教育実習生がやってきた 5日目

串町先生が水晶学園にやってきて5日目となった。
鮫「串町先生、学園にはなれましたか?」
串「はい。もちろん鮫川先生や生徒のみんなの手助けがあってこそですが・・・」
鮫「いえ、串町先生の今日はそうですね・・・週1である普通科目の日なので、1組の英語を担当してみますか?」
串「いいんですか・・・?」
鮫「とはいえ、あいつらはちょっと変な所もあるんで気を付けて下さい。」
串「変な所?私がここ数日接している限りでは皆いい子だと思いますけど・・・」
鮫「ちょっと捻くれてるっていうか、歪みがあるっていうか・・・」
串「そうなんですか。ですが、私もここの教員になるからには1組の子たちと心を通わせられるように頑張ります!」
そんなわけで串町先生は1組の英語の授業を担当することになったのだった。

鮫「皆、聞いてくれ。今日は串町先生が基礎英語Ⅰの担当をすることになったからよろしく頼む。」
咲「ずいぶん急なお知らせだね・・・」
柚「いや、ボクたちのクラスを担当している教育実習生だからいずれはボクたちの授業を受け持つことになるって何となく予想はできてたよ。」
環「串ちゃん先生ー。がんばだしー。」
和「あまり接してないのにずいぶんなれなれしく話すわねあんた・・・」
串「よろしくお願いします。では、今日は前回やったところからやりますので教科書の35pを開いてください。」
串町先生は淡々と授業を進めていく。しかし・・・咲彩などの真面目な部類に属する一部の生徒たち以外は退屈そうにしていた。
麗「・・・(選択授業の課題をやっている)」
陽「・・・zzz。」
串「あのみんな・・・私の授業つまらない?」
凜「そんなことはありませんよ?」
咲「もう、みんなすでに知ってる場所だからって授業は聞かなきゃダメでしょ。」
串「すでに知ってるってどういうこと・・・?」
和「このクラスの連中は選択授業に専念するために基礎科目はすでに予習している奴が多いのよ。」
柚「だから基礎科目の授業の時間で選択授業の課題をやる人も多いんです。」
串「そうなんだ・・・分かった、今度はもっとみんなが面白いって思える授業を考えてくるからね。」
鮫「すいません串町先生・・・」
串「いいんです、私の力不足ですから。皆、理解できているのなら聞かなくてもいいけど授業は最後までやるからね。」
結局、課題をやりつつ授業を聞く生徒が減ることはなかった。

そして時間は一気に昼休み。串町先生は先ほどの授業での失態に落胆していた。5日目になったのですでに1人で行動できるほど水晶学園に慣れたので、カフェテリアで今後のことを考えようとすることにした。
串「もっと生徒たちが楽しめる授業を考えないと難しそう・・・ここの教師になるなんて甘かったのかな・・・」
沈んだ気持ちで席に座った
麗「あれ、串町先生じゃない?」
串「生泉さん。それに夜光さんに眞武さんに天宮城さんに雷久保さんも。今お昼なのかな。」
凜「はい。私たち昼食はここでよく食べているんですよ。」
嘉「このカフェテリアは自分で持ってきた弁当とかを持ち込んでもええんやで。ウチら生徒ありきの商売やからな。」
麗「そこの席空いてるから座っていいよ。」
串「ありがとう。座らせてもらうね。」
串町先生は愛麗たちの座っている6席のテーブルの空いている椅子に着席した。
串「ねえ生泉さんたち、正直に答えて欲しいんだけど・・・わたしの英語の授業面白くなかったの?」
奈「いえ、典型的な普通の授業という面で見れば問題はなかったと思いますわ。」
和「だけど英文書いて読んでそれを説明するだけじゃ面白さがね・・・」
串「やっぱりそうなんだ・・・」
嘉「ちょっと和琴ちゃん、そんなに正直に言わんでもええやないの。」
和「だって面白くないのはほんとの事だし・・・」
串「いいのよ雷久保さん、皆の興味を引き付けられなかった私の力不足だもの。」
麗「だけど串町先生が落ち込んじゃうのも無理ないね。この学校の授業ってほんと変わってるって言われてるから。」
串「具体的にどんな授業が行われているの?みんな鮫川先生みたいに道具とかを使っているの?」
麗「あたしの取っている授業だと・・・話が脱線する教員とか、授業前に研究のために海外に行った話をする教員とかいるけど。」
凜「ですが、それが面白さを引き立てているんですよね。私の音楽の授業にも楽器の話から急に歌の話に切り替える方がいるんですよ。」
和「この学校の研究者ってのは変人ばかりなのよ。」
嘉「せやけど、生徒が聴く耳を持ってくれる授業をできる面白さはあると思うで。」
奈「理科の実験のようなことを行っている授業が多いと思ってくださいまし。」
串「実験かぁ・・・つまりは生徒たちの目を引くような授業をやる必要があるってことだね。」
麗「串町先生が将来担当する科目は外国語系なんだっけ・・・毎回授業の前に外国語の詩を紹介してみるのはどう?」
串「外国語の詩かぁ・・・悪くないかも。」
奈「それ以外でしたら洋楽を紹介するのはどうですの?わたくし、お店の音楽で流れている洋楽が結構好きですの。」
串「洋楽も素敵なものが多いから、生徒の興味を引き付けるのにはもってこいだね。」
凜「ですが、授業内容を面白くすると言う根本的な問題解決はできてませんね・・・」
和「あたしらの中には外国語が得意な奴一人もいないのよね・・・そうだ柿崎先生に聞いてみるのはどう?あの人英語が専門だし何かいい案が思いつくかも。」
麗「楓のクラスの担任か・・・あたしあんまり関わったことないな。それに楓が言ってたけどあの人しばらくヨーロッパに研修に行くとか行ってたな・・・つまり今は学園にいないってことになるわね。」
串「柿崎先生ってそんなに学園にいないことが多いの?」
凛「はい、柿崎先生は海外に出張研修に行く頻度が高く学園にいないことも多いのです。」
奈「この学園の教員は出張と称して海外や全国へ自分の研究に行く方もいれば、鮫川先生のように学校だけで研究をする方も多いのですわ。」
串「みんな大学の教授並みに研究熱心なんだね。私も何かしら強みを持てるようにしないと・・・」
和「串町先生は大学で何の研究してんの?」
串「私は外国語と色々な国の言葉の文化について研究しているよ。」
奈「外国の文化をメインに研究しているんですのね。」
串「そういえば・・・天宮城さんお父さんイギリス人だったよね?欧州の事に詳しかったりするの?」
奈「教育実習生の先生がなぜそれを知っているんですの・・・」
串「鮫川先生がくれた1組生徒詳細名簿で2日目までに生徒の大まかのプロフィールは暗記してるから。」
奈「とはいえわたくしの場合はお父様がイギリス人なだけでして、わたくし自身はつい最近までイギリスに行ったこともなかったですわ。」
串「そうなんだね・・・」
和「外国語なら織田倉が詳しいんじゃなかったかしら。あいつ確かいくつかの外国語話せたわよね?」
串「織田倉さんはどこにいることが多いの?」
嘉「確か今日は放課後に立体図書館に篭って翻訳やるとか言ってたで。行ってみたらええんちゃう?」
串「そうだね。5人ともいろいろありがとう。」
串町先生は放課後水萌からアドバイスを聞くために立体図書館へ行くことにしたのだった。

そしてすべての基礎科目が終わった放課後。串町先生は鮫川先生に許可を取って学園の管理する立体図書館に来ていた。
串「こんなにビルみたいな図書館がこの学校にあるなんて・・・ええと、英文の本は6階っと・・・」
串町先生は図書館に設置されたエレベーターで6階まで上がると、水萌を探した。
串「ええと、織田倉さんは・・・あ、いたいた。織田倉さん!」
水「うわっ!なんだよ急に。あんたは確か・・・教育実習生の串町だっけか?教師なら図書館で大声出すんじゃねえよ。」
串「織田倉さんも口がちょっと悪いんじゃないかな?」
水「悪かったよ・・・それで何の用ですか?」
串「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
水「教師の方からアタシに聞きたいこと?説教ですか?」
串「違うよ。織田倉さんが外国語に詳しいって聞いたから、面白いって思う外国語の授業ってどんな感じ?」
水「それって教師が生徒に聞くものなのかよ・・・面白い授業なんてわかりませんよ。だけど今朝の基礎英語みたいに教科書をただなぞった教え方をする授業は面白くない。」
串「やっぱりそうだよね・・・」
水「先生はこの学校の生徒を見てきて何感じました?アタシが思うにこの学校の連中はみんな好きなことが違うんですよ。だから、興味がない奴を惹きつけられるような授業をやればいいと思いますよ。」
串「織田倉さんだったらどうするの?」
水「アタシは教職志望じゃないから・・・案を出すとしたら洋楽を紹介してみるとかいいと思います。」
串「やっぱり洋楽を紹介するのはいいのかも・・・ありがとう参考にしてみるね。」
苺「水萌君、探してきたけどこの本でいいのか。」
水「おう、ありがとな。その本が一番わかりやすく書いてあるんだよ。」
串「立屋敷さんも一緒だったのね。」
苺「先生がこんなところにくるなんて珍しいこともあるものなのだ。ちょっと水萌君にフランス語の課題で分かりづらかった場所を聞いていたのだ。」
串「面倒見もいいんだね。ちょっと怖いって思ってたけど」
水「そんなんじゃねーし・・・」
その時だった。6Fに設置してある非常階段の方から大きな音がした。
水「なんだ!?地震か!?」
串「地震!?2人とも机の下に・・・」
非常階段の方から怪しい感じの女性が現れた。
?「立屋敷さぁ~ん・・・こんなところにいたんだぁ・・・」
苺「その声は・・・」
水「お前、接触禁止の処分もらってたよななんでまた来たんだよ!!!」
?「そんなの知らないよ。立屋敷さんは私と永遠に一緒に暮らすんだからね・・・?」
苺「我は貴様などとそんな約束していない!!!」
串「誰・・・あの子?」
水「ここ最近苺瑠に付きまとってるストーカーだ・・・」
串「ストーカーがこの学園に?この学園にはセキュリティシステムがあるはずじゃ・・・」
水「理由は知らねえけど、何かしらの方法を使って苺瑠を探しては付きまとうんだよ・・・」
ス「今日はね、立屋敷さんが逃げられないようにお友達に協力してもらうことにしたんだ。サディストのサドコちゃんだよ。」
ストーカーがそう言うとすぐ後ろから攻撃的な目つきをした女性が現れる。
サ「フフフ・・・いじめたくなっちゃう顔してるわね。」
苺「我はいじめられるのもいじめるのも好きじゃないのだぁ!」
水「先生、苺瑠を連れて下のフロアへ逃げろ!それで下の職員さんに言って警察に通報しろ!」
水萌はそういうと2人の前に立ちはだかった。
サ「あーら、貴方から先にいじめられたいのね。ならお望みどおりにしてあげる!」
ス「ったく・・・私の本命は立屋敷さんなんだからこんな白髪はさっさと倒しちゃってよね。」
水萌は抵抗することもなくストーカーに四肢を固定され身動きが取れない状態にされた。
苺「すまん水萌君・・・先生早く行くぞ・・・」
串「・・・(硬直して動けない)」
苺「足がすくんで動けないのか・・・なら我だけ先に行くぞ!!!」
苺瑠は階段から下の回へ降りていった。サドコはどこからか愛用の鞭を取り出すと水萌の身体を叩き始める。
水「・・・っ、痛え・・・」
サ「こいつ全然抵抗しないな、やり放題でたっのしー!」
ス「こいつを降伏させたら立屋敷さんを追いかけて、私のものにしちゃうわ!」
2人は水萌に対して暴行行為を続ける。その一方で串町先生は足がこわばって動けない状態が続いており、頭の中でこんな風に考えていた。
串「(なんで・・・どうしてこの子たちは相手を簡単に傷つけようとするの・・・?)」
水「クソっ・・・痛え・・・」
その時、下の階に行った苺瑠から連絡を受けた大学の警備隊が駆けつけた。
警1「侵入者だな!大人しくしろ!」
サ「チッ・・・ずらかるぞ!」
ス「あーら残念。立屋敷さんとのラブラブはまた今度に取っておこうかしらっと。」
サドコとストーカーはそう言うと図書館の窓から逃亡した。2人は高い所から飛び降りる特殊訓練を受けているので問題なく飛び降りられるのである。しかし・・・下にはすでに多くの警備隊が総動員で張っており逃げられない状況を作り出していたのだった。
警2「・・・終わったなお前ら。」
サ「チッ・・・報酬がたくさん貰えるから協力したけど、こんなことになるんならこんなストーカーに協力するんじゃなかった・・・」
警備隊が確保したことでサドコとストーカーは無事警察に引き渡されたのであった。

その後、サドコの鞭で何発もたたかれた水萌は保健室で保険医の白絹から応急処置を受けていた。
水「いてて・・・」
苺「すまなかった。我がストーカーなんてされなければ・・・」
水「お前のせいじゃねーよ。」
白「もう、なんで抵抗しないの織田倉さん・・・」
水「アタシあんまり暴力振るうのとか好きじゃないんで・・・」
白「そういうのもほどほどに抵抗しないと殺されちゃいますよ。はい、手当終わったから少しベッドで休んでいってね。」
水「ありがとうございます・・・」
水萌はベッドに横になった。白絹先生は担任である鮫川先生に報告するために一旦保健室から出て行った。
串「織田倉さん、大丈夫?」
水「ああ。それよりもお前さ・・・」
串「どうかしたの?」
水「なんで・・・なんで苺瑠の事守ってやれなかったんだよ!!!アタシ言ったよな苺瑠の事連れて逃げてくれって!この学校は平和とはいえ嫉妬にかられたりしたああいう馬鹿が悪さをすることだってあるんだ!」
串「・・・」
水「・・・怒鳴って悪かった。先生だってこういうことに遭遇したの初めてで怖かっただろうしな。それでも・・・アタシは苺瑠の事守ってほしかったんだよ。こいつは昔からアタシや咲彩と一緒に育った妹見たいなもんだから。」
苺「水萌君・・・一応我と君は同級生であることを忘れないで欲しいぞ。」
その時、水萌が襲われたという連絡を聞いた鮫川先生が白絹先生と共に保健室に入ってきた。
鮫「水萌、大丈夫か!?」
水「鮫川先生。この通りアタシは全然問題ないですよ。」
鮫「傷だらけじゃないか・・・女の子の顔は大切なものなんだから、安易に傷をつけたりしたらだめだ。」
水「分かってるけどさ・・・あの時はああするしかなかったんだよ。」
鮫「そうだな、水萌は人一倍優しいから抵抗すら難しかったんだよな。」
苺「うむ。水萌君は昔から優しいのだ。」
水「別に優しくなんかねーよ・・・」
ベッドで横たわる水萌にやさしい言葉をかける鮫川先生と苺瑠。そんな光景を見ながら串町先生はこんなことを考えていた。
串「(鮫川先生も立屋敷さんも織田倉さんのこと思いやれて凄いな・・・それに比べて私は何をやってるんだろう・・・)」
思わぬアクシデントに見舞われてしまい生徒を助けられなかったことから自信を無くした串町先生。自信を無くしてしまった彼女の実習はついに最終日を迎える・・・