ある日奈摘の元に手紙が届いた。
執「お嬢様、貴方様あてにこのような手紙が・・・」
奈「ご苦労様ですわ。ええと・・・差出人はお父様からですわね・・・」
奈摘は手紙を開いて読んでみる。
奈「ええと・・・話したいことがあるので琴音お姉さまと一緒に行田の本家に来てくれと・・・なんなんでしょうかね・・・?」
執「旦那様のことですから、家のことで何か重大な用事があるのかもしれません・・・」
奈「ですけど・・・わたくしあの家には行きたくないですわ。」
琴「なーつるちゃん。何読んでるの?」
奈「お姉さま。お父様がわたくしたちに用事があるので実家に帰ってきてくれと・・・」
琴「お父様がか・・・だけど実家にはあの人が・・・」
奈「分かってますわ。ですが、この通知を無視したらわたくしたちは最悪天宮城家から追い出されてしまう可能性が高いですわ。だから行かなければ・・・」
琴「だけど・・・ここにはもう戻ってこれなくなるかもよ?」
奈「そうですわね・・・それなら意地でも戻れるようにしておきますわよ・・・ね?」
執「ハイもちろんでございます。お嬢様たちに何かあった場合は私たち騎ノ風天宮城家の使用人たちが助け出しますので。」
奈「それにお父様は悪い人ではないですわ。本当に悪いのはあの人・・・わたくしたちの母親ですわ・・・」
琴「だよね・・・母さんが全部の原因と言っても過言ではないからね。」
奈「明日はお休みですし、行きましょう。問題事は早めに済ませた方が精神にもいいですから。」
琴「うん・・・」
奈摘と琴音はその日のうちに実家に行く準備をしたのだった。
次の日、準備を済ませた奈摘と琴音は執事の送迎で行田市にある天宮城家の本邸に来ていた。
執「それではお二人とも、くれぐれもお気をつけて。旦那様には何かあったらお二人のことを守るよう連絡しておきます。」
奈「ここまでありがとうございましたわ。」
琴「・・・気を付けてよね。」
執事は軽く頭を下げると、車で本邸の脇道に隠れた。ここで奈摘たちに何かあった時のために待機するのだ。
奈「さ、お父様に連絡を・・・」
奈摘は電話で父親に連絡を入れる。すると、本家の門が自動的に開いた。
奈「それでは行きますわよ。」
琴「うん。」
奈摘と琴音は正門から入り、本邸の中央にあるお屋敷に向かって進んでいく。
天宮城本邸は思った以上に広く、玄関に着くまでに時間がかかってしまった。なんとか玄関にたどり着き、扉を開けると2人の父親であるエドワードが待っていた。
父「奈摘に琴音!大きくなったな!最後に会ったのは5年ぐらい前だったかな。」
奈「お父様。ご無沙汰してますわ。」
父「奈摘はしっかりお嬢様らしい振る舞いが身に着いたようだね。万が一の時のために教えておいてよかったよ。」
琴「パパ、いつも仕送りありがとうね。」
父「琴音も元気そうで何よりだよ。高校は楽しいかい?」
琴「うん、もちろんよ。」
奈「それで・・・今日はわたくしたちに何の用事ですの?」
父「ああ、それはだな・・・」
エドワードが目的を言おうとしたその時、踊り場の方から声がした。
?「あなたたちに天宮城の家から消えてほしくて、呼び出してもらったのよ。」
そこには20代後半ぐらいの年に見える女性がいた。この女性は奈摘と琴音の母親であり実年齢は40代である。
天宮城家はこの母親の実家であり、末っ子である彼女は小さいころから金と権力に物を言わせてやりたい放題していたらしい。
その隣には申し訳なさそうな顔をしている20代の女性がいる。奈摘と琴音の姉である万梨阿である。
天宮城家にはかなり複雑な事情があり、奈摘と琴音はこの母親の実子ではないとされている。
そのこともあり、母親は実子である万梨阿を優遇した。しかしその裏では彼女に大量の習い事をさせ、
失敗したら怒鳴り散らしたり、頬をひっぱたくということをしてきた。その結果彼女は自分の考えを持てなくなってしまった。
また、フルネームが天宮城万梨阿になるため、学校では変な名前扱いされいじめにあっていた。母親はそのことを知ると、万梨阿を罵倒し
「環境に適応できないお前が悪い」だの「天宮城家の面汚しが」等と言って暴力を振るった。
これに加え奈摘や琴音のことは当然冷遇し、特に奈摘は金髪だったのが気に入らないことから、精神的虐待をしつこく行った。
つまり、天宮城家の空気が悪いのはこの母親が横暴に好き勝手やっていることが最大の原因なのである。
母「いまさら何しに帰ってきたの。遺産目当て?言っとくけどあんたたちにやる遺産なんてないから。」
万「・・・・・」
琴「(うわ、相変わらず最低・・・)」
奈「(何にも変わってないんですのね・・・)」
父「おい、2人とも時間がないのにわざわざこっちまで来てくれたのになんてこと言うんだよ!」
母「私が呼んだわけじゃないし知ったことじゃないわ。それに学生なんだから暇でしょどうせ。」
父「お前なあ・・・」
母「ほら、あんたも突っ立ってないでなんか言いなさいよ。」
母親は万梨阿に何か言うようにけしかける。1
万「・・・2人ともお帰りなさい。元気にしてた?」
母「そんなこと言ってどうするのよ!?使えない娘ね!」
母親はそう言うと万梨阿を踊り場から突き落とした。
何度か鈍い音がして万梨阿が奈摘たちの前まで落ちてくる。
奈「万梨阿お姉さま!」
琴「あの・・・手を貸そうか?」
万「2人ともありがとう・・・」
階段に体を何回もぶつけたのにもかかわらず、万梨阿は奈摘と琴音の手を借りて何とか立ち上がった。
父「お前いい加減にしろ!実の娘になんでこんなこと平気で出来るんだよ!」
母「だってその子は私の期待に応えてくれなかった。だから奴隷として扱ってんのよ。」
父「奴隷だと・・・?」
母「ええ、私の期待に応えられなかったその子の扱い何てそんなもんで充分よ。」
父「はあ・・・お前には失望したよ。ゆっくり食事でもしながら今日集まってもらった理由について話そうかと思ったけど今ここで話してしまった方がよさそうだな。お前の言動は子供たちに悪影響を与えかねない。」
奈「集まってもらった理由・・・ですの?」
父「ああ、お前たち3人自分の血液型は分かるよな?」
万「あたしはA型だと言われて育った・・・この前献血の時に調べてもらったらAB型だったけど・・・」
琴「私はO型だよね。」
奈「わたくしはB型ですわ。」
父「そうだな、その通りだ。そして俺はA型であいつの血液型はわからないが・・・義父さんがA型で義母さんはO型だったと言っていたからどちらかだろう。奈摘、万梨阿。それに琴音もおかしいと思った部分はないかい?」
奈「おかしいですわ・・・この条件ですとわたくしの血液型は組み合わせ的にあり得ませんわ。わたくしがここを出て行った時もその件がきっかけでしたし。」
万「あたしも・・・あたしにも本来無いはずのB遺伝子がある・・・」
父「そうだ。つまり、お前たちの父親は俺だが、あの母親は赤の他人でしかないんだ。」
奈「ええっ・・・」
万「まさか・・・」
琴「そんなことあり得るの!?」
母「ふざけるな!万梨阿は少なくとも私が産んだ子供だ!!!」
父「いや、お前は勘違いをしている。3人とも俺の昔の恋人であるシェリーの子供だよ。シェリーはB型なんだ。それで説明がつく。」
母「シェリーって・・・お前の浮気相手か!!!」
父「いや、違うな。元々俺はシェリーと付き合っていたんだ。だが、俺が当時イギリスで経営していた銀行があらぬデマを流されて、潰れてしまった。そんな時、俺の経営の腕を買ってくれたのが、天宮城金融の当時の経営者であるお義父さんだ。しかし、経営者の座の代わりに自分の娘と結婚してほしいと言われたんだ。俺は当時すでに20代後半だった。ずっと銀行をやってきたのもあって、ほかの仕事なんか考えられなかった。だから俺はシェリーに別れを告げて天宮城家の婿養子になったのさ。」
万「そんなことが・・・」
琴「あったんだね。驚きだよ・・・」
奈「ですけどそのシェリーさんはおそらく外国人でしょうし、そういうことならわたくしたちハーフでないってことですわよね?」
父「シェリーはその名前から勘違いされやすいんだけど日本人なんだ。ただ、どこかのクォーターだとかは言ってたけど・・・あいつは日本の実家を追われてしまっているからな・・・もう日本では暮らしたくないんだろう。」
琴「どこまでも重い話だね・・・」
父「まだ話はあるんだ。俺はシェリーの元に冷凍保存した俺の子種を残してきた。あいつはあなた以外は考えられない、だから今後私は結婚することも無いと思うと言ってな・・・だから寂しくて子供が欲しくなったら使うようにとね・・・産んだら私がその子供たちの養育費もしっかり払うって約束して契約書まで残してきたんだ。」
奈「それならわたくしたちはなぜ日本に・・・?」
父「それは、シェリーが3人を1人で上手く育てられなかったんだよ。あいつは仕事が得意ではなくて収入もほとんどなかったんだ。それで俺がお前たち3人を引き取って育てることにしたんだ。それにしても・・・俺はシェリーに本当にひどいことをした。事業の失敗のせいで彼女は俺と別れることになり、寂しさから俺の子種を使って万梨阿、琴音、奈摘を産んだってのに・・・」
琴「父さん・・・」
万「お父様は全然ダメな人じゃないです・・・」
父「いや、俺のせいだ。俺が事業に失敗しなければこんなことには・・・」
母「あのさ・・・さっきから気持ち悪い芝居見せてんじゃないわよ!それに私は確かに妊娠したんだよ!」
父「その子供は流産しただろう・・・おまけにその子は浮気相手との子だろ。いい加減現実を受け入れろよ。」
母「知るか!万梨阿は私の実子だ!!!」
亞「やだ・・・あんな醜い人の実子だなんてあたしやだぁ!」
今まで母親に虐げられていた万梨阿の感情が遂に爆発した。
琴「姉さんの言うとおりよ!もしあんたが実の母親だったら私は絶愛してやるから!」
母「ふざけるな!今まで誰が育ててやったと思ってるんだ恩知らず娘どもが!!!」
父「だったらDNA検査をしてみるか!?それで証明できるはず・・・」
?「やれやれ・・・エドワード君や孫たちをこれ以上責めるでないわが娘よ・・・」
言い争う家族の元に1人の老人が現れた。
奈「まさか・・・おじい様?」
?「久しぶりじゃのう。奈摘。」
この老人は天宮城啓太郎。天宮城金融の創設者にして会長であり奈摘たちの祖父である。総資産は1000億円だと言われている。
啓「元々この件はわしが悪いんじゃ・・・昔から横暴な娘に手を焼かされ、それでイギリスで敏腕経営者だったエドワード君の良心に付け込んで、君の元彼女と別れさせてまでこいつと結婚させたのじゃからな・・・」
父「お義父さんは何も悪くありません。むしろ見ず知らずの私に銀行という信頼が何よりも大切な仕事を私に任せてくれた・・・そのことにとても感謝しています。」
啓「だが、君の人生にひびを入れてしまったのはわしだ・・・だから・・・」
父「どうしましたかお義父さん?」
啓「エドワード君、わしと養子愛組してくれないか?その際にはそこの愚娘と離婚してくれたって構わない。万梨阿、琴音、奈摘の親権も君を優先するようわしから言おう。」
母「は・・・?今なんて言ったのジジイ?」
啓「お前には意味が分からんかったみたいだな。お前の姉・・・陽向と違って勉強をさぼったつけなんだろうな。エドワード君をわしの養子にして万梨阿たちの親権を渡すって言ったんだよ。その際はエドワード君はお前と離婚、そしてわしとは絶縁だよ。」
母「ふざけるな!!!私がいないと何もできないくせに!」
啓「いや、お前がいなくなってもわしは何と思わんよ。お前のことを30年近くずっと見続けてきたわしから言えば・・・幼少期から横暴で、小学生時代は同級生をいじめて自殺に追い込み、中学生のころは敷地で車を無免許運転してメイドの片倉君を怪我させたり高校の頃は万引きやカツアゲの常習犯・・・高校を卒業したあとは働きもせずに財産を食いつぶして、挙句の果てにはエドワード君にDVをしてその子供たちを虐待・・・特に万梨阿や奈摘に対しては物理・精神ともに酷い目に合わせおって・・・」
母「だってその子たち私の子供じゃないし、何したっていいでしょ。」
万「ひどい・・・さっきまであれだけ実の子だって言ってたのに・・・」
奈「実子じゃないと分かった時点でこの対応ですか・・・」
母「私は被害者だし、慰謝料はしっかりいただくわね。それに万梨阿は奴隷として連れて行くから。」
万「嫌!あたし貴方に付いて行きたくない!!!」
母「私は資産をすべて失うんだから、奴隷の一人ぐらい連れて行ったっていいでしょ。」
母親は万梨阿の手を掴むと強引に連れ出そうとするが、万梨阿はそれに必死で抵抗する。
啓「奴隷という言葉を気軽に使うとは・・・やはり教育を間違ったようだな・・・」
父「お前ってやつは・・・まだ往生際の悪いことを言いやがって・・・」
万梨阿に対して奴隷という言葉を使った母親に対して啓太郎とエドワードは詰め寄ろうとする。
奈「お父様、おじい様。少し下がっててもらえますか。」
父「奈摘・・・大丈夫なのか?」
奈「ええ・・・お任せ下さいまし。」
奈摘が2人を静止して母親に詰め寄った。そして強引に万梨阿の腕を掴んで母親から引き離す。
母「あら、どうしたの?あんたが奴隷になりに来たの?」
そんな言葉を発する母親に対して奈摘は無表情でこう言った。
奈「今すぐ天宮城家から消えるのですわ。」
母「それぐらいじゃ私は怖気づいたりしない・・・」
奈「聞こえなかったんですの!?わたくしの家族を傷つけるあなたは今すぐ消えろと言ったのですわ!!!」
その言葉を発した瞬間、奈摘の後ろに恐ろしいオーラが見えるような幻覚に周囲の全員が襲われた。
そのオーラは母親だけでなく啓太郎やエドワード、万梨阿や琴音にも見えていた。
母「ひっ・・・もういいわよこんな家!出てってやる!遺産なんかいらないわよ!」
母親はそう言うとそそくさと天宮城家から出て行ってしまったのだった。
奈「はぁ・・・はぁ・・・」
父「奈摘、大丈夫か?」
奈「ええ・・・なんとか。それにしてもあんなに怒ったの初めてでしたわ・・・」
琴「奈摘ちゃん今の凄かったねー!」
万「ちょっと怖かったかも・・・」
啓「みんなが無事でよかったわい。」
父「ですが・・・これでお義父さんの血を継いだ子孫がいなくなってしまいましたね・・・」
啓「それなら心配いらんよ。」
啓太郎がそう言った瞬間、玄関の扉が開き、キャリアウーマンのような格好をした女性が入ってきた。
?「お父様、今帰りましたわ。」
啓「お帰り、陽向。」
その人物は天宮城陽向・・・あの母親の姉、つまり奈摘たちの伯母であり、啓太郎のもう一人の娘である。
父「陽向さん。ニューヨーク支部にいられたのではないのですか?」
向「お父様が戻ってきてって言われて帰ってきたのよ。ニューヨークでの生活もなかなか堪能したからいいんだけどね。」
啓「わしの後は養子になったエドワード君が継いでくれる。それに陽向もいるしわしは幸せ者だよ。奈摘よ、あの疫病神を追い払ってくれてありがとう。お礼に騎ノ風のお屋敷を君たちに譲ろう。」
奈「本当ですの!?」
啓「ああ、もちろんだ。それと・・・万梨阿をそっちに連れて行ってやってはくれないか?」
奈「お姉さまをですか?」
啓「そうだ。その子は精神的にかなり傷がついている。騎ノ風には変わった人が多いし、最新の設備が揃った精神病院もある。万梨阿もそっちの方が暮らしやすいと思うしのう。」
奈「万梨阿お姉さま・・・どうしますか?」
万「行きたい・・・あたし騎ノ風行きたい!なっちゃんやことちゃんと一緒なら安心だよね。」
啓「それと、エドワード君にはここに残ってもらいたいのだが・・・」
父「ええ、分かりました。天宮城金融の重役としてまだやるべきことは沢山ありますから。」
向「サポートは私に任せてエドワード君。」
父「すまないなお前たち・・・だけどもうおれを縛るものはいなくなった。だから今後は月に1回お前たちの様子を見に騎ノ風のお屋敷に行くことにするよ。」
奈「ほんとうですの!ありがとうございますわ!」
その後、エドワードは啓太郎の養子になり、天宮城金融の重役として一層経営に力を入れるようになった。
陽向と啓太郎はそんなエドワードをしっかりと支えた。
奈摘たちは執事の迎えの車で騎ノ風のお屋敷に戻り、そこで暮らすことになった。
その後、万梨阿は騎ノ風総合大学の情報デザイン科に合格した。精神病院で治療をするうちに本来の聡明さと才能を取り戻していったようである。奈摘と琴音もそんな姉の復活を心からお祝いした。
エドワードの元恋人であるシェリーはトラウマから日本には行けないもののこのことを伝えると喜んでくれ、娘たちに手紙を出してくれるようになった。3人・・・特に万梨阿は実母からの手紙を楽しみにするようになった。
家を出た義母はその後行方不明になった。一回天宮城家に義母を保護していると警察から連絡があったが幼少期から不良行為を働き、間接的な人殺しをした娘を養うつもりはないと啓太郎が伝えると難なく了承された。こうして母親は自分の横暴さによって帰る家を失ったのである。
そして・・・この件から数か月が過ぎたころ。奈摘は嘉月にこの件の一部始終を話して聞かせた。
奈「・・・とまあこんなことがありましたの。」
嘉「奈摘ちゃん大変やったんやなぁ。」
奈「お金持ちの家っていうのも大変ですわ。」
嘉「遺産とかいっぱいありそうやしなぁ・・・ウチはそう言うのよく分からへんけど。」
奈「分からない方が幸せかもしれませんわよ。遺産があっても人は醜くなるだけですわ。」
嘉「それは一理あるかもしれへんなぁ。平穏が幸せって言った人は頭ええこと言うたな。」
奈「その通りですわね。」
2人はのんびりと話をしながら平穏こそが一番の幸せなのだということを心から思ったのだった・・・