わたしは男扱いされ育てられた。昔は髪も短かったし、スカートを履けなかった。
わたしはのんびりした気質をしているから、周りのペースについて行けないことも多い。
わたしは身体が周りの子よりも大きい。身体が大きいお前が悪いって馬鹿にされたこともあったから今でも自信がない。
そんな子供時代・・・わたしはいらない子なんじゃないかなって思っていつも泣いていたように思う。
わたしたちは今日、騎ノ風市の西側にある室内レジャー施設に来ていた。この施設は和琴ちゃんの親戚が経営していて秩父に本店があるんだって。
なんでもここは室内にいながら、本格的にキャンプ・・・というよりもグランピングを楽しめるんだって。
今日来ているのは柔軟系部活動のグランピング部のメンバーの和琴ちゃんと水萌ちゃん、そしてわたしを中心に6人だけだったけど。
「いいわねー。自然にいないのに自然の音。人口だけど川の水が流れる音・・・読書がはかどるわね。」
和琴ちゃんは自分の興味あることにしかやらない主義だから、時々こういう事態に陥るんだよね・・・その分知識人なんだけど。
「おいおい、料理を楽しまなくてどうすんだよ。」
「いいのよ。あたしはこういう奴なの。すでにセットは注文してあるし食材も持ってきたからある分なら食べ放題よ。織田倉料理してくれる?」
「しょうがねえな・・・やるか。」
水萌ちゃんは食材を調理スペースで食材調理を始める。水萌ちゃんはなんだかんだで面倒見がいい。
「こんなに素敵な場所なのに、愛麗が来られないのが残念です・・・」
「愛麗君は今日大事な用事があるって言っていたのだ。また今度一緒に来ればいいさ。」
「せやな。今日は来られなかった皆の分まで楽しまなあかんで。」
「それもそうですね・・・織田倉さんのお手伝いしましょうか。」
凜世ちゃんは愛麗ちゃんが来られないのを悲しんでいる。私も柚歌ちゃんがいないので少しさびしいからわかる。苺瑠ちゃんと嘉月ちゃんはそんな凛世ちゃんを元気づけている。
「おーい、陽姫も手伝えよ。せっかくこんないい施設に来たんだから楽しまなきゃダメだろ。」
「あ、そうだねぇ。わたしはなにをすればいい?」
「苺瑠と一緒に薪を持ってきてくれるか?食材の下処理はアタシと嘉月、凛世でやっておくからさ。それと和琴!お前もこっち手伝わないと料理の取り分減らすからな!」
「分かったわよ食べられないのは嫌だからやるわよ。」
水萌ちゃんに言われてさっきまで読書をしていた和琴ちゃんも下処理の準備に加わる。
「それじゃ、陽姫君。我らも薪を取りに行こうか。」
「うん。」
わたしは苺瑠ちゃんと共に薪が置いてある場所に向かった。
数分後。わたしたちは薪置き場に着いた。なんでも、ここにある薪の束は1グループで10束までは無料でそれ以上必要になると、1束500円で購入する必要があるらしい。わたしたちは必要な分・・・7束持っていくことにした。
「陽姫君、2束ぐらいだったら持てるかな?」
「うん。苺瑠ちゃん5束も持ってもらっちゃってごめんね。」
「いいのだ。我の怪力が生かせるのはこれぐらいだからな。」
苺瑠ちゃんは体は小さいながらも力持ちなのでこういう時頼りになる。わたしたちは薪を持ってグランピングの拠点に戻ってきた。
「戻ったのだ!薪7束で良かったか?」
「ああ、それだけあれば十分だよお疲れ。こっちも食材の下処理終わったから食材焼いていこうぜ。」
「何から焼くのよ?」
「野菜がええんやないの。先に肉や魚介類を焼いてもうたら焦げ付いてまうやん。」
「鉄板の左側で野菜、右側でお肉を焼くのがいいのではないでしょうか?」
凜世ちゃんは自分の世界に入っているように見えて周りの事をよく見ている方なんだ。
「そうだなそれで行くか。」
「薪に火入れるのだ。」
「気をつけろよな。火は危険だからよ。」
苺瑠ちゃんが、鉄板の下に薪をくべて火をつける。わたしはその様子を離れて見守る。クラスの学級委員長であるとはいえ、あまり中心に行くのは好きじゃないから。
しばらくすると、肉や野菜の焼けたいい香りがしてくる。
「そろそろ焼けたな、配るから皿くれ。」
「はいこれ紙皿ね。」
「次は魚介と麺を焼いてシーフード焼きそばを作るのだ。」
「シーフード焼きそば・・・メインディッシュにいいですね。」
「そろそろ疲れてきたわ・・・さっさと終わらせて休みたいわ。」
「和琴は楽しくないのか?仮にもグランピングの部長だろ?」
「楽しいわよ?だけど、あたしはそれ以上にさっきの小説の続きが気になるのよ。あーあ、グランピング部やめて読書部に変えようかしら。」
「アタシこれ結構気に入ってるから止めないでくれよ。もし本読みたいならアタシの外国語部でいくらでも読んでいいからさ。」
わたしはワイワイやる皆の姿を眺めながらのんびりする。人の輪に入るのが嫌なわけではないけれどわたしはのんびりするのが好きだから、自然とこうなっちゃうの。
「陽姫ちゃん、これ陽姫ちゃんの分やで。」
嘉月ちゃんがわたしの分の肉と野菜を取って持ってきてくれた。
「わざわざ持ってきてくれてありがとう。」
「ええよ。陽姫ちゃん調子悪いんか?」
「なんで?」
「あんまり皆の方に来うへんから、調子悪いんかなって思ったんや。」
「そうじゃないんだよぉ・・・わたしは皆のペースについて行けないこともあるからこうやって遠くから皆を見ていることも多いんだ。散々迷惑もかけてきたからねぇ。」
わたしがそう言うと、嘉月ちゃんはわたしの横に腰を下ろして話し始めた。
「ウチはそうは思わへんよ。陽姫ちゃん昔から学級委員とかに立候補すること多かったやん。皆やりたがらない中でそういうんことができるのはすごいことだと思うんや。」
「そうかなぁ。わたしはせめて迷惑かからないように面倒そうなことを引き受けてただけだよ。それに・・・文化祭やる時の会議とかで先生の話がうまく聞き取れなくて何度も迷惑かけちゃったし、その度によく怒られてたっけ・・・」
「センセの中にも早く済ませようと思って、手短に話して済ませようとする人多いんやな。」
「そういうことも多かったから、自分を責めちゃったりして落ち込むこともあったんだぁ。自分なんていない方が皆に迷惑かけないんだ~!って思っちゃうの。」
「陽姫ちゃんそれは違うで。ウチらの中におらへん方がいい奴なんておらへんよ。」
「嘉月ちゃんは何でそう思ったの?」
「せやな・・・ウチらって全員得意なことが違うんよ。愛麗ちゃんは細かい作業が得意やし、和琴ちゃんはたくさん本読んどるから知識量が半端ないやん。咲彩ちゃんはしっかりしてるからウチらの取りまとめしてくれるし、苺瑠ちゃんは力持ちやから重い物を率先して運んでくれるやん。」
「あまり意識したことなかったけど確かにそうだねぇ・・・」
「ウチら12人はな、お互いにできる事をやることで自然とお互いを補い合ってると思うんよ。だからウチらの中に要らないポジションなんてないんや。」
「それなら、わたしは・・・わたしの役割ってなんだと思う?全然わからないよ・・・」
「ウチが思うに陽姫ちゃんの役割はまず最初に癒しや。陽姫ちゃんの大きな体で大らかな性格、のんびりした話し方やふんわりボディに癒しを求める子は多いんやで。」
「そうなんだ・・・自分の身体が大きいのずっと嫌だったから、そう言ってもらえると嬉しいな。」
「次にリーダーシップなんかもあるんやないかな。学級委員長を積極的にやるんはそういう傾向の表れやと思うで。」
「わたし別に人の上に立つのが好きってわけじゃないし、迷惑かからないようにしてただけなんだけどなぁ。」
「陽姫ちゃんの気持ちがどうであれ、ウチらはそれで救われてるんやで。ウチらの中だと中心にいるのは愛麗ちゃんが多いんやけど、愛麗ちゃんはリーダーやるのあんまり好きや無いって前に言っとったしなぁ。咲彩ちゃんも前に「はるちゃんは自慢の従姉妹なんだよ。」って言ってたくらいやったしな。」
「さあちゃんはわたしのことよく褒めてくれるんだ。わたしがここまで来れたのもさあちゃんのおかげなんだよ。わたしね、昔西園寺の実家に住んでいた頃そこの使用人さんたちから男扱いされて育てられたことがあるの。理由はわたしの姉妹全員女の子で、西園寺家に跡取りの男子がいなかったからなんだけどね。おじいちゃんは跡取りは女の子でも構わないって言ってたんだけど使用人さんたちは代々男が継いで来たんだからそうじゃないとっていいはって聞かなくて・・・身体が大きかったわたしが選ばれたの。わたしは女の子なのに男らしくしろってずっと言われててね・・・長いスカートが好きなのにダメって言われるし、髪も耳上まで切られるしで・・・毎日泣いてて辛かったなぁ。」
わたしは嘉月ちゃんに辛かった過去の話を自然としていた。嘉月ちゃんは何も言わずに聞いてくれた。
「そんな時お母さんが反発してわたしと萌夏お姉ちゃんを連れて別の場所で生活は厳しかったけどこんなに大きくなるまで育ててくれたの。今は人気声優になったからそれなりにいい生活してるけどね。初めてスカート着ていいし髪も伸ばしていいって言われた時は泣いちゃったよ。それからしばらくしておじいちゃんは使用人さんたちに頭が固いっていう理由で全員に暇を出したって言ってたよ。わたしが次に西園寺のお屋敷を訪ねたときは使用人さんが全員入れ替わっていたよ。」
「大変な過去を経験しているんやな・・・」
「だけどわたしは未だに自信が持てないんだよ。否定された経験って何も生まないよねって今更ながらに思ってるんだ。」
「そんなことあらへんよ。前に何度か話したけど、ウチも親戚に監禁されてたことがあったんよ。強制的に勉学を強いられていたもんやから、化学だけは面白くて好きやったんよ。その延長で今では薬の調合とかやるようになったんや。あの経験がなかったら、ウチは化学の面白さが分からへんかったかもしれへんなって思うんよ。」
「勉強した化学の知識は役に立ったの?」
「もちろんや。化学の知識は写真現像の液を作る時に役に立っとるんよ。」
わたしには、わたしと同じような気質でありながらも自分の好きな事を誇る嘉月ちゃんが少し羨ましく思えた。
「陽姫ちゃんやって好きなもんあるやん。星とか家庭菜園とか・・・」
「わたしは体が大きいから、星の大きければ大きいほど素敵に光り輝くってところが好きなの。家庭菜園は貧乏だった頃に少しでも役に立てばと思って始めたことだったから特に好きとか嫌いとか考えたこともなかったよ。」
「やってるうちに好きになっていくもんもあるんやないかな。それに、周りのペースについて行けないって言うてたけど、その分皆の様子を見守る、いわゆる客観視できる能力が高いんやないかな?周りを見れるからこそ学級委員長を何年もやれるんや無いかな?」
「わたしが客観視できる能力に長けているなんて考えたこともなかったなぁ・・・」
「意識してないけれど見に着いた能力は案外気づかへんもんなんかもしれんな。」
その時、肉と野菜を食べ終わり、ひと段落して次のメニューを作ろうとしている水萌ちゃんたちがわたしたちを呼ぶ。
「おーい、嘉月に陽姫!いつまで休んでるんだ?」
「次はシーフード焼きそばを作るから手伝ってほしいのだ!」
「手伝わないとお二人の分が無くなってしまうかもしれませんよ?」
「まあさすがになくなるってことはないと思うけど・・・取り分は減るかもしれないわよ?」
水萌ちゃんたちのそんな会話を聞いた嘉月ちゃんは立ち上がり、わたしに手を差し伸べながらこう言った。
「いこか。ウチらは陽姫ちゃんがウチらペースについていけなくても絶対に置いて行ったりなんかせえへんからな。」
「・・・うん。ありがとう嘉月ちゃん。」
わたしは嘉月ちゃんの手を取って皆のいる方へと向かっていった。
わたしには男扱いされて育てられた過去がある。
わたしは今になっても周りのペースの速さについて行けない。
わたしは身体の大きな自分に未だに自分に自信を持てていない。
だけど、わたしにはいま大切な居場所や親友たちがいる。
わたしには好きな事に全力で取り組めてそれを応援してくれる素敵な学園にいる。
それって、十分幸せなんじゃないかなって思うんだ。
あの頃の泣いていたわたしに伝えたい。これから幸せな未来がやってくるよって。