電話

ある夜のこと。愛麗はアパートの自分の部屋でジオラマを作っていた。
麗「うーん・・・ここの家をもう少し手前側にずらして・・・この人はこっちに持ってこようかな。」
色々と試行錯誤をしながらジオラマに飾られているフィギュアや模型などを動かしていく。
そんな時彼女の電話が鳴った。
麗「こんな夜遅くに誰かしら・・・ええと、アンか。」
愛麗は電話を手に取り、通話ボタンを押す。
環「あ、愛麗。起きてた?」
麗「アン、こんな遅くに何なのよ?」
環「いや、ちょっとね。愛麗今何してるかなって思ってさ。」
麗「あんたにしては珍しいわね・・・あ、そういえば歴史の課題やった?明日までよあれ。」
環「あー忘れてたわ・・・ここんとこ研究で忙しくてね。ちょっと教えてくれない?」
麗「見せるのはダメだけど教えるならいいわよ。」
環「ありがと愛麗恩に着るわ。ええと何についてやるんだっけ・・・?」
麗「ええと・・・あ、ここの範囲を・・・」
その後30分ぐらい愛麗は電話越しに環輝が課題で分からない所があったら電話越しに教えた。そして、環輝は課題を無事に終えることができたのだった。
環「いやー助かっちゃったわ!ありがとね愛麗。おかげで課題終わったわ~。」
麗「それは良かった。それで、今日の課題の内容は理解できたの?」
環「・・・・・」
麗「なんで黙るのよ?理解できなかったの?」
環「そんなことないけどさ・・・歴史ってそこまでして覚える価値ないんじゃないかなーって思って。」
麗「そう思ってんのはあんただけよ。歴史って結構面白くて、人によっては共通の話題になることだってあるし、博物館めぐりとかも楽しくなるし、戦国時代なんかは特に人気あって熱狂的なファンは沢山いるのよ。」
環「まあそうだけど・・・私には分かんないな・・・」
麗「あたしも無理に歴史を好きになれとは言って無いから、アンが興味ないのであれば別に基本を押さえておけばいいんじゃないの。」
環「そうよね~。私ほんとに文系と相性悪いから困ったもんだわ・・・あ、課題も終わったしこれから新しいソフトフェアの制作するからこれで。じゃね。」
環輝はそう言うと通話を切ってしまった。
麗「まったく、昔からあいつは変わらないわね・・・」
愛麗はそう考えると再びジオラマの作成に取り掛かった。

愛麗が環輝からの電話を終えてしばらくすると、また電話がかかってきた。
麗「また電話・・・?誰かしら?ええと・・・和琴からか。」
愛麗は電話を手に取り、通話ボタンを押す。
和「あ、生泉。今大丈夫かしら。」
麗「こんな夜にどうしたのよ?あたしに何か用?」
和「ちょっとあんたと2人きりで話したいことがあって・・・今度2人きりで会ってくれない?」
麗「どうしたのよ。敏腕高校生カウンセラーのあんたが急にそんなこと言うなんて・・・まあいいけど。」
和「ちょっとあんたに聞いてみたいことがあるのよ。・・・だめ?」
麗「別に駄目じゃないけど・・・分かったわよ。なら今度2人で会おうか。」
和「いいの!?夜光に怒られるんじゃ・・・」
麗「凛世にはあらかじめ言っておくから。あの子も鬼じゃないんだからそこまで怒ったりしないと思うけど。」
和「あの、生泉。ありがt・・・」
麗「ん~?良く聞こえないわね?」
和「何でもないわよ!」
そう言うと和琴は電話を切ってしまった。
麗「まったく、あいつは素直じゃないんだから。」

和琴からの電話を終えて10分ぐらいするとまた電話が鳴りだした。
麗「また電話?・・・ええと、今度は奈摘か。」
愛麗は電話を手に取り、通話ボタンを押す。
奈「あ、愛麗さん。こんばんはですわ。」
麗「こんな時間にどうしたの?」
奈「愛麗さんって今期のアニメLOVE!ヴァンパイアガール見てます?」
麗「ああ、あれか・・・一応あたしたちの合作なわけだし、見てるわよ。」
LOVE!ヴァンパイアガールとは今季に放送されているアニメ作品のひとつである。
タイトルからラブコメだと思う人が多いのだが登場人物は女の子のみの百合アニメだったりする。
主人公で見た目が愛に似た吸血鬼の血をひくが女子として生きたい女子高生天宮美琴(あまみや みこと)。
美琴の親友で普通の人間だが眷属になってもいいというほど美琴のことが好きな女の子宿野部恵夢(しゅくのべ めぐむ)。
ふんわりした可愛らしい雰囲気のお嬢様白鳥レナ(しらとり れな)。
現実主義者の正義厨で、美琴の才能に嫉妬し彼女になにかと突っかかる女の子住吉櫻子(すみよし さくらこ)。
小柄で小さく、声も小さい小動物系の少女皆塚まゆ(かいづか まゆ)。
この5人がおりなす日常系の物語であり、バトル要素などは一切ないため萌えオタからの人気が高い。
ちなみにこの作品は愛麗と奈摘の合作であるのだが、編集者に騙され、著作権を奪われてしまった作品である。
奈「わたくしはレナさんと美琴さんをくっつけるつもりで漫画を描いていたのになんでよりによっていちいち突っかかる櫻子なんかと・・・あれはツンデレなんかじゃないですわ!!!」
レナは奈摘が自分を参考にデザインしたキャラクターであり、かなり愛着があるらしい。
櫻子は著作権を奪った著者と編集者が連載をするに付け加えたキャラである。
麗「確かにね・・・あたしたちの初めての合作ってこともあるし、愛着があるのも分かるわ。」
愛麗はその話を聞きながらスマートフォンを操作し、奈摘にメールを送信した。
麗「だけどね・・・この前ネットニュースでこんな記事見つけたんだけど、パソコンに送ったから見てみて。」
奈「なんですの・・・?」
奈摘はパソコンで愛麗が送ったメールに記載されているURLを開いた。
そこには、著作権を奪った悪徳出版社というタイトルのニュースがあった。
奈「・・・」
奈摘は無言でそのニュースを読んだ。内容は、現在アニメが放送されているLOVE!ヴァンパイアガールは本来2人の女子高生が書いたものであり、悪徳出版社が女子高生から著作権を奪って、アイデアが思いつかなかった漫画家に書かせていたものであるということが発覚、その出版社が訴えられて裁判で大敗、倒産したという話題だった。漫画家の方はというと元々人の物である作品を傷つけてしまったという罪悪感から、漫画家を廃業するとのことであった。そして著作権を女子高生たちに返すとのことであった。
奈「これって・・・」
麗「そうだよ。あたしたちに著作権を返してくれるんだって。それに出版社も倒産になったから、埼玉大手の嵐山出版が出している「季刊誌サイクロン」って雑誌に移るんだってさ。」
奈「それ本当ですの!?サイクロンに移れるんだったら本望ですわ!!!」
麗「だけどさ・・・あたしはいいかな。奈摘1人で描いて。」
奈「え・・・なんでですの?」
麗「あたしは文章を書きたいから。LOVE!ヴァンパイアガールは漫画だからプロの漫画家を目指している奈摘が描いた方がいいと思うの。」
奈「そうですか・・・分かりましたわ。色々とありがとうございますわ。」
麗「それと、アニメは問題なく放送されるみたいよ。」
奈「良かった・・・わたくし季刊誌とはいえ連載を持てたことがとてもうれしい・・・愛麗さん、もしよかったらまた女の子だらけの物語を2人で作りましょうね。それではまた学校で。」
奈摘はそう言うと電話を切った。
麗「これでよかったのよね・・・たぶん。あ、そろそろお風呂入ってこよっと。」
その後、奈摘は無事に嵐山出版と手続きをして、有名高校の学生であるという立場から不定期で連載を持つことになったのだった・・・

奈摘からの電話が終わった後、風呂に入った愛麗は長い髪を拭きながらパジャマ用の着古したオーバーオール姿で部屋に戻ってきた。
麗「髪乾かすのって大変だわ。レナちゃんみたいに短いのなら楽なんだろうけど、髪切ったらあたし男扱いされそうなのよね・・・」
愛麗がそう言いながらドライヤーのスイッチを入れようとした時、また電話が鳴った。
麗「今日は電話多いわね・・・ええと、今度は嘉月からか。」
愛麗は電話を手に取り、通話ボタンを押す。
嘉「あ、愛麗ちゃん。まだ起きとるんやな。」
麗「どうしたの?なんか辛いことでもあったの?」
嘉「さすがにそれはちゃうわ・・・ちょっと新しい服のデザイン描いたんやけど見てくれへん?」
麗「いいけど、なんであたしに見てほしいの?奈摘とか和琴に見てもらった方がいいんじゃないの。」
嘉「ウチは愛麗ちゃんがええねん。愛麗ちゃん結構お洒落さんやから。」
麗「おだてたって何もでないわよ。まあいいわ送って。」
嘉「今送るで。」
嘉月のその言葉の後、愛麗のメールボックスに画像付きのメールが来た。その画像はいつもの私服に長い丈のコートを着た愛麗だった。
麗「これって・・・?あたし?」
嘉「うん。今デザインしてんのはオーバーオールに合いそうなコートなんや。」
麗「だからあたしに聞いたのか・・・ずいぶんコアなものをデザインしてるのね・・・」
嘉「これからのファッションはニッチな分野のニーズにこたえることも大事だと思うねん。」
麗「あんた写真家目指してんじゃなかったの。」
嘉「もちろん服作りは趣味やで。本業は写真撮影や。それで・・・どうなん?」
麗「いいんじゃない。ちょっと渋めだからもう少し可愛い部分を取り入れればよくなると思うけど。あたしはこういう服のデザインは素人だから詳しくないけど・・・」
嘉「そう言ってくれて嬉しいわ。逆にそう言うの良く分からないっていう人からは違った目線の意見が聞けたりして参考になるんやで。」
麗「そんなもんなのね。あ、あたしこれから髪乾かすからもう切るわね。」
嘉「うん。そんな大事な時に急に電話したりしてごめんなぁ。」
麗「別にかまわないわよ。じゃあまた学校で。」
愛麗はそう言うと電話を切り、ドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かし始めた。

愛麗は髪を乾かし終えると、疲れから一息ついていた。
麗「やっと乾かし終わった・・・コーヒーでも入れて一休みしよ。」
愛麗がコーヒーの準備のために湯を沸かそうと電気ポットに手を伸ばした瞬間また電話が鳴った。
麗「ほんと今日は電話の多い日ね・・・ええと誰・・・凛世じゃない!」
愛麗は電話を手に取り、通話ボタンを押す。
凛「愛麗。夜分遅くにすいません。」
麗「どうしたの?あたしの声でも聴きたくなった?」
凛「はい・・・おっしゃる通りです。愛麗の声が聞きたくて電話してみました。」
麗「今日はみんなからいろいろ電話かかってきたんだけど、凛世からはかかってこないからこのままかかってこなかったらどうしようかと思ってたわ。」
凛「そう言ってもらえてうれしいです。実は今日の電話私が皆さんに愛麗にかけてほしいって言ったんですよ。」
麗「え、そうなの?」
凛「はい・・・最近愛麗が全然元気がないので・・・少し心配になっていたんです。」
麗「やっぱり顔に出ちゃってたのかな・・・」
凛「何かあったんですか?」
麗「この前購買でお弁当だけじゃ足りなかったからパンを買おうと思って揉みくちゃになってたら誰かに胸触られて・・・それに耳元で舌打ちされてすごく不快な気持ちになったのよ・・・」
凛「そうだったんですか・・・」
麗「雰囲気が祖母さんに似てるって言われたことあるからそれが嬉しくて、胸が重くたってずっと耐えてきたのに・・・もういいや、手術してバスト減らそうかな・・・」
凛「愛麗は本当にそれでいいんですか?莫大なお金がかかりますし、手術に失敗して胸の形が悪くなる場合だってあるんですよ!?」
麗「だってさ、そうすればもう痴漢まがいのことされなくたって済むんだよ!?」
凛「確かにそうですけど・・・私はそんなことで愛麗に泣き寝入りしてほしくないです。それにその件の犯人私知ってますよ。」
麗「なんでそんなこと凛世が知ってるのよ・・・」
凛「神宿さんと西園寺さんが愛麗と全く同じことをされたって聞いたんです。」
麗「え・・・それ本当なの?」
凛「はい、お2人の話によれば、犯人は3年生の担当をしている村田先生だそうです。」
麗「それほんと!?あいつか・・・全く男にはろくな奴がいないわ・・・」
凛「まさにその通りですね。神宿さんと西園寺さんと私、それに蒲郡先生の4人で問い詰めたところあっさりと犯行を認めましたよ。理由はあまり顔を知られていない1年生の子ならやってもばれないだろうという安直な考えでした。」
麗「うわ、最低・・・」
凛「その時に愛麗にもやったって自白したんです。それを学園長先生にも伝えたので村田先生は今日付けで解雇になりましたよ。学園長先生は国枝先生の件もあって教員の雇用を今後はもっと厳しくするそうです。」
麗「良かったあ・・・」
凛「愛麗、これだけは覚えておいてほしいです。私は愛麗の親友であり恋人としていつもあなたのことを思ってます。もちろん今日電話をかけてくれた皆さんだって・・・だから何か困ったことがあったらすぐ言ってください。完全には無理でもできる限り力にはなりたいので。」
麗「うん・・・ありがと凛世。」
凛「それでは愛麗、私はそろそろ寝ますね。おやすみなさい。」
麗「うん、おやすみ凛世。いろいろありがとう。」
凛「いいえ・・・それではおやすみなさ・・・あ、そうです愛麗。一つ聞きたいことが・・・」
麗「何?」
凛「今日どんなパジャマ着てるんですか?」
麗「古着屋で買ったオーバーオールだけど?」
凛「寝るとき固くてきつくないですか?」
麗「さすがにデニムだと寝るのには向かないからソフトな生地のやつ着てるし慣れれば楽よ?冬でもお腹出したパジャマで寝てる榎波よりはいいと思うけど。」
凛「色々と工夫してるんですねさすが愛麗。あ、私はネグリジェで寝てます。」
麗「別に聞いてないけど・・・凛世ってそう言うの似合いそうで羨ましいわ。」
凛「愛麗にも似合うと私は思いますけどね・・・」
麗「おだてたって何もないってば・・・あ、もう遅いからそろそろ寝るわ。引き止めちゃってごめんおやすみ。」
凛「いえ、引き留めるきっかけを作ったのは私ですから・・・おやすみなさい。ですけど、私は愛麗とだったら何時間でも・・・」
麗「だけど、夜更かしは肌や髪に悪いわよ。」
凛「夜更かしって髪の毛に悪かったんですか!?分かりました寝ます。」
麗「うん、お休み。(凛世って髪の毛大事にしてる割にそう言うこと知らなかったんだなぁ・・・)」
そう言うと2人はほぼ同時に通話を切った。
麗「さーてジオラマの続きを・・・と思ったけどもう遅いわよね。明日は休みだし、ジオラマ作成は明日やればいいわよね。」
愛麗はそう思うとベットの方に向かい、布団に入った。
麗「(あたしのことを思って電話をしてくれる友達が沢山いて・・・ほんと、幸せものね。今日のお礼にクッキーでも作ってきてあげようかな。)」
愛麗は布団の中でそんなことを考えながら眠りについたのだった。