立屋敷家の五つ子たち

ある日の事。咲彩と水萌は苺瑠から呼び出しを受けて立屋敷家にやってきた。立屋敷家は和風の門がある豪邸で巨大な和風の門が入り口になっている立派な造りをしている。
「相変わらず大きいねいっちゃんの家。」
「ああ、未だに苺瑠がこんなでかい屋敷に住んでいるのって信じられないな。案外苗字の由来も高くて大きい屋敷に住む一族だからだったりしてな。」
「それはどうなのかなぁ・・・いっちゃんは門は開いているって言ってたし中に入ろうか。」
咲彩たちは門を押して開け中に入った。庭は日本庭園のようになっており池には錦鯉が泳ぎ、手入れされた松が植わっていたり庭石が置いてあった。
「いつ来ても立派なお庭だよね。」
「茶道の家元だしこれぐらい当然なんじゃないか?」
咲彩たちはそんな話をしながら歩いて玄関までたどり着く。玄関のインターホンを押すと苺瑠が出てきた。
「おお、2人とも来てもらってすまなかったな。我の部屋に案内するから付いてきてくれ。」
苺瑠は2人を部屋に案内する。苺瑠の部屋は和風ながらもベッドが置かれている半分和風で半分洋風と言った感じだった。
「いっちゃん、今日はどんな用事なのかな?」
「ああ、父が学校で担当している生徒と一緒に外国に遠征に行ってな・・・それで土産を買ってきたから我がいつもお世話になっているという意味で咲彩君と水萌君にも渡すよう言われたのだ。この青いのが咲彩君で白いのが水萌君のだったかな・・・」
苺瑠は青色の箱を咲彩に白色の箱を水萌に渡した。
「ありがとういっちゃん。」
「結構大きいんだな。」
「父は飾り物とか記念品しか買ってこない人だからな。たぶん、置物とかだと思うのだ。これだけで返すのも悪いし何か飲み物でも・・・」
「いっちゃん手伝うよ・・・」
「ああ、気にするな。客人なんだからゆっくりしていくのだ。」
苺瑠は立ち上がると台所へ飲み物を取りに行こうとする。部屋の外から髪色こそ黄色いが、苺瑠にそっくりな女の子が立っていた。
「・・・新菜!どうしたのだ。」
「へーえ・・・あの子たちがいっちゃんのお友達かぁ・・・初めて見た。」
すると後ろから青い髪の女の子と緑色の髪の女の子が顔を出した。
「苺瑠ちゃんのお友達!みたい!」
「ちょっと、みんなあまりかまったら苺瑠ちゃんが困るでしょ?」
「いっちゃんがいっぱい・・・」
「髪色と髪型違うんだから見分けられるだろ。」
「出てきちゃったんならしょうがないな・・・我が5つ子ってことは前に話したことあったな。我の姉たちだ。黄色のお団子頭が新菜、青色のポニーテールが水愛、緑色のお下げでカチューシャをしているのが志乃なのだ。一応両親が見分けやすいようピンク・青・緑・黄色・紫の5色でイメージカラーも分けているのだ。」
「だからいっちゃんってピンクのものを持っていることが多いんだね。」
「では私から。次女の立屋敷志乃です。言語の研究者を目指してます。」
「三女の立屋敷水愛です!イラストレーター志望だよよろしく!」
「四女の立屋敷新菜・・・一応ハンドメイドのアクセサリー作ってる・・・」
「苺瑠さんの友人の神宿咲彩です。」
「同じく織田倉水萌だ。そういえば苺瑠の家には昔から行っているけど、なんでこれまで合わなかったんだろうなアタシら?」
「ああ、それは私たち結構バラバラに行動することも多くて。」
「性格の不一致ってやつだね!」
「行ってる幼稚園も小学校もみんな別だったから、育った環境も全然違う・・・高校は一緒だけどね。」
「そういうことなのだ。新菜の言う通り高校からは全員一緒だ。クラスも授業も全員別だがな。」
「それよりも5つ子なのになんで4人なんだ?」
「あと1人は性格にちょっと問題あるから別居中・・・」
「なんで別居しているの?」
「我らの生まれ順見て気づかないか?」
「そういえばいっちゃんって末っ子なのに苺瑠って長女みたいな名前だよね。」
「その通りだ咲彩君。前に名前の由来で説明した通り、我が家の大人たちにとっての多胎児の生まれ順がつい最近まで昔基準でな・・・出生直後は一番最後に生まれた我が長女扱いされていたのだ。」
「父さんたちがすぐに気づいたのはいいんだけど、名前までは直せなくてそれを理由に苺瑠ちゃんに嫌がらせを・・・嫉妬って怖いね。」
「水愛ちゃんは真ん中で影響受けなかったんだからそう言えるのよ・・・私も時々自分が四女なんじゃないかって錯覚することもあるのよ。」
「アタシも新菜だから次女かなーって思うことある・・・」
「そんなわけで皆結構複雑な思いをしているのだ。父様たちが間違えなければこんないざこざ起らなかったというのに・・・」
「多胎児ってのも大変なんだな。そういえばもう1人の名前ってなんなんだ?」
「逸夜(いつや)です・・・」
「読みづれえな・・・それになんだか通夜連想するな。」
「ちょっと!何勝手に人の名前を話のネタにしているわけ!?」
水萌がそう言った時、部屋の入り口から大声が。そこには紫髪のセミロングで片目を隠した女の子が立っていた。
「逸夜ちゃん帰ってたんだ。」
「桶川の本家も重苦しいからね・・・たまには帰ってきたっていいでしょ!」
「というわけで長女の逸夜なのだ。」
「人の許可得ずに勝手に紹介してんじゃないわよ!」
「逸夜ちゃん、いちいち怒らないの。今はお客さんきてるんだから。」
「お客?ふうん・・・」
逸夜は部屋に入り、座っている咲彩と水萌の顔を交互に見つめる。
「えと・・・」
「あまり見るなよ・・・」
「出がらしの友達にしては上質な子達ね。」
「な・・・出がらしとは失礼なのだ!」
「出がらしでしょ。才能とかいうふざけた言葉に逃げてるんだから!」
「逸夜ちゃん!!!今お客様来ているんだからそういうはしたないことは止めなさい!!!」
「はーあ分かったわよ。志乃ってほんと優等生よね・・・そう言う堅物な所が嫌いなのよ。」
逸夜はそう言うと苺瑠の部屋から離れて行った。
「神宿さん織田倉さんごめんなさいね。あの子ちょっと性格悪いから強く言わないといけなくて・・・」
「だけど、見る限りでは心の底から悪い奴には見えなかったけどな。」
「逸夜ちゃんうちの茶道を継ぐことになってるんだ。だから普段は結構息苦しい生活を送っているらしいよ。」
「だからいつもイライラしているのかも・・・」
「逸夜はよく、私が茶道を継ぐことに誇りを持っていると主張していたが・・・本当はそうじゃないのかもな。」
「・・・ねえいっちゃんたち。私が逸夜ちゃんと話してみてもいいかな。」
「何を言っているのだ咲彩君、あいつは危険で・・・」
「今は放っておいた方がいいかと・・・」
「だけど・・・話してみないとわからないこともあるよ。」
咲彩はそういうと逸夜を追った。
「おい、咲彩・・・全く、しょうがないな。余計なことになっちまって悪いな苺瑠。」
「いや、別にいいのだ。あれが咲彩君のいいところでもあるからな。」

そのころ逸夜は縁側に座っていた。
「ったく・・・やりたくないことばかりで悪態をついてないとやってられないっての。」
「逸夜ちゃん、ちょっといいかな。」
「あんた・・・出がらしの友達ね。何か用?」
「ちょっとお話したいんだけどいい?」
「・・・身内もいないし勝手にすれば。」
咲彩は逸夜の隣に座った。
「それで話って何よ。」
「逸夜ちゃんって、なんでいつも怒ってるのかなって思って。」
「いろいろあんのよ。名家の長女って大変だから。生まれたときは五女として扱われてたのに出生順間違えたってだけで名前はそのままで長女にされたんだからやってらんないわよ。名前だって出生順に戻してくれたってよかったんじゃないのって今でも思うことがあるのよ・・・」
「そんなに自分の名前が嫌いなの?」
「逸夜よ?通夜みたいな名前って言われたこともあるし・・・苺瑠の方が可愛いじゃないの。」
「だけど、いっちゃんも苺の漢字の成り立ちが乳首由来って言われたことがあってそれが嫌だって聞いたことあるよ。」
「あいつそんなこと考えてたんだ知らなかった。ウチの父親国語教師のはずなんだけどね・・・」
「それとさ、茶道って本当に逸夜ちゃんのやりたいことなのかな?私から見るとなんだかそうは見えなかったから・・・」
「何でもわかるのねあんた・・・嫌いじゃないけど熱意をもって茶道をしたいって思ったことないのよ私。妹たちは後を継ぐことなんて考えずに自分勝手に好きなことばかりやってるし。志乃は言葉の研究、水愛はイラスト、新菜はアクセサリー作り・・・出がらしも祖父母から落語教わったりネット配信・・・Vtuberだっけ。とかやってるし。輝いているわよねあいつら。」
「逸夜ちゃんはやりたいことってないの?」
「私かぁ・・・できることなら旅人・・・ソロキャンパーになりたいわね。自然の中で自分で料理して焚火を焚いてゆったりとすごす・・・立屋敷じゃ味わえないことをしたいの。母様に隠れて自然での食事作りの方法を学んだりもしているし・・・自転車で騎ノ風国立公園にあるオートキャンプ場の下見も昔から行ってるのよ。まだ実際に泊まったことはないんだけどね。」
「逸夜ちゃん、その気持ちをお母さんに伝えてみたらどうかな?」
「母様に?馬鹿じゃないの!?許してもらえるはずないわよ・・・」
「逸夜ちゃんの気持ちを分かってくれるかもしれないよ。」
「気持ちを伝えるか・・・色々聞いてくれてありがと。あんたの名前覚えておくわ。」
咲彩と逸夜のそんなやり取りを水萌と苺瑠、ほかの姉妹たちは柱の陰から見守っていた。
「逸夜ちゃんがあんなことを考えていたなんて知らなかった・・・」
「私さっき逸夜ちゃんの気持ちも考えずに言いすぎちゃったかも・・・」
「逸夜ちゃんに必要だったのはちゃんと自分の気持ちを聞いてくれる人だったのかもね!」
「咲彩君が逸夜の気持ちに気づいてくれてよかったのだ・・・我に対する悪態はやりたくないことのストレスから来ていたんだな。」
「抑圧されて育つと視野が狭まるからな・・・逸夜にとってはこれがいい機会になったんじゃねえかな?」
「そうだといいのだがな・・・」

咲彩たちが立屋敷家を訪れてから数日後のこと。この日は4組に編入生が来ることになっていた。咲彩、苺瑠、水萌の3人は食堂でその話題に。
「なあ、知ってるか?4組に編入生が来たんだとさ。」
「どんな人が来たんだろうね?」
「まあ、問題起こさないようないいんじゃないか・・・」
「神宿、織田倉、出がらし。隣いいかしら?」
そこにいたのは濃い紫髪のセミロングの女子・・・逸夜だった。
「逸夜ちゃん!」
「4組に編入したのってお前か?」
「そうよ!今日から同じ学園に通う者同士よろしく頼むわね。」
「逸夜!お前、レベルの高い県立高にいたんじゃ・・・それと出がらしはやめるのだ。」
「ふん、普通科のエリート校なんか飽きたのよ!・・・本当は神宿の言った通り、母様に私の思いを打ち明けてみたの。そうしたら母様ってば逸夜が今までやりたいことなんて言ったことなかったから嬉しい。私が長生きして少しでも逸夜の後継ぎのタイミングを遅らせるから茶道の修業もしつつ好きなことをやってもいいって言われたのよ。というわけでやりたいことを極めるならって意味で夢限学園に編入させてもらったの。ここで茶道と私のやりたいこと・・・旅やキャンプについて深く学ぶわ!」
「よかったね。逸夜ちゃんの思いが届いたんだよ。」
「通学はどうするのだ?」
「基本的には本家から通わせてもらうけど、週末はこっちに泊まらせてもらうわ。それにさ・・・二兎を追う者は一兎をも得ずって言葉はあるけど、それでも一つのことに限定して極める必要もないんじゃないかって思ったのよ。私もエネルギーが持続するかわからないけど、茶道と旅人・・・両方の目標を追いかけることにするわ!お茶が入れられる旅人っで素敵じゃないかしら。」
「お茶を入れられる旅人かぁ・・・素敵だと思うよ逸夜ちゃん。」
「はは・・・また騒がしくなりそうなのだ。」
「あんたのことを認めるつもりはないけどね?」
「一言余計だぞ・・・」
こうして水晶学園には自分の思いに正直になれた新しい生徒が加わったのだった・・・