水晶学園では年に一度、芸術体験会というイベントが行われる。
生徒たちが実際に芸術作品を作り上げ、優秀な作品にはそれぞれの部門ごとに賞をもらえる。これは学園長が提案したイベントらしい。
ちなみにこの芸術体験会の期間の授業は全て無くなる。1組のメンバーもそれぞれ自分で選んだ作品の製作に取り掛かっている。
咲「うーんなんか色遣いが変・・・描き直そう。」
奈「咲彩さんあまり上手くいかないんですの?」
咲「私美術的な事だけは昔から苦手で・・・奈鶴ちゃんは何を描いてるの?」」
奈「わたくしは漫画ですわ。今回は万人受けするように女子高の日常みたいなのを描いてますわ。」
咲「得意分野がそういうのに含まれてるのってうらやましいなぁ。」
奈「まあそうかもしれませんわね。体育祭で運動が得意な子が大活躍する。それと似ているのかもしれませんわ。」
咲「確かにこのイベントは学園長先生が芸術の分野でも秀でている子が劣等感を感じずに活躍できるよう願って始めたイベントだもんね。」
奈「まあ学園長先生らしいイベントですわね。」
咲彩たちがそんな会話をしている後方で水萌が何かをやっている。
水「こういうのやったことないから難しく感じるな・・・」
水萌は普段は前髪で覆い隠している右側の色違いな目も駆使しながらろくろの上で回る粘土を成形している。
姫「水萌君は陶芸を選んだのだな。」
水「ああ、アタシの茶碗小さく感じてきちゃってな。それで新しいの作ろうと思ってさ。苺瑠は何やってんだ?」
姫「我は版画をやっているのだ。今電動のこぎりで木を使う形に切ってきたぞ。」
苺瑠は木で作った版画に使う板を水萌に見せる。
水「おお、中々きれいに切れてるな。大変だっただろ電動のこぎり使うの。」
姫「うむ、普段触れないジャンルだからな。」
水「まあ頑張れよ。お互いに賞もらえるといいな。」
姫「もちろんなのだ!」
その隣では愛麗、凛世、環輝、エレナ、嘉月、和琴が6人で集まって作業をしている。
麗「凛世は何やってるの?」
凛「私ですか?小説を書いています。内容は2人の女子高生による心温まるお話です。」
麗「華道とか音楽じゃないんだ。」
凛「音楽は1曲作るのにも時間がかかりますし、華道はもうあまりやりたくないので・・・」
麗「そうなの・・・ってかレナちゃんも何か変わったもの作ってるし。」
エ「小型のロボット・・・おじい様が機械系でもいいって言ってたから。」
麗「学園長許容範囲広いね。嘉月は・・・服?」
嘉「せや。洋服も芸術作品の一つやから。」
麗「まあ分からなくもないけど・・・」
環「そういうあんたは何作ってんの?」
麗「騎ノ風市のジオラマ。あとであたしがやってるロボットのバトルステージにするのよ。」
環「愛麗もアンたちに負けず劣らずすごいもん作ってるし・・・」
麗「アンは?」
環「RPGゲーム作ってるし。プログラムを1から書くと大変なのよね。」
麗「一人でそういう物作ろうとしているあんたの技術力が凄すぎよ。ってかパソコンの電源どこから持ってきてんのよ?」
環「そこのコンセント。学園長は電子系の作品も立派な芸術だって言ってるし問題ないと思うよ。」
凛「花蜜さんそのパソコン持ってくるの大変だったのでは?」
環「ああ、これアンが持ってるやつの中でも小型のタイプで持ち運びにそこまで苦労しないの。5年前のモデルだからスペックは大したことないし。」
和「あんたたち随分個性的ね。」
環「和琴は何作ってんの?」
和「書道よ。使ってる炭はあたしが家で焼いてきたのを使用してるわ。」
和琴は実際に文字を書いた半紙を見せる。そこには「心意気」の文字が綺愛麗に書かれていた。
エ「これは確かに・・・」
凛「綺愛麗な黒が出てますね。
和「字がなかなか上手く描けないのよね。」
麗「これで上手くないの?あたしから見れば十分綺愛麗にかけてると思うけど。」
和「そう・・・?」
そんな会話をしながら作業している6人の後方では柚歌と陽姫が作業をしている。
柚「油絵って水彩画とは全然違うんだなぁ。」
陽「柚歌ちゃんは油絵は描かないの?」
柚「まあね。ボクは基本水彩画しかやらないから、今回は油絵で挑戦しようと思ったんだけどなかなか難しいよ。陽姫ちゃんは何やってるの?」
陽「わたしは点描をやってるんだ。お姉ちゃんが事務所に何か絵を飾りたいから描いてきてって言われちゃってね。」
柚「美術初心者の陽姫ちゃんが点描って難しくない?」
陽「確かにそうだねぇ・・・それでも私は点描で絵を描こうと思ったんだ。小さい点が集まって何かを表しているのってすごいと思わない?」
柚「そうだね。小さなものがたくさん集まれば何でもできるんだってことを表しているような感じがするよ。」
陽「わたしは点描のそういうところが好きなんだよぉ。」
その横ではラーサと櫻子の2人が作業している。
ア「芸術展デスね・・・ロシアにはこんなイベントなかったので新線デス。」
櫻「そうなんだ。ラーサちゃんは何作ってるの?」
ア「ワタシの両親に習って彫刻を彫ってみたデス。」
櫻「何の彫刻作ったの?」
ア「地球の小さい奴デス。」
ラーサは石で作られた彫りかけの彫刻を環子に見せた。地球を模した球体の部分はツルツルでさわり心地もいい。角や刺なども一切見当たらない。
櫻「すごくきれいにできてるね。彫刻に詳しくない自分もうっとりだよ。」
ア「一応両親のやり方見て幼少期からマネしてましたカラ。」
櫻「やっぱり両親が彫刻の専門家だったりすると感性とか全く違うんだね。」
ア「そんなことはないデス。彫刻作るのは楽しいデスよ。櫻子サンは何作ってるデス?」
櫻「自分は絵本だよ。こういう芸術があってもいいと思うんだ。」
ア「この話、とても優しい感じがするデス・・・」
櫻「ありがとう。将之介さんみたいには書けないけど、少しでも読み手に気持ちが伝わればなって思うの。」
ア「とてもいい作品ですヨ。」
柚「ラニーちゃんがそこまで言ってくれるから少し自信になったよ。ありがとう。」
その後もそれぞれが作業を進め、14つの作品が無事に提出された。そして3日後の帰りのHR・・・
鮫「今日はいい知らせがあるぞ。この前の芸術体験会の結果が来てるから発表する。このクラスのメンバーはほとんどがそれぞれの分野で10位以内に収まっている。まず、柚歌の油絵が絵画部門2位。咲彩の水彩画が絵画部門7位、
陽姫の点描が絵画部門9位、苺瑠の版画が絵画部門10位。
水萌の茶碗が陶芸部門6位、愛麗のジオラマが模型部門1位、嘉月のパーティドレスが服飾部門2位。
それと奈摘の漫画がクリエイター部門1位、凛世の小説がクリエイター部門3位、櫻子の絵本がクリエイター部門7位。
エレナの小型ロボットが電子部門1位、環輝のPCゲームが電子部門5位。ラニーの地球の彫刻が彫刻部門1位。
そして和琴の「心意気」が書道部門9位。・・・キミたちすごすぎるよ。」
思いもよらない結果にクラスが沸き立つ。
鮫「まだ話は終わらないぞ。そしてこのクラスは・・・なんと総合で1位だ!
学園長先生からこんな金のトロフィーまで貰ってしまったよ。」
トロフィーを見たクラスがまた沸き立つ。
鮫「まあ静かに。それで、こんなにいい結果を出したんだ。私からなにか君たちにご褒美をあげたいのだが・・・」
環「鮫川先生のおごりで食べほうだ・・・」
麗「あんた先生の財布事情考えなさいよ。」
鮫「はは・・・まあ、私は別にそれでも構わないよ。君たちの喜ぶ姿を見られれば満足だからね。」
その日の夜、1組メンバーと鮫川先生はレストランに行ってパーティをしたのだがそれはまた別の話である。
そして歓喜あふれるクラスを遠巻きに見つめる二つの影が・・・
?「あいつら・・・絶対に復讐してやる・・・」
?「芸術なんて才能がなければ将来役に立たないってのに・・・調子に乗っちゃって・・・」