水萌、偽装デートを頼まれる

「水萌ちゃん、お願い!」
「急にそんなこと言われてもなぁ。」
アタシ織田倉水萌は今現在、幼馴染兼友人の西園寺陽湖にあることを依頼されていた。なんとそれは偽装デートの御依頼だった。
どうも陽湖はこの前ある男を助けた結果、そいつにストーカーのように付き纏われてしまっているらしい。自分で撒いた種だと言ってしまえばそれまでだが、陽湖は優しくてお人好しな面も強い。だからこんなことになるなんて思ってなかっただろう。
「恋人のふりしてくれるだけでいいの!」
「その前にさ、なんでアタシなんだよ。咲彩とか柚歌に頼んだほうがいいだろお前の場合。」
「水萌ちゃんなら腕力強そうだし、いざって時守ってくれそうだから・・・もし引き受けてくれたら、美味しいお店の食べ放題ご馳走するから!」
「しゃーねーな、今回だけだからな。」
「ありがとう!水萌ちゃんがドキドキしちゃうほどの飛びっきりオシャレしてくるからね!」
「お、おう・・・」
陽湖は結構服のセンスがいいのは知ってる。だが、アタシは陽湖にあまり気がないからドキドキさせるのは無理だと思うけどな。
そんなわけで安請け合いをしてしまったのだが、まさかこれがきっかけで大変な目に遭うだなんてこの時はまだ思いもしなかったな。

偽装デート当日。アタシは駅の前で陽湖を待っていた。
「遅いな・・・アイツがマイペースだってことすっかり忘れてたぜ。」
そんな風にぼやいていると向こうから陽湖がやってきた。だが、その姿を見たアタシは目を奪われてしまった。
「水萌ちゃーん!」
「あれ・・・陽湖なのか・・・?」
陽湖は胸部分が大きく開いた上服に鮮やかなオレンジのロングスカートを来ている。陽湖は普段はゆったりしたワンピースとかジャンパースカートなので目を奪われる。いつもお団子にしたりバレッタでアップスタイルにまとめている髪も下ろしていてお嬢様がかぶるような帽子を着用している。正直・・・可愛い。
「お前・・・似合うな。」
「言ったでしょ?名いっぱいのオシャレしてくるって。」
「(やっぱり咲彩の従姉妹だけあって似てるな・・・)」
「そんなに可愛いのにアタシはいつもの格好で悪いな。」
「そんなのいいよ。わたしが頼んだことだもん。それじゃ行こうか。」
最初は恋人として違和感ない振る舞いを身につけるためデートの練習だ。陽姫に付きまとっているストーカー男とは午後に会う約束を取り付けたらしい。プランは陽姫に考えてきてもらった。今思えば恥ずかしいことばかりやってたな・・・

2本のストローで同じドリンクを飲んだり・・・
「で・・・コレ本当一緒に飲まなきゃダメか?咲彩ともやったことすらないんだが。」
「恋人はね、2本のストローで同じドリンクを飲むんだよぉ。」
「分かったよ・・・(ああもう陽姫が可愛すぎて緊張で口が震える・・・)」

カラオケボックスで身体を密着させたり・・・
「おい・・・ここまでしなくてもいいだろ?」
「恋人だもんこれぐらいは・・・(むにゅ)さ、デュエットしようよぉ!」
「(緊張で歌えねえよ・・・)」

愛称で呼び合ったり・・・
「恋人同士なら愛称で呼び合った方がいいよね。みなちゃん。」
「アタシも相性で呼ばなきゃダメか・・・?」
「ダメだよ?」
「分かったよ。あんまりそう言うの得意じゃないけど・・・ハル。でいいか?」
「うん。ありがとう。」

・・・他にも書けないぐらい恥ずかしいことたくさんやった。だけどこれも陽姫を助けてやるためならやってやるさ。それに、今日の陽姫は可愛いからアタシも興奮しっぱなしでまんざらでもなかったのも事実だ。
そして午後、アタシたちは約束の場所である駅前に向かった。そこには怪しい感じの男がおり、アタシらを見つけると自分から近寄ってきて声をかけてきた。
「やあやあ西園寺さん。決意は固まったかな?そんなに綺麗な服を着てるってことは・・・俺を受けて入れてくれる気になったんだね?」
おそらくこいつが陽姫が助けたストーカーの奴だろう。
「これはあなたのためじゃないもん。それにわたしの恋人はこの人・・・みなちゃんだよ。」
陽湖はそういうとアタシを胸元に引き寄せた。陽湖の大きい胸がアタシの頭に当たる。
「はっ、何言ってるんだか。女同士で恋愛なんておかしくて笑いがとまらないね!そんな嘘バレバレの芝居なんかしていないでさっさと俺のものになりな!」
「そんなこと・・・ないもん・・・」
陽姫は男の威勢の良さにやや劣勢になりつつあるのでアタシも言葉で手助けする。
「お前さ、ハルになんで付き纏ってるのかしらねえけどよ、嫌がっているのわかんねーのか?」
「何を言っているんだい・・・西園寺さんは照れ隠ししているだけだろ?」
「本気で嫌がっている相手に向かって照れ隠しとかいう解釈をするお前もどうかと思うけどな。」
「ちっ・・・この手は使いたくなかったが、食らえ!」
男はそう言うと、懐から何かを取りだして蓋をあけるとそれをアタシに向かって投げつけてきた。
「これは何だ・・・咳が止まらない・・・」
「みなちゃん大丈夫!?」
「それは蟹エキスだ。一応西園寺さんの周囲の奴の情報も調べておいてよかったよ。お前、織田倉水萌は・・・甲殻アレルギーだったよな?」
「なんでそれを・・・ゲホッ・・・」
「調べたって言っただろ。俺の情報網を舐めたらだめだぜ。西園寺さん、織田倉を助けてほしければ俺のものになりな!」
「・・・みなちゃん、ありがとう。」
「行くな!」
「だけど、このままじゃみなちゃんが死んじゃうよ・・・」
「まだこれぐらいなら持ちこたえられるから・・・」
とはいえ、正直限界も近い。体調が良ければあいつぐらい殴り飛ばしてやるんだが・・・何か、何か陽姫を救える方法は・・・
「さあ、答えを言え!」
「わたしは・・・貴方の・・・」
陽姫がそこまで言いかけた時、男とアタシらの間に一台のバイクが割って入った。運転手は・・・アタシたちと同じぐらいか少し上だろう。ヘルメットをかぶっているので顔はよく分からない。バイクを路肩に止めると、陽姫に一本の注射器を渡した。
「それ撃って安静にさせてれば症状は収まるよ。」
「う、うん。ありがとう・・・みなちゃん、元気になって・・・痛いけど我慢してね。」
陽姫はアタシの腕に注射器を撃つ。その一方でバイクの運転手は男の方に詰め寄る。
「・・・な、なんだよお前?」
「さっきから見ていれば人が嫌がることをして挙句の果てには相手のアレルギーを逆手にとって攻撃するなんて最低だね。」
「うるせえ!西園寺さんは俺のものだ!それは未来永劫変わらないんだよ!」
「自分で勝手にそう思ってるだけでしょ。」
「そう、相手に酷いことしておいて反省もできないんだ。なら、私の大切な人たちを傷つけたこと絶対許さないから。」
運転手は男に飛びかかるとそのまま胴体を踏みつけた。
「痛てええええ!!!!!やめろおおおお!!!!!」
「嫌だ、止めて。この子たちも貴方に何度も言ったよね?だけど止めなかったのは誰?」
「分かった、俺が悪かった!西園寺さんには二度と付きまといません!許してください!」
「・・・いいよ。今回だけは信じてあげる。」
「ひええええ!!!覚えてろよー!」
運転手は男の体から足を退けた。その瞬間男は一目散に逃げ去って行く。
「・・・もう心配ないか。大丈夫だったはるちゃん?」
運転手は陽姫に近寄ると、ヘルメットを外した。運転手は咲彩だったのだ。
「さあちゃん・・・怖かったよぉー!!!!」
「よしよし。」
「はぁ・・・落ち着いてきたな、咲彩、助かったぜ。」
「みなちゃんも厄介ごとに巻き込んじゃってごめん。」
「いえ、ですがなんでアタシのアレルギーの薬の事知ってたんですか。」
「みなちゃん、万が一に備えて抗アレルギー剤注射器一本わたしに預けてあったでしょ。それを渡しただけだよ。」
「そうだったな。すっかり忘れていたぜ。」
「さあちゃんありがとう・・・みなちゃんが死ななくてよかったよぉ。」
「それより、2人とも疲れたでしょ。そこの店でゆっくりしよ?話も聞くからさ。」
咲彩はアタシと陽姫を連れてすぐ近くの喫茶店に入る。そして店の中へ入ったアタシは咲彩に聞きたかったことを聞いてみることにした。
「なぁ、なんで陽姫がこういうことに巻き込まれているって知ってたんだ?」
「数日前私もはるちゃんから変な人の付き纏われているっていう相談を受けていたから。デート相手には腕っ節の強いみなちゃんの方がいいって言ったんだけど、まさかあんなことになるなんて・・・そんなわけで念のため尾行させてもらってたんだ。」
「尾行してたのかよ・・・どれぐらいから見てたんだ?」
「最初からだよ。なかなかお似合いのカップルだったと思うよ。」
「そんなに前から・・・」
「見てたんだ・・・」
「遠目から見た感想だけど2人とも結構お似合いだったよ。付き合っちゃうのもありかもね!」
「アタシにはお前がいるだろ咲彩・・・」
「わたしにも柚歌ちゃんいるし・・・」
「あ、そうだったね。ちょっと軽率な発言だったねごめん。みなちゃん・・・嫌いにならないでね?」
「それぐらいで嫌いになったりしねえよ。」
「なんか今日は色々とごめんね水萌ちゃん。」
「いいよ。気にすんなって。アタシら親友だろ!?」
アタシはそう言って陽姫の背中をちょっと強めに叩いたのだった。親友という言葉に喜んだのかどうかはわからないが、陽湖は嬉しそうに笑っていた。