ここは和琴の家である眞武書店の地下にある書庫。和琴は愛麗と咲彩と柚歌の3人に手伝ってもらって書庫の整理をしていた。
和「なんか手伝っちゃってもらって悪いわね。あたしの家なのに。」
咲「ううん、全然いいよ。だってここを新しい私たちの集まる場所にしてくれるんでしょ?」
和「まあね・・・夜光の家や町の喫茶店にずっと迷惑かけるわけにもいかないし、この書庫はおばーちゃんも存在を知らないみたいだから自由に使っても構わないと思うわ。大昔にあたしの先祖が何かしらの理由で作ったんだと思うけど、今は使われてないみたいだしね。」
麗「本いっぱいあるわね。この中に文化的な資料とかあったりしないの?」
和「探せばあるんじゃない?だけど、この書庫には約10000冊の本があるから探すのも面倒だわ・・・」
柚「確かにこれだけの数があると、探すのも躊躇しちゃうよね。」
和「本も一冊一冊は軽いけど、まとまると重量物と変わりないからね。まあなんかよさそうなのが見つかったら騎ノ風図書館に寄付すればいいわ。」
麗「この大量の本を片付けて、ここに何置くのよ?」
和「一応勉強本とか役に立つものを持ち込んであたしたち14人は自由に使えるようにするわ。勉強に身が入らない時ってあるでしょ?そういう時ここを自由に使って少しでも集中できればいいかなって思うわ。」
柚「広さも申し分ないし、快適とはややほど遠いかもしれないけどいい場所だと思うよ。」
咲「だけど地下にあるってことはクーラーや暖房は設置が難しいってことだよね?特に夏は暑くていられないんじゃないかな?」
和「この地下空間は特殊な設計がされているみたいで、外部の気温を遮断して人間がすごしやすい温度に気温を保ってくれるみたいなのよ。夏は涼しく冬は暖かいってやつね。だから暖房も冷房も設置する必要はないわ。」
麗「相当昔の部屋なのに技術は近未来的なのね。」
和「まあ昔は機械とか使わずに1からいろいろ作っていたって聞いたことあるし・・・それより時間が無くなるから作業続けて!」
和琴は愛麗たちに手を動かすように促す。書庫の本は大量にあり、ほこりをかぶっているものも多いので作業を早く進めないと日が暮れてしまうのである。
本を片付けること数時間。作業は午後3時にようやく完了した。
麗「あとは何すんの?」
和「そうね・・・家具を運び込む必要があるわね。テーブルとか椅子とか、仮眠用のマットレスとか。」
咲「それってお金がかかるんじゃ・・・」
和「知り合いの家具屋に中古品を譲ってもらったこれらがあるからそれ使えば問題ないでしょ。もし嫌なら天宮城にでも頼んで仕入れてもらうとか・・・」
和琴はいつの間にかやや使い古したテーブル数個、比較的きれいなマットレス、会議用のホワイトボード、仕切りのパーテーションなどを持ち込んでいた。
麗「いつの間に持ち込んだのよ・・・」
柚「ボクは用意できるものはお金に頼らず用意したほうがいいと思うけど。だってここはボクたちの秘密の場所なんだから。」
咲「たまちゃんそれはいい考えだね!私も何か家でいらなくなったもの今度持ってくるよ。」
和「それはいいけど、今はあるものを並べましょ。このテーブルは中心に置いて、マットレスは奥においてパーテーションで仕切りを・・・」
和琴の指示を元にテーブルやマットレス、椅子が配置された。家具の数が少なかったのでこの作業は時間をかけずに終えることができた。
和「はい、今日の作業は終わり。3人ともお疲れ手伝ってもらっちゃって悪かったわね。」
柚「ボクは別に疲れてないから大丈夫だよ。」
咲「私は服の汚れが少し気になるよ・・・」
麗「今ここにいない愛たちがここ見たら驚くでしょうね。」
和「もしこの後時間あるなら、ゆっくり座談会でもする?お菓子とかあるし。」
柚「なんだか楽しそうだね。僕は参加するよ。」
麗「あたしも今日はまだ時間あるし、参加してくわ。」
和「神宿はどうする?参加してもしなくても自由で構わないわよ?」
咲「お風呂には帰ってから入ればいいし・・・私も参加でお願いことちゃん。」
和「全員参加ってことでいいのね。ならちょっとお菓子持ってくるから待ってて。」
和琴はそう言うと地上にある自宅へ戻り、お菓子を載せた皿とペットボトルのお茶を持って戻ってきた。
和琴が持ってきたお菓子とお茶をテーブルの上に配置した後、ホワイトボードの前に立つ。
和「それでは第1回地下書庫座談会を始めたいと思います・・・それで、話題の内容だけど、これでどうかしら?」
和琴はホワイトボードに座談会の内容を書き込んで愛麗たちに見せた。
麗「パートナーの秘密を言いあう会?」
柚「それって何をするの・・・?」
和「今付き合っている子の自分しか知らない秘密を言い合うの。たとえば生泉だったら、夜光の秘密を言うみたいな感じでね。」
麗「それってなんか悪い気がするんだけど。」
和「もちろんここで話し合った内容は4人だけの秘密。他のメンバーがいる所で公言しないってここで約束を結ぶの。そうすれば問題ないでしょ?」
咲「それなら安心だね。ここにいる4人は口固いから問題ないと思うし。」
和「それで、誰から話す?」
麗「ならあたしから行こうか?凛世はこういう話題には事欠かないし・・・あの子、ああ見えて黒い下着ばかり着けているのよね。」
咲「りんちゃんが!?以外だねえ・・・」
柚「ボクは完全に白のイメージだったなぁ凛世ちゃんは。」
麗「ああ、誤解しないでほしいんだけどあの子単純に黒色が好きだからそういうのを選んでいるだけ見たい。」
咲「そうなんだよかったぁ・・・ゆーちゃん時々すごく怖いオーラを出す時があるし、らっちゃんの話を聞いてたら、少しスレているのかと思っちゃったから・・・」
麗「そう見えるのも誤解かな。まあちょっとサディストっぽいなって思うことはあるけど基本的に人を傷つけることは嫌いだよ愛は。」
柚「凛世ちゃんが怒るときって笑顔なんだよね・・・普段優しいからあれを初めて見たときはちょっと恐怖を感じたよ・・・」
麗「始めてみたときはあたしも怖かった。ああ見えて結構肝座ってるのよあの子。」
和「夜光もそういう面で見たら我が強いのかもしれないわね。」
麗「これ以上言ったら愛にも悪いし、あたしはここでやめておくわね。次の人お願い。」
咲「じゃあ次は私がみなちゃんの秘密を言うね。みなちゃんはああ見えてたくさん外国語喋れるんだよ。」
和「神宿らしい健全な話題ね。色々な国の言葉を話せると外国人の道案内とかもできて便利よね。」
麗「水萌って何語を話せるの?」
咲「確か、英語と日本語とスペイン語とフランス語とイタリア語だって言ってたような気がするよ。」
柚「それだけ話せればヨーロッパ方面に旅行行ったときに全然困らなそうだね。」
咲「うん、みなちゃんってばヨーロッパ行くならアタシ連れてけ、あっちの言葉ならわかるからさって昔よく言ってたよ。」
和「そういう尖った特技があると便利でいいわよね。」
咲「それ以外だと・・・みなちゃんが着ているあの白いジャケットってオーダーメイドなんだって。」
麗「確かにあれは普通の服屋では見かけないような光沢を放ってるなって思ったけどオーダーメイドなんだ・・・」
和「織田倉の家ってそんなもの作れるほど金持ちだっけ?」
咲「一応みなちゃんの実家は老舗の和菓子屋さんなんだよ。関東にいくつか工場も持ってるみたいだし、お金持ちだと思うよ。」
麗「水萌の家で饅頭とたい焼き買ったことあるけどおいしかったわよ。」
柚「そうなんだ、ボクも今度買ってみようかな。」
咲「私が知ってるみなちゃんの話はこれぐらいかな。それじゃあ次の話をお願いね。」
和「なら次は司会のあたしが。鷲宮の秘密ね・・・あの子が作る発明品って大半がジャンク部品から作られてるのよね。」
麗「レナちゃんの発明品って原料ジャンク部品なんだ。あたしも時々パーツ屋にジャンク部品見にいったりするけどあれ色々なものあって面白いのよね。」
柚「一般的にガラクタと言われているものから高度な製品を作るのってすごいよね。」
和「うん、ジャンク品のパソコンの部品から必要なものだけ取り出して同じ所で買ってきたジャンクのテレビをパソコンに改造しちゃったりしてるからね。」
咲「もうそこまで行くと国宝級の技術力なんじゃないかな。」
和「あたしが知ってるのはこれぐらいね。じゃ最後、色部・・・ってかあんた誰と付き合ってたっけ?」
咲「確かはるちゃんだよね?」
柚「そうだったけど、今は苺瑠ちゃんと付き合ってる関係にあるんだ。」
咲「え・・・別れちゃったの?」
柚「正確に言うと、ボク、苺瑠ちゃん、陽姫ちゃん、アンちゃんの4人でよく集まることが多いんだけど、いつの間にかボクと苺瑠ちゃん、陽姫ちゃんとアンちゃんが仲良くなってて・・・自然と付き合いの関係が入れ替わっちゃったんだよね。」
麗「つまりは大きい組と小さい組にまとまったってわけね。どうしてそうなったのかはわからないけど。」
柚「あ・・・なんだか微妙な空気にしちゃってごめん。それじゃ付き合っている相手の秘密話すよ。ええと、苺瑠ちゃんは家ではずっと浴衣ドレスで過ごしてるんだよ。」
和「へえ、意外ね。あいつ和服なんて着なさそうな感じだけど。」
柚「苺瑠ちゃんの家って、かなりの規模を持つ名家で落語とか茶道とかいろいろやってるみたいなんだ。だから昔から和服を着る機会が多いみたいで、自然と浴衣ドレスで過ごす期間が多かったんだってさ。」
和「これで全員終わったわね?それじゃ第1回の座談会をこれで終わりにするわ。お疲れ様・・・みたいな感じでここでは座談会をしたり、書庫の本を読んで自由に過ごせる空間にしようと思うの。」
和琴はホワイトボードに書いた文字を消しながらそう言った。
咲「とっても素敵だと思うよ。」
麗「和琴にしてはなかなかいいことを思いついたじゃない。」
和「あんたには普段のあたしがどう見えているのよ・・・」
麗「毒舌百合心理学娘。」
和「それで間違ってないけどさ・・・」
柚「それはともかく、この地下書庫は座談会とかをやるには最適だと思うよ。外に声漏れないし。」
麗「パソコンとかは置けないんだっけ?」
和「ああ、それならあたしの家で使ってるWifi回線をここでも使えるようにしておいたから問題ないわよ。」
麗「そうなの。ここでパソコンできるなら執筆作業がはかどるかもしれないわね。」
和「生泉って小説書くんだ・・・理系のイメージが強いから意外ね。」
麗「和琴は勘違いしているみたいだけど、あたしは数学が得意な文系なのよ。」
咲「今日都合が悪かった他のみんな・・・みなちゃんやりんちゃんたちにはここのこといつ教えるの?」
和「明日あたしから全員に声かけてみることにするわ。それじゃ今日はお疲れ様。3人のおかげで作業がスムーズに進んだわありがとね。」
麗「和琴にお礼言われたの初めてのような気がするわ。というかあんたも素直になるときってあるのね。」
和「失礼ね・・・生泉に言われたくないわよ。それじゃ、今日はこれぐらいにして帰りましょ。
ここの事は1組メンバー以外の人には秘密だからね。3人とも今日は手伝いありがとね。」
麗「分かったわ。今日はお疲れ。」
咲「ねえちーちゃん、はるちゃんと自然に別れた時の話をもう少し詳しく聞かせてくれないかな・・・?」
柚「咲彩ちゃんには話しておいたほうがいいかもしれないもんね。なら今から帰りながら話すよ。実はボクもよくわからなかったんだけど・・・」
麗「それあたしも聞いていい?今後愛との関係を続けていくためにも参考にしたいから。」
愛麗たちはそんな話をしながら地下書庫から出て家に帰って行った。
和「さーて全部終わったし、誰にも見つからないように家に戻らないと・・・」
和琴は愛麗たちを見送った後、誰にもばれないようにこっそり部屋に戻ったのだった。
そして次の日の放課後、無事に1組メンバー全員の都合のついたので、和琴の案内で地下書庫にやってきた。
水「まさか眞武書房の下にこんな地下空間があったなんてな。」
凛「とても落ち着けそうな場所で素敵ですね。」
陽「ここをきれいにするのに愛麗ちゃんたちも手伝ったんだよねぇ・・・すごいなぁ。」
麗「まあね・・・と行っても本を棚に片づけただけだけど。」
姫「うむ、過ごしやすいな。それより、この新選組の漫画9巻がないぞ。どこにあるのだ?」
和「まあその蔵書の中から探せばあるんじゃない?」
エ「この書庫・・・昔は図書館だったのかな?」
環「図書館?なんでそんなことわかるの?」
エ「ここにカウンターがある・・・必要なものがあればここで図書館できそう。」
和「そのカウンターはあたしもよくわからないのよね。ここは元々うちの店の蔵書を管理する場所だったみたいだし、図書館のカウンターとかではなかったんじゃない?」
エ「そうなんだ・・・」
嘉「ちゃんとポットとかもあるやん。これでお茶やコーヒーは淹れられるんやな。」
和「まあうちで昔使っていたお古だけどね。」
奈「それなら少しでもおいしくいただけるようにわたくしがこの茶葉をいくつか提供しますわ。それとコーヒーが好きな方もいらっしゃるでしょうし、この豆とコーヒーメーカーもどうぞ。」
奈摘が出したのは高級品の紅茶、緑茶の茶葉とコーヒー豆、コーヒーメーカーも提供してくれた。
和「こんなに高級そうなの提供してくれてありがとね天宮城。」
奈「それぐらいはお安い御用ですわ。今度はティーカップもいくつか持ってきますわね。」
麗「ティーカップも高級品だったりするの?」
奈「そんなにしないですわ。1つ10万円ぐらいのものですし。」
嘉「1つ10万円なら十分高いと思うで・・・」
ア「それにしてもこんな立派な場所なのに和琴サンのおばあさんは良く気付かなかったものデスね。」
和「ここは100年ぐらい前に作られた部屋みたいだから何も知らなければ気づかなくてもおかしくないわ。たぶんあたしの先祖が作って本を棚に入れたのはいいけど、その存在を誰にも言わずに忘れられたんじゃないかしらね。」
凛「それだと、ここは元々地下の売り場として作られたのかもしれませんね。」
櫻「ここに私物持ち込んでもいいの?自分の好きな絵本とかさ。」
和「基本的に私物の持ち込みは自由よ。ただ、貸コンテナじゃないから大量には持ってこないでよね。」
奈「それならわたくしの部屋にある漫画や同人誌もいくつか持ってきますわ。部屋に収まりきらないので・・・」
嘉「あの広い部屋に収まりきらないって、どんだけの量を買うてんねん・・・」
和「(全員気に入ってくれたみたいでよかったわ・・・)」
咲「みんな嬉しそうでよかったねことちゃん。」
柚「だけど、他人にあまり興味なさそうな和琴ちゃんがこんなにいい場所をボクたちのために提供してくれるなんて意外だったなぁ。」
和「色部も生泉並みに失礼なこと言うわね・・・あたしの気まぐれよ気まぐれ。それとたまには友人のためになることをしてあげるってのも悪くはないって思ったわ。」
麗「和琴にしては珍しい意見ね。」
和「ま、考えること気まぐれだからねあたしは。たぶん今日思ったことだってすぐ変わっちゃうかもしれないわよ?」
和琴はいたずらっぽくっぽく笑いを浮かべ、地下書庫で思い思いに過ごすメンバーを見渡しながらそう言ったのだった。