その日、愛麗、凛世、和琴はの3人はすっかり夜が更けた道を歩いていた。
「今日は遅くなってしまいましたね・・・」
「悪かったわねあたしの小説選びに付き合わせちゃってさ。」
「2人が良ければだけど、あたしん家で晩御飯食べてく?」
「いいのですか?・・・ですが、愛麗のおじい様の許可取らなくていいんですか・・・」
「いいよ、祖父さんたち今日は会社の方で忙しいって言ってたからいないし・・・姉と妹はいるけどいいよね?」
「もちろんです。お誘い受けましょう眞武さん。」
「しゃーないわね行ってあげるわ。だけど家に連絡入れないと・・・夜光もやっておきなさいよね。」
「分かってますよ。」
凜世と和琴は家に遅くなる連絡を入れた後、3人は愛麗の自宅でもあるマンションに向かって歩き出す。
数分後、3人は愛麗の家でもある中型マンションのサウスハイツに着いた。
「生泉の部屋って何階だっけ?」
「あー違う違う。うちの晩御飯は管理人室で食べてるのよ。だからこっちね。」
愛麗は2人を自室ではなく1階の管理人室に案内した。管理人室は窓口の奥に8畳ほどの広さのオープンキッチンがあり、ダイニングテーブルとチェアが設置されていた。
「家庭的でよいお部屋ですね。」
「ここには住んでないけどね。そこの椅子座って待っててそのうち姉と妹来ると思うけど気にしなくていいから。」
愛麗はそう言うとキッチンの中に入って行った。
「ここが愛麗が毎日お食事をしている場所・・・おしゃれで素敵です。」
「別に普通のオープンキッチンじゃない。」
「いえ、このキッチンのインテリアは愛麗が決めたんだろうなって思うと・・・」
そこにエプロンをつけた愛麗が出てきた。
「あたしはこの部屋には何もしてないわよ。このキッチンのインテリアは祖父母が決めたの。」
「愛麗、エプロン似合ってますね。」
「あんた料理する時ってエプロンするんだ・・・」
「服汚したくないし、料理する時エプロンするのは普通じゃないの?」
「生泉は水分とかの飛び跳ねなんて気にしない豪快なタイプだと思ってたもんだから意外で・・・」
「あんた人の事なんだと思って・・・」
愛麗がそう言いかけた時、管理人室の扉が開き愛麗の妹である香楓が入ってきた。
「愛麗ちゃんもうご飯できた?」
「・・・まだよ。おとなしく座ってて。それと今日お客さんいるから、変なことしないでね。」
「はーい。」
香楓はそう言って自分がいつも座っている椅子に座る。
「お客さんって凛世ちゃんと和琴ちゃんなんだ。」
「はい。今日はよろしくお願いしますね香楓さん。」
「ご飯できるまでTVでも見ない?うちはCS契約しているから色んなチャンネル見放題だよ?」
「妹、映画チャンネルにしてくれない?今日あたしが前に読んだ小説の映画が放送されるのよ。」
「香楓さん、音楽のPVを流しているチャンネルありますよね?私はそちらが見たいです。」
「えー・・・どっちにすればいいかな・・・ねえ愛麗ちゃんどうすればいい?」
2人から投げかけられた意見に困った香楓は愛麗に助けを求める。
「今忙しいんだけど・・・あたしがあえて言うならアニメチャンネルね。JKイレブンやってんのよ今の時間。」
「そうなんだ。あたしもJKイレブン好きだしアニメチャンネルにしよっと。」
香楓は凜世と和琴の意見を無視してJKイレブンが放送されているアニメチャンネルにチャンネルを回した。
「え・・・あたし興味ないんだけど・・・」
「愛麗の好きな作品であるJKイレブンならぜひ見たいです。眞武さんも見れば変わると思いますよ?」
「しゃーないわね・・・」
「あ!今日2期の1話からなんだ!新たな目標に向けて走る湯野宮ちゃんたちの活躍が見れるんだよね。」
「そうなんですか。2期はまだ見ていないので楽しみです!」
香楓と凛世は期待のまなざしでTVを見る。その一方で和琴は興味なさそうにTVの方を見る。
その一方でキッチンの中にいる愛麗は調理の作業を進める。今日のメニューはサラダうどんのようだ。
「(JKイレブンあたしも見たいけど今は調理に集中しないと・・・)」
愛用の包丁で手際よく野菜をカットし、それと同時に横のボウルで調味料を混ぜ合わせて出汁を作る。IHコンロに置かれた鍋では湯が煮えたぎっており、これでうどんを茹でるようだ。
「サラダうどんだけじゃ足りないかな・・・あと何か材料あったっけ冷蔵庫見てみよ。」
愛麗は冷蔵庫の扉を開けて中を物色し始める。そこに、さっきまでJKイレブンを見ていたはずの和琴がキッチンに入ってきた。
「生泉、なんか手伝う?夜光と妹がJKイレブンに熱中しちゃってやかましいったらないのよ。」
「そうなの。なら・・・」
愛麗は冷蔵庫を物色して、中からそれなりに大きいかたまり肉を取り出して和琴に渡す。
「この肉をメインディッシュにしようと思うから焼いてもらえる?あんたこういうの得意でしょ?」
「いい肉じゃない。豪快に焼いてあげるわね。」
「あっ、ちょっと待って・・・そのブラウスとスカートおしゃれそうだから汚れると困るでしょ、これつけなさいよ。」
愛麗は自分の着けていたエプロンを取って和琴に渡した。
「これ生泉のでしょ・・・それにこれをあたしに渡したら生泉が汚れるじゃない。」
「いいわよ。お客なのに自分から手伝おうって言う姿勢が立派だとあたしは思うから。」
「悪いわね。」
和琴は麗から受け取ったエプロンを着用した。
「サイズ合ってるのね。生泉は小柄からもっと小さいと思ってたけど。」
「それどういう意味よ・・・子供用じゃないんだから和琴が着用しても問題ないに決まってるでしょ。それじゃ、肉の調理は任せたから。」
愛麗はそう言うとサラダうどんの調理に戻る。
「さーて、肉に下処理して・・・これを豪快に焼いていくわよ!」
一方の和琴は肉に下処理を施し、鉄板・・・はないのでフライパンで肉を豪快に焼いていく。
「(上手だな・・・あたしも負けてられない。)」
肉を上手に調理する和琴を見て、愛麗も自分の作業に力を入れた。
そして20分後。愛麗と和琴が調理を終えた料理を持ってキッチンから出てきた。
「ご飯できたわよー。今日はサラダうどんと和琴が焼いてくれた肉ね。」
「愛麗ちゃんお疲れー!今日も美味しそうだね!」
「お疲れ様です愛麗・・・はっ、眞武さんいつの間にそちらに?しかもそれ愛麗のエプロンでは・・・」
「生泉が貸してくれたの。服に汚れが飛び散らないようにってね。」
「羨ましいですね・・・愛麗、次は私にも手伝わせてくださいね。」
「機会があったらお願いするわ・・・それにしてもまだ来ないのかはじ姉は・・・」
愛麗はまだ来ない創に悪態をつきながら、和琴と共に持ってきた料理をテーブルに並べる。
「あたしが呼んでこようか?」
「いいわよ。たぶん・・・」
愛麗はスマホを取り出すとSNSの創のページを開いて1つの投稿を見つけ出し、それを見せた。そこには先輩と飲み会!いえーい最高!という文章と共に創芽と宇織がバーと思われる場所で酒を飲んでいる所が写った写真が投稿されていた。いいねは30ほどついている。
「連絡もせずに和琴のお姉さんと飲み歩いているみたいね。」
「ウチの姉が誘ったのかしら。ごめん生泉。」
「別にあんたのせいじゃないでしょ。だからはじ姉はほっといて食べようか。それじゃ、いただきます。」
愛麗の一言で生泉家の晩餐が始まった。TVからは2話目のJKイレブンが始まろうとしているところだった。
「愛麗の愛情がこもったお料理美味しいです。私は蕎麦が好きですけどたまにはうどんもいいですね。」
「この季節だと麺が一番楽に作れるし楽に食べられるからね。サラダうどんならエネルギーと一緒に野菜も取れるしいいでしょ。」
「あたしが焼いた肉も食べていいわ・・・あ、夜光は嫌いだっけ?」
「え、お肉は嫌いではないですからいただきますよ?」
「今日はいつもより賑やかで楽しいな。」
父母のいない特殊な家族であっても生泉家の晩餐は比較的賑やかだった。
食事終了後。凛世と和琴は帰宅のためサウスハイツの自動扉の前にいた。
「今日はご馳走様でした。」
「2人とも本当にいいの?家まで送っていくわよ?」
「別にいいわよ。片付けとか大変でしょ心配しなくても家までの道ぐらいわかるわよ。」
「そう・・・なら気を付けて帰ってね。最近は物騒な奴も多いから。」
「はい、今日は色々とありがとうございました。今度はお料理私にも手伝わせてくださいね。」
「また学校か地下書庫でね。」
凜世と和琴は愛麗にそう言うと、自分たちの自宅へ向けて帰っていく。
「さーて・・・あたしは戻って食器の片づけしようっと。何か忘れているような気がするけどまあいいわ。」
愛麗は食事の後を片付けるために管理人室へ戻ったのだった・・・
その日の夜更けの事。ワインやらウイスキーやらを飲んで酔っ払った創芽が帰ってきた。
「ふへへ~今日はお酒しか飲んでないから愛麗ちゃんの晩御飯楽しみだな~。」
創芽は愛麗が早めに寝るタイプであることも忘れて、のんきにサウスハイツの自動扉をカードキーで開く。
「あれ~?管理人室誰もいないのぉ~?」
当然である。管理人室は夜間は誰もおらず管理人である祖父母も仕事を終えて自室に戻って寝ているし、愛麗や香楓も自室ですでに眠りについてる。
「晩御飯は・・・そうだ、メッセージアプリを使って愛麗ちゃんに聞いてみよう・・・」
メッセージアプリを開くと愛麗に晩御飯はあるかなどのメッセージを5回書いて送信したしかし・・・眠りを妨害されて機嫌が悪かった愛麗は数秒で以下のメッセージを書いて創芽に返すと再び眠りについてしまった。
「宇織さんと楽しそうに酒飲んでたくせに晩御飯だせだと?あるわけないでしょ?睡眠の邪魔すんじゃねえよ!」
「そんなぁ・・・」
創芽は妹たちと比べて家事が不得意なタイプなので簡単な料理すら作れない。今からコンビニや飲食店に行くなど考えられない。なので、この状況は詰んだということと同義だろう。
「ああ、空腹が酷くてもうだめえ・・・」
結局、創芽は空腹のあまり管理人室の前で倒れこんでしまったのだった。
次の朝。愛麗はいつも通り早起きし、軽い運動を終えたのち管理人室で朝食を作ろうとしたら、管理人室の前で寝ている創芽に気づいた。
「・・・なんでそんなところで寝てんのはじ姉。」
「おはよー愛麗ちゃん。朝ごはんまだかなおなかすいちゃって・・・」
愛麗は朝食をねだる姉にあきれた表情をしながらもこう言った。
「・・・これから作るところだから中入って待ってればいいんじゃない。」
「ありがとー!愛麗ちゃん大好き!」
「(全く、単純な姉なんだから・・・)」
愛麗はきつい物言いをすることはあっても根は優しいのである。