る日の放課後。愛麗、凛世、奈摘、嘉月の4人は1組の教室で夏休みの計画を立てていた。
麗「スパリゾートいつ行く?」
奈「もうすぐ夏休みですし、8月の頭はどうですの?」
凛「それいいですね。時期的にもちょうどいいと思います。」
嘉「他の皆にも連絡せえへんとな。」
そこに1人大人の女性が現れる。2組の担任の藤沢あかり先生だ。
あ「あの・・・生泉さんたちだよね?ちょっといいかな?」
凛「あ、あかり先生。どうされたんですか?」
奈「わたくしたち邪魔でしたか?」
あ「そう言う事じゃないわ。貴方たちに頼みがあって・・・」
嘉「ウチらにですか?」
あ「そうなのよ。私まだこの学校に来て日が浅いから、案内してもらいたいんだけど・・・」
麗「別にかまいませんけど、あかり先生のクラスの佐々木や宇佐美や土田に頼んだ方がいいんじゃないですか?」
あ「そうなんだけど・・・あの子たちみんな忙しいみたいでね・・・何度か頼んだんだけど断られちゃって。」
凛「2組の皆さんは忙しいんですね・・・」
嘉「で、ウチらは暇そうに見えたと・・・」
あ「あ、決してあなたたちが暇そうに見えたとかそういうんじゃないわ。生泉さんたちならこの学校に詳しいんじゃないかと思って・・・」
麗「あたしたちも入学して間もないからそこまで詳しいわけじゃないけど・・・わかりました。案内しますから着いてきてください。」
あ「ありがとう生泉さんたち。」
凛「いいのですか愛麗?」
麗「いいのよ。だってあかり先生は悪い大人じゃないって・・・凛世もわかってるでしょ。」
愛麗たちは手始めに教室のある本校舎から案内を始める。
麗「まず敷地中央にある本校舎です。1階は3年生の教室、2階は2年生の教室、3階があたしたち1年生の教室になってますね。またそれぞれの学年の6組のクラスの横には学年別に職員室が設けられています。」
奈「あかり先生も知っているとは思いますけど、念のためですわ。」
凛「次に本校舎の左側の建物が食堂棟です。ここは高校なんですけど色々な名店がお店を出していて、国立大学レベルの学食になっています。」
嘉「私立高校の中でも破格やと思うで。」
あ「私もよくここでお食事するんだけど、メニューが豊富で迷っちゃうのよね。料理の参考にもなるし。」
本校舎の案内が終わると、次に学校の南側にある建物にやってきた。
奈「次にここが学校の南側にあるのが図書館ですわ。蔵書がたくさんあるので授業の空き時間などをあそこで過ごす人も多いですわ。」
麗「ここには蔵書がたくさんあって美術系に進む生徒のための漫画やアニメ雑誌なんかも置いてありますね。」
あ「それって学校としていいのかしら・・・?」
奈「最近は漫画を置く図書館も増えてきていますし、漫画家のわたくしにとっては参考になるものも多いですから。」
麗「水晶学園は自由な校風の学校なんでもうなんでもありなんですよ。こういう学校じゃなかったらあたしはもう退学してると思いますよ。」
あ「そこまでする必要はないんじゃない?」
凛「いいえ、愛麗だけではありませんよ。私たち水晶学園に通うものは普通の学校の普通科では満足いかない人や、やりたいことがある人のために作られた学校ですから。」
奈「それに教師以外の男もいないから安全ですわ。」
嘉「女子高やしなぁ・・・」
あ「そうなんだ・・・(今の時代って草食系女子が増えたのかしら・・・?)」
あかり先生は愛麗たちとのジェネレーションギャップをわずかながらに感じたのだった。ただ、実際に愛麗たちがこんなことを言っているのはこの学校に通う生徒のほとんどがえげつない過去を経験しているからなのだが・・・ふと図書室の座席を見ると見慣れた顔がある。環輝と和琴だった。
麗「和琴、また心理学の勉強?」
凛「花蜜さんも一緒にお勉強ですか?」
和「あら生泉に夜光に天宮城に雷久保・・・それに藤沢先生。どうも。」
環「今度の社会科のテストやばいから和琴に教わってたんだし・・・ってか何やってんのあんたら。」
嘉「藤沢先生にこの学校を案内しとんねん。」
和「あんたたちも優しいわねえ。この学校かなり広いわよ?」
奈「大体案内は終わってますわ。あとは体育館と研究棟、それと寮の方だけですから。」
和「大変そうね・・・だけどなんか面白そうだし、あたしもついていこうかしら。」
環「ちょ・・・まだ勉強の途中・・・」
和「あたしが作った小テスト採点したけど、もう花蜜は十分合格ラインに届くと思うわよ。それに・・・1時間ぶっ続けで勉強見てたからあたしも疲れたのよ。だから休憩。」
あ「花蜜さんもよかったら一緒に来てくれない?人数は多い方が楽しいから。」
環「分かりました・・・だけど家に帰ったら少しは社会科やらないとな・・・」
こうして新たに案内役が2人加わったのだった。
次に愛麗たちは体育館の方へ行った。
麗「こっちが体育館です。中はかなり広くて色々な運動部が練習しています。」
凛「体育館の手前側にはプールがあります。夏はここで水泳の授業をするんですよ。」
嘉「部室等は体育館の裏手にあるで。」
あ「私もいつか運動部の顧問にされちゃうのかな・・・運動は得意じゃないから心配。」
奈「そこは心配しなくてもいいですわ。この学校は運動部よりも文化部の方が発達してますわ。」
環「ほんと、この学校の文化部の発展は異常よ。朝練とかはないんだけどね。」
麗「あかり先生なら家庭科の先生だし、調理部とか手芸部とか向いているような気がします。」
あ「そうね・・・そっちの方で考えてみるわ。」
凛「それと、この奥には大学でもないのに研究棟があるんです。」
あ「研究棟?何の研究をしているのかしら?」
麗「蒲郡先生に聞いたことあるんだけど個人の適性を生かした教育について研究しているらしいですよ。」
凛「一般的には周りと同じ価値観を持たない小数の者は排除されてしまいますからね。」
嘉「だからそう言った周りに合わせられない人間の適性を見つけて伸ばし、新しい生き方の可能性を見つける。そんな研究をしているらしいで。水晶学園らしいわ。」
あ「少数の価値観で追外か・・・なんとなくわかる気はする。私もそうだったし。」
奈「いつか研究が成功して、騎ノ風以外にもわたくしたちが生きやすい世界ができてほしいですわね。」
あ「まったくその通りだわ・・・私もここの教員になるまでは最悪な学校をいくつも見てきたもの。あの時、学園長先生からのオファーを受けて本当に良かったって思うわ。理乃ちゃんの罪滅ぼしになんてならないかもしれないけど、貴方たちが幸せに暮らせるお手伝いができるなら私はそれで幸せよ。」
和「藤沢先生って妹の方とは大違いですね・・・」
あ「まああの子は教育機関に復讐するために教師になったようなものだからね・・・生徒のことなんて二の次だったのよ。」
麗「いまさらだけど、よくこの学校に採用されたもんよね・・・」
凛「コネかなんかじゃないんですかね?」
あ「あの子それなりにできる子であったから入ったのは実力だろうけど・・・動機が不純だと何事もどこかで滑るものなのよ。」
あかり先生は少しさみしそうな顔をしながらそう言ったのだった。
和「次にここから先が水晶学園の寮です。」
環「学園長先生が地方からの受験者を受け入れるために設立したらしいわ。」
凛「ですけど、水晶学園自体の合格者が少ない上にクラスが少人数・・・1クラス15人の6クラスですから学年ごとに90人しかいないのもあって、利用者はあまりいません。」
あ「そもそも、寮作らなくても、どこかのアパートをうちで借りて社宅みたいにすればいいんじゃないかしら・・・90人だと地方からの受験者もそんなにいないだろうし・・・」
麗「実際今現在の入居者は10人ぐらいだって話がありますしね。」
和「だけど寮システム自体は悪くないと思う。普通の学校なら学費が払えなくて退学せざるを得ない子だってたくさんいるし・・・水晶学園は学費免除制度があるからそうでもないだろうけど。」
環「実際最大でも学費は3万ぐらいだからねこの学校は。」
凛「それなのにこんな高レベルの環境と教育を受けられるのって・・・」
奈「学園長先生って相当なお金持ちなんですのね。」
嘉「エレナちゃんもお金持ちのお嬢様なんやな。」
あ「学園長はかつて盛大に栄えた機械会社鷲宮重工を経営していたぐらいだから、その時に稼いだお金でこの学校を作ったのかもしれないわね。ただ、この学校には寄付金制度もあるから、そっちで成り立っている可能性もあるけど。」
麗「やっぱり、そういうものってどんな学校にもあるのよね・・・もしこのレベルのいい環境の学校になら払ってもいいかなとは思えるわね。」
あ「この学校は出る杭は打たない、個性を伸ばす、芸術系を選んでもしっかり生きていけるようにする。そんなところだからね水晶学園は。」
こうして、愛麗たちによる水晶学園の案内ツアーは終わった。
あ「みんな今日は忙しいのにありがとうね。この埋め合わせは今度するから。」
和「そこまでしなくてもいいですよ藤沢先生。」
麗「あたしたちは時間あったから案内しただけですから。」
あ「うーんでもなんか本当に悪いから・・・皆で海行くときとか私に連絡くれれば、保護者として同行するわよ。」
奈「藤沢先生は学校での勤務が忙しいのでは?」
あ「そこは平気よ。一応調理部の顧問になってほしいと今さっき連絡は行ったけど、夏休み中の活動は週1日・・・私の仕事は週3日も勤務すれば終わるし、それ以外の日だったら
なんとなるから。」
環「この学校やること多そうなのに、夏季休暇は週4なんだ・・・以外だし。」
凛「藤沢先生の都合が効くならぜひお願いしたいです。一応プールへは8月1日に行く予定になってます。」
あ「分かったわ。何とか都合つけてみるわ。」
環「それにしてもなんで急にそんなこと言いだしたわけ?」
和「ちょっと怪しいかも・・・」
あ「・・・あなたたちなら信頼できるしカミングアウトするけど私女の子が大好きなの。特にあなたたちぐらいの女子高生が。」
麗「え・・・そうなんですか。ならあたしたちも同じです。」
凛「私と愛麗は付き合っているんです。」
和「それに1組の連中のほとんどは生泉と夜光みたいな関係を持ってますよ。」
あ「なんか意外で驚いちゃったけど・・・愛があれば同性との付き合いも悪くないと思うわよ。
それで・・・あなたたちがスパリゾートで遊ぶ写真を撮りたいなって・・・もちろん悪用とかは考えてないから安心して。」
麗「悪用しないならいいですよ。」
嘉「それと可愛く撮ってな。可愛く撮れてるからは映像見てウチがチェックしてあげるで。」
あ「雷久保さんありがとう。今日はもう遅いからみんな気を付けて帰るのよ。」
奈「わかっていますわ。それでは藤沢先生、また明日。」
帰りのあいさつをして愛麗たちは校門を出て、帰ってくのだった。
あかり先生はその後ろ姿を少しうらやまし思いながら見送った。
あ「私もいつか素敵な女性の恋人ができるといいな・・・」