「ねえ夜光に花蜜、あんたたちなら幼馴染の生泉の事なんでも知ってるわよね?」
「はい。愛麗の事なら大体は把握してますよ。」
「小学校入る前の小っちゃいころからずっと一緒だったし。」
「なら聞いてもいい?あいつってさ・・・なんでスカート嫌がってるのか知ってる?前に生泉と服屋に行った時にこんな受け答えをされたんだけど・・・」
~和琴の回想~
数日前、駅ビルの服屋で買い物していたときの事。
「うーん、これとか今の季節にいいわね。」
「和琴って服とか詳しいわよね。」
「腐っても元モデルだから。モデル廃業した今じゃ雷久保や西園寺に負けるけどね。生泉にはこんなのも似合いそうね。」
和琴はそう言うと、愛麗の身体に紫のスカートを当てた。
「え、あたしスカートはちょっと・・・」
「前から思ってたんだけど、なんであんたってスカート嫌いなのよ?見た目可愛いんだから似合うと思うんだけど。オーバーオールばっかじゃ飽きるんじゃないの?」
「・・・その理由言わなきゃダメ?」
「足に傷があるから?」
「いや、それもあるけどスカート嫌いなのはもっと別の理由があるのよ・・・」
「すごく嫌そうな顔してるわね・・・別にいいわよ、誰にだって言いたくないことや苦手なものがあるのは当然だろうからね。」
和琴はそう言うとスカートを元の場所に戻したのだった。
「・・・って感じの受け答えをされたのよ。」
「愛麗がスカートを嫌いな理由ですか・・・その理由なら眞武さんもご存じのとおり愛麗の足に傷があるからではないですか?」
「もしくは服の好みの問題だと思うし。愛麗がサロペット好きなだけなんじゃん。」
「理由は傷とは別にあるって言ってたんだけど。」
「そうなんですか。愛麗から聞いたことがないので私にもわかりかねますね。」
「ふーむ、これは気になるわね。他の奴にも聞いてみるわありがとね。」
「そんな愛麗のスカート嫌いの真実を知りたいなんて暇なの?」
「んなわけないわよ。あたしは真実が知りたいだけなの!そのためなら自分の身体を使ったっていいしなんだってするのよ。」
「・・・眞武さん。知りたいことを知るという事は好奇心旺盛で素晴らしいことです。ですが、その結果で愛麗を嫌な気持ちにさせた場合は許しませんよ?」
「分かってるってばそんなに怒らなくたっていいでしょ。」
これ以上話を聞くと、凛世が怒る可能性を察した和琴は、そう言ってその場から去ったのだった。
「あっ、眞武さん・・・もう、眞武さんの好奇心旺盛さには時々呆れますね。」
「だけどあれがあいつなんだからしょーがないんじゃないの。」
和琴は次に幼馴染2人を除いて愛麗と仲がいい奈摘と嘉月に話を聞いてみる。
「・・・というわけなんだけど。有佐見と雷久保は生泉がスカートを履かない理由について足の傷の事以外で何か知っていることはない?」
「愛麗ちゃんがスカート履かへん理由・・・足の傷の事はウチも聞いたことあるで。それ以外は知らへんよ。」
「お洋服は好きなものを好きに切るのが一番だと思いますわよ。和琴さんも元モデルですしそれはわかっているのではないですの?」
「あんたたちも夜光や花蜜と同じこと言うのね・・・わかってるけどさ、気になってしょうがないのよ!」
「ずいぶん興奮しとるんやな・・・気になると真実を知るまで追求するんが和琴ちゃんの性分やから、ウチらでは止められへんな。」
「和琴さん、真実を追求することは時に身に危険を及ぼすほどのことが起こることもあるのですわよ?」
「そんなに気になるんやったら直接愛麗ちゃんに聞けばええんちゃう?」
「そのやり方で教えてもらえなかったんだけど・・・」
「でしたら、何か愛麗さんの好きなものをおごったりしてご機嫌を取って聞いてみたらどうですの?愛麗さんは根はやさしい方ですもの。気持ちをしっかりと伝えれば教えてくれると思いますわよ。」
「それいいわね!じゃ、早速生泉の所に・・・」
和琴は愛麗の所へ向かおうと決めた・・・が、すぐに動きを止めてしまった。
「和琴ちゃん急に動き止めてどうしたん?」
「生泉って今の時間授業受けてたっけ?」
「受けてたと思いますわよ。ですがもうすぐこの時間の授業は終わると思いますのでお昼も近いですし食堂にいらっしゃると思いますわ。」
「色々ありがとう有佐見に雷久保!生泉に素直に聞いてみることにするわ!」
「ちゃんと聞けるとええな。」
和琴は食堂に着くと愛麗が座りそうな場所を中心に探す。すると、奥まった場所にある座席に座っている愛麗を見つけた。特に何か食事をとっているわけでもなくタブレット端末でネットショップで新型の模型を見ているようだ。
「生泉ちょっといい?」
「和琴じゃない。もう少ししたら昼食にしようと思ってるけど一緒に食べる?」
「その前にちょっといいかしら、あたしのここ見せてあげるから、あんたの大事な秘密教えてくれない?」
和琴は愛麗に前乗りになる体勢を取ると服の胸元を開いて少しの下着と綺麗な形の胸の一部を見せ愛麗に迫る。
「何言ってんのあんた・・・暑さで頭おかしくなっちゃった?」
「えっ、これじゃダメなの・・・JKの胸よ?」
「和琴は美人だと思うけどあたしは凜世じゃないとだめなのよ。」
「・・・それもそうだったわね。」
和琴は愛麗の言葉に納得すると身を引き、愛麗の向かい側の座席に座った。
「それよりも大事な秘密教えろって急になんなのよ。」
「・・・生泉がスカート履かない本当の理由って何?」
「あたしがスカート履かない理由?なーんだ。そんなこと知りたかったの。」
「前に駅ビルに買い物行ってスカートを勧めた時嫌そうな顔されてからどうしても知りたくて・・・足の傷とは別の理由があるんでしょ?」
「そうね、なら教える代わりにあれ奢って?」
愛麗はそう言うと食堂にある店の一角を指さす。そこにはプレミアムアイス1個680円と書かれていた。
「あれはさすがに高いんだけど・・・」
「秘密知りたいんじゃないの~?和琴ちゃん?」
「ったく・・・覚えてなさいよ!」
和琴は悪態をつきながらもプレミアムアイスを購入して愛麗の所に持ってきた。
「はい!これで秘密教えなさいよね!」
「分かってるわよ。」
愛麗はアイスを食べつつ、真相を語り始める。
「和琴はあたしの家が祖父母と姉と妹で構成されているのは知ってるわよね?」
「そうね。あんたの母親がポンコツだからあんたの祖父母が育てたんだったわね。」
和琴はアイスをおごらされた恨みなのか、愛麗の話に悪態を混ぜた相槌を返した。
「あたしの母親があれなのは間違ってないけど・・・だけどあたしを里親だった夫婦から引き取った当初は家に祖父さんしかいなくてね、しかも女の子だからいろいろわからなかったことがあったわけよ。その中でも一番問題だったのが服よ。」
「なんで服が一番の問題になるのよ?」
「和琴は初老の男性がさ、女の子供服売り場にいたらどう思う?」
「不審だなって少し思うかもしれないわね。」
「そういうこと。いい年した男の祖父さんにとってスカートとか女の子供服は買いにくいのよ。下着はネットで注文してたんだけど、服はやっぱり実物見ないと難しいじゃない?」
「そこはわかるわね。ネットで買ったらサイズが小さかった・・・ってこともよくあるからね。」
「女児の服なんて買えないから祖父さんが買ってくるのは自然と女の子が来ても問題ないようなユニセックスな服が増えてね。それであたしによく与えられたのがオールインワン系の服だったのよ。」
「それで生泉はスカート着たいとか不満持ったりしなかったわけ?」
「そんなこと考えたこともなかったわ。足の傷に配慮してズボンにしてくれたんだと思うし、来ているうちに好きになっちゃったから。逆にスカートは滅多に履かないから自然と苦手になっちゃって。それにさ、中性的な雰囲気の服もアクセサリーや上着、髪型と併せれば可愛くできるじゃない?」
愛麗は今日着ているかわいらしいピンクと白デザインのパーカーの一部を掴んでさりげなくアピールしながらそう言った。
「生泉から可愛くできるっていう言葉が聴けるなんて思わなかったわ・・・」
「あんたってほんと失礼よね。要約すると、あたしがスカートを履かないのは傷の事もあるけど、何よりオールインワン系の服が好みだからそれを生かせるようなファッションをするのが好きなの。これが真相よ本当の事知れて満足?もしくは納得いかない答えだった?」
「もちろん満足よ。しつこく聞いて悪かったわね。」
「そ、満足できたんならよかったわ。じゃ、あたしお昼買ってくるから。」
愛麗はそう言うと一部の荷物を置いて、昼食を買いに行った。
「・・・で、あたしはどうしようかしら。いつも夜光と3人でが多いし、生泉と2人きりで食事するなんて滅多にないから一緒に食べて行こうかしら・・・」
和琴が悩んでいると愛麗が戻ってきた。食事の乗ったトレーを2つ抱えて。
「これ和琴の分ね。食べてくんでしょ?」
「ありがと・・・お金はいいの?」
「いいわよ、さっきアイス奢ってもらったしお返しってことで食べていきなさいよ。あんまり借りを作りたくないタイプだからあたし。」
愛麗はそう言って、和琴の前に焼肉定食の乗ったトレーを、自分の前には唐揚げ定食の乗ったトレーを置いた。
「あたしに高い焼肉で自分は唐揚げって・・・やっぱり生泉の方が一枚上手ね。」
「なんのこと?和琴は肉が好きだったから焼肉にしたんだけど、嫌だった?」
「違うわよちょっとあんたのやり方に感心しただけよ。さ、食べましょ。」
和琴は自分とは違い身体を使わずとも自然な行動で相手を惹きつけられる魅力を持った愛麗に感心しつつ、焼肉を食べたのだった。