和琴とレポーターお姉さん

麗「最近、あたしん家のマンションに新しい住人が越してきたのよ。306号室だったかな。」
凜「どんな方なのですか?」
麗「祖父さんに名前聴いたんだけど、眞武宇織って言うんだって。眞武ってことは和琴の親戚?」
和「え?し、知らないわよそんな奴・・・」
麗「そうなの。なら、同じ苗字ってだけなのかな。」
奈「ですが、眞武姓は希少ではありませんでしたっけ?」
環「それを言うなら環輝たちだって全員希少姓じゃん。」
愛麗たちがそんな会話をしている中、和琴は宇織という名前を聞いてから震えていた。
凜「眞武さん、ずいぶんと震えていますが・・・体調が悪いのですか?」
和「ううん、問題ないわ・・・」
麗「和琴ったら、今日はなんか変ね・・・?」
不思議がる愛麗たちの一方で和琴は頭でこんなことを考えていた。
和「(宇織ってあたしの姉じゃない・・・何とか存在がばれない様にしなきゃ・・・)」

和琴がそんな風に考えていたころ、サウスハイツの306号室では2人の女性が歓迎会を行っていた。
宇「いやーまさか創ちゃんがここの管理人さんのお孫さんだったなんて思わなかったわね。」
創「先輩ったら引っ越してくるなら言ってくれれば良かったのに。」
宇「私にもいろいろあるのよ。」
創「そんなので騎ノ風総合大学通いながら、騎ノ風TVのレポーターなんかできるんですか?」
宇「問題ないわよ。仕事と学業は真面目にやるから。」
創「そんなこと言いながらウイスキー飲んでいるじゃないですか・・・」
宇「私ウイスキーが無いと生きていけないんだもの。でーじょーぶよウイスキーで酔うほどやわじゃないから!」
創「そんな状態で言われても説得力ないですよ?」
宇「お酒強いから平気よぉ・・・創、良かったら私といいことしちゃう?」
宇織は服のボタンを開けて胸の上部分を見せながら、創に向かってそう言った。
創「やっぱり酔ってますよね先輩・・・」
宇「それよりも・・・この町には私の妹がいるのよね。確かあんたんとこの妹と同い年だったと思うけど。」
創「そうなんですか・・・もしかしたら私先輩の妹さんに会ったことあるかもしれません。先輩と同じ眞武って苗字の子が私の妹の友達にいたと思うんです。」
宇「へえ。楽しくなりそうねこれから・・・」
創「(先輩なんか変なこと考えてそう・・・)」
宇織は不敵な笑みを浮かべそうつぶやいたのだった。

翌日。和琴は朝食を取りながら自宅で日課である騎ノ風TVの放送を見ていた。
和「朝はやっぱり騎ノ風TVの地元レポートが鉄板だわ。朝の時間帯の地上波はニュースやワイドショーばっかやっててつまんないのよね。」
キ「それでは次のコーナー、地元の名物レポートをお送りします。今回は眞武レポーターが調査に行ってくれました。それではどうぞ。」
宇「新人レポーターの眞武です!今日は私が騎ノ風市で話題のお店に行ってみようと思います!」
和「!!!???」
TVに宇織が映ったことで、和琴は声にならない叫びをあげた上に食べていたご飯をのどに詰まらせてしまった。ちなみに同居している祖母はすでに書店の開店準備に行っており居ない。和琴は水を飲んで詰まったご飯を流した。
和「ちょ、なんで姉さんが騎ノ風TVに出てんのよ・・・ああもう、色々と最悪よ。」
和琴は落ち込んだ気分で支度をして、水晶学園に向かった。

和「はぁ・・・あいつが出るなら明日から騎ノ風TV見れない・・・」
朝からレポーターとして活躍している姉の姿を見てげんなりしてしまった和琴。そんな姿を見かねた愛麗たちが声をかける。
麗「和琴ったらどうしたのよそんなにやつれた顔して。」
陽「元気ないねえ?」
柚「何かあったのかな?」
和「ちょっとね・・・ねえ生泉に西園寺、それに色部は・・・兄しかいないんだっけ。あんたたちさ、自分の姉や兄が急にTVに映ったらどう思う?」
麗「はじ姉が?まあちょっとは驚くだろうけど、別にやりたいからやってるって解釈するから別にどうでもいいかな。」
陽「わたしも特に驚かないかなぁ。お姉ちゃんがTVに映るってことは探偵事務所のPRなのかなーぐらいにしか思わないよ。」
柚「ボクにも姉はいるよ。そうだなぁ・・・別に今は動画サイトで自分の姿を撮影するってことも多いし、特に驚くことでもないんじゃないかな。」
和「そうよねそれが普通の反応よね・・・」
麗「急にあたしや陽姫や柚歌の姉のこと聞くなんて・・・やっぱりうちに引っ越してきた眞武さんって和琴の姉なんじゃないの?」
和「そうよ・・・しかもわけありの姉。あんたたち、デザイナーベビーって知ってる?遠くに住んでいるあたしの母がその研究をやってんのよ。」
奈「デザイナーベビー・・・受精卵の段階で遺伝子操作を行って、自分の望む子供を産まれるようにする技術のことですわね。」
生物の知識に詳しい奈摘がデザイナーベビーの単語を聞き、会話に入ってきた。
和「詳しいわね天宮城。あたしや姉はその研究で遺伝子情報をいじくられているの。あたしの母はマッドサイエンティストって呼ばれる狂った研究者なのよ。」
陽「マッドサイエンティストってなあに?」
奈「様々なタイプがいますけど、和琴さんのお母様の場合優秀ではあるのですが、私欲のために自分の知識や研究を犯罪行為に使う方ということですわ。」
和「父から聞いた話だけど・・・姉やあたしを妊娠した直後にDNAをいじくったらしいのよ。父はそれを知って産まれてすぐにあたしを助け出してくれたんだけど、姉は救い出せず母のもとで育ったのよ。」
柚「和琴ちゃんとお姉さんに施した遺伝子の変換ってなんなんだろう?」
和「んー・・・姉の方は知らないけど、あたしの方は様々なものから効率よく知識を吸収できるようにしたらしいわ。実際、本で読んだことは忘れないし、物覚えいい方だし。」
陽「そんなことって遺伝子操作でできるものなの・・・」
和「知らないわよ専門じゃないし・・・だけどこれだけは分かる。あたしの姉はデザイナーベビーな上に母のもとで育ったから様々な知識を受け取って育ったモンスターよ。実際、優等生として勉強に励みながらもどっかの不良集団でヘッドしてたって父から聞いたことあるし二面性も強いのよたぶん。」
麗「なんかはじ姉と結構似てるわね・・・そういや昨日はじ姉が眞武さんの部屋行ったって言ってたから・・・話聞いてみる。」
和「悪いわね。こんどあんたの好きなパスタ奢るから。」
麗「別に気にしなくていいわよ。和琴にははじ姉とあたしが色々あった時助けてもらったしそのお返しだと思ってくれればいいからさ。」

その日の夜、愛麗は創を部屋に呼び出して宇織の話を聞くことにした。
麗「ねえ、はじ姉306号室に引っ越してきた眞武さんって知り合い?」
創「うん、昨日挨拶に行ってきたんだ。先輩は私が昔不良だったころ色々お世話になったの。悪い方面でだけどね。」
麗「悪い方向での知り合いなんだ・・・性格も悪かったりする?」
創「そんなことないよ。先輩はどちらかといえば姉御肌!って感じで面倒見がすごくいいんだよ。ただ・・・」
麗「ただ?」
創「ちょっと面白い話好きで噂話を嗅ぎまわったりするのが好きみたいなんだよね。あとはウイスキーが好きなんだけど酔いやすいみたいでよく胸の谷間見せられていいことしない?って言われてたよ。」
麗「さすが姉妹、そういう小悪魔的な所は和琴と結構似てるかもね。」
創「愛麗ちゃんは先輩に何か用あるの。もしそうなら私が繋ぐよ?」
麗「ちょっと和琴がいつも見ているTVで急にお姉さんを見てショックをうけたみたいでさ・・・あたしもよく和琴にはフォローしてもらうから力になりたくてさ。」
創「そうなんだ・・・分かった先輩に伝えておくよ。それにしても・・・姉妹で関係性が悪いなんて大変だね。」
麗「(あたしとはじ姉も少し前まで同じような感じだったけどね・・・)」

後日。愛麗は創を通じて宇織と連絡を取り、サウスハイツ1階にある喫茶店のボックス席で会ってくれることになった。
宇「あなたが愛麗ちゃん?」
麗「あっ、はい・・・よろしくお願いします。」
愛麗は宇織とぎこちない感じで会話を勧める。あの和琴が嫌がるくらいの人であるため近くの席には和琴を始め、話を聞いていた奈摘、陽姫、柚歌がスタンバイしていた。
柚「愛麗ちゃん一人で大丈夫かな。」
奈「愛麗さんは男性相手は難しいですが、女性相手なら問題ないはずですわ。」
陽「宇織さん、見た感じだと悪い人には見えないけどねえ・・・」
和「生泉、どうか無事で・・・それにしても、あの人ずいぶん雰囲気変わったな。」
宇「それで、愛麗ちゃんは何飲む?好きなの頼んでいいわよお姉さんが奢るからさ。」
麗「えっ、こっちが話を聞いてもらうのに悪いですよ。」
宇「いいわよ。まだ高校生なんだからお金は大切に使いなさい。」
麗「分かりました・・・カフェオレをお願いします。(意外とまともなこと言ってる・・・全然いい人じゃん)」
結局愛麗は宇織に言いくるめられ、おごってもらうことになったのだった。
宇「それで私に話って何かしら?」
麗「和琴が宇織さんを怖がっていて調子が悪くなっているというか・・・」
宇「和琴ちゃんが調子悪くなるって・・・なんで?」
麗「和琴は宇織さんが狂気的な研究をする親の下で育ったから、恐ろしい思考を持っているんじゃないかってイメージを抱えているみたいなんです・・・あたしも育ちの違うはじ姉と上手くいかないことも多々あるので。」
宇「母さんの事か・・・愛麗ちゃんは和琴ちゃんから私たちの家の話は聞いてたりするの?」
麗「一通りは聞いてます。母親が狂気的にデザイナベビーの研究をしている話もこの前聞きました。」
宇「そこまで知っているのなら、愛麗ちゃんは創ちゃんの妹で和琴ちゃんの友達だし話してもいいわね。その前に、そこに座っている和琴ちゃん。盗み聞きなんてしてないでこっちに来て聴きなさいよ。」
宇織は近くに座っていた和琴たちに気づいていたようで、ボックス席に来るように呼び寄せた。
和「は、はい・・・」
奈「和琴さん、大丈夫ですの?」
和「呼ばれてるんだから行くしかないわよ。」
陽「だったら、わたしたちも行くよ?」
柚「そうだね。人数は多いほうが不安感を取り除けると思うし。」
奈「わたくしが店員さんに話しますわ。」
奈摘は店員に事情を説明し、愛麗たちのいるボックス席に移動させてもらえるようお願いした。店員は快く受け入れてくれ、和琴たちはボックス席に頼んだ飲み物を持って移動することになった。
和「姉さん、来たけど・・・」
宇「あら、和琴ちゃん1人じゃなかったのね・・・みんな友達?まあいいわ、詰めれば座れるでしょ。」
宇織は和琴たちにボックス席の空いたスペースに座るよう言った。
麗「宇織さん、和琴もこっちに来たことですし本当の事を教えてもらえませんか?」
宇「そうね。まず言わせてもらうわ。」
和「(何言われるんだろう・・・)」
宇「・・・和琴ちゃん、貴方を知らず知らずのうちに傷つけちゃったみたいで色々悪かったわ。」
麗「どういうことですか?」
宇「私が騎ノ風に来た本当の理由は・・・母さんの所から逃げてきた。あとはTVレポーターの仕事がしたかったのよ。」
和「あの母さんの元で育ったあんたの言い分なんだから信じられるわけないでしょ。」
宇「信じなくても別にいいわ。だけど私からすればデザイナーベビーだか何だか知らないけど、自分の遺伝子を使って色々な子供を生み出す狂気的な実験をする母を見ていたら嫌になっちゃったのよ。あんたは知らないと思うけど、あの後母は精子バンクを利用して自分の卵子で受精卵を何個も作って遺伝子をいじくっていたの。中には受精卵の段階で成長が止まっちゃったり、産まれてもすぐに死んじゃった子もいたのよ。見てるだけで怖いし、手伝うよう言われたこともあったけど私は一切手を貸さなかったけど。」
和「そうなの?・・・初めて聞いたわ。」
麗「そんな実験を間近で何年も見ていればは嫌にもなりますよね・・・」
宇「うん。それで中学生のある時TVでリポートを見てね、私もあれやりたいって思って・・・高校卒業と同時に母さんの所から必要な物だけ持って逃げてきたの。資金は父さんが支援してくれたわ。ここに来て数年間は進学先の騎ノ風総合大学の放送・映像科でTV放送の知識を学びながらバイトしたり、不良集団のヘッドもして過ごしてた。その集団で出会ったのが創ちゃんよ。」
奈「不良集団のヘッドだったのは本当のことでしたのね。」
宇「確かにその集団は私が入った当初は悪事を働いていた。だけど母の悪事を間近で見てきた私としては悪事を働くってことにどうしても抵抗があった。だから何とかしてヘッドに上り詰めて解散宣言をして集団を強制解散させたのよ。解散した時創ちゃんだけ私について行きたいって言ってくれたから今のような関係にあるってわけ。今住んでいるサウスハイツも調べてた時に管理人の生泉って苗字みて創ちゃんのこと思い出して、それで選んだのよ。通っていた高校は元々県立騎ノ風高校だったし、土地勘はあったから。」
柚「解散した集団の子たちは今どうなっているんですか?」
宇「今でも悪いことしている奴もいれば、まともになった奴もいるわ。全員更生なんて無理な話でしょうけどね。あの不良集団も居場所がないわけありの女子が集まってできたものだったから心からの悪はいないはずなんだけどね。」
和「姉さんがそんな苦悩を抱えて生きていたなんて知らなかった。勝手に母さんの生き写しと思い込んで誤解しててごめん・・・」
宇「気にしないの。一歩間違っていれば私もマッドな思考を持っていたかもしれなかっただろうしね。これからは仲良くやりましょ。」
和「もちろんよ!」
麗「これで解決かしらね。」
宇「それにしても、貴方にこんな素敵なお友達がいっぱいいるなんて思いもしなかったわ。私と和琴ちゃんの仲を取り持ってくれてありがとう。」
奈「いえいえ、仲の良い友人が困っているのであれば助けるのは当然の事ですわ。」
宇「ですわってことは・・・リアルお嬢様じゃない!可愛いわね・・・お姉さんといいことしない?」
宇織は奈摘の左胸の上側に指を乗せると小さく円を描くように動かす。
奈「え・・・遠慮しておきますわ・・・それとそのようなことは止めてくださいまし・・・」
和「姉さん・・・公共の場所でそう言うのは控えてもらえる?」
陽「だけどぉ、和琴ちゃんも同じようなことよくやってるよねえ?」
柚「相手に胸元見せて、癒してあげよっか?みたいなやつね。」
和「あたしの話はいいの!!!」
友達と賑やかにやり取りを行う和琴を見て宇織は小声でこう言った。
宇「・・・元々独りよがり気味だった貴方がこんなに素敵な友達に囲まれていたなんてね・・・賑やかでよかったわ。」

その翌日。姉と和解できた和琴は日課の騎ノ風TVを見ていた。
キ「それでは次のコーナー、地元の名物レポートをお送りします。今回も眞武レポーターが調査に行ってくれました。それではどうぞ。」
宇「はーい!今日は騎ノ風市の知る人ぞ知る名店に・・・」
和「姉さん今日も頑張ってレポーターしているわね。さーて、あたしも学校に行くか。」
元気よくレポートをする姉の声をBGMに和琴は学校へ行く準備に取り掛かるのだった。