愛麗にお礼を

バレンタイン終了後のこと。咲彩と嘉月は今年も愛麗に教わって(というより2人はすでに慣れているから一緒にやっただけだが)チョコ作りを無事に終えた。
「今年もいい感じに作れたね。」
「せやな。
「ねえかづちゃん。ちょっといいかな?」
「なんやそんな急に改まって・・・」
「らっちゃんに毎年チョコ作りでお世話になってるじゃない?だからお礼したいなって思うんだけど・・・らっちゃんの大好きなものを私たちで作ってあげるっていうのはどうかな?」
「ええなそれ。賛成や。」
「それで・・・かづちゃんはらっちゃんの好きなものって知ってる?」
「ケーキとかよう作っとるし好きなんやないの?」
「だけど前にケーキとかのお菓子は食べるより作るのが好きって話を聞いたの。だから食べるもので好きなものは別にあるんじゃないかなぁ。」
「ウチも聞いたことあらへんな・・・知っとる人に聞いてみる?」
「そう都合よく知ってる人っているかなぁ・・・」
「おるやん・・・ウチらの中に一人だけ。今から電話して聞いてみるわ。」
「(らっちゃんのことよく知っているってことは・・・やっぱりりんちゃんかな?)」
嘉月は愛麗の好物を知っていると思われる人物に電話で連絡を取り、近くのカフェで話を聞くことになった。

着ていたのは愛麗と一番親しいであろうと思う人物・・・やはり凛世だった。
「凛世ちゃん、急に呼び出してごめんなぁ。」
「気にしなくていいですよ。それで私への御用は何ですか?」
「りんちゃんはらっちゃんの好物って知ってるかな?」
「もちろんですよ。恋人として愛麗の好きなものは把握してます。」
「それなららっちゃんの好きなものを教えてくれないかな。」
「いいですよ。ですが・・・理由を聞かせてください。友人であるお二人のことを信用していないわけではないですが気になるので。」
「ウチら毎年愛麗ちゃんとチョコレート作りしとるんやけど・・・」
「毎年材料や器具、作る場所準備してくれたり細かい所教えてもらったりでお世話になってるからお礼がしたいの。」
「なるほど、そういうことでしたらお話しします・・・愛麗の好きなものはたい焼きです。織田倉本舗のたい焼きが一番好きって言ってました。」
「それなら水萌ちゃんのお店で買えばええんやないの。」
「駄目だよ、手作りには手作りで返した方がらっちゃん喜ぶと思うよ。」
「私の家でも期間限定でたい焼きパフェを出したのですが愛麗の受けは悪かったのですよね。愛麗は餡子のたい焼きが好きというわけではないのですよ。」
「餡子が好きじゃないってことはカスタードクリームのたい焼きが好きなのかな?」
「いえ、違います。愛麗が好きなのは織田倉本舗で販売しているショコラたい焼き・・・つまりチョコレートクリームのたい焼きです。これは情報通の眞武さんでも知らないことだと思いますよ。」
「そういえば前にみなちゃんが餡子とカスタード以外にチョコのたい焼きを売っているって言ってたなぁ。」
「たい焼きまでチョコ味を好んでるんやな・・・せやからあんなにチョコの加工が上手なのかもしれへんな。」
「それと、私もお二人に協力させてもらえませんか?愛麗に毎年チョコケーキをいただいているので、たまにはお返しをと思いまして。」
「ええよ。3人でつくろ。」
「たい焼きを作るには専用の型が必要だよね、誰か持ってる?」
「私の家にある物で良ければ持ってきますよ。たい焼きパフェが廃止された今は使ってないので・・・」
「凛世ちゃんに相談してよかったわ。調理は地下書庫に料理部で使っとるキッチンあるからそこでやろ。」
「私は型を取ってきますので先に準備をしていてください。」
咲彩たちは一通りの材料を店で購入し、地下書庫の厨房に行って準備を始める。凜世はいったん家に戻り、たい焼きの型を取りに行った。
「それじゃ役割分担だね。私がチョコクリーム作るよ。かづちゃんは外の生地を作ってね。」
「おまかせやで・・・と言いたいところやけど、何で生地作ったらええかな。調べたらホットケーキミックスで作る生地もあるみたいなんやけど。」
「普通に薄力粉を使った奴でいいと思うけどらっちゃんが作るお菓子って洋菓子の方が多いし、ホットケーキの生地も喜ばれるかもね。」
「せやな・・・それなら両方作ったろ。」
「それなら私も多めにチョコクリームを作るよ。」
調理を初めてしばらくするとたい焼き器を持った凛世が調理場に駆けつけた。
「たい焼き器持ってきましたよ。私は何をしますか?」
「りんちゃんはその型でたい焼きを焼けるように油を塗って準備しておいて。」
「分かりました。私はお二人と違って料理はあまりしないですからね・・・よろしくお願いします。」
嘉月と咲彩はそれぞれの担当に専念し、凛世はそれが出来上がるのを型を準備しながら待つ。そして数十分後・・・
「チョコクリームいい感じに仕上がったよ。」
「ウチも生地2通りできたわ。」
「では、この型に生地を流し込んでその上にチョコクリームを乗せましょうか。この作業は私にやらせてください。」
「大丈夫なん?」
「ええ・・・音楽やってますから。」
「音楽とこの作業に何か関係あるのかな・・・」
凜世は嘉月の作った生地を型に伸ばしながら流し込むと熱せされた型からジュワーといい音がする。その上に咲彩が作ったチョコクリームを乗せた。
「よし、これでいい感じですね。」
「後は上から生地をかぶせて蓋を閉じて焼くだけやな。」
「これは私がやるよ。りんちゃんばかりに負担はかけさせられないから。」
「では神宿さん、よろしくお願いしますね。」
咲彩がチョコクリームの上に生地を再び乗せた後、たい焼き器の蓋を閉じてコンロの火にかける。火にかけて数分後・・・たい焼きは魚の模様がくっきりと浮き出た綺麗な焼き色に仕上がっていた。
「いい感じの焼き色だね。これなららっちゃんも喜んでくれそう。」
「冷めたらラッピングして明日学校で愛麗に渡しましょう。」
「せやな。愛麗ちゃんきっと喜んでくれるわ。」

次の日。凛世たちは愛麗を地下書庫に呼び出した。
「愛麗、来てくれてありがとうございます。」
「急にどうしたのよ3人揃って・・・」
「これ、受け取っていただけませんか?」
「ウチらで作ったんや。」
凛世が代表してラッピングされたたい焼きを愛麗に渡した。
「何これ・・・たい焼き?3人で作ったの?焼き目もきれいで上手にできてるじゃない。」
「いつもお菓子作りを教えてくれるお礼だよ。中身は餡子じゃなくてらっちゃんの好きなチョコクリームだよ。」
「あ、ありがと・・・急にこんなに貰っちゃってなんか悪いわね。返してくれるならホワイトデーでも良かったのよ?」
「私たちは今愛麗にこれを作って渡したかったので、イベントなんて関係ないんです。」
「そう。それにしてもあたしがチョコのたい焼きが好きだなんてよく知ってたわね・・・あ、凛世が言ったんでしょ。チョコのたい焼きが好きなんて凛世以外に言ったことないもの。」
「その通りです。神宿さんと雷久保さんに相談されたので教えちゃいました。」
「まあいいわよ、一個食べていい?」
「うん。もちろんだよ。」
愛麗は袋からたい焼きを1個取り出して食べる。
「んー・・・美味しい。あえて外皮にたい焼きの皮じゃなくてケーキっぽい皮にしているのも悪くないわね。」
「それはホットケーキの粉で作ったんや。普通の皮のやつもあるから心配ないで。」
「皮の質感とか食べただけで分かるんですね・・・」
「何年お菓子作りしてると思ってんのよ。こっちの方が普通のたい焼きの皮より好きかも。」
「らっちゃんが喜んでくれてよかった。また来年のバレンタインもよろしくね。」
「もちろんよ。それ以前に大事な友人からの贈り物を喜ばないわけないでしょ。ありがとね!」
愛麗の喜ぶ顔を見れた3人は心がほっこりした気持ちに包まれたのだった。