)」
鮫「お前たちはすでに知っていると思うが、今日から教育実習の先生が1週間ほど来て下さることになった。迷惑をかけたりしないようにな。先生、入ってきてください。」
串町先生は教室に入るとホワイトボードに名前を書き、自己紹介をする。
串「初めまして、串町美風です。埼玉教育大学で教育と外国語を中心に学んでいます。短い期間ですがよろしくお願いします。」
串町先生が自己紹介を終えると愛麗が口を開く。
麗「先生名前なんて読むの?みふう?みかぜ?」
串「えっと貴方は・・・生泉愛麗さんね。確かに読みにくいよね・・・正しい読み方はみふうなんだけど、好きな呼び方読んでくれていいよ?」
環「なら串ちゃん先生って呼び方どうだし?」
串「貴方は・・・花蜜環輝さんね。いいよ、串ちゃんって呼ばれていた経験もあるし・・・」
鮫「お前らあまりちょっかい出すなよ。それじゃ今入っている連絡事項はカフェテリアの一部で改修工事が行われていることと最近不審者が学校の周辺にいるよう気を付けるようにとのことだから今日も一日よろしくな。この後は各自授業に向かうように。」
「「「はい。」」」
鮫川先生がそう言い切ると愛麗たちは移動教室のように自分の荷物を持って教室から移動し始めた。
串「教室で授業しないんですか?」
鮫「先ほども言った通り、この学校は授業も特殊なやり方をしているんです。授業も例として私の授業を実際に見せますからついてきてください。」
鮫川先生の1時間目の授業は人気も高い実践数学。受講人数も多いので授業は大ホールで行われていた。
鮫「では今回の時間の授業を始める。今日から一週間私が受け持つことになった教育実習生の串町先生に授業のアシスタントをしてもらうことになったからよろしく頼む。」
串「串町です。皆さんよろしくお願いします。」
鮫「さっそく授業を始めて行こう。今日はこの道具を使って・・・」
串町先生は鮫川先生の普通の教育から大きく外れた授業を見て、そんなこんなで授業はいつの間にか終わっていた。
鮫「・・・では今日の授業はこれまでにする。今回の授業が少しでも皆の心に残ってくれれば幸いだ。」
串「素敵・・・水晶学園ではこんなに面白い授業が行われていたんだ・・・」
鮫「串町先生、この学校の授業を見てどうでしたか?」
串「はい、普段授業で使わないような道具を使って、教科書とか使わないのが意外でした・・・」
鮫「この学校の授業では普通科目以外で教科書を使用しないんです。生徒にストレス、教師に負担がかからないように
串「テストとかはないのですか・・・?」
鮫「あります。テストのやり方は授業ごとに違うのですが私はプリントの配布をしているので基本そこから問題を出しますね。」
串「そうなんだ・・・次の授業はどのようなことをやるんですか?」
鮫「私の次の授業は午後まで休みなんです。なのでこの学園で過ごすのに必要になる場所を案内しますよ。」
串「ありがとうございます!理事長室に来るときもこの学校に広さに色々困っていたので・・・」
鮫「ではまずは・・・この学園のカフェテリアを案内しますよ。ついてきてください。」
串町先生は鮫川先生の案内でカフェテリアにやってきた。
鮫「ここがカフェテリアです。食事は教室や職員室でも食べることができますが・・・ここには人気なお店が多数入店していて食べにくる生徒や教師も多いです。」
串「素敵なお店がたくさんありますね・・・高校の設備とは思えないです。」
鮫「うちは理事長が生徒や教師心と精神のケアを大事にしているので快適な場所で過ごしてほしいとこういう設備をたくさん作ったんだそうです。昨今では教師のブラック勤務が話題ですけど、うちの学校はその日に担当している授業が終われば教師も生徒も帰宅してます。部活動も地域のスポーツクラブと提携しているので、やりたい生徒はそっちでガッツリ練習に取り組んで教師は基本的に顧問などの役職にはついていないんです。」
串「そういうやり方って素敵です。教師を辞める人を減らすことに繋がりますものね。あ、あそこに座っているのは・・・えっと、色部さんに西園寺さんだよね?」
柚「串町先生に鮫川先生。お食事ですか?」
陽「授業しなくていいんですかぁ?」
串「うん、今鮫川先生の授業が休み中だから学校の設備を案内してもらってるんだ。色部さんは何をしているの?」
柚「ボクはさっきの立体美術の授業で出た課題をやってるんです。これでも画家志望なので。」
鮫「柚歌は絵が凄く上手なんですよ。私でも驚くぐらいで。」
串「もしよかったら・・・見せてくれないかな?」
柚「少しだけならいいですよ。どうぞ。」
柚歌は絵を描くのに使っていたタブレット端末を串町先生に渡した。
串「タブレットでこんなにかわいい絵を描くんだ・・・あ、この女の子好きかも。色部さんは水彩画とか紙に描く絵はやってないの?」
柚「そういうのは自宅でやってるんですよ。画材道具を持ち運ぶのも中々重いので。」
串「やっぱり私が学生だったころと比べて学生が学べる環境も大きく変わっているんだね・・・西園寺さんは何しているの?」
陽「わたしは今年育てようと思っている野菜を辞典で見てるんだぁ。」
鮫「陽姫は天体と園芸に詳しいんです。私の知らない星の名前や植物の育て方まで知っているぐらいで・・・」
串「西園寺さんは去年どんな野菜を育ててたの?」
陽「去年はキャベツとか・・・メロンとか育ててたよ。」
串「そうなんだ・・・ということは西園寺さんの家の庭ってすごく広いんだろうね。」
陽「庭はないよ。わたしの駅近くの家ビルまるごと自宅なんだぁ。そのビルの屋上で野菜を育てているの。」
串「ビルに住んでるんだ・・・(私には一生無理かな・・・)」
鮫「串町先生、そろそろ。次は研究棟の案内をします。柚歌、陽姫。ありがとうな。」
串「分かりました。2人とも休憩中にありがとう。」
柚「いえ、また何か聞きたいことがあったら聞いてくれていいので・・・」
陽「先生もこの学校に慣れてくれると嬉しいなぁ。」
次に2人は学園の西側にある研究棟にやってきた。
鮫「この先にある建物は研究棟で、この学校の講師の一部もここに研究所を持っている人もいるんです。」
串「研究所ってことは本物の研究者が講師になることもあるんですか?」
鮫「私たち教師だけでは賄えない分野の知識もありますから。それと、生徒の中にも研究室を持っている子もいるんですよ。」
串「生徒が研究をしているんですか・・・?」
鮫「はい、この学園では中々研究熱心な子も多いので・・・私が受け持つ生徒の中にも研究室持ち入るんですけどね。案内しましょうか?」
串「ぜひお願いします!」
鮫川先生は研究棟の3号棟に入ると、303と書かれた部屋の前に案内した。
鮫「確かここだったな・・・環輝、エレナ。いるか?」
環「はいはーい・・・鮫川先生じゃん。何の用?」
鮫「串町先生にお前たちの研究室を見せたいんだがいいか?」
エ「あいにく今は何も見せるものはないけどお茶ぐらい出すのでどうぞ。」
環「じゃ、ロック解除するからはいっていーよ。」
環輝がロックを解除し、研究室の扉が開く。中はいくつかの資料と数台のコンピューターが設置されているだけの簡潔なつくりだ。
串「ここは2人の研究室なの?」
環「主にレナちゃんの研究室なんだ。環輝の研究室は自宅にあるから。」
エ「ここで日々様々な発明を作っている・・・」
環「レナちゃんは研究室を5つぐらい持ってるんだよ。ここはそのうちのひとつなわけ。」
鮫「エレナの発明は一見何に使うか分からないのも多いんですが、いざという時に役立つものが多いんです。」
エ「先生一言余計・・・そういえば、コーヒーで良かった?」
エレナはコーヒーの入ったカップを持ってきながらそう言った。
鮫「ああ問題ない。いただくよ。」
串「鷲宮さんの発明品ってどんなものがあるの?少し見せてくれないかな?」
エ「これとかどうですか・・・」
エレナはそう言うと戸棚に会った発明品の中から箱型の物を持ってきた。
鮫「ただの箱にしか見えないが、これは何に使うんだ?」
エ「先生一言余計!・・・これは指紋認証の技術を用いて作った指紋認証BOX。私は片腕ないからできないけど・・・」
串「え?鷲宮さんの腕はちゃんとあるじゃない?」
エ「この腕は義手。だから指紋ない。」
鮫「エレナは腕を欠損していて義手で生活しているんです。」
串「そうなの・・・ごめんなさいこんなこと聞いちゃって・・・」
エ「もう慣れてるから別にいい。環輝ちゃん、ちょっとここに指をかざして。」
環「分かったし・・・こんな感じでいいの?」
エ「この箱は1回指紋を認識させれば登録されるから大丈夫。もう一回お願い。」
環「おけー。」
環輝が再び指をかざすと箱の上部が自動的に開いた。
環「おっ、箱が空いたじゃん。」
エ「この中には好きなものを入れておける。もう一回登録した指で指紋を認識させると箱の上が閉じる。自分以外の指では開けられないから中に秘密の物を入れて守ることもできる。箱の底にあるリセットボタンを押すと他の人の指紋を再登録することもできる。」
串「すごいテクノロジーだね・・・」
エ「というわけで私は普段こういう発明をしています。」
串「高校生で・・・こっちにある大型のパソコンは何に使ってるの?」
環「それはゲーミングPCって奴だし。ネットゲームを快適にできるように環輝が作ったんだ~。」
鮫「ゲームやってるのか・・・ほどほどにしろよ?」
環「研究には息抜きも必要じゃん。先生だって数学の研究しているんだから分かるっしょ?」
鮫「それはそうだがな・・・遊びすぎなければ別にいいけどさ。」
串「遊んでいること注意しなくていいんですか?」
鮫「環輝やエレナがゲーム好きなのは悪いことではないですし・・・自分が好きだ、もしくは楽しいと思うことを突き詰めればそれが役に立つことだってあると思うんです。それに犯罪行為に手を出さなければこの学校では何をしようが自由ですからね。この世界に無駄なことはないっていうのも我が校の方法ですから。」
串「水晶学園はそういった指導法なんですね・・・」
鮫「では、昼食を終えたら午後の授業が始まりますのでまたアシスタントをお願いしますね。」
串「はい!」
その後も串町先生は水晶学園の普通とは大きく違う環境を身を持って体感した。講師や研究者による独特な授業、好きな事を自信を持って取り組む生徒たち、堅苦しい指導などはせずに本当に悪いことをしている生徒以外には口を出さない教員・・・串町先生にとっては水晶学園のすべてが新鮮に見えていた。そして教育実習1日目が終了した。
鮫「お疲れ様でした。実習1日目はどうでしたか?」
串「はい。大学で学んだ教育方法とは全然違っていて驚きました。ここの生徒さんたちはストレスも感じずにみんな楽しそうにしていますね。」
鮫「この学校のスローガンは普通の学校とは大きく違ってまして、「生徒のやりたいことを見つける手伝いをし自分のペースで目標を目指す」なので。だから私たち教員も余計な口出しはしないようにしているんですよ。さっき環輝が研究室でゲームしていると言ってましたけど、あれぐらいで怒ったりはしないんです。大体休憩時間にゲームしているからって怒るのは私もどうかと思ってますので。」
串「そういえば、鮫川先生も男性なのに長髪でも誰も何も言いませんものね。」
鮫「ああ私の髪ですか・・・実は私の心の問題でいろいろありまして。」
串「あっ、お答えしづらいことをうかがってしまったみたいで申し訳ありません・・・」
鮫「いえ、気にする必要はありません。串町先生、明日からもよろしくお願いします。」
串「はい!こちらこそよろしくお願いします。」
串町先生の実習はまだまだ続く・・・