教育実習生がやってきた 7日目

串町先生の教育実習もついに最終日を迎えた。今日の判定試験の結果次第で水晶学園への採用の可否が決まってしまう。
しかし、串町先生は2日前にストーカーの脅威から水萌と苺瑠を守ることができなかったことを今でも落ち込んでいた。
串「やっぱり、私が教師になるなんて浅はかな考えだったのかな・・・」
そんな風に落ち込んでいる串町先生のようすを近くで愛麗、和琴、嘉月、凛世が見ていた。
麗「串町先生随分な落ちこみようね。なんかあったのかしら。」
和「織田倉が言ってたんだけど、一昨日織田倉と苺瑠がストーカーに襲われたとき恐怖で動けなくなったみたいでね、2人を助けられなかった自分を責めているみたいよ。だけど織田倉はそこまで怒ってなかったけどね。」
麗「それに確か今日って串町先生の実習日が最後の日じゃなかったっけ。」
凜「この学校の教育実習の最終日って、判定試験があってそれで採用の可否が決まるのでしたよね?」
和「あいつ、今の状態なら確実に落ちるわよ。」
嘉「何か元気が出る方法があればええんやけどな。ウチ、この一週間で串町せんせのこと見て思ったんやけど、この学校に入ってほしいぐらいええ人や。」
麗「だからって、何か方法があるの?」
和「生泉の色気で元気づけるのはどうかしら?」
麗「ちょっと何言ってんのか分かんないんだけど・・・」
和「生泉の胸を利用して串町先生に元気になってもらうのよ。」
麗「嫌よそんなの!」
凜「眞武さんそれはダメです愛麗は私の大切な・・・」
麗「そんなにやりたいなら和琴がやってあげればいいんじゃないの。あんただってスタイルいいでしょ元モデルなんだし。」
和「しゃーないわね。あたしがやるか。」
凜「眞武さん・・・もう何があっても知りませんよ・・・」
和琴は凜世の制止を振り切り、落ち込んでいる串町先生の所へ向かった。

和琴は机に頭を突っ伏している串町先生に声をかける。
和「先生~元気ないわね~。あたしのここで元気にしてあげよっか?」
和琴はそう言いながら服の胸元を少しだけ開けて中を見せた。そこから緑色の物が覗いている。
串「え・・・眞武さんだめよ女の子がそんなはしたないことしたら。私に気があるわけじゃないんでしょ。」
和「そうだけど・・・」
串「貴方には天宮城さんがいるでしょ?眞武さんはなんかこうちょっと軽めな気持ちなのかもしれないけど・・・自分の身体を安売りなんかしちゃダメ!」
和「なんであたしの交友関係知ってるんですか・・・」
串「それは・・・一週間も貴方たちを見ていればそれぐらいわかるもの。それと放課後ちょっと私のところへ来てくれる?もちろん貴方だけじゃなくてそこにいる生泉さん達もね。眞武さんをけしかけたの貴方たちでしょ?」
串町先生は近くに固まって座っていた愛麗たちに声をかけた。」
麗「いや、今のは和琴が勝手に動いてやったことで・・・」
串「いいからきてちょうだい。色々と話したいことがあるから。」
麗「・・・どうする?」
嘉「行かへんと退学にされるんとちゃうかな・・・」
凜「行きましょう愛麗。きっと問題ないですよ。」
麗「和琴の身勝手でなんであたしらが呼び出しを・・・」
結局、勝手に動いただけの和琴だけでなく本当にただ近くにいただけの愛麗たちも呼び出しになってしまったのだった。

放課後の空き教室。そこには串町先生と愛麗達が対峙していた。
串「それでは貴方達に説教を・・・するつもりはありません。」
和「ならなんで呼び出したのよ!?」
串「貴方たちにお願いしたいことがあって・・・私に足りないって思う物を一緒に探してほしいの!あと1時間で採用試験の発表があるの!」
麗「なんであたしたちにそんなお願いを?」
串「貴方たちってほら・・・児童書の主人公たちのグループみたいに特定のメンバーで固まっているじゃない。そういう仲良しグループが困っている人の悩みを解決するみたいな・・・」
凜「そんなつもりはないのですが。」
串「貴方たちの場合は・・・生泉さんがリーダーっぽいから解決!サウススター団!みたいな感じに見えるのよ。」
麗「勝手にあたしをリーダーにしないでください。」
凜「私たち人の悩みを解決する活動はしていないのですが・・・」
和「それより・・・話だけでも聞いてあげる?」
麗「そうね、聞くだけならタダだし。それで先生あたしたちに相談したいことってなんですか?」
串「どうしたら・・・生徒に慕われる先生になれるのかな?」
和「・・・は?それあたしたちに聞くことじゃないでしょ?」
嘉「このまま行ったら不合格やな。」
串「そんな・・・」
麗「あたしたちはまだ青いので、生徒から慕われる教師になるなんて方法は知りません。ですが、串町先生に足りないのは専門性だと思います。この学校でやっていくなら選択授業を教えていく必要があるので、専門性は必須になってくるんです。初年度のうちは選択授業を受け持っていない先生もいますけどね。」
凜「串町先生は、専門性について考えたことはありますか?」
和「ひたすら外国語が専門ですって言ってるけど、先生が一番得意なのって何語?」
串「ええと、一通りやって英語とかフランス語とか・・・あとアラビア語とかも分かるよ。」
嘉「それがダメなんやと思うで。」
麗「この学校は見ての通り専門性を重視しているんです。先生がただ外国語ができるって言ったってどんな外国語がメインですかって聞かれたとき答えられる?」
串「そういえば・・・何がメインかなんて考えたこともなかったな。」
和「この学校の生徒が選択授業をやっているのは自分の興味あることに対して深い知識を得るためなの。」
麗「例えば・・・あたしたちの担任の鮫川先生は数学を専門にしていますけど、中でも図形分野にすごく高い知識があって鮫川先生の選択授業の実践数学は数学に興味のない生徒にもすごく人気があるしあたしも取ってます。」
凜「他の1学年の先生ですと、2組の藤沢先生は家庭科の中でも料理の知識が豊富ですし、5組の暮沼先生は理科の中でも生物遺伝子学に精通しています。」
嘉「初日に鮫川せんせの授業見たやろ?あれぐらいの知識を教えられるのが理想なんやで。」
和「つまりは、多くの生徒が興味を持てる授業をするには自分にはこれがある!って言うようなものを身に着けることが必要ね。」
麗「それと先生・・・たぶんこの前の水萌と苺瑠のこと引きずってますよね?」
串「なぜそれを・・・」
凜「さっきのようにカフェテリアで落ち込んでいるのを見れば誰だって分かりますよ。」
和「先生は気にしているみたいだけど、織田倉たち別にそこまで怒ってなかったわよ?あれぐらい、初めての教師なら驚いて当然だアタシもきつく言いすぎたな・・・って言ってたし。」
嘉「今のせんせに足りへんのは落ちついて結果を受け止める心やないかな?」
麗「それともう一つ足りないとしたら・・・それは生徒を守るための度胸なんじゃないですか。」
串「度胸かぁ・・・確かに悪いことをする人間から生徒を守れる力は必要だよね・・・」
凜「私たちが言うのもおかしいとは思いますが・・・生徒が殴られているのを目の前にして怖くなるのも分かります。ですが、やめてと言って生徒をかばってあげることぐらいはできたのではないかと思います。」
和「結構きつめに言い過ぎたかもしんないけどさ、あたしらは串町先生の事応援してるからね。」
串「いろいろありがとう生泉さんたち。私、これから教育実習の結果を聞きに行くね。」
串町先生はお礼を言って教室を出て行った。
和「生泉、あいつ大丈夫だと思う?」
麗「たぶん合格するわよ。ここから出ていくときすごくいい顔してたし、串町先生は人を馬鹿にしたり傷つけたりするような悪い大人じゃないもの。」

串町先生は不安な面持ちで理事長室へ向かう。その途中の空き教室で何かをしている奈摘と咲彩を見かけたので。
串「あれは・・・神宿さんと天宮城さん。」
咲「え、誰?」
奈「あら、串町先生ではありませんの。」
串「急に入ってごめん。2人が何かやっているのが気になって見てみたくなっちゃってつい・・・」
咲「私の得意分野である占いをしていたんです。なっちゃんが占ってほしいっていうから見てあげてたんですよ。」
奈「わたくし漫画家をやっておりまして・・・次の原稿が通るかどうかを見てもらってたんですの。」
串「2人ともまだ学生なのに自分のやりたいことをしっかりできているなんて・・・素敵だね。」
奈「いえいえ、季刊誌なので年に数回ほどしか乗ることはないんですの。まだ学びたいことが多いので編集部と話し合って学業を優先させてもらってますわ。」
咲「私も自分で占いを開発したりはしているんですけど・・・できてもあまり当たらなかったりで試行錯誤を繰り返す日々なんですよ。」
串「そうなんだ。だけど目標に向かって進んでいる2人を見ていると、自分の悩みを生徒に相談している私ってなんなんだろうって思っちゃうよ。ほんとは頼られる存在じゃなきゃいけないのにね・・・」
咲「誰かに相談したんですか?」
串「生泉さんたちにもどうやったら慕われる教師になれるのかを相談したら怒られちゃったよ。それは教師が生徒に聞くことじゃないって。」
咲「そうなんですか・・・あとで私が強めに言っておきましょうか?」
串「いいのいいの。教師なのに生徒を守ることもできない私が悪いんだからさ。」
奈「確かに生徒に慕われる教師になれる方法を生徒に聞くのはちょっと違うような気もしますし、愛麗さんたちの言うことも一理ありますわね・・・そうですわ。咲彩さん、未来予知で先生の未来を見てあげるのはどうですの?」
咲「え・・・あれそんなに当たらないよ?」
串「神宿さん未来予知なんてできるの?」
咲「はい。占いをやり続けてたらできるようになって・・・ですが的中率はすごく低いんです。」
串「それなら私の未来を少し・・・見てくれないかな?」
咲「・・・いいんですか?未来を知ると言うことは絶望する可能性だってあるんですよ?」
串「それでもいいよ。見てくれないかな?」
咲「分かりました。それでは行きます・・・・・・・・・・・見えました。」
串「それで・・・どうだった?」
咲「先生が喜んでいる姿が見えます。そしてそこで新たな決意をしているような場面も見えました。それが何かはわかりませんでしたが・・・」
串「良かった・・・少しホッとしたよ。」
奈「ですが、咲彩さんの未来予知の的中率は30%ほどですの。」
咲「私もまだ安定して未来を見ることはできないんですよ。」
串「だけど、見てくれてありがとう。神宿さんのおかげで少し心が楽になった気がするよ。」
咲「それならよかったです。」
奈「わたくしたちも咲彩さんの未来予知の通り、串町先生がこの学校に合格することを祈ってますわ。」
串「2人ともいろいろありがとう。それじゃ、行ってくるね。」
串町先生は咲彩と奈摘と別れ再び理事長室に向かった歩き出す。

串町先生は理事長室の扉の前にいた。結果発表は理事長と教育実習を受け持った先生(今回は鮫川先生)の2人が立会いのもと行われる。
串「(やるだけのことはやったし、生泉さんたちに話を聞いてもらって神宿さんに未来を見てもらったおかげで私に足りないものも分かったし、今は少し落ち着けている。落ちても後悔はしない!)」
串町先生は不安とが入り混じった気持ちで理事長室の扉を開く。中では理事長と鮫川先生が待っていた。
理「待っていたよ。串町先生。」
串「理事長・・・よろしくお願いします。」
理「分かった。そちらの席に座って。」
串「分かりました。」
串町先生は理事長の席の前に置かれた椅子に座った。
理「それでは、串町先生・・・今からあなたの合否を発表しようと思う。」
串「はい・・・」
理「結果は・・・合格としよう。君が大学を卒業したら、ここの外国語教師としてよろしくお願いするよ。」
串「ありがとうございます!!!」
鮫「おめでとうございます串町先生。」
串「あの、私理事長に少しお願いが・・・」
理「何かな?できる範囲の事であれば聞くよ。」
串「ここに採用されるまでの半年間に自分が自信を持って教えられることを極め、立派な外国語教師として勤められるよう世界を旅したいんです!」
理「世界を旅して知識を深めると言うことなのだな。もちろん問題ないよ。」
串「はい!ありがとうございます!」
串町先生の教育実習はこうして幕を閉じたのであった。合格という素晴らしい結果を残して・・・

串町先生の教育実習期間が終わり、彼女が海外へ旅立ってから数日後の事。1組にはいつもの日常が流れていた。
和「おはよーあんたたち。」
麗「あ、和琴。」
咲「おはようことちゃん。」
和「それにしても意外だったわよね。」
凜「なんのことですか?」
陽「主語入れてくれないと分からないよぉ・・・」
和「串町先生が外国に留学したって話。採用が決まったのに急に留学するなんて意外だなって思ったのよ。」
水「いいんじゃねえか。自分から知識を増やそうと思って動くことは悪いことじゃないと思うぜ。」
苺「水萌君何気に串町先生が自分の足りないものに気づいたってことに喜んでるな。」
水「うっせ。だけど帰ってきてどれだけ立派になっているのか楽しみでもあるな。」
環「串ちゃん先生海外でも楽しくやってるかなー。」
柚「串町先生なら大丈夫だと思うよ。それにしても海外か・・・ボクも海外の美術館にある絵画を見に行ってみたいな。」
鮫「お前ら、席に着け。」
その時、連絡をするために鮫川先生がいつも通り教室に入ってきた。
鮫「今日の連絡はいくつか休講になる選択授業があるから各自で確認するように。それと・・・串町先生から手紙が届いているから読もうと思う。」
環「串ちゃん先生から手紙!?」
水「どんな手紙なんだ?」
麗「先生早く読んでよ。授業始まっちゃうでしょ。」
鮫「そう慌てるなって。読むぞ・・・」
鮫川先生が読んだ手紙の内容はこのように書かれていた。

鮫川先生、1組の皆さん。元気にしてますか。
私は今、イギリスにいます。1週間の教育実習を通じて水晶学園の採用に合格し、半年後には大学を卒業し教師として皆さんに外国語を教えることになると思います。
ですが、皆さんと接して私は自分に足りないと思ったものに気づきました。それは知識と度胸の不足です。
私は教職の道、しかも才能を伸ばす特殊な教育をしている水晶学園を選ぶにあたって自分の知識と生徒を守れる力が不足していたことに気づきました。
なので・・・採用までの半年間色々な世界を回って色々なものを見てさらに知識を深め、皆さんをしっかり見守ることができる授業を教える立場として恥ずかしくない外国語教師となって帰ってきます。大学の方はすでにすべての単位を取り、卒業研究も済ませてありますので後は卒業のみであるため、問題ありません。
最後に・・・
鮫川先生、1週間ありがとうございました。私が水晶学園を好きになれたのは貴方の親切な案内と指導があったからです。
織田倉さん、私に足りないものに気づかせてくれてありがとう。外国を旅して知識を深めるという選択を選ぶことができているのは貴方の言葉のおかげです。
色部さん、新しい絵が描けたらまた見せてね。
齋穏寺さん、外国で珍しい食用植物を見つけたら教えるね。
鷲宮さんに花蜜さん、素敵な研究で世界を幸せにしてね。
立屋敷さん、貴方の落語また聞かせてね。
生泉さんに夜光さんに眞武さんに雷久保さん、相談に乗ってくれてありがとう。海外で度胸を身に着けてみるね。それと眞武さんは自分の身体を大切にね。
神宿さんに天宮城さん、私のために素晴らしい力を使ってくれてありがとう。結果発表に自信を持って臨めたのは貴方たちのおかげです。
貴方達のような素晴らしい生徒たちと過ごせて良かったです。

串町美風より