私には大切な娘がいた。しかし、娘は問題を起こしたとされて好きだった活動を停止させられてしまった。それからまったく元気がない。私は・・・娘を陥れた水晶学園とそのきっかけを作った生徒たちを許さない。娘を陥れた連中にはどんな手を使ってでも復讐してくれるわ。
所変わってここは騎ノ風TVの本社。1人の男がレポーターとして活動する和琴の姉である眞武宇織に声をかける。
「眞武さん、ちょっといいかい?」
「なんですか嫌川さん?」
「君妹さんいたよね?連絡先教えてくれないかな?」
この男は嫌川嫌三。最近コネ入社で管理職に就いたのだが、一応騎ノ風TVではそれなりに地位のある位置にいる。
「急になんですか・・・妹を紹介しろって急に言われてするわけないじゃないですか?」
「君の妹にどうしても用事があるんだ。彼女の落とし物を拾ってね・・・届けてあげたいんだ。」
「私から渡すのでその落とし物渡してください。」
「・・・君が妹さんの連絡先を教えるのが嫌だっていうのなら、君を解雇したって構わないんだけどな?」
「解雇・・・特権使って脅しですか?それパワハラじゃないんですか?」
「変わりはいくらでもいんだよ。俺の特権でお前の言われたくないヒミツを電波に流して放送したっていいんだぞ?」
「(覚えてろよパワハラ糞野郎・・・)」
宇織は脅されて仕方なしに嫌三に和琴の連絡先を教えた。そしてこれは騎ノ風市中を巻き込んだ事件に繋がるとはまだ誰も知る由もなかった。
宇織が脅されてから数日後のこと。和琴に差出人不明の一通の手紙が来た。
「なんなのよこれ・・・ええと、命が惜しければあんたの持っている情報を全て持って地図の場所に来なさい・・・っていまどきこんな誘いに乗るやついないでしょ・・・」
和琴がそう口に出した瞬間スマホが鳴った。通話相手は非通知・・・おそらくこの手紙の差出人である可能性が高いだろう。
「はい、何なのよ・・・」
「眞武和琴だな。お前の友人のデータが欲しい。持って送った地図の場所にある裏路地に来い。」
「あんた手紙の差出人?あたしに脅しかけるならもっとうまい手を考えてからにしなさい。確かにあたしは友人の情報ならある程度持ってるけど・・・怪しい奴に渡せるわけないじゃないの。」
「ほう・・・なら、お前の姉がどうなってもいいのか?俺はあいつに圧力をかけられる。」
「姉さんに圧力?ってことはテレビの関係者?」
「そんなことはどうでもいい。来るか来ないか、どちらかの権利しかお前には与えられていない。」
「・・・分かったわよ、行けばいいんでしょ!」
和琴はやりたかったことをようやく形にしている宇織を引き合いに出されたせいで断ることができず、データを持って指定された場所に向かった。
数分後、和琴は指定された場所に着いた。裏路地は騎ノ風市の中でも特に人に目が付きにくい場所にあった。
「・・・ここでいいのかしら。」
「眞武和琴。ここまでご苦労だった。」
和琴の前にどこからか覆面をかぶった男が現れた。
「電話の相手ってあんた?」
「そうだ。さっさと君の友人のデータを渡してもらおうか。」
「持ってきたけど渡さないわ。やすやすと個人情報を渡すもんですか。それにここに来る前に警察に連絡したのよ・・・あんたたちはもうすぐ逮捕ね!」
「チッ・・・だったら力ずくでいただく!」
覆面の男は裏路地に隠れていた仲間を呼ぶと、集団で和琴に襲い掛かった。
「やっぱりこんなことだろうと・・・きゃっ!」
襲い掛かってきた人物の一人が和琴の髪を引っ張り、その隙に別の一人が後頭部を殴った。
「うっ・・・」
「気絶したか・・・探せ!」
覆面の男は気絶した和琴の身体をまさぐり、データの入っていると思われるSDカードを見つけた。
「よし、これだ!ずらかるぞ!」
男はSDカードを手に入れると仲間と共に去って行った。和琴は直後に駆けつけた警察によって保護され病院に運ばれた。身体に別条はなかったが、一日だけ検査のため入院することになった。
愛麗たちにはその日のうちに和琴自身から怪しい集団に襲われたということを伝えられた。
「和琴が襲われたって本当!?」
「はい・・・怪しい男の集団だったそうですよ。」
「いつも思うのですこの市の警備は何をやっているのでしょう・・・」
和琴の入院している病院の個室の前に着くとドアを開ける。
「和琴、見舞いに来たわよ。」
「悪いわね・・・」
病室に入るといつもより調子悪そうな和琴が横になっていた。
「和琴さん、大丈夫ですの?」
「ああ、問題ないわよ・・・ちょっと頭殴られただけよ。ただ、ある物を奪われてね。」
「何を奪われたんですの?」
「あんたたちの情報が入ったSDカード。」
「なんでそんなものもってんの・・・」
「色々調べるのが好きだからあたしは。」
「あんたを襲った男の集団ってどんな奴らだったの?」
「そうねえ・・・若い男というよりはどちらかというと中年っぽい感じだったけど・・・覆面をしていたから分からないけど。」
「それよりもなぜ男たちは和琴さんの持つわたくしたちのデータを奪ったのでしょうか・・・」
「知らないわよ。JKに興味がある変質者集団だったんじゃないの。それよりも男に体まさぐられた・・・もう誰とも付き合えない・・・」
「いつも女の子たぶらかすくせにこういうところでは繊細ね和琴は。」
「それならわたくしの所に来てくださいな。」
「天宮城・・・ありがとね。」
「ま、元気そうでよかったわ。」
「それでは長居しても失礼しますね。」
「急な入院だったのに悪かったわね。明日には復帰できると思うからー。」
愛麗たちが帰った後、検査を終えた和琴はその日のうちに退院し次の日からは普通の生活に戻れることになった。
次の日のこと。騎ノ風市役所前の電子掲示板にはとんでもないものが流れていた。
「みんな、大変だ!」
「そんなに慌ててどうしたのだ水萌君。」
「せっかちなのはよくないよぉ?」
「お前らのんびりしてる場合じゃないぞ!これ見てみろ!」
水萌はスマホの画面をその場にいた咲彩、苺瑠、陽姫に見せた。
「なにこれ?」
「市役所前の掲示板にアタシらの家のことで全く覚えのないガセネタが流されてるんだよ。」
画面に映っている電光掲示板には織田倉本舗の和菓子は不味いだの、東条寺秋(声優である陽姫の母の芸名)はわいろを使って役を得ている、立屋敷家の五つ子はクローンとして生み出された怪物などという事まで流れてきていた。
「ええーっ・・・お母さんは自分の力で声優の仕事を勝ち取ってるんだよぉ。賄賂なんかしてないのにぃ・・・」
「我らをクローン生物とは随分な物言いだな。」
「これ拡散止めないとまずいよ・・・それに他の皆にも伝えないと・・・」
「今ここにいない他のみんなはこの件について話すために地下書庫に集まっているってさ。アタシらも行くぞ!」
「うむ、わかったのだ!」
「みなちゃんいっちゃん、授業はどうするの?」
「さあちゃん、今はそんなこと言ってる場合じゃないよぉ。」
「咲彩、今はアタシらはこっちの問題を解決するのが優先だ。」
「しょうがないなあ、だけど授業放棄するのなんて初めてで罪悪感が・・・」
咲彩は緊急事態でも真面目なようだ。
水萌たちが地下書庫に着くとコンピュータールーム近くの机に、すでにみんな集まっていた。
「来たぞ!」
「水萌!!上のドア閉めてきたよね?」
「悪意のある方が万が一ここを嗅ぎつけてしまえば終わりですから。」
「この件は鮫川センセに相談済みやから、今日は授業でなくても問題あらへんよ。」
「先生も後で様子を見に来てくれるっておっしゃってました。」
「味方してくれる大人が少しでもいると助かるな。」
「これで全員揃ったってことでよさそうね。」
「それで今はどんな状況なんだよ?それと和琴お前入院してたんじゃ・・・」
「もう問題ないわ。鷲岳たちがコンピュータルームでこの個人情報をばらまいている発信源がどこなのかを調べてくれているわ。」
地下書庫の奥にあるコンピュータルームではエレナ、環輝、奈摘の3人が情報の流出した場所を調べるためにパソコン画面と向き合っていた。
「ねえ3人とも、何か分かったのぉ?」
「分からない・・・今環輝ちゃんたちと全力で調べはつくしているけど・・・」
「この情報がどっから流失したのか突き止めらんないのー!」
「数日前に和琴さんが襲われたことと関係があると思うのですが・・・わたくしパソコンはゲームするのにしか使わないのでこういうのは慣れませんわ。」
「ことちゃん、襲ってきた集団ってどんな人たちだったの?」
「顔はわからなかったけど・・・覆面をした男の集団だったわね。それと、あたしがあんたらの情報の入ったSDカードを持ってたことを知ってたわ。」
「ってことはアタシらに恨みがあるやつの可能性が高いな。」
「近い場所にいる相手だってことも考えられるよね。」
「そういえば、姉さんが見舞いに来た時、上司にあたしの連絡先を教えてって脅されたから教えちゃったとか言ってたんだけどそれと何か関係あんのかしら。」
「その上司の名前覚えてる?」
「嫌川嫌三とか言ってたけど・・・」
「嫌川か・・・どこかで聞いたことがあるような気がするのだが思い出せんな・・・」
「私たちはどうしてこうも変な方々から被害を受けてばかりなんですかね・・・なんだか悲しくなってきます。しくしく・・・」
「凛世、世の中には分かり合えない、自分さえよければ他はどうでもいい、相手を叩き潰したいとか考えている存在もいるのよ。」
その時地下書庫の入り口で音がした。鮫川先生が入ってきたようだ。
「お前ら、大丈夫か!」
「先生!」
「このような時間に学校を抜けてきて大丈夫なんですか?」
「学園には事情を話してある。だから問題ない。それにお前らは私の生徒だから、危険な目に合っているなら協力するさ。」
「みんな・・・個人情報を流している発信源が突き止められた。」
「それでどこなん?」
「騎ノ風TVみたい。」
「おかしいですわね。騎ノ風市内の電光掲示板はそれぞれ近くにある公共施設が管理しているはず。わたくしたちのガセネタが表示されているのが市役所前の電光掲示板であるのなら、市役所からでないと操作ができないはずですわ。」
「だとすっと考えられるのは、市役所のコンピューターをハッキングしてTV局から操作をしているっていう可能性だし。」
「TV局だけじゃなくて市役所関係者にも協力者がいるって考えられるよね。」
「せやけど、市長の崇子さんがそんなことする人を下に置いとるなんて考えられへんよ・・・」
騎ノ風市の市長は28歳の女性大王崇子が勤めている。愛麗たちとはとある事件に巻き込まれてから親しい間柄であり、騎ノ風市をより良い方向に向かわせようと様々な政策を立てている騎ノ風の新世代を造り出す革命児と言われていて市民からの信頼も大きい。嘉月はそんな崇子が悪事に平気で加担するような人を部下に置いているとは考えられないのだろう。
「こうなったら何人かでTV局に乗りこむ?原因が分かればガセ情報の流出止められるかもしれないわよ。」
「あたしが行くわ。元々、この事件はあたしが襲われさえしなければ起こらなかったはずなわけだしね。」
「和琴、昨日退院したばかりで病み上がりじゃないの?」
「心配しなくていいわよ。自分の手で収束させたいから。」
「アタシも行くか。戦える奴が多いほうがいいだろ。」
「環輝も行くよ。パソコン分かるやつがいたほうがいいっしょ?」
「それなら私もついて行こう。お前たちに危機が迫ったら守れるようにな。」
「先生・・・よろしく頼むわね。」
騎ノ風TVには和琴、水萌、環輝、鮫川先生の4人でへ向かうことになった。
~騎ノ風TV~
数十分後。和琴たちは騎ノ風TVの本社にたどり着き3階の放送スタジオに向かう。しかし、騎ノ風TVは今現在放送中のはずなのに受け付けや警備の人間も含めて誰一人見当たらない。
「おかしいわね・・・姉さんだけじゃなく他のスタッフやプロデューサー、ADすらいないわ・・・この時間にこんなことはありえないはずなのに。」
「警備の人間や受付の連中もいなかったな・・・」
「もう疲れたんですけどー・・・」
「環輝、もし疲れたら私の背中に乗れ!お前一人ぐらいなら背負える。」
「ありがと先生・・・」
TV局の階段を登り切り、放送スタジオにたどりついた。しかし、ここにも誰もいない・・・と思いきや物陰から一人の男が姿を現した。
「おやおや可愛いお嬢さんたち。ここに何の用事かな?」
「誰だ!」
「そんなに警戒しなくてもいいだろうに。俺はここの取り締まりをしている嫌川嫌三だ。」
現れた男は嫌川嫌三。和琴の姉を脅した張本人でもある。
「あんたね。姉さんを脅して無理やりあたしの連絡先を聞き出したのは・・・」
「俺がそれを行った証拠があるのかい?」
「姉さん・・・いや、眞武宇織から聞いたのよ、あんたに解雇するって言われて脅されたってね!」
「ほう、眞武さんの妹が直々に着て下さったのか。ばれてしまったのならしょうがないな確かにお前らの偽情報を流したのは俺さ。これも可愛い妹への復讐のためだ!」
「復讐に妹だと?なんのことだ?」
「やはり加害した側は自分の罪をきれいさっぱり忘れるんだな。俺の妹は嫌川ミシルだよ。お前らのせいで活動どころか部屋から出られなくなってしまったがな!」
「嫌川ミシルって・・・週刊誌部を自称してアタシらのガセ情報をばらまいていたあの先輩の身内だったのね・・・」
「嫌川先輩って最低だったし。」
「あいつには色々と苦労を掛けさせられたな・・・」
「ふん、お前らにはそうでも俺には可愛い妹だ。俺たちは男兄弟ばかりだった。だが、やっと6番目に念願の女の子・・・ミシルが生まれたんだ。俺たちはミシルに深い愛情を注いでここまで育てたんだ。」
「どうせ捏造記事を書くことを面白ければなんでも正義とか教えた上に甘やかして育てたんでしょ?」
「黙れ!その妹を再起不能にしたお前らを再起不能にするために今ここで叩き潰してくれるわ。お前ら位置につけ!」
嫌三がそう言うと、TV局のスタッフたちが武器として使うのか鉄パイプや角材などを持って和琴たちの周りに現れた。
「こいつらは俺の奴隷みたいなものさ。俺は騎ノ風TVでは社長ではないが上の地位にいる。今社長はいない。だから俺が今は権限のトップにいるのさ!解雇通知をちらつければ何でも言うことを聞いてくれるんだよ!やれ!」
「すいません!」
パイプを持ったスタッフの一人が和琴に向かってパイプを振りおろす。和琴はそれを受け止めて社員の方に投げ返す。パイプが顔面に激突した社員は倒れてしまった。
「嫌川さんに逆らったら、私たちは首になってしまうんです!」
今度は別のスタッフが水萌に向かって角材を振り下ろしてきた。水萌はそれを受け止めた。
「お前ら、それでもこのTV局の社員なのかよ!」
「仕方ないでしょ、この市のTV局はここだけ・・・しかも嫌川さんはいろいろ場所に顔が効くお方・・・首になったら二度とTV業界に携われなくなる!」
「・・・環輝。アタシらがこいつらを相手しているうちに嫌川が悪事をしている証拠を探してくれ。」
「了解だし。」
「それと先生は環輝について行って。」
「それだと水萌と和琴が危険じゃないか。」
「先生、環輝は頭はいいけど身体能力はあまりよくない。だから手助けしてやってほしいんだよ。」
「あたしたちは大丈夫だから・・・ね?」
「・・・わかった。無事でいろよ。行くぞ環輝。」
「おーけー・・・ミッション開始っしょ。」
鮫川先生と環輝は嫌三とスタッフたちにばれないようにこっそりとTVのデータを管理している制御室の方へ向かった。
「「「俺たちもやるぞ!嫌川さんの命令に背くな!!!」」」
スタッフたちは次から次へと和琴と水萌に襲い掛かる。とはいえ、構図が2対多なので防御をするので手一杯。そんな中、和琴が口を開く。
「あんたたちそれでいいの・・・」
「え・・・?」
「あたしの姉さんはね、TVのリポートの仕事が本当にやりたくて束縛だらけの母の元を抜け出してようやくここに入ることができたの。なのに一緒に仕事しているあんたたちがあんな腐った人間に従うだけの愚かな愚民だったことに対して幻滅したのよ!」
「お前みたいなガキに俺らの気持ちが分かるか!」
「当然分かるわけないわ!だけどこれだけは言える。あんたたちからTVへの愛は全く感じないってことがね!偏見報道を推薦するこいつに従って番組作りをすればそれでいいって考えている奴らにTV番組を作る資格なんてあるわけないし、絶対にいい番組なんか作れるはずもない!」
「それに騎ノ風TVのやつらは民放テレビ局の連中と違って真摯にテレビを愛するやつが多いって聞いたんだが・・・見当違いだったようだな!」
「TVの事も知らない生意気なガキめ・・・やっちまえ!!!」
TV局の社員たちは怒りに身を任せて和琴たちを袋叩きにしようとする。和琴は社員たちが繰り出す攻撃を上手く変わし、男女問わず社員たちに急所攻撃をかます。激痛にTV局の社員たちは一人残らず倒れてしまう。一方の水萌も襲い掛かってくる社員たちにカウンター攻撃を浴びせて全員気絶させた。
「なんとか片付いたな・・・」
「最近の大人って運動不足で弱いのよね・・・後はあんただけよ嫌川!」
「この役立たずどもめ・・・こいつがどうなってもいいのか!」
嫌三は近くの部屋に閉じ込めておいたと思われる宇織を人質に取りどこから取り出した刃物を首にあてがう。
「姉さん!」
「和琴っ!」
「卑怯なやつだな・・・」
「我が嫌川一族にとって卑怯は最高の褒め言葉だ!さあお前ら、こいつの命が惜しければ抵抗するのはやめろ!」
と思ったとき・・・環輝と鮫川先生が制御室から戻ってきた。
「あんたたち!証拠は掴ませてもらったし!」
「警察にも連絡させてもらった。お前たちは終わりだ!」
「・・・なんだと!?いつの間に・・・」
「和琴と水萌がスタッフたちといざこざをしている間に電光掲示板で悪事を働いた証拠のデータは全部取らせてもらったから!」
「あの混戦の中、環輝と先生を逃がして証拠を集めさせておいておいてよかったぜ。」
「くそ・・・それならせめてこの女の命だけでも奪ってやる!」
嫌三は宇織の首に突き付けた刃物を突き刺そうとする。
「姉さん!」
「まずいな・・・これでも食らいやがれ!」
水萌はとっさにスタッフが放したと思われる鉄パイプを拾って嫌三に向かって投げつけた。鉄パイプは嫌三の腕に命中し宇織を放した。
「うおっ!何をする・・・」
「姉さん今のうちに逃げて!」
「ええ!」
宇織は大急ぎで嫌三の元を離れる。その時・・・
「騎ノ風警察です!嫌川嫌三、お前に逮捕状が出ている!」
「・・・くそっ、ここまでか。」
騎ノ風の警察は連絡を受ければすぐに駆けつけてくれる有能なのである。嫌三は逮捕され、彼に加担したTVスタッフたちも一人残らず連行されることになった。
事件が解決してから数日後。あの後の嫌三から聞いた調査によると、嫌三はつい最近コネで騎ノ風TVに入ったばかりの名前だけ管理職であったことが判明。また、冒頭で和琴を襲った覆面の男は嫌三であり、一緒にいた男たちは嫌三を心から慕っていた職員であることも判明。
しかし嫌川家はそれなりに地位のある家だったので色々な場所に顔が効くのは事実であり、一個人でしかなかったTVスタッフたちも従わざるを得なかったようである。スタッフたちは心から嫌三にしたがっていたもの以外は厳重注意でTV局での仕事に復帰したという。宇織も大きな怪我はなく、数日間の入院で大学にもレポーター業にも復帰することができた。
和琴は地下書庫でTVで奪ってきたデータについて環輝とエレナに聞いていた。
「ねえ花蜜。あのTV局で奪ったデータだけどさ、あれから何かわかった?」
「うーん・・・データから嫌川の兄貴が市役所前の電光掲示板をいじくってデマ情報を流す計画については分かったんだけどそれ以外は特に何も入ってなかったし・・」
「私解析したけどそれ以外の怪しい部分は見つからなかった・・・」
「あっちもその辺の管理は厳重にしてたってわけだし。嫌川家がまた何かを仕掛けてくる可能性が十分考えられるってことっしょ。嫌三は名前からして三男だろうし、ミシルが6番目って言ってたから最低でも兄貴があと4人はいることも考えられるじゃん。そいつらがまた何かしてくるかもね。」
「花蜜、鷲岳。今回は色々ありがとうね。この件に関してはここまでにしておきましょ。深追いしすぎるのもは良くないもの。」
嫌三が起こした一連の事件はこれで収束した。
騎ノ風市役所のとある部屋でニヤつく中年の男性と若い男性がいた。彼らはミシルらの父親である嫌川嫌之真とその秘書である。
「・・・嫌三さんは逮捕されてしまいましたがあれでよかったんですかご主人?」
「まあいい。息子は他にもいるしな。」
「それにしても騎ノ風TVにいる嫌三さんにご主人がこちらの電子掲示板にアクセスできるように仕組んで、奴らの個人情報を流すのはなかなかいい作戦だと思ったんですがね。大王市長にも今回はご主人が手を貸していたことばれませんでしたし。」
「本当に取り戻したいものがあるのなら、誰かを犠牲にしてでもやりとげんとな。嫌三を特別待遇で騎ノ風TVに忍び込ませたのもそのためさ。」
「どうしてそこまで・・・」
「私の大切な娘・・・ミシルは深い傷を負った。昔は自分で考えた捏造ニュースを私によく聞かせてくれたのに今は通学こそしてはいるが、それ以外ではすっかり引きこもりになってしまった・・・だったらどんな手段を使ってでも復讐するまでよ。ミシルを陥れた水晶学園の小娘ども・・・彼女ら全員に精神的ダメージを負わせれば娘は元気になって再び外に出てくることだろう。次はどんな作戦で追いつめてやろうか・・・」
「(それは逆恨みだと思うけどなぁ・・・それに嫌三さん逮捕されたから今回の作戦は失敗したようなもんだし・・・)」
嫌之真は秘書の考えは知る由もなく次の作戦を考えてニヤついた表情を浮かべるのだった。