騎ノ風市の夏祭りは咲彩の実家である石原神社以外にもある。一番大きい祭りで騎ノ風駅の南口周辺を貸し切って行う騎ノ風市記念日祭りがある。騎ノ風市の発足日は19××年の8月3日であり、毎年8月3日と4日に行われている。この騎ノ風市記念日祭りはそんな騎ノ風市の発足と成長を祝うために市が発足してから駅前広場で毎年行われているのだ。
愛麗と和琴は祭り会場の入り口で凛世のことを待っていた。
麗「あー毎日暑いけど・・・こういうイベントなら行く気にもなるわね。」
和「にしても夜光の奴遅いわね・・・」
水「お、愛麗に和琴。お前らも祭りに来たのか?」
咲「らっちゃんにことちゃん。自主創作は進んでいる?」
ちなみに自主創作とは水晶学園の宿題で夏休みをかけて何かを作り上げる課題である。いわば自由研究を発展させたような課題だ。相当時間のかかる課題のため、水晶学園ではこの課題が唯一の宿題である。
麗「まああたしはジオラマ作ってるけどまだ半分ぐらいかな。咲彩は何やってんの?」
咲「私は新しい占いの開発をしてるんだ。」
和「凄いことやってるわね・・・40日で終わるようなもんじゃないでしょそれ。」
咲「うんそうだけどね・・・今は誕生日と血液型と星座属性と血液型の遺伝子型を組み合わせた占いを開発しているのよ。」
水「ためしにアタシ占ってもらったけどスゲー当たってたぜ。」
麗「占ってもらったってことは形にはなってるんだ・・・その年で占いを1から開発できるなんてやっぱり咲彩はすごいわね。」
咲「いや、それほどでもないよ・・・」
麗「そういえば咲彩浴衣じゃないんだ今日は。」
咲「今日は私の所のお祭りじゃないし・・・そういうのはお休みってことで。」
和「まあ、神宿は神社の子でいつも正装してるしたまにはそれもいいかもね・・・それにしてもあんたたちも誰か待ってんの?」
咲「うん、私たちはいっちゃんを待ってるの。」
麗「あいつの家は名家だからね。たぶん着てくる浴衣を悩んでるんじゃないのかな。」
水「苺瑠はこだわり強いし案外そうかもな。お前らが待ってんのは凛世あたりか?」
麗「良く分かったわね。」
咲「らっちゃんがいるから丸わかりだよ。」
麗「そうかもね。あたしと恋人だしね。」
4人でそんな話をしているとまず先に苺瑠がやってきた。いつも来ているのとは少し違う浴衣ドレスを身にまとっている。
姫「2人とも悪かったな・・・これを選ぶのに時間を食ってしまったのだ。」
水「いや、そうじゃないかと思ってたから別に心配いらないぜ。」
咲「苺瑠ちゃんの今日のコンセプトは?」
姫「いつもピンクの浴衣だから黄色にしてみたよ。それと今日は被ってないのだフードを。」
麗「そう言うの似合うってうらやましいわね。」
姫「愛麗君も今度着てみる?我のコレクションで愛麗君に似合いそうなの貸すよ?」
麗「うーん・・・あたしはちょっとなぁ・・・」
和「馬鹿ね、生泉の足の傷のこと忘れたのあんた。」
姫「あ、そうだった・・・うかつな発言してごめん愛麗君・・・」
麗「いいわよ。もうこういうことは慣れたから。」
凛「愛麗~!どこですか・・・あっ!いました!」
奈「人が多いからなかなか見つかりませんでしたものね。」
その時、愛麗たちを呼ぶ声が聞こえた。愛麗たちが待っていた少女夜光凛世だった。その傍らには天宮城奈摘と雷久保嘉月もいた。凛世は私服だが、奈摘と嘉月は浴衣を着ていて嘉月は凛世、奈摘は山吹色のものを着用していた。髪型はいつも通り。
凛「愛麗、眞武さん。遅れてしまってすいません。」
麗「まあそれは別にいいけど・・・奈摘と嘉月も一緒なんだ。」
奈「先ほどそこでお会いしたのですわ。」
嘉「愛麗ちゃんたちを探しているっていうから手伝ってたんやで。」
麗「2人ともありがと助かったわ。よかったらあたしと一緒に見て回らない?もちろん咲彩と水萌と苺瑠も。」
咲「人数は多い方が楽しいもんね。」
水「そうだな。他の奴らにも合えるかもしれないしな。その前に美味いもの沢山食いたいけど。」
姫「食い意地はってるな水萌君は。」
和「あんただってさっきからかき氷の屋台ばかり見てるじゃない。」
姫「うるさいのだ!」
凛「皆さんとても楽しそうです。」
嘉「せやな。ウチもワクワクしてきたで。」
奈「ほかの皆さん・・・ラニーさんや柚歌さんたちも来ているかもしれませんわね。早速回ってみましょうか。」
騎ノ風市記念日祭りは騎ノ風駅の大通りとロータリーの部分を貸し切って行っているため非常に広いスペースを使っている。どこで何が行われているかというと、大通りに屋台が出店し、ロータリーでステージや神輿担ぎが行われている。愛麗たちはまず屋台を見て回ることにした。
咲「いつも経営する側だからとても新鮮・・・」
和「神宿は神社の祭りでは主催側だもんね。」
咲「うん、だからお祭り好きなのに本気で楽しめなくてね・・・」
奈「あら、去年は本気で楽しんでませんでしたっけ?」
咲「去年は手伝いが免除されたから皆と一緒に回れたんだよ。」
和「主催者は大変よね・・・」
そんな話をしながら散策しているとくじ引きの屋台の前に着いた。そこにいたのは・・・
陽「くじ引きやってま・・・あ、みんな。」
咲「はるちゃん。ここのお店はるちゃんがやってるの?」
陽「わたしというよりも西園寺家のおじいちゃんがいらない物を処分してくれって言うからわたしがくじ引きの屋台を提案したんだぁ。そうしたら店番を頼まれちゃって・・・どれも豪華な景品ばかりだからよかったらやっていってよぉ。もちろん外れもあるけどね。」
よく見ると陽姫の裏にあるくじ引きの屋台に置かれている景品にはくじ引きでは考えられないようなものがたくさんあった。
主な物には骨董品と思われる壺、40型のプラズマテレビ、ブランド物と思われる服、最新型のパソコンなどがある。
水「これは全部西園寺家の御当主様の不用品なのか?」
陽「うん。おじいちゃん飽きるとすぐ誰かに譲ったりしちゃうんだぁ。どれも新品でまだほとんど使ってないんだよ。」
姫「そうなのか・・・それなら我が運試しに一本やって行くのだ。」
陽「ありがとうございまぁす。1回500円だよぉ。」
姫「それじゃあ引くくじを決めるか・・・よし、これなのだ!!!」
苺瑠は陽姫に料金を支払うと、くじを一本選んで一気に引き抜いた。引いたくじは緑色だった。
陽「おめでとう!それ3等だからここから好きなの選んでねぇ。」
陽姫が示した3等の商品が置かれている場所には主に家電(電子嘉月ジ、炊飯器、ミキサーなど)が置かれていた。
姫「ううむどれにするかな・・・そういえば母さんが電気ポット壊れたとか言っていたな・・・よし、陽姫君その電気ポットをもらうのだ。」
陽「はぁーい。どうぞ。」
陽姫は電気ポットの入った箱を袋に入れて苺瑠に渡した。
姫「うむ、ありがとうなのだ。」
咲「はるちゃん、家電で3等ってお金の面大丈夫なの?」
陽「うん、さっきも言った通りこれは全部おじいちゃんの不用品だから。」
麗「ならあたしもやって行こうかな。こういうの好きなのよね。」
陽「はぁーい、500円だよぉ。」
愛麗は陽姫に500円を支払い、くじを引いた。くじは赤色だった。
麗「これは・・・赤のくじね。」
陽「それ1等だよおめでとお!!!景品はこれだねぇ・・・」
陽姫が示したのはパソコンだった。
麗「え・・・パソコン当たったの・・・?」
陽「うん。これが1等の景品だよ。色は黒と銀と赤があるけどどれがいい?」
麗「パソコンが当たるとは思わなかったから悩むわね・・・赤でお願い。」
陽「はいどうぞ。」
麗「500円でこんなにいいもの当たるなんて得した気分・・・やっぱりここまでの景品が出せるのは陽姫の家レベルの規模が無いと難しいわよね。」
凛「いいものが当たって良かったですね愛麗。」
水「そろそろ次へ行かないか。アタシそろそろ屋台で食べ物買いたい・・・」
和「そうね、まだ何も食べてないからみんな空腹だろうし行くわよ。」
嘉「せやな・・・ウチ他ん所も見てみたいわ。」
咲「そうだね・・・それじゃ私たちはそろそろ行くよ。じゃあねはるちゃん。」
陽「うん、またねぇ~。」
他の所を見て回るため去って行く愛麗たちを陽姫は笑顔で見送った。
その後愛麗たちは色々な食べ物の屋台を回って自分の好きな物を買い、設置されたベンチに座って食べた。
水「いやーやっぱり屋台の食べ物って高いけど特別な感じするな。」
姫「うむ、かき氷美味しいのだ。」
凛「雷久保さんはたこ焼き買ってるんですね。大阪のとどっちが美味しいですか?」
嘉「大阪で売ってる奴の方が好きやなウチは。せやけど関東のも美味しいわ。」
和「生泉はお祭りでもたい焼き買ってんのね。」
麗「だって好きだし・・・たい焼きの屋台なんて珍しくてさ。」
奈「わたくしはお祭りの料理をめったに食べられませんので新鮮ですわ・・・」
咲「なっちゃん家セレブだもんね・・・そういえばこのお祭りって騎ノ風市の主催だけどみんなのお店は何か出し物してないの?」
嘉「ウチの家はなんもしてへんで。伯父さんが広報誌に乗せる写真撮影担当に呼ばれてるぐらいやな。」
麗「あたしの所も何もしてないわよ。」
凛「私の所は黒船蕎麦の特製十割蕎麦を販売してますけど、開始早々で売り切れて叔父さんはもうお店に戻ってるそうです。」
水「アタシの家も和菓子出してたけどさっき社員の奴から連絡来て売切れだってさ。」
和「あたしの所は何もしてないわよ。本屋だしね。」
奈「わたくしの所も何も。銀行ですし拠点は行田市ですので。」
咲「そうなんだ・・・自分の家の屋台の売れ行きがいいとなんだか嬉しいよね。」
そんな話しをしながら食事をしていると近くの金魚すくいの屋台に見慣れた姿が・・・
和「ん?あれ色部とフェダークじゃない?」
水「レナちゃんとアンもいるな。4人そろって迷ってたのかな。」
目線の先には柚歌、エレナ、ラニー、環輝がいた。環輝以外の3人は金魚すくいに熱中しているようだ。
環輝以外の3人は浴衣を着ておりラニーと柚歌は浴衣ドレスだった。
柚歌は髪色とそっくりな抹茶色の浴衣ドレスを着ている。ゴーグルは今日はしておらず、お団子ヘアの根元に左右でそれぞれ違う花飾りをつけている。
ラニーは以前と同様髪を下ろしており水色の浴衣ドレスを着ていて雪女のような風貌である。
エレナは派手な2人とは対照的に落ち着いた紺色の浴衣を着ている。
嘉「柚歌ちゃんたち楽しそうやな。」
柚「あ、嘉月ちゃん・・・それにみんなも。」
エ「・・・こんばんは。」
環「あ、みんな。アン屋台の料理食べたいし。だから屋台めぐりしよっか?」
麗「あたしたちもう屋台周りはしていろいろ食べちゃったんだけど・・・」
環「えー・・・そうなの残念。」
ア「皆さんも金魚すくいやるデスか?ワタシは6匹取ったデス!」
ラニーは自分が取った金魚の袋を自慢げに見せつける。
麗「それにしても・・・なんで集合場所に来なかったのよ。」
柚「ごめん・・・3人そろって着付けに時間かかっちゃって待ち時間までに合流できなかったんだよね。」
エ「それで・・・みなさんを探そうと3人で色々回ってた・・・」
ア「すいませんでシタ・・・」
環「だから普段着でいいって言ったのに・・・」
奈「アンさんそれは違いますわ。浴衣は浴衣マジックというものがありまして、いつもとは違う雰囲気を好きな相手に見せられるという魅力があるのですわ。だから3人とも慣れない手つきで着付けをしたんですわよね。」
環「そっかー・・・それもそうかもね。普段着でいいなんて軽々しく言うもんじゃないわね。」
柚「それよりも時間通り集合場所に来れなくてごめん。」
咲「謝らなくていいよ。素直に謝れるなんてたまちゃんは本当にいい子ね。」
姫「そういえば浴衣じゃない環輝君はなんで3人と一緒に?」
環「昨日課題制作にずっと取り掛かってて・・・気づいたら寝ちゃってて・・・起きたら夜の6時だったってわけ。大急ぎで行ったら咲彩たちを探している柚歌たちと出会ったから同行させてもらったの。」
姫「まったく君ってやつは・・・」
環「別にいいじゃない。こうして出会えたんだから・・・」
環輝がそう言いかけた時、アナウンスが流れた。
ア「間もなく、駅前ロータリーエリアで花火大会と特設ステージが行われます。ご覧になりたい方は駅前ロータリー特設ステージまでお急ぎください・・・」
奈「もう始まるんですのね・・・」
麗「奈摘なんか興奮してない?」
奈「今年の特設ステージは人気声優さんも来るのですわ。ささ、急ぎましょう!」
柚「こういうのに反応するのって奈摘ちゃんらしいなぁ。」
和「天宮城のオタクぶりはこの中の誰よりも高いからね。」
ア「人気声優さんの歌ワタシも聞きたいデス!」
咲「それじゃ、みんなで駅前ロータリーの方に行ってみようか。」
興奮する奈摘に連れられ、愛麗たちは駅前ロータリーエリアに向かったのだった。
駅前ロータリーには特設ステージが設置されており、人でごった返していた。
水「さすが記念日祭りの特設エリアだな・・・みんな、はぐれないように気をつけるんだぞ。」
麗「あんまり男が多いと気持ち悪いかも・・・うええ・・・」
凛「あ、愛麗!大変です眞武さん、愛麗が・・・」
和「仕方ないわね・・・神宿、あたしと夜光は一番後ろまで行ってこいつの介抱するから他の連中の取りまとめお願い。」
咲「分かったよ。これだけ人がいるんだしね・・・らっちゃんのことお願いね。」
凛「はい!」
和琴と凛世は調子を悪くした愛麗を連れて、集団の一番後ろまで下がった。しかし、この出来事がきっかけで問題が・・・
水「咲彩大変だ!何人かはぐれてしまったみたいだ。」
咲「そうなの!?いないのは誰?」
水「苺瑠はアタシが捕まえてたからここにいる。」
姫「うむ、心配いらないのだ咲彩君。だがここだとステージが見えないな・・・」
エ「私もいる・・・」
環「アンも~。」
柚「ボクも何とか・・・」
ア「ワタシもいるデス。」
咲「はぐれたのはなっちゃんとかづちゃんね・・・皆も辛そうだし、私たちもらっちゃんたちの所へ下がろうか。」
水「奈摘と嘉月はどうすんだ?」
咲「なっちゃんたちはこういう環境に慣れてるんじゃないかな?」
柚「そうかもね・・・奈摘ちゃんは特にこういうイベントか参加しているみたいだし。」
咲「下がっても花火は見えるし、歌は聞こえるよ。なっちゃんたちはイベントが終わったら連絡すればいいよ。」
柚「そうだね。」
水「後ろの方に下がるか。アタシもちょっと苦しかったから。」
結局見当たらない奈摘と嘉月を除いた全員が集団の最後尾に下がり、気持ち悪くなった愛麗を交代で介抱することにした。
咲彩たちが最後尾に行った直後、ライブイベントが始まった。ちなみに奈摘と嘉月はというと・・・
奈「騎ノ風市の記念日に人気声優が来るなんて最高ですわぁ~!」
嘉「(ウチこのノリについていけへんよ・・・)」
奈摘がどんどん前に進んだため最前列にいた。最前列は特に熱の入ったファンが多く、嘉月はノリについていけないようである。
1時間に渡る激しかった声優イベントが終わり、最後の見世物花火が始まる。
ス「これより、花火の打ち上げを行います。今年は騎ノ風市伝統の職人がデザインした花火を・・・」
咲「みなちゃん花火楽しみだね。」
水「そうだな。祭というのは花火と屋台のためにあるようなもんだからな。」
和「生泉、気分はどう?」
麗「皆のおかげで助かったわ・・・もう大丈夫よ。」
凛「愛麗が元気になってくれてよかったです。」
奈「さっきのイベントで元気を使い切りましたわ・・・」
嘉「ウチもう帰りたいわ・・・」
柚「奈摘ちゃんに嘉月ちゃん。いつの間に・・・」
ア「良く戻ってこれたデスね・・・」
奈「この大勢の人だかりの中皆さんを探すのは大変でしたけど、現代にはスマホがありますわ。これを有効活用すれば皆さんの居場所ぐらいわかりますわ。」
姫「楽しんでるなぁ奈摘君は。」
咲「あ、そろそろ花火が始まるみたいよ。」
咲彩がそう言った瞬間、1発目の花火が打ちあがり、空に消えて行った。
エ「きれい・・・」
姫「黄色い花火だな。我の浴衣と同じ色なのだ。」
続いて2発目3発目・・・次々に花火が打ちあがっていく。
しばらくの間全員無言で空を見続けていると、咲彩が口を開いてこういった。
咲「来年もまた・・・来られるかな?」
咲彩の質問に周りの皆はこう返した。
水「当たり前だろ。他の予定断ってでもアタシは来るよ。」
姫「我もなのだ。この祭りの花火が一番きれいだからな。」
麗「あたしも来るわよ。こういうのむしろ好きだから。」
環「アンも。花火や祭りは気分転換には最高だし。」
嘉「ウチも。花火は中々写真に収められへんしな。」
柚「ボクだって。花火も美しい芸術の一つだからね。」
凛「私もですよ。家で見るよりも近くで見た方が何倍も美しいですから。」
和「神宿だって・・・そんなこと聞かなくても心で分かってるんでしょ?」
咲「そうだねっ。また来年も・・・みんなで一緒に見ようね。今ここにいないはるちゃんたちも一緒に・・・」
咲彩は周りにいる友人たちにそう返すと、再び空を見上げる。騎ノ風市の夏はまだ始まったばかりである。