謎の少女

その日、家電量販店からで新しく調達したカメラを買って帰った嘉月は、うきうき気分だった。
嘉「この新しく買った防水カメラでどんな自然が撮れるんやろ・・・楽しみやわ~。」
カメラを大切に抱えながら歩く嘉月の視界に見知った人物が映る。その人物は嘉月とは反対側の歩道にいた。
嘉「あれって・・・陽姫ちゃんやな。」
嘉月が見た方向にはクラスの仲間である西園寺陽姫がいた。陽姫は身長が高く大柄なのでとても目を引くのである。しかし陽姫の傍らには青い髪の女の子がいた。
嘉「あの子誰なんやろ?陽姫ちゃんは確か柚歌ちゃんと付き合ってたはずなんやけど・・・あの子は背が高いしおそらく別の人ってことになるから・・・まさか浮気!?」
陽姫と女の子はしばらくその場で話をしていたが、しばらくすると目の前にあった店の中に入って行った。嘉月はその瞬間を常に常備している小型デジタルカメラで撮影してカメラの中に収めた。
嘉「ちょっと確認してみるわ・・・」
嘉月は先ほど撮った写真を確認してみる。そこには青い髪の女の子に向かって笑いかける陽姫が映っていた。
嘉「とんでもない所を見てしもうたわ・・・柚歌ちゃんとこいって確認してみた方がよさそうやな。」
嘉月は写真を撮影したその足で柚歌の家に向かった。

柚歌の家に着いた嘉月は例の写真を柚歌に見せた。
柚「え?これ合成写真とかじゃなくて本物!?」
嘉「ウチも信じたくはないねんけど本物なんや。」
柚「この人誰なんだろう・・・後姿だけで分かるけどボクと違って背も高いし魅力的だよね・・・」
嘉「まだ陽姫ちゃんの恋人やって決まったわけやないで。」
柚「そうだけどさぁ・・・もし恋人だったらこんなきれいな人に勝てる自信がないよ・・・」
嘉「確かに勝つんは難しいわなぁ・・・」
柚「今何気に酷いこといったよね?」
嘉「ごめん・・・悪気はなかったんや。」
柚「まあほんとのことだし怒ってないよ・・・それより、この人をもう少し近くで見られないかなぁ。」
嘉「レナちゃんなら写真の角度調整とかできるマシン持ってるかもしれへんな。」
柚「ちょっと頼んでみようか・・・」

嘉月と柚歌はエレナの家にある発明制作用のラボに来た。エレナは急な訪問でありながらも紅茶を入れ、2人をもてなした。
エ「2人ともいらっしゃい・・・何か用・・・?」
嘉「レナちゃん、写真の角度を変えて見られる機械とか持ってへん?」
柚「ちょっと調べてほしい写真があるんだよ・・・」
2人はエレナに写真を渡す。写真に目を通すと2人に問いかける。
エ「これ・・・どうしたいの・・・?」
柚「その青い髪の女の子をアップで映してほしいんだよ。」
嘉「できれば倍率200ぐらいで近づけてくれるとうれしいんやけど・・・」
エ「分かった・・・前に作ったソフトでやってみる・・・」
エレナは写真を受け取ると、パソコンの傍らにあるスキャナーにセットする。その後パソコンを起動して、読み取った写真を自らが作ったという画像処理ソフトで表示する。
エ「これを・・・近づけて・・・」
エレナは陽姫と女の子が映っている部分をズームして近づけた。その際は画素の関係で少しぼやけてしまうが、画像処理の作業を行ってくっきり見えるようにした。
エ「これで・・・何かわかる・・・?」
エレナは処理が終わった写真が表示されたパソコンの画面を2人に見せながら言う。そこにはズームして近づいた部分の陽姫と女の子がしっかりと見えるようになっていた。女の子は後ろを向いているため顔は分からないが、陽姫が彼女に笑いかけているのははっきりわかった。また女の子の具体的な容姿も明らかになった。青い髪はツーサイドアップに結われており、黒い上着と水色のスカートを穿いている。身長は陽姫よりも20cmほど小さいがそれでも160cmぐらいはあるような中肉中背の女の子だった。
嘉「柚歌ちゃんこんな感じの子心当たりあるん?」
柚「いや、分からないよ。そもそも騎ノ風市に住んでいる子なのかな?」
エ「私にも・・・わからない・・・」
嘉「いや、写真作ってもろただけでも助かったわ。レナちゃん、これのコピー貰ってもかまへん?」
エ「いいよ・・・」
エレナはそう言うと写真をプリンターでコピーし、2人に渡してくれた。
エ「何の目的で探してるか知らないけど・・・見つかるといいねその子・・・」
柚「いろいろありがとうレナちゃん、このお礼はそのうちするから・・・」
エ「別にお礼しなくてもいい・・・行っちゃった。」
2人はエレナのラボを出て、この少女に心当たりがないかを聞いて回ることにした。

2人はまず、一番近くにあった和琴の家である眞武書房に向かった。和琴はややパパラッチ的な面もあるが比較的情報通であるため、何か知っているのではないかという判断だった。和琴は運よく店で本の整理をしていた。
和「まったく・・・立ち読みしないように全部の本をバンドで縛ってやろうかしら・・・」
嘉「いたわ、和琴ちゃん!」
和「ん・・・?あら、雷久保に色部。買い物なら商品持ってきなさいよ。あと図書館じゃないけど大きい声出すな。・・・と言いたいところだけど見た感じかなり焦ってるわね。そんなに急用なの?」
嘉「ちょっとこの写真見てほしいんやけど・・・」
和「分かったわ。ふむ・・・西園寺がこの手前の子に微笑んでる写真ね・・・
あら、だけど西園寺って色部と付き合ってたはず・・・これってまさか浮気現場!?」
柚「そうと決まったわけじゃないけど・・・」
和「この西園寺の手前に写っている女の子の顔が分かればいいんだけどね・・・」
嘉「和琴ちゃんから見て心当たりのある子はおらへん?」
和「髪が青くて160cmぐらいの女の子か・・・夜光が結構近いような気もするけどあいつは生泉一筋だし考えにくいわね・・・それに夜光は青みがかった黒髪って感じだしここまで青くないし・・・だけど夜光に話聞いてみたら?」
柚「凛世ちゃんか・・・話しを聞いてみるだけ聞いてみようか。」
嘉「せやな。何かわかるかもしれへんし・・・和琴ちゃんありがとさん。凛世ちゃんの所に行ってみるわ。」
和「あたしも付いて行きたいけどまだ本の整理が終わってないから無理なのよ。まあ頑張んなさいよ。」
和琴はそう言って柚歌と嘉月を見送った。

2人は凛世の家でもある黒船蕎麦に向かった。
店は相変わらずの大繁盛だった。店を手伝っている双子の姉の穏香に聞くと凛世は2階の自室で作曲をしているとのことだった。穏香に案内してもらい、2人は愛の自室の前まで来た。部屋の戸を開けると、音楽が鳴り響いている。そこには凛世がいた。いつもは首にかけているだけのヘッドフォンを耳につけてピアノを弾きながら自分で歌っている。
嘉「凛世ちゃん・・・ちょっとええかな?」
嘉月が声をかけると運よく声が聞こえたのか凛世が演奏を止め、ヘッドフォンを首にかけて2人の方へ向き直った。
凛「・・・誰ですか?あら、雷久保さんに色部さん。今日はどうしたんですか?」
嘉「ちょっとこの写真を見てほしいんねんけど・・・」
嘉月はそう言うと凛世に写真を見せた。
凛「この写真は・・・西園寺さんともう一人誰か・・・青い髪の女の子が写ってますね。」
柚「その子って凛世ちゃんじゃないかな?ボクたちこの女の子がだれなのか知りたくて・・・」
凛「そうですね、少なくともこの子は私ではないですね。西園寺さんと2人きりで出かけたことはあまりないので。」
嘉「そうなんやな・・・」
柚「それなら、この女の子に心当たりないかな?」
凛「この女の子ですか?・・・髪型は違いますがなんとなくですが神宿さんに似ているような気がします。」
嘉「咲彩ちゃん?まあ髪型以外は似てるような気も・・・」
凛「神宿さんはこういう大人びた格好をすると雰囲気が一気に変わるんですよね。本人は大人びて見られるの苦痛って言ってましたけど。」
嘉「どっちにしろ話は聞いてみてもええかもしれへんな。」
柚「よし、石原神社に行こう。それですべてが分かるかもしれないし・・・凛世ちゃんいろいろありがとう!」
2人はそう言うと足早に凛世の部屋を後にしたのだった。
凛「2人ともせっかちですねぇ・・・もう少しゆっくりしていけばいいですのに。」
凛世は足早に去った2人がいた部分を見つめながらも中断していた作曲を再開したのだった。

2人は咲彩の実家である石原神社に向かった。咲彩は神社の境内で陽姫と話をしていた。2人は木陰に入り、様子をそこから伺った。
咲「はるちゃんってさ、本当に服を選ぶセンスいいよね。」
陽「そんなことないよぉ・・・だけどさあちゃんに似合いそうな感じのお店を見かけたから教えてあげようと思ったんだ。」
咲「ほんと、私も生まれ変わった気分だったよ。たまにはああいう格好をしてみるのもいいかもね。」
陽「わたしは今のツインテールのさあちゃんも可愛いと思うけど、ロングも似合ってると思うよぉ。」
咲「もう、私の髪の毛ばかり見て・・・はるちゃんのエッチ。」
咲彩と陽姫はこんな会話をしていたが、嘉月と柚歌の所にはその声は聞こえなかった。
嘉「何か見た感じとても仲好さそうやな・・・」
柚「うう・・・やっぱり陽姫ちゃんは咲彩ちゃんのことが・・・」
2人がそんな話をしていると、誰かやってきた。最近研究で外国に長期出張に行っていた環輝だった。
環「あ、2人とも久しぶりだし。元気してた?」
咲「アンちゃん。久しぶりだね。研究発表はうまくいったの?」
環「それはもちろん。だけど、長いこと海外で生活していたから日本のすべてがいとおしいし今は。もうできれば海外生きたくないじゃん。」
陽「1か月ぐらいいなかったもんねぇ。」
環「まったく、もう今後は1か月研究出張何て引き受けないようにするわ・・・疲れた。あ、これ外国のお土産。みんなに配って回ってんだけど・・・これが咲彩でこれが陽姫にっと。」
環輝は2人に買ってきたお土産を渡す。
咲「ありがとうアンちゃん。これは置物かな?」
陽「わたしにはお菓子だねぇ。大切に食べるよぉ。」
環「喜んでくれたみたいでよかったわ。あと配ってないのは、嘉月と柚歌ね・・・咲彩、2人がどこいるか知らない?」
咲「今日は2人には会ってないけど・・・」
陽「もう夕方だし、明日2人のおうちに持っていくのがいいんじゃないかなぁ。」
環「そうね。それならもう帰・・・」
環輝がそう言いかけた時、何の話をしているのか気になりすぎて痺れを切らした嘉月と柚歌が茂みから顔を出してしまった。
嘉「あっ、顔出してもうた・・・」
陽「あれ~?2人ともそんなところでどうしたの?」
咲「かづちゃんとちーちゃん、まさか・・・ずっとそこにいたとか?」
環「私たちの会話盗み聞きしてたとか?」
嘉「違うねんこれにはわけが・・・」
柚「それより・・・陽姫ちゃん浮気してるの・・・?」
陽「なんで?」
柚「この写真が証拠だよ。この青い髪の女の子と・・・」
柚歌は陽姫に写真を見せた。
陽「ええと・・・あ、これお昼のやつだねえ。」
咲「ほんとだ。後姿だけどこれ私なのよ。」
柚「そうなんだ、愛ちゃんの言ったことは正しかったんだね・・・」
嘉「ということは咲彩ちゃんと浮気・・・」
咲「違うわよ。はるちゃんにファッションコーデしてもらってただけ。」
陽「わたしたち従姉妹だし、こうやって2人で服屋さんに行くことは珍しいことじゃないんだよぉ。」
嘉「なんや・・・そうやったんかいな。」
柚「良かった・・・浮気してたわけじゃないんだ。」
陽「わたしは柚歌ちゃんともし別れたいとか思ったらちゃんとお話ししてから別れるし、浮気なんて好きじゃないし・・・」
柚「陽姫ちゃん・・・」
陽「それと・・・さあちゃん、さっきの服着てきて見せてよ。髪型ももちろん変えてねぇ。」
嘉「見せてくれるん!?ウチ見てみたいわ。」
咲「ええ・・・そんな急に言われても。」
陽「2人の誤解を完全に解きたいから・・・お願い。」
咲「分かったわよ・・・」
咲彩は家の中に入ると、写真に写っていたのと同じ格好になって戻ってきた。
咲「どう・・・かな?」
柚「いつもより大人っぽく見えていいね。」
嘉「大学生ぐらいに見えるで。」
咲「はぁ・・・大人びて見られるの嫌いなんだけどなぁ・・・」
環「意外に似合ってるじゃない。馬子にも衣装ってこのことを言うのかしらね。」
咲「アンちゃん!!!」
環「ひっ!そんなに怒らなくたっていいじゃないのよ・・・冗談よ。それより、嘉月に柚歌。あんたたちにだけわたせてなかったからどうぞ。」
環輝はそう言うと嘉月と柚歌に外国のお土産を渡した。
嘉「ウチには・・・置物やね。ありがとさん、これでたくさん写真撮る練習するわ。」
柚「ボクには素敵な風景のポストカードだね。今度絵を描くときの参考にするよ。」
環「2人とも芸術家肌ね・・・まあ喜んでくれてよかったわ。」
環輝はお土産を手にして喜ぶ2人を見ながらそう言った。
咲「もうアンちゃんったら調子いいんだから・・・」
咲彩は呆れた顔で環輝を見ながらそう言ったのだった。
柚「それにしても、陽姫ちゃんが浮気したんじゃなくてよかったぁ・・・」
陽「誤解が解けてよかったよぉ。わたしも柚歌ちゃんが嘉月ちゃんと仲良すぎて浮気してるんじゃないかって思ってたから。」
柚「ボクと嘉月ちゃんは普通に友人関係だよ・・・」
嘉「せや。ウチも相手おるし・・・浮気なんかできへんよ。」
陽「それなら、これでおあいこだね。今後は誤解されないようにお互い対策しようかぁ。」
柚「うん、そうしていこう!」