苺瑠弟子入りする

2月14日はバレンタイン。
女性同士のカップルが多い騎ノ風市では女性同士でチョコを交換したり上げたりするのが定番になっている。
しかし、料理があまりうまくなく、悩んでいる人もいる。そんな子がここにも1人。
姫「うーむ・・・手作りチョコをレナ君に上げたいが、我は緑茶以外の調理が苦手なのだあ・・・」
立屋敷苺瑠は調理全般を苦手としている。今付き合っている色部柚歌にチョコをあげたいようだが、そのことで
姫「誰か教えてくれそうな人は・・・そうだ、愛麗君ならお菓子作り得意だったよな。ちょっと明日頼んでみるか・・・」
苺瑠は愛麗に連絡を入れ、明日教えてもらうことになった。

そして次の日。苺瑠は昨日考えたことをさっそく行動に移した。
麗「それであたしのところに来たってわけね。」
姫「愛麗君も凛世君のために作るだろう?我を今日1日弟子にしてください!」
麗「そうだけどさ・・・まあ一人ぐらいなら教えても問題ないか。それで、どんなチョコを作りたいの?」
姫「そうだな・・・一流パティシエが作っているような立派な奴を作りたいのだが、無理かな?」
麗「初心者が欲張るんじゃないわよ。それに小さくたって愛があればわかってもらえるものよ?」
姫「そうなのか・・・」
麗「お菓子作るのって料理に比べると分量とか細かくしないと失敗するから大変なのよ。苺瑠が料理をどれだけできるのかも知っておく必要があるし、今回は基礎を教えることにするわ。それに、今日一緒に作るのはあんたとあたしだけじゃないのよ?」
姫「む?それってどういう・・・」
その時、ピンポンと愛麗の部屋のインターホンが鳴った。
麗「はーい。」
愛麗がドアを開けるとそこには咲彩と嘉月がいた。
咲「らっちゃん、今年も来たよ。」
嘉「チョコも買ってきたで。」
麗「2人ともいらっしゃい。毎年チョコ調達して来てくれてありがとね。」
嘉「ええんや。愛麗ちゃんちのキッチンを使わせてもらってるんやから食材ぐらい調達させてーな。」
姫「お、咲彩君に嘉月君。」
咲「あら、いっちゃん。いっちゃんもチョコ作るの習いに来たの?」
姫「そうなのだ。2人はもう常連なのか?」
嘉「だいぶ前から一緒にやっとるで。愛麗ちゃんお菓子作り上手なんやで。」
咲「私なんか料理と同じぐらい上手に作れるようになるまで教えてくれたんだよ。」
麗「2人ともそんなに持ち上げなくていいから。それよりさっそく始めるわよ。」
愛麗は3人をキッチンへ招き入れる。
麗「まず、咲彩と嘉月はいつも通り好きにキッチン使ってチョコ作りしていいから。家はガスコンロ2口しかないから、足りなくなったら言って。予備のガスコンロ持ってくるから。」
咲「うん、それならさっそく作業をさせてもらうよ。」
嘉「今年はどんな奴つくろかなぁ・・・」
麗「次に苺瑠はこっちであたしがいろいろ教えてあげるから。」
姫「うむ、了解したのだ。」
麗「苺瑠は料理下手だから基礎から教える必要があるわよね・・・」
姫「む、さすがにそれぐらいは知っているぞ・・・」
麗「そう。ならチョコの基本だけど、湯煎してチョコを溶かすやり方についてあたしに説明して。」
姫「・・・全くわからないのだ。調子のってすまない。」
麗「そんなに知ったかぶりしなくていいのに。しっかり基礎から教えるわね。チョコはこうやって割ってボウルに入れて、そのボウルを鍋に沸騰させた湯の中に入れてこうやるの。」
愛麗が丁寧にボウルに入ったチョコを混ぜると、チョコは湯の熱で溶け出して液状になった。
姫「おお、初めて見たけどすごいのだ!」
麗「苺瑠もこっちに同じものを用意したから今あたしが教えたようにやってみて。」
愛麗はチョコとボウルを苺瑠に渡した。
姫「うむ、やってみるよ。こうかな?」
苺瑠はチョコを砕いて細かくしようとする。しかし、彼女特有の力持ちの癖が出てしまい、チョコは無駄に小さく砕けてしまう。
麗「ちょっと苺瑠、そこまで力入れなくていいのに・・・」
姫「すまない・・・我は上手く力の制御ができなくて・・・」
麗「そういえば力持ちだったわねあんた・・・なら、力をそんなにいれずに軽くやってみたら?」
姫「分かった、やってみるよ。」
苺瑠は慎重に力を入れ過ぎないようチョコを砕いてみる。すると、今度は粉々にならずに済んだ。
麗「やればできるじゃない。」
姫「今のは運が良かっただけなのだ・・・次はこうすればいいのかな?」
苺瑠は砕いたチョコを鍋に沸いた湯の中に直接入れようとする。
麗「ちょ、直接湯の中に入れてどうすんのよ!ボウルに入れて湯煎するの!それだとチョコが湯の中に溶けだしてとんでもないことに・・・」
姫「そうだったな、すまないのだ。」
麗「苺瑠って、料理の経験ないでしょ?」
姫「どうしてわかった・・・そもそもこんな失態を繰り返しているようでは丸わかりか。」
麗「咲彩と嘉月に教えた時は2人とも料理の経験があったからそんなに下手じゃなかったのよ。むしろ上手だったし。」
姫「凄いなあの2人は・・・」
苺瑠は隣のテーブルで楽しそうにチョコを作る嘉月と咲彩を見ながらそう言った。
麗「まあ苺瑠も作れるって。それじゃ続きをやるわよ。」
姫「うむ、次はどうすればいいのだ?」
麗「今度は溶かしたチョコを冷やして固めて・・・あ、嘉月と咲彩。」
嘉「なんやの?」
咲「どうかしたの?手伝う?」
麗「ちょっと苺瑠が時間かかりそうだから、作り終わったら作ったチョコを持って奥の部屋に行ってて。とんでもないことが起こりそうな気がするから。」
嘉「承知や。」
咲「分かったよ。2人とも怪我しないように気を付けてね。」
姫「愛麗君、生クリーム混ぜすぎたかもしれないのだ、チョコが水っぽくなってしまった・・・」
麗「あーそれ違うってば!そこはこうやって・・・」
その後も愛麗の適切な指導により、苺瑠は徐々にチョコレートの扱いを覚え、上達させていった。時々爆発するような物音が発生し、失敗作も大量にできたのだが・・・

そして失敗と成功を繰り返しながら3時間後・・・ようやく柚歌に渡すチョコが完成した。
姫「で・・・できたのだぁ!」
麗「お疲れ様。まさか料理できない苺瑠がここまで腕を上げちゃうとはね・・・」
咲「らっちゃんいっちゃんチョコ作れた?」
嘉「さっきから変な物音するから心配やったんやで。」
すでにチョコを作り終えた咲彩と嘉月が奥の部屋の扉を少しだけ開けて覗いている。
麗「心配してくれてありがと。ちょっと台所は悲惨だけど・・・これぐらいなら問題ない・・・はず。」
姫「台所を散らかしてしまってすまなかったのだ!」
麗「なんで謝るのよ?料理すればこれぐらい洗い物はでるものよ?」
姫「それに愛麗君が凛世君に上げるチョコを作る時間なかっただろう・・・?」
麗「問題ないわ。凛世にあげるやつは前日に作っておいたから。」
愛麗はそういうと冷蔵庫を開け、中にある大きめのチョコケーキを取り出して見せた。
姫「それは良かったのだぁ・・・それにしてもずいぶん大きいケーキなのだな。」
咲「らっちゃん毎年あんちゃんにチョコケーキあげてるんだよね。すごく大きいのを。」
嘉「今年はホワイトチョコでコーティングしたんやなあ。」
麗「凛世は黒いものが好きだからブラックとかミルクチョコで作ったほうが喜ぶんだけど、たまにはホワイトもいいかなって思って。あとケーキ本体の真ん中にもケーキと同じサイズに固めたホワイトチョコを挟んであるわよ。」
姫「我もいつかこんなの作ってみたいのだ。」
麗「練習すればできるようになるわよ。そんなに筋悪くないし。」
姫「そうなのか・・・」
麗「たぶん苺瑠の場合は家がやらせてくれなかったからやったことなかったんでしょ。」
姫「そうかもしれないな。我の家には使用人さんたちがたくさんいるからな。」
麗「あと、美味しくしようとして無理やりなアレンジを加えると失敗しやすいのよ。チョコにだし汁を入れるとか言い出したときは耳を疑ったわ・・・」
姫「いや、あれは和風の味を出そうと思って・・・」
麗「それなら抹茶のチョコを作るとか別の方法あるでしょうが・・・」
姫「うう、正に正論なのだすまない・・・」
咲「いっちゃん。そんなに落ち込まなくてもいいんじゃないかな?」
嘉「せやで。意外な組み合わせからおいしい料理が生まれることだってあるんやで。」
麗「2人ともあんまり甘いこと言わないの。お菓子は分量重視なんだから。まあいいわ、ケーキ戻すわね。」
愛麗は取り出したケーキを冷蔵庫に戻した。
姫「ん?その奥にある12個の箱はなんなのだ?」
麗「これ?凛世以外にあげる予定の友チョコ。みんなそれぞれ違うテイストで作ってあるから配るときのお楽しみってことで。」
姫「うむ、それは楽しみなのだ!」
咲「りんちゃんだけじゃなくて私たちにもくれるなんてらっちゃん優しいね。」
麗「好きで作ってるだけだから気にしないで。凛世はもちろん特別な存在だけど、咲彩や嘉月や和琴に奈摘、苺瑠だって・・・大切な仲間よ。」
嘉「愛麗ちゃん優しいんやなぁ。これぞウチら1組の間にだけある美しい友情ってやつやな。」
麗「まあ全部の友情が美しいとは限らないけどね。あ、もう夜近いわね・・・3人ともそろそろ帰った方がいいわ。夜暗くなるのも早いし。」
姫「帰る前に台所の・・・我が散らかした分だけでも片づけ手伝うぞ?」
麗「いいわよこれぐらいあたし1人でも十分だし。夜遅くに返しすぎて殺人事件に巻き込まれる方があたしは嫌。嘉月は家近いからいいけど、咲彩と苺瑠はかなり遠いんだから。」
咲「そう言うなら・・・帰ろうか。」
姫「すまんな愛麗君。」
嘉「お先に失礼させてもらうで。」
麗「気を付けて帰るのよ。」
3人は帰って行った。
麗「さてと・・・ここの片づけと明日の配布の準備しないとね・・・」

そしてバレンタイン当日・・・から2日後。愛麗たちはクラスでチョコの交換を行っていた。
なぜ2日後なのかというと、この年のバレンタインが土曜日だったためである。
麗「はい、いつものケーキよ凛世。」
凛「毎年ありがとうございます愛麗。来月のホワイトデーは私がお返ししますね。」
麗「別に好きで作ってるだけだからお返しなんていいのに・・・」
凛「いえ、毎年こんなに立派なケーキをもらっているのに私が何も返さないなんてことはできませんから。」
咲「みなちゃん、このチョコ受け取って。」
水「今年はどんな味にしたんだ?」
咲「それは食べてみてのお楽しみだよ。」
水「あはは、お楽しみか。和菓子みたいな味だといいな。」
嘉「奈摘ちゃんこれ受け取ってや。」
奈「あら、毎年ありがとうございますわ。来月にお返ししますわね。」
嘉「ホワイトデーは奈摘ちゃんの誕生日なのにすんまへん・・・」
奈「別に気にしてませんわよ?単にわたくしが3月14日に生まれただけの事ですわ。それにホワイトデーですし、お正月やクリスマスに生まれるよりはましだと思ってますわ。」
嘉「奈摘ちゃんからその言葉を聞けて安心したわ・・・」
和「はい鷲宮。これあげるわチョコよ。」
エ「ありがとう。来月は私があげるね・・・料理できないから買ったやつになっちゃうけど・・・」
和「いーわよあたしも菓子系全然作れないから店で買ったやつだし。」
陽「アンちゃーん。これバレンタインのプレゼントだよぉ。」
環「・・・これ甘くないわよね?」
陽「たぶん大丈夫だよぉ。」
環「たぶんって・・・全くもうハルってば可愛いやつね!」
ア「櫻子サン!今日バレンタインなのでどうぞデス。」
櫻「あーありがとラニーちゃん。自分あまりこういうの食べないから新鮮だよ。」
ア「櫻子サンが喜んでくれればワタシは嬉しいデス。」
櫻「来月は自分がお返しをあげるね。」
クラスで思い思いにチョコを渡しあう愛麗たち。そして苺瑠も・・・
姫「柚歌君、これ我が作ったチョコ・・・今日バレンタインだからあげるのだ。」
柚「わあ、ボクにくれるの?ありがとう苺瑠ちゃんって料理上手なんだね。」
姫「あはは・・・少しは得意なんだぞ?(愛麗君に手取り足取り教えてもらったなんて言えないのだ・・・)」
柚「来月はボクがあげるね。この前美味しい抹茶クッキーの作り方教わったから作ってあげるよ。」
姫「無理する必要はないぞ、我は柚歌君がいてくれればそれだけで嬉しいからな。」
柚「無理しているつもりはないんだけどなぁ・・・それより、苺瑠ちゃんからチョコもらえてボク嬉しいよ。」
姫「うむ!我も嬉しいのだ。」
バレンタイン、それはカップルの愛情を深めるだけではなく友情を深める力もあるのかもしれない・・・