陽歌の神風市観察

駅前のビルに住んでいる少女西園寺陽瑚はビルの屋上で天体観測をするのが好きである。
そんな彼女にはもう一つ好きなことがあった。普通の望遠鏡で昼間の騎ノ風市を見ることである。
GWのとある一日、ビル屋上のプレハブ小屋から望遠鏡を出して、陽瑚は今日も騎ノ風の景色をみる。
陽「さぁて・・・今日はどっちの方をみようかなぁ?」
パ「おい陽瑚・・・望遠鏡で見るとはいえこれってストーカーじゃね?」
この人形は陽瑚の相方の「パクチー」である。陽瑚の腹話術で喋っているので実質ひとり芝居である。
陽「もうパクチーったら・・・望遠鏡で見たってばれることはないんだからいいの!」
パ「陽瑚もワルになったもんだよなぁ~」
陽瑚はパクチーの意見を無視して望遠鏡を様々な方向に向けながら、面白そうなものを探す。
陽「ん・・・あれは?」
陽瑚が今望遠鏡を向けている方向には公園があった。
その公園のベンチでは和琴が公園に来ている移動販売でアイス買って食べているのが見えた。
陽「あー・・・あそこのアイスって美味しいんだよねえ。ことちゃんも好きなんだなぁ。」

陽瑚が見ている方向では実際にはこんなことが起こっていた。
和「さ、今日はカウンセリングも休みだし・・・アイス買っちゃおっと。」
公園を散策していた和琴は移動販売に行くと、300円払ってアイスを買った。
和「ここのバニラアイス最高なのよね・・・だけどこんなの南星とかに見られたら
嫌だし・・・それに最近急に暑くなってきたから溶けちゃうし急いで食べないと・・・」
和琴は急いでアイスを口に運ぶと一口食べる。
和「ん~!!!甘くて最高ね!」
そんな感じでアイスを楽しんでいる和琴に声をかける人物がいた。
咲「あ、ことちゃん。アイス食べてるんだ美味しそうだね。」
和「あら神宿・・・これはあげないわよ?」
咲「そんなに警戒しなくったって取ったりしないよ。それにあそこのアイスって美味しいんだよね。私も前はるちゃんとみなちゃんと一緒に食べたんだけど美味しかったよ。」
和「なんだ神宿もこの味知ってたんだ・・・あたしだけの特権だと思ったのに。」
咲「そんなに落ち込まないでよー」
和「別に落ち込んでないけど・・・それにしても今日はこの公園に何か用でもあったの?」
咲「ううん、私はイノン騎ノ風で買い物してその帰りだよ。」
和「買い物でも頼まれてたの?」
咲「半分正解。だけど本当の目的はこれを買うためだったの。」
咲彩はクーラーボックスのようなものから一つの袋を取り出す。それはロックアイスだった。
和「ロックアイスなんか何に使うのよ?まさか・・・お酒でも飲んでんのあんた。」
咲「飲んでいないよ~。お風呂に入れるんだよ。」
和「あー氷風呂やるのか。最近暑くなって来たもんね。」
咲「うん。それで大目に買い込んじゃった。しばらく暑い日が続きそうだからね・・・」
和「そうね・・・騎ノ風も熊谷の隣町みたいなもんだから暑いったらありゃしないわね。」
咲「今度らっちゃんたちも誘ってプール行かない?水のあるところに行けば暑さも和らぐよ?」
和「そうね・・・考えとくわ。どうせ南星たちも暇だろうしね。」
咲「うん、ありがとう。それじゃ、氷が溶けちゃう前に私帰るね。」
和「分かったわ。氷が水になんないように気を付けなさいよ。」
咲「分かってるよ~。それじゃまた学校でね~。」
和琴は咲彩を見送ると溶けかけたアイスを再び食べ始める。
そしてアイスを食べながらこんなことを思った。
和「神宿と話しているとなんか心が安らぐわね・・・あいつみたいなのを癒し系っていうのかしら。」

その一部始終を見届けた陽瑚は望遠鏡からいったん目を離して考える。
陽「ことちゃんとさあちゃん何話してたんだろう・・・?まあいいかぁ。次は西側の方を見てみようっと。」
陽瑚はビルの西側の方に望遠鏡を向ける。騎ノ風市の西側は広大な住宅街が広がっている。
陽「・・・あっ、あれはアンちゃんかな?なにしてるんだろ・・・」

陽瑚が見ているところでは実際にはこんなことが起こっていた。
環「郊外の家電量販店でやってる安売りセール楽しみだし。アンの目的は限定10台のパソコン(2万円新品)。値段の割には中々の高スペックらしいから買って帰ってコレクションに加えなきゃ。だけど、限定10台だし買えるかな・・・」
環輝はそんなことを言いながら自転車を走らせる。
嘉「あ、アンちゃん。これから家電量販店の安売りセール行くん?」
環輝に声をかけた主は、家電に詳しいクラスメイトの雷久保嘉月であった。急に声をかけられたので環輝は自転車に急ブレーキをかけて止まる。
環「ああ、嘉月か。急に声かけないでよ・・・危ないじゃん。」
嘉「ごめんなぁ・・・それで、今からどこに行くん?安売りセールやっとる家電量販店?」
環「いや、別に家電量販店にはいかないと思うけど~(嘉月って家電詳しいから長い話とかしてたらパソコンが売りきれちゃう・・・ここは何とか撒かないと・・・)」
嘉「さっきパソコンがどうとか言うてへんかった?」
環「言って無い言って無いし・・・」
嘉「まあええけど・・・ウチはこれから郊外の家電量販店に行って買い物やで。」
環「ふーん・・・そうなんだ。」
嘉「まあウチの目的はデジカメやけどな。デジカメを買うてウチのコレクション増やすんや。あとついでに嘉月ズも買おかな。」
環「(そういえばデジカメも安売りしてたって広告に書いてあったわね・・・)」
嘉「それとアンちゃん、なんでこんな時期に郊外の家電量販店が安売りセールなんかやっとると思う?」
環「え、あの家電量販店しょっちゅうのように安売りセールしてるじゃない。」
嘉「あの家電量販店駅ビルの中に移転するらしいんよ。それで閉店セールみたいな感じでやっとるんやって。」
環「それだと閉店セールというより移転セールよね・・・」
嘉「あそこの家電量販店も最近は経営が厳しくなったみたいやから客の入らない大型の店舗からまだ採算のありそうな小さい駅ビルの店舗に移るんやって。」
環「へえ・・・ならアンも急いでパソコンを確保・・・」
嘉「え、パソコン?家電量販店には行かへんとちゃうの?」
環「あ・・・しまったついうっかり喋っちゃった・・・」
嘉「なんでウチに秘密にしようとしたん?」
環「だって嘉月もパソコン狙ってると思ったし・・・」
嘉「ウチの家にはパソコンあるし、2台も必要あらへんから今回は買わへんよ。」
環「なんだそうだったの・・・嘘ついて損した。」
嘉「あはは・・・もしアンちゃんが良かったら一緒に行かへん?」
環「いいよ。アンは自転車押していくから歩いて行こう。」

その一部始終を見届けた陽瑚は望遠鏡から目を離してこんなことを考えた。
陽「あの二人が一緒にいるってことは家電量販店でも行くのかなぁ・・・そういえば騎ノ風市の郊外にある大丸電気が駅ビルの中に移動するって言ってたから、そこの安売りセールかなぁ。だけどわたしは家電にそこまで興味ないから別にいいや。次は北側の景色を見てみようっと。」
陽瑚は望遠鏡をビルの北側に向ける。北側は騎ノ風駅があり、愛麗のアパートや愛の蕎麦屋がある方向だ。
陽「うーんと・・・あっ、あれは・・・愛ちゃんと苺瑠ちゃんかな?」
陽瑚が見た方向ではこんなことが起こっていた。

姫「凛世君なんだか今日はすまなかったな。」
凛「いえ、またいつでも頼ってくれていいですよ。」
凛世の家である黒船蕎麦の前で凛世がは苺瑠と何かをしゃべっていたのだった。
凛「それにしても立屋敷さん、急に来て我のテーマソングを作ってくれって言われたから何事かと思っちゃいましたよ。」
姫「凛世君なら一番音楽に精通しているし、確実だと思ったのだ。」
よく見ると苺瑠はCDケースのようなものを持っている。凛世が作曲したテーマソングが入っているのだろう。
凛「それにしても、自分が落語をする時に使う出囃子の曲なのにそんなにロックな曲調で良かったんですか?」
姫「もちろん。我は伝説の美少女姫なんだから出囃子も他の人とは違うものにしたいのだ。」
凛「そう言うの厨二病って言うんですよ。私は全く分かりませんが・・・」
姫「良く分からないなら別にいいではないか・・・」
凛「それにしても・・・落語のような日本伝統の文化にロックってすごくミスマッチのような気も・・・」
姫「そうか・・・?まあ愛君も京都で暮らしてたことがあるみたいだし、日本古来を気にするとそう見えてしまうのだろうな。だが心配はいらないよ。その内に我みたいな考えを持つ者だって現れるのだ。特にここ・・・騎ノ風ではな。」
凛「そういうものなんですかね・・・やっぱり私に厨二病のようなことはさっぱり分かりませんわね。あ、そろそろお昼時ですけど立屋敷さんお腹すきません?もしよかったら私の家でお蕎麦食べて行きませんか?」
姫「もう昼時か・・・テーマソング作りに夢中になるあまりすっかり忘れてたのだ。蕎麦もたまにはいいな・・・いただいて行こう。だけど金あったかな・・・?」
凛世と苺瑠はそんな話をしながら店の中に入って行ってしまった。

陽「あー2人ともお店の中に入って行っちゃった・・・まあいいや、最後は東の方を見てみようっと。」
陽瑚は望遠鏡を東の方に向ける。東側は商業地域があり、多くのショッピングモールが共存する新都市企画のような場所だ。
陽「さすがに東側は人が多くて知っている子を見つけるの難しいなぁ・・・あ、あれはたまちゃんとらっちゃんかな?だけど・・・2人で何やってるんだろう?」
陽瑚が見た方向ではこんなことがおこっていた。

麗「んーっ!今日は柚歌誘って正解だったわ。」
柚「ボクも楽しかったよありがとう。それにしても意外だったなぁ・・・」
麗「何が?」
柚「いや、今日見た映画だよ。愛麗ちゃんのことだからアニメ映画だってのは分かってたけどさ・・・まさか女子高生イレブンの映画だったなんて思わなかったからさ。」
女子高生イレブンとは天空学園という女子高の女子サッカー部の活躍を描いたアニメ作品である。愛麗はこれが大好きで映画を誰かと見たかったのだが凛世や和琴は誘いづらかったのかスポーツをやっている柚歌を誘ったのだった。
麗「なによ・・・不満だった?」
柚「そんなことはないよ。ボクもこの作品好きだったから嬉しいんだよ。愛麗ちゃんはメインキャラで誰が好き?」
麗「あたし・・・?ええと、8番の瀧脇愛華かな。」
瀧脇愛華は可愛い系の見た目でありながら性格は荒っぽいというギャップの強いキャラである。
柚「瀧脇かぁ・・・いいよね。ちょっと愛麗ちゃんに似てるところあるかも。ボクは11番の勾坂さんかな。」
勾坂環はストライカーでありながら冷静な判断をこなすテクニックタイプのFW選手である。おまけに柚歌とは字こそ違うが名前が一緒である。
麗「へえ勾坂かぁ・・・って、今瀧脇があたしに似てるって言わなかった?」
柚「だって似てるじゃん。瀧脇さんは髪の毛ロングのウェーブだし、私服だと愛麗ちゃんが来てるようなのばかり着てるし。髪の毛の色は紫じゃなくてライトブラウンだけどさ。」
麗「そう言えばそうね・・・髪色は以外は結構似てるかもね今度意識してみてみるわ。」
柚「それにしてもほんと凄い演出だったよね映画。」
麗「そうね・・・目が疲れちゃったわ。」
柚「そういう時は視線をしばらく遠くのものに合わせるといいんだって。」
麗「ふーん。ちょっとやってみるか・・・」
愛麗は視点を近くものから遠くのものに合わせる。
麗「遠くを見てみたけどあまり目が休まる実感はないわね。」
柚「そうかぁ。ならボクにいい方法があるよ。ちょっと待っててね・・・」
柚歌は自分の鞄から目薬を取り出した。
柚「これボクが使ってる奴なんだけど気持ちいいんだよ。よかったら使ってみる?」
麗「ん・・・お願いするわ。」
愛麗は目薬を差してもらうために少しだけ屈みこんで顔を上に向ける。愛麗の整った顔立ちを間近で見た柚歌は少し緊張してしまう。
柚「(余り近くで見たことなかったけど・・・愛麗ちゃんってすごくかわいい・・・目もエメラルドみたいな色をしていて綺愛麗だなぁ・・・)」
麗「何してんのよ。早く目薬差してよ。」
柚「あっ、今差すよ。」
柚歌は愛麗の目の上に目薬を持ってくると慎重に目薬を差す。
麗「うん、目がすっきりしたわありがとう。今度あたしも買ってみようかしらそれ。」
柚「これはボクが自信を持ってお勧めするよ。」
麗「今日は色々ありがとね。また今度女子高イレブンの映画やったら一緒に見に行こうね。」

その一部始終を見届けた陽瑚は望遠鏡から目を離してこんなことを考えた。
陽「なんか怪しいことやってたけど浮気かなぁ・・・あとでちーちゃんを問いたださないと・・・
さーて次はどこを・・・あっ、もう夕方だぁ。」
陽瑚が気付くともう外は夕暮れになっていた。
陽「夜暗くなると望遠鏡見えなくなっちゃうから今日はここまでだねぇ。」
陽瑚は望遠鏡をプレハブ小屋の中にしまう。
陽「時間が過ぎるのを忘れちゃったから、少し仮眠しようっと。ふぁ~眠いよぉ・・・」
パ「寝る とまたでっかくなるぜ。」
陽「もう・・・そんなことばかり言っているとご飯あげないんだから!」
陽瑚はそう言うと階段を下りてビルの中にある自室へと帰って行った。
陽瑚の騎ノ風市観察は今日はここまで。陽瑚は次はどんな景色に出会えるだろうか。それは誰にもわからない。