水萌の漫画さがし

ここは騎ノ風市で最も大型な書店松姫書房。和琴は用事がある祖母の代わりに30分だけレジ番をしていた。
「おばーちゃん早く帰ってこないかしら・・・基本暇なのよね店番・・・ここんところ変な客が多いし・・・」
和琴が気の進まない気持ちで店番をしていると、銀髪で背の高い少女が店に入ってきた。友人のうちの一人でもある織田倉水萌である。
「あれ和琴じゃないか。何してんだよ。」
「店の手伝いよ見りゃ分かんでしょ。ここの本読み放題なのが唯一のメリットね。」
「そうだな、ここお前んちだもんな。だけど売り物読むなよ。」
「いーのよそれぐらいしかメリットないんだから。それより、今日は漫画でも買いに来たわけ?」
「ああ。前に愛麗から借りた漫画が忘れられなくてさ、それを買いに来たんだけど置いてあるか?」
「タイトル言ってくれる?」
「言わなきゃダメか?」
「うちは商品も多し、タイトルを言ってくれないと検索のしようがないんだけど・・・」
「そうだよな・・・ラブリーストロベリーって奴だけど。」
「・・・あんた、そんな少女漫画みたいなタイトルのやつ読んでたんだ。」
「変な目で見るなよ・・・だからお前に言うの嫌だったんだ・・・」
「そんなに恥ずかしいならネット通販で買いなさいよ。」
「少し前の漫画だからもう絶版表記が出てたんだよ。だから10万冊以上あるお前んちならあるかなー・・・って思ったのさ。」
「うちは品数は多いけど古書とか貴重書とかがメインで漫画は最新のしか置いてないような気もするけど・・・」
和琴はそう言いながらも検索端末に水萌から聞いた漫画のタイトルを打ち込んで探し始めた。
「ラブリーストロベリーっと・・・あるわね。だけど取り置きになってるからすぐに売ることはできないわ。」
「在庫はその一冊だけなのか?」
「そーね。それが取り置きになってるからキャンセル待ちでの受付しかできないわ。中古本ならネットショップにあるみたいだけど。」
「中古か・・・だけど好きな作品は綺麗な状態で保管しておきたいんだよな。」
「あんた結構几帳面なのね。」
「まあそうだな。これでも部屋とかも結構まめに片づけてるんだ。漫画は全部ガラスの戸棚で保管して汚れないようにもしているしな。」
「直接は関係ないと思うけど・・・それで、どうするのよ?」
「・・・お前の力で誰が予約しているか調べることってできるか?」
「そりゃできるけど・・・織田倉あんたまさか・・・」
「なら頼む!その人に譲ってもらえるよう直接交渉しに行くんだ!」
「止めときなさいよ。自分が予約した漫画を譲れなんて言いに行くなんて何言われるか分からないわよ?中古本でも比較的綺麗なのあるみたいだからそっちにしておきなさいってば。」
「そうしてでも・・・アタシは新品が欲しいんだよ。」
「・・・分かったわよ。今調べるから待ってなさい。」
和琴はパソコンで予約者リストを開くとを取り置きしている人の名前を調べ始めた。
「予約者は・・・天宮城万梨阿って人ね。たぶん天宮城のお姉さんだと思うんだけど・・・」
「奈摘の姉さんなら話を聞いてもらえるはずだよな・・・」
水萌はもはや話をつけてもらえること前提で考え込み始めていた。
「・・・しゃーないわね、店番が終わったら行きましょ。あたしもついて行ってあげるわよ。」
「それは助かる。よろしく頼むぜ。」
「(だけど、このラブリーストロベリーってさっきの調べによると漫画じゃないのよね・・・織田倉の奴勘違いしてるんじゃ・・・)」
水萌とともに天宮城家に向かった。

天宮城家は豪邸である。なので扉も非常に大きい。
「お嬢様の豪邸には毎度のことだけど緊張するわね・・・」
和琴はそういって門の右に設置されているベルを鳴らす。
「はい、どちら様でございましょうか?」
出たのは奈摘たちの執事の男性だった。
「奈摘の友人なんですけど、今いますか?」
「お嬢様のご友人でございますか。門を開けますのでどうぞお入りください。」
執事の言葉と同時に和琴と水萌は広い庭を豪邸に向かって進む。
「この屋敷相変わらずでっかいわよね・・・」
「ラブリーストロベリーが手に入るんならなんだっていいさ。」
2人は豪邸にたどり着くと扉を開けて中に入る。中では奈摘が待っていてくれた。
「あら、和琴さんに水萌さんお二人で何か御用ですの?」
「奈摘、お前の姉の・・・万梨阿さんに合わせてくれないか?」
「万梨阿お姉さまにご用事ですのね。そこのあなた、お二人を応接室にご案内してください。」
「かしこまりました。」
奈摘は近くにいた使用人に声をかけ、和琴たちを案内するように指示した。
「わたくしはこれで失礼いたしますわ。万梨阿お姉さまはしばらくしたら参りますと思いますので。」
「ありがとな奈摘。」
「では、こちらへどうぞ。」

応接室に案内されたしばらくすると、奈摘に雰囲気の似たロリータ服に身を包んだ長いの黒髪の女性が部屋に入ってきた。
「・・・あなたたちがなっちゃんのお友達かな。わたしが天宮城万梨阿。なっちゃんの姉のうちの一人です。」
「奈摘の友人の織田倉水萌です。」
「同じく松姫和琴です。」
「和琴ちゃんはなっちゃんからよく話を聞いてるよ。それで、今日のご用は何?」
「万梨阿さんってこいつの店・・・松姫書房でラブリーストロベリーって本予約してますよね。」
「してるけど・・・それが何?」
「アタシに譲っていただけませんか?その本ずっと探していて・・・」
水萌がそう言った瞬間、万梨阿の顔が曇る。
「・・・なっちゃんの友達のお願いは聞いてあげたいけど、それはいや。あの本はずっと前に義母に捨てられて悲しくて・・・松姫書房さんでようやく新品のものを見つけたの。だから簡単には譲れない。」
「ほら、万梨阿さん迷惑してるじゃない。織田倉、ここは引き上げた方が・・・」
「いや、アタシはあきらめきれません。この作品初めて読んだ時から大好きなんです。」
「予約はわたしが先にしていたんだからこの本はわたしのもの。それで終わりじゃないの?」
「アタシもこの本を探すために和琴の店だけじゃなくて県外の書店や大手や中小企業関係なく書籍の通販サイトを回って探しました。だけどどこも在庫切れで見つからなくてようやく和琴の家に在庫があることを知ったんです。」
「・・・そうなんだ。そこまで言えるほど水萌ちゃんもこの作品大好きなんだね。だけどわたしも気持ちに嘘はつけない。やっと見つけた大好きなこの作品を譲るわけにはいかないよ。だから、勝負をしようか。わたしが負けたら水萌ちゃんにこの本の予約権利を譲るよ。本当に作品を愛する心があるなら引き受けてくれるよね?」
「もちろんだ!」
「勝負って何をするのよ・・・」
「準備するからちょっと待っててね。使用人さんアレの準備をお願い。」
「かしこまりました。」
万梨阿は使用人に指示を出す。するとものの5分で使用人が饅頭を乗せた皿を持ってきた。
「これは・・・饅頭?」
「そうだよ。ロシアンルーレット饅頭。ここにある8個の饅頭の中に一つだけ中身にカイエンペッパーとブート・ジョロキアを練りこんだ餡の入ったものがあるの。それを食べた方がその時点で負け。天宮城家では細かいもめごとが起こったらこれでいつも決めてるんだ。」
「万梨阿さん、その辛い饅頭を食べたら何かリスクとかあるんですか?」
「そうだねえ・・・辛いものが苦手な場合は喉に焼けるような痛みがするよ。」
「織田倉、これほんとにまずいわよ。食べるのが大好きなのあんたが喉や舌を傷つけてメリットなんてないじゃない。」
「それでもやるぞ。辛さの痛みのリスクでラブリーストロベリーが手に入るチャンスがあるならいいさ。」
「もう何を言っても無駄みたいね。」
「やる気満々だね。それじゃ、お互いに食べる饅頭を選ぼうか。」
万梨阿と水萌は食べる饅頭を選ぶと同時に口に入れた。
「・・・わたしはセーフ。水萌ちゃんは?」
「アタシも問題ないです。」
「そっか。さすがにここで引き当てたら相当運がないもんね。じゃ、2個目行こうか。」
2人は2個目の饅頭を選び、口に入れた。
「わたしはセーフだよ。」
「アタシも問題ないです。」
「勝負は確率が4分の1になるここからだね。それじゃ3個目だよ。」
2人は3個目の饅頭を選び、口に入れた。
「アタシは・・・セーフです!」
「わたしは・・・辛いっ!!!!使用人ひゃんお水!!!」
3個目でついに万梨阿が激辛饅頭を引いてしまった。使用人が持ってきたペットボトルの水を丸々一本飲み干し、なんとか喉を落ち着かせようとする。
「よし!勝ったぞ!!!」
「よかったじゃない織田倉。」
「あーあ負けちゃった。こういう時いつも弱いんだよなぁ・・・」
万梨阿はそういうと鍵のかかった戸棚から予約券を取り出して水萌に渡す。
「はいこれ。約束通り負けちゃったから水萌ちゃんにあげるね。」
「ありがとうございます。」
「それにしても次はどこで手に入るのかなぁ・・・私の大好きな絵本・・・」
「え、絵本?」
「うん絵本。ラブリーストロベリーは苺の妖精ストロベリーちゃんが仲間の果物妖精と一緒に世界を幸せにするために冒険をする絵本だよ?水萌ちゃんも好きなんでしょ?」
「あの、アタシが探しているの漫画なんですけど・・・」
「ラブリーストロベリーは漫画は出てなかったと思うけど・・・あ、内容は全然違うんだけどラブリーストロベリーによく似たタイトルのマジカルストロベリーっていう漫画があるんだよ。探しているのそっちなんじゃないの?」
「あ・・・そういうタイトルだったかもしれねえ・・・」
「もう!やっぱあんたの勘違いだったんじゃない!ほら、これは返すわよ。万梨阿さん、無駄な勝負させちゃってごめんなさい・・・」
和琴は水萌から予約券を取り上げると謝罪を交えて万梨阿に返却した。
「いいよいいよ。楽しかったし。なっちゃんの周りにこんなに面白い子たちがいてくれるなら安心したよ。」
「じゃ、あたしたち用事も済んだので帰りますね。ラブリーストロベリーの引換券はそのまま持っていだたければ入荷当日にうちの店で引き換えることができるので・・・」
「うん、楽しみにしているね。」
「ほら、帰るわよ織田倉!ああもう恥ずかしい・・・」
「ああ・・・」
水萌は和琴に引っ張られるようにして天宮城家を後にするのだった。

そして後日。水萌は再び松姫書房を訪れていた。
「和琴、マジカルストロベリー入荷したって?」
奈摘の家から帰った後、和琴の調べによってマジカルストロベリーの漫画の在庫が確認できたので、注文してもらいそれが今日届いたのである。
「マジカルストロベリーもなかなか古い作品だから新品探すのは苦労したけどね。出版社に聞いてみたらが何年も前に出したけど売れない在庫が数冊余ってたっていうから譲ってもらったのよ。」
「いろいろ迷惑かけて悪かったな。いくらだ?」
「万梨阿さんのところに行った無駄足の手数料込みで3000円。」
「冗談言うなよ・・・」
「ま、さすがに漫画一冊でそんなにはしないけど、今後はタイトルとかもっと調べなさいよ。今回のマジカルストロベリーといい恥ずかしいんだろうけどさ。」
「ああ、今度からは気を付けるよ。」
「結局、マジカルストロベリーってどんな内容の漫画なのよ?売り物を読むわけにはいかないし、気になんのよ。」
「それは・・・秘密だ。」
いい意味でも悪い意味でも情報通の和琴にマジカルストロベリーがの内容が恥ずかしいシーンの多い魔法少女漫画であるということは絶対に言えないのだった。