柚歌と抹茶色の髪

その日、柚歌は愛麗と一緒にデパートに来ていた。
「愛麗ちゃん急に呼び出したのに今日は付き合ってくれてありがとう。」
「別にいいわよあたしも用事なかったし。それよりも驚いたわね・・・柚歌があたしにペアルックしてくれなんて言うとは思わなかったから。」
「ジャケットの色を見ていたら真っ先に思い浮かんだのが愛麗ちゃんだったから。紫色の髪しているし・・・」
それは数日前のことである。柚歌の元にネット懸賞で応募していたデニムジャケットが届いたのだが、柚歌は大事なことを見落としていた・・・それはデニムジャケットが緑と紫のペアルックだったということである。サイズは柚歌がちょうどいいサイズなので、身長の高い陽瑚に来てもらうわけにもいかず、紫という色を見て思いついたのが自分よりは小柄ではあるが身長が近い愛麗だったというわけである。
「柚歌が喜んでくれたならなによりよ。だけど、このジャケット貰っちゃっていいの?」
「うん。ボク紫はあまり着ないから。」
「なら貰うわね。あたし上着はパーカーが多いからこういうの新鮮。」
「それでさ・・・ボクと2人きりで会うってことに凛世ちゃんとか怒ったりしてない?」
「凛世?問題ないわよ。このこと言ったら、色部さんなら私にとって大切なご友人ですから問題ありません。って言ってたし、それに今日は作曲ルームで一日中曲作りするから忙しいって言ってたしね。」
「そっか。よかったよ・・・」
「歩き疲れたしそこの喫茶店で休もうか。」
2人はデパート内の喫茶店に入ると席に案内してもらいメニューを見る。
「あたしカフェオレ飲むわ。柚歌は何がいい?」
「抹茶オレにするよ。」
「了解。じゃ、注文するわね。」
愛麗は店員を呼び出し、注文の内容を伝える。飲み物を待つ間、柚歌が口を開いた。
「ねえ愛麗ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな・・・」
「何よ?悩み事でもあるの?」
「そうじゃないんだけど・・・ボクの髪色ってどう思う?」
「柚歌の髪色?いいんじゃない、きれいなライトグリーンって感じで和琴の深緑とはまた違う感じがしてあたしは好きよ?」
「そういってくれると嬉しいな。少し前まであまり自分の髪色好きじゃなかったから・・・」
「なんで?」
「こういうところでいうのもなんだけど・・・カビた色って小学生のころに言われたことがあって・・・」
「・・・カビ?柚歌の髪色が?」
「うん。」
「カビってさ・・・本気でそう言われたの?言ったの誰?男?」
「いいづらいけど・・・男子だったかな。」
「ねえ柚歌・・・ちょっと怒ってもいい?」
「いいけど、場をわきまえて・・・」
柚歌が制止しようとしたがすでに遅し。愛麗は怒りモードに入っていた。
「馬鹿じゃないのそいつ!柚歌の髪は高級芝のような美しさがあるのに何もわかってないのね!・・・これだけはどうしても我慢できないから言わせてもらったわ。」
「(よかった落ち着いてくれた・・・愛麗ちゃん一度怒り出すと止まらないからなぁ・・・)」
「改めて言わせてもらうとあたしは柚歌の髪好きよ。だからカビた色なんて言わないで・・・色も好きだしお団子ほどいたら癖の全くないストレートヘアじゃん。あたしこんなウェーブのかかった面倒な髪質で嫌になることもあるから羨ましいわよ。」
「ボクは愛麗ちゃんのふわふわの髪可愛いと思うけどな。女の子っぽいし、なにより愛麗ちゃん全体的に可愛らしいから。」
「褒めなくていいわよ。スカートも履けないガサツなあたしだから男受けなんて最低よ?あたしの見た目だけ見ておっとり系だと思い込んで近寄ってくる奴多いんだから。」
「人によっては第一印象って大きいんだね。それともう一つ聞いていい?髪型は変えた方がいいと思う・・・?」
「お団子?周りからの受けが悪くても柚歌が好きでやってるんでしょ。だったら気にせず自分を貫きなよ。なにより、柚歌のお団子って草餅みたいであたしは好きよ。」
「草餅?それって喜んでいいのかな・・・」
「いいに決まってんでしょ。そういう髪型あたしは似合わないから羨ましいわ。」
「そんなことないと思うけど・・・」
「ヘアアレンジ自体は結構できるんだけど、中学校の時やって行ったら笑われて恥ずかしい思いしたからそれ以降あまり・・・それにカチューシャ外したくないから。」
「愛麗ちゃんといえばカチューシャって感じだもんね。まとめ髪でもカチューシャと組み合わせた髪型もあるし愛麗ちゃんの違う髪型もボクは見てみたいな。」
「あたしは下ろしたロングヘアとの組み合わせが好きなんけど・・・柚歌がそう言うなら機会あったら挑戦してみるわよ。」
「楽しみにしてるよ。たくさん種類持ってたりするの?」
「ヘアバンドとかリボンも数に入れれば100個。だけど使うのは数種類ぐらいかな。」
「色々集めてもコレクションになっちゃって自分で使うことがあまりなくなっちゃうよね。」
「そうね・・・それにさ、あたしの身体って身長低いくせに胸大きいからバランス悪いでしょ。そのせいでよくセクシーなデザインの服勧められるのよ・・・あたしはスポーティーとかカジュアルとかそっちの路線の服が好きだから迷惑でさ・・・」
「そうなんだ・・・陽瑚ちゃんもよく言ってるけどむ発育がいいのも大変なんだね。愛麗ちゃんのセクシー衣装かぁ・・・胸元を露出させたライダースーツと似合うかも・・・」
「人を使って変な想像してんじゃねえよ。」
「ごめん・・・」
「柚歌ってさ、明るそうに見えて結構ネガティブっていうか・・・自分に自信あまりないわよね。」
「ボクって昔から器用で結構いろんなことできたんだ。絵とかスポーツも夢中で取り組んで気づいたらいい感じのものできていたって感じだから・・・気になることを見つけるとどうしても気になっちゃうんだよ。」
「柚歌って分析とか推理得意だし頭いいもんね。だけどさ、これはどう思われるのかあれはどう思うわれるかとかいちいち考えてたら疲れちゃうわよ?」
「それって、図々しくならないとだめってこと?そういうのあまり好きじゃないんだけど・・・」
「あんたは謙虚だからね。図々しくなる必要なんてないわ。自分の軸を持つだけで結構楽になるものよ?柚歌の髪はカビ色じゃないしお団子も可愛いよ。もし今後何か言われたらあたしに言ってくれれば、そういうこと言う奴の相手してあげるから。」
「ありがとう・・・愛麗ちゃんがそう言ってくれるの心強いよ。」
「あたしはね、強さでつながる世界もあれば優しさでつながる世界もあると思ってるのよ・・・そうだ、この後ショッピングモールに移動して服屋でコーデ選びしない?」
「コーデ選びってなにをするの?」
「お互いに相手が着なさそうだけど似合いそうな服を選び合うのよ。それでお互いが気に入ったものを買ってプレゼントし合うのよ。対決じゃないから自腹買取とかはしなくていいわ。」
「なんか面白そうだね。いいよ。」
愛麗たちがそこまで話を終えると注文していたドリンクが来る。2人は飲み終えるとショッピングモールに移動した。

ショッピングモールに着くと、2人でコーデ選びによさそうな服屋を物色し始める。
「柚歌とあたしの趣味だと・・・あそこの店がいいかな?」
愛麗は様々なジャンルの服を中心に取り扱っているかなり大きめの服屋を指さしてそう言った。
「いい感じだね。あそこにしようか。」
「じゃ、服選ぶ時間は30分ね。時間になったら試着室の前に来ること。いいわね?」
愛麗は柚歌にそう言うと店の奥の方に入っていった。
「ボクも愛麗ちゃんに似合いそうだけど着なさそうな服探しにいこっと。」
柚歌も愛麗とは別の方向に向かい、服を探し始めた。

愛麗は店の奥の方で柚歌に似合いそうではあるが、本人が着なさそうな服を物色する。
「柚歌ってスポーティーな印象が強いけど、美少女顔で可愛いし睫毛長いから女の子っぽさが溢れる服も余裕で着こなせそうなのよね。なにがいいかしら・・・」
そんなことを考えながら服を物色する愛麗の目にある服が止まった。
「これいいかも・・・よし、これにしよう!ヘアアレンジも一緒にしてあげようかな。」
愛麗は目を付けた服とヘアアクセサリーを一式を購入すると、試着室の前に向かった。

一方の柚歌も愛麗に似合いそうな服探しをする。
「愛麗ちゃんにはこの際だからセクシーな服着てもらおうかな・・・」
考えながら服探しをする柚歌。その目にセクシーとまではいかないとはいえ、それっぽい服を見つけた。
「よし、これにしようかな。怒られるだろうけど・・・」
柚歌は躊躇いながらも目を付けた服を購入して試着室の前に向かった。

服を見つけた愛麗と柚歌は互いに選んだ服を受け取り、それを着ると試着室から出る。先に出てきたのは愛麗の方だ。
「やっぱりボディスーツにしてきたか・・・これサイズが小さいわね胸元開けないとキツイ・・・一応水着もあったからつけたけど、セクシー系の衣装はどうもなれないわ。」
柚歌が愛麗に選んだのはライダースーツに似たデザインのボディスーツだった。しかし、愛麗の胸が大きいため合わず苦しそうである。愛麗が出た数十秒後、今度は柚歌が出てきた。
「半ズボンのサロペットにカーディガンかぁ。ボーイッシュながらもガーリーさも感じさせる組み合わせ・・・これはボクも予想できなかったなぁ。」
愛麗が柚歌に選んだのは半ズボンのサロペットにふんわりしたカーディガンだった。
「ねえ柚歌・・・これもっと大きいサイズないの?胸がつかえるんだけど。」
「それ以上はなかったんだよごめん。どうしても見たかったから・・・」
「まあそれならしょうがないわね。柚歌がセクシー系の衣装をあたしに着てほしいって言ってたし、今日だけは着てあげるわよ。それと柚歌、ちょっと髪いじるわね。」
「えっ、ちょっと待って・・・」
愛麗は柚歌がお団子を解いて柚歌の髪をストレートロングの状態にすると、仕上げに先ほどのヘアアクセ・・・ヘアクリップを前髪に止めた。
「あたしと違ってサラサラのいい髪してるじゃない。その服ならそっちの髪型も似合うと思うわよ。」
「外で髪下ろしたことないのに恥ずかしいよ・・・」
「あたしに恥ずかしいデザインの服着せといてよく言えるわね・・・」
「だってぇ・・・」
「似合ってるから大丈夫よ。柚歌は自分が思うよりも可愛い女の子なのよ?」
「うーん・・・だけどまだ恥ずかしいから、こういう可愛い格好はもうちょっと勇気が出てからでもいい?」
「柚歌がどうしてもだめだっていうんなら無理する必要はないわよ。あたしもこのスーツ早く脱ぎたいし・・・今日はもう遅いし帰ろうか。」
「うん、そうしようか。長時間試着室を独占するとお店の人の迷惑になるしね。」
2人は試着室で元の服に着替え(柚歌は髪型も戻して)、買った服をしまうと今日はもう遅いので家に帰ることになった。

「愛麗ちゃん急な呼び出しだったのに今日はありがとう。」
「気にしなくていいわ。かっこいいデニムジャケット貰ったし・・・柚歌、最後にちょっといい?」
「何?」
「これあげるわ。さっき服を探していた時でいい感じのあったから買っておいたの。」
愛麗は柚歌に小さい袋を渡す。
「開けていい?」
「いいわよ。」
柚歌は愛麗からもらった袋を開ける。中にはライトグリーンのシニヨンカバーが入っていた。
「これ・・・貰っていいの?」
「うん。デニムジャケットのお返し。あんたお団子によくそういうの被せてるでしょ?さっきも言ったけど、あたしは柚歌の髪色もお団子も好きだから。それじゃあたしこっちだから・・・じゃね!」
愛麗はそう言うと、家の方向に向かって帰って行った。
「今日は皆が愛麗ちゃんは優しい人って言っている理由がわかった気がしたかも。もうちょっとボクは自信を持ってもいいのかもね・・・」
柚歌は貰ったシニヨンカバーを見つめながらそんなことを考えたのだった。