演劇と文化祭の秋

秋と言えば文化祭。水晶学園には今年も文化祭の季節がやってきた。
1組も学級委員の陽姫を中心に出し物をみんなで決めているところであった。
陽「今年は何をやろうかなぁ?案がある人は挙手してねぇ。」
麗「じゃああたしから提案いいかな?」
陽「いいよぉ。どうぞ。」
麗「あのさ・・・みんなで演劇やらない?あたしちょっとやってみたい話を書いてきてるんだ。」
愛麗は台本を取り出して皆に見せた。
奈「ええと、タイトルはそらの居場所ですわね。」
咲「どんな話なのらっちゃん?」
麗「主人公の女の子が複数の女の子たちとかかわっていくうちに新しい生き方を見つけるって感じの話だよ。話としてはこんな感じ。」

愛麗の書いてきた話の内容はこのような感じだった。
主人公の空はちょっと変わったところがある高校生の女の子である。
しかしある日、親から無理やりお見合いの話を持ちかけられる。
空は嫌がるが、親からは自分たちの会社の存続のためにはお見合い相手の親の会社に助けてもらうしかないのだと空に言う。
空は親にとって自分はその程度の存在にしか過ぎないんだと思い、友人の家に家出した。
友人は空をかくまってくれた。しかし、友人の家に学費などの世話になるわけにもいかず、空は高校を中退した。
高校中退後空は友人の勧めで旅に出ることにした。その旅で空は様々な女の子に出会う。
そして空は旅を通じて重要なことに気づいた。自分は女の子が好き。つまり同性愛者であることに。

凛「愛麗が考えたオリジナルの物語なんですね。」
和「生泉節全開な話ね・・・主人公の女の子が旅を通じて恋人を見つけていくっていう話からしてそう感じる。」
環「だけどいいんじゃない?水晶学園の人ってほとんど同性愛だって前に聞いたし。」
エ「私台詞喋るの駄目・・・」
和「鷲宮、演劇は役者だけじゃなくて裏方の仕事もあるのよ。あんたはそっちの方が得意でしょ。」
水「配役は何人ぐらい必要なんだ?」
麗「登場人物は8人ぐらいかな。残り8人は裏方ってことになっちゃうけどごめん。」
咲「演劇にすれば前みたいに店舗を破壊されたりすることも無いからいいわよね・・・」
水「コスプレ喫茶の時のことまだ気にしてたんだな・・・」
ア「ワタシぜひ演劇してみたいデス!」
陽「まだ話し合いは終わってないんだよぉ。ええと、ほかに意見はありますかぁ?」
陽姫がそう言ったが、ほかの皆は愛麗の書いた台本を読んで、演劇をやってみたくなったようだ。
鮫「陽姫、ほかに意見もなさそうだし決まりでいいんじゃないかな。」
陽「分かりましたぁ。それじゃあ今年の出し物は演劇ってことでぇ。」
こうして、1組の出し物は演劇になったのだった。

陽「次は役割を決めまぁす。皆どの訳がやりたいか決めていくよぉ。」
陽姫は役名を書きだす。主人公、友人1~7、ナレーター、照明設備(2人)、監督、音響・・・みんなどれがやりたい?」
エ「照明で・・・前にやった時の知識があるから・・・」
陽「エレナちゃんが照明で意義のある人いない?」
1組からは特に反対意見は出なかった。
陽「分かったよぉ。それなら照明をお願いエレナちゃん。」
エ「分かった・・・それと、私力ないから装置の組み立てを手伝ってくれる人がもう1人いると嬉しい・・・」
陽「力持ちさんかぁ・・・水萌ちゃん手伝ってあげられない?」
水「アタシは別にいいけど・・・咲彩が凄い反対の目線を送ってくるんだが。」
陽「さあちゃんどうしたの・・・意見があるなら自由に言っていいんだよぉ。」
咲「みなちゃんが設備担当なんてだめだよ・・・みなちゃんは表舞台に立ったら化けると思うから・・・ね?」
水「さっきからこれで聞かないんだよ・・・陽姫、アタシの代わりお願いできないか?」
陽「分かったよぉ。わたしも力あるし、照明設備手伝うよエレナちゃん。」
エ「ありがとう・・・」
陽「それと・・・さあちゃんと水萌ちゃんは役者でいいんだねぇ?」
水「ああ、かまわないぞ。」
咲「そう・・・だよね。みなちゃんを表舞台に出したいとか言って私が出ないのも酷いもんね。」
陽「はーい次は・・・と思ったけど、こうやって決めていくとなかなか決まらないよねぇ。
だから役者がやりたい人と裏方がやりたい人を今から分けるからそれで決めて行こうかぁ。」
麗「それよりも主役先に決めちゃった方がいいと思うけど。」
陽「そうだねえ。誰か主役やりたい人いる?」
陽姫がそう聞くが誰も名乗りを上げない。1組には演劇のプロはいないので自信がないのだろう。
陽「困ったねえ・・・愛麗ちゃん、この中で主人公の空ちゃんにいちばん近いのは誰?」
麗「空に近い・・・あえていうなら咲彩が一番近いと思うけど・・・」
咲「私が?」
麗「特に誰かをイメージして書いたとか言うのはないんだけど、書き上げたらなんとなく咲彩に似てる感じがしたのよ。
あ、もちろん無理して主役やる必要はないからね。咲彩の場合子役時代に出てたエロ系ドラマのダメージがあるだろうし・・・」
陽「どうするのさあちゃん?」
咲「エロ系ドラマっていってももう8年前の話だしあの時は苦痛でしかなかったけど・・・久しぶりに演劇してみようかな。
他にやりたい人がいなければ私が主役やるよ。反対意見とかあったら言って。」
和「反対なんかするもんですか。神宿の演技はあたしも一度見て見たかったし。」

主役の空は咲彩に決まった。その後はとんとん拍子で役割が決まっていった。
空を手助けする友人1は苺瑠が、埼玉に住む友人2は和琴が、愛知に住む友人3は愛麗が、大阪と京都に別々に住む双子友人5と6は愛と嘉月が
最後にたどり着く長崎に住む友人6は水萌が演じることになった。
裏方は先ほど決まった照明設備の担当エレナと陽姫に加え、ナレーターは奈摘、美術デザインは柚歌、音響は環輝、ラニーが監督、櫻子が演出に決まった。
陽「これで役割は決定だねえ。それじゃあ、体育館ステージの使用許可はわたしが出しておくよぉ。」
咲「みんな、文化祭に向けて練習していくわよ。」
こうして文化祭に向けた演劇の練習が始まった。水晶学園にあるスタジオを貸し切っての練習だった。
演技の指導は子役だった経験のある咲彩が中心に行った。
さすがに元子役だけあっていつも優しい彼女から比べると少し厳しめの指導だった。
咲「うーん・・・いっちゃん、ちょっと表情硬いかも。」
姫「そうかな・・・すまん。」
水「もう・・・行っちゃうのかよそりゃないぜ・・・」
咲「みなちゃんはもっと感情を入れて台詞を言って。お芝居は機械がやっているものじゃないんだよ。」
水「ああ・・・わかったよ。」
柚「神宿、あんまりきつく言うと誰もついてこなくなるわよ。」
咲「そうかな?だけど演技の部分はしっかりしないとただの棒読みお芝居っていうつまらない物しかできないよ。
私はそういうの嫌だから最低限の指導はした方がいいと思うの。私は自分で言うのもなんだけど、変なお芝居しなければあまり怒らないよ。
私が見てきた中にはちょっと動きが違うだけで叱責するもっと厳しい指導者もいるんだよ。」
凛「本場の演劇の世界は才能がないと厳しいと聞きますからね・・・」
咲「ゆーちゃんの言うとおり、確かに才能がない人は見向きもされない世界だよ・・・だけどここでやる演劇は違う。
演技の才能とかなくても全員が輝ける場所。私はそう言う演劇をしたいだけ。だから指導も厳しめにもなっちゃうよ。」
麗「咲彩ってやっぱり演劇に未練あったみたいね・・・それなのに急に主役頼んだりしてあたしって最悪ね・・・」
咲「なんで謝る必要があるの?私は楽しいから全然気にしなくていいんだよ?さて、休憩終わったらまた練習再開するわよ。」
役者組は咲彩を中心としたちょっと厳しい指示で演技の練習を進めていく。

スタジオの3分の1ほどをスクリーンで隔てた奥では裏方担当のメンバーが作業をしていた。
ア「愛麗サンから貰った台本に演出を書き加えてみたデス。こっちで重要シーンの絵コンテも書いたデス。」
環「なんかもう本格的ね・・・」
ア「ワタシはロシアの学校にいた頃映画研究部に所属していたのデス。その時演出のやり方などを一通り学んでいるデスよ。」
エ「そういえば衣装はどうするの・・・」
櫻「あ、そういえばすっかり忘れてたね・・・」
奈「もし必要でしたらわたくしと嘉月さんで製作しますわよ?」
ア「いや、その必要はないデス。今回の演劇は現代ものデス。桃太郎や白雪姫をやるわけではないから派手な衣装は必要ないと思うデス。」
陽「そうだねえ。衣装はお洋服屋さんで購入すればいいよねえ。」
奈「そうですわね。それぞれの持ち合わせの服を使うという手もありますしね。」
ア「それよりも演出出すタイミングや音楽の選択を先に決めるデス。ここはこうで・・・」
柚「現代だし舞台セットのデザインは都会的な感じでこういうのはどうかな?」
ア「さすが柚歌サン、いいデスね。ですがここの塗りをもうちょっとリアリティにするといいかもしれないデス。」
裏方業務もラニーを中心に着々と進んでいた。その後も咲彩たち役者組は演技の練習をラニーたち裏方組は演出タイミングの話し合いを続けた。

そして文化祭当日。1組渾身の演劇を披露する日がやってきた・・・
舞台では着々と裏方組が道具の設置や演出のタイミングを確認している。
奈「わたくしはこことここで舞台に設置されたイスの上でナレーターをすればいいんですわよね。」
陽「エレナちゃん、わたしが右の証明を担当すればいいんだっけ?」
エ「うん・・・それで間違ってない。」
環「音響装置触るの初めて・・・壊れちゃったらどうしよ・・・」
ア「たぶんパソコンの音響システムと変わらないものだからそこまで恐れる必要はないデスよ。」
櫻「役者組準備終わったよ!」
咲「思ったよりも服が軽いからそんなに動きにくくないね。」
嘉「まあ今回はファンタジー系の物語や無いからね。」
麗「イノンで買った普段着みたいな衣装だし・・・」
凛「私はこういうので演劇するのもいいと思います。」
姫「むう・・・いざ舞台に出るとなると緊張するのだ・・・」
水「まあ咲彩の指導で限界まで練習したんだ、問題ないさ。」
その時、順番を継げる司会者の声が聞こえる。
司「次は1年1組の演目、オリジナル演劇です。」
ア「皆さん始まるデスよ。配置についてくだサイ。奈摘サンは舞台の端にあるパイプ椅子に座ってナレーターの準備を、エレナサンは照明をパイプ椅子の方に向けてくだサイ。」
エ「承知・・・」
奈「いよいよ始まるんですのね・・・」
司「それではお願いいたします。」
ア「陽姫サン、幕を開けてくだサイ!」
陽「了解だよぉ!」
ラニーの指示を受けて陽姫が幕を上げる操作をする。いよいよ1組渾身の演劇の始まりだ。

幕が完全に開くと、舞台の片隅でパイプ椅子に座っている奈摘がナレーターとして語りを始める。
奈「現代社会の東京。そこには石原空という女の子がいました。
空は比較的変わった感性の持ち主で親からも気味悪がられているほどでした。
そんな彼女が高校卒業間近になったある日、親からお見合いの話を持ちかけられます。」
奈摘がそこまで読み終えると、エレナの証明操作で舞台の中央が映し出された。そこには咲彩と鮫川先生もいた。
鮫川先生がいるのは、父親の役をやれそうな人がどうしてもいないから頼んだというのが理由だ。
鮫「空、お見合いの話を受け入れてくれないか・・・」
咲「嫌よ!なんで・・・なんで40近くのおじさんと私が結婚しなきゃいけないの!?私好きな人は自分の意思で選びたい!!!」
鮫「空!お前は昔から勝手な事ばかりしおって俺に散々迷惑をかけただろうが!一回ぐらいは親の言うことを聞け!」
咲「私知ってるのよ!なんで40近くのおじさんと無理やりお見合いをさせようとしているか・・・
父様の会社の経営が傾いているからおじさんの会社から融資してもらおうと考えているんでしょ!」
鮫「・・・私はキチガイなお前を育てるのにさんざん苦労してきたんだ。もういいお前など知るか!!!」
鮫川先生はそう言うと、舞台袖の方に去って行く。
咲「私だって知らない!世界各地の本を読んで神秘を感じることの何が悪いの?男が嫌いな女の子の何が悪いの?
運動ができないから勉強はその倍やっていい高校に行ったのに・・・もういや、こんな狭い世界で生きていたくない!!!」
奈「すれ違う空と父親・・・合わない価値観・・・そのことから空は家出を決意するのでした。」
咲「もういや・・・小さいころからあれをしなさい、みんなに合わせなさい・・・もううんざり!
こうなったら旅に出るわ!それで私と同じ価値観を持つ人間を見つけに行くの!
まずは友達の所へ行ってみよう・・・幼馴染のあの子ならわかってくれるはず・・・」

奈「空は、最低限必要な荷物をスーツケースに入れると、父親になにも言わず、家を飛び出しました。
向かったのは、彼女の幼馴染である苺華の所でした。苺華は親から虐待を受け、施設で育った女の子でした。
施設でパソコンをやっている間に株取引に興味を持ち、勉強を重ねて現在は株でお金を稼ぎ、1人暮らしをしながら経営学の大学の受験を狙っています。」
咲「苺華ちゃん!ちょっと話を聞いてほしいの!」
姫「なんなのこんなに遅くに・・・今何時だと思っているのだ君は?」
咲「私・・・家出することにした!」
姫「本気か君は・・・まあいい、入りたまえ。話ぐらいは聞くよ。」
苺華(苺瑠)は空(咲彩)を部屋に招き入れる。
姫「それで・・・君は高校も卒業していないのに無理やり婚約者を建てられて結婚させられそうになっているのか。
好きな人ぐらい自分で選ばさせてくれればいいのにな。だが君の親父の会社は業績傾いているみたいだし、無理もないのか・・・」
咲「私は昔から父様に後継ぎという名目で体を撃たれたり厳しい教育を受けてきたの。だけどここ最近父様のミスで会社の業績が傾いて、
急きょ知人の支援を受けるために私を後継ぎから外して、好きでもない40歳のおじさんと結婚させるって言ってきて・・・
それに私はあの男にずっと気持ち悪い、出来そこないって言われてきたの・・・もうあの人に振り回されたくない!だから、家出を強く決意したの。」
姫「もう一度聞くがその言葉は本気か?」
咲「うん。そうでなければここには来たりしないよ。」
姫「そこまで考えているのなら、旅に出るのがいいかもしれない。普段の生活では忘れがちだが私たちの見ている世界はほんの一部に過ぎない。
今の世界はその狭い環境に適応できた人間だけが幸福を得られるようになっている・・・君はもっと広い世界を見た方がいい。」
咲「旅か・・・だけど私に出来るかな・・・?」
姫「君ならできるさ。旅の選別としてこれをあげるから持っていくといい。」
咲「これは・・・バックパック?」
姫「そうだよ。それと選別として私の稼いだ500万円も持って行け。ホテルに泊まるときや食糧が足りなくなったりした時に使うといい。」
咲「500万円も・・・いいの?」
姫「いいさ。私には株で稼いだ5000万の貯蓄があるから当分生きて行ける。旅と言っても目的地を決めた方がいいな・・・
そうだ、私の知人がここから北の埼玉県(さきたまけん)に住んでいる。連絡を入れておくから向かってみて色々な話を聞いてくるといい。」
咲「何から何までありがとう苺華ちゃん!」
姫「気にするな。私は本気で困っている幼馴染を助けたいだけだから。それじゃ、良い旅を!」

奈「空は苺華から貰ったバックパックと軍資金を手に、苺華の知人である少女の住んでいる埼玉県(さきたまけん)を目指しました。
いくつもの電車を乗り継ぎ、苺華から知人の住んでいる場所である埼玉県(さきたまけん)にたどり着いたのです。」
咲「ええと、ここが大宮駅かぁ・・・苺華ちゃんの話だとこの辺に知人さんが待ってるって聞いたんだけど・・・」
和「あら、あんたが苺華の言ってた空って子?」
咲「えっ、なんで私のこと・・・あ!もしかしてあなたが苺華ちゃんの言っていた知人さん?」
和「そ、あたしは薬師寺琴海。このさいたま市の大宮地域に住んでいるのよ。苺華の奴に幼馴染がそっちに行くから
色々教えてやってくれって急に言われてね・・・プランとか一切立ててないんだけど、どっか行きたいところある?」
咲「そうですね、だけど埼玉初めてなのでどこに行きたいか思いつきません・・・」
和「まあそうよね・・・ならあたしが色々連れてってあげるわ。付いてきて。」
咲「ありがとうございます。」
和「いーのよ。この辺はあたしのテリトリーなんだから。」
奈「その後、空は琴海に案内されて3日間埼玉県(さきたまけん)の観光をし、初めて見る風景や景色に空は感動し、とても有意義な時間を過ごしました。
3日間という短いときはあっという間に過ぎ、空が埼玉から旅立つ日がやってきました。
琴海は別れを惜しみながらも大宮駅の新幹線ホームまで空を送り届けたのです。」
咲「3日間楽しかったよ。色々教えてくれてありがとう琴海ちゃん。」
和「礼には及ばないわ。それより・・・あんた今日で旅立つって言ってたわよね?
もっとゆっくりしていけばいいのに・・・」
咲「ううん、私は次の目的地に行かなきゃ・・・それで、琴海ちゃんにお願いがあるの。」
和「あたしに?」
咲「琴海ちゃんの知り合いに遠くに住んでいるお友達とかいないかな?次はそこを目的地にしようと思ってるんだけど・・・
苺華ちゃんばかりに頼ってもよくないから、」
和「あんたその年で凄い意思もってんのね羨ましい限りだわ。あたしの知人かぁ・・・ちょっと遠いけど愛知に松薗愛麗子っていう奴が住んでいるんだけどそいつの所でいい?」
咲「うん、ありがとう。またいつか埼玉に来るから。」
和「いつでも歓迎するわ。松薗には連絡を入れておくから。」
咲「それでは、いろいろお世話になりました。」
和「いいわよ別にまた来てくれれば今日行って無い所も案内するわ。あ、それと・・・」
咲「どうかしたの?」
和「松薗が住んでいるの名古屋じゃなくて三河安城だから降りる駅間違えちゃだめよ。」
咲「分かったよ。3日間楽しかったよ琴海ちゃん!」
和「あたしも楽しかったわ。この旅で何か見つけられるといいわね。」

奈「空は東海道新幹線に乗り、次の目的地である愛知の安城へ向かいます。
東京から埼玉への移動とは違い距離も長く空にとっては初めての長旅になりました。
そして新幹線に揺られること3時間。空は三河安城駅にたどり着いたのでした・・・」
咲「ここが愛知県かぁ・・・神奈川より西に行ったことはないから初めてだよ。」
麗「あ、あんたが琴海の言ってた空?」
咲「はい・・・琴海ちゃんのこと知ってるってことは、貴方が愛麗子ちゃんですか?」
麗「そ。あたしが松薗愛麗子。琴海に色々案内しろって言われているから、あんたの好きな所連れて行くよ。」
咲「それなら・・・普通の女子高生みたいなことがしたいな。」
麗「そっか・・・なら、ショッピングでもする?隣町の岡崎って所ににイノンあるからあたしのバイクで連れて行くよ。」
咲「あ、そのバイク愛麗子ちゃんのだったんだね。」
麗「そ。早く乗って。」
愛麗子(愛麗)は空(咲彩)にヘルメットを手渡しながらそう言った。
咲「それじゃあ・・・よろしくお願いします。」
奈「その後、空は愛麗子に連れられてさまざまなショッピングモールを渡り歩きました。時には気に入ったデザインの服を買ったり、またある時には愛知の名物に舌鼓をうったり・・・空は今まで感じたことのなかった普通の女子高生の楽しみを思う存分堪能しました。しかし、愛知への滞在も3日間と決めていたので別れの日はすぐにやってきたのです。」
麗「もう行っちゃうんだ・・・」
咲「さみしい思いさせてごめん・・・」
麗「いいわよ。あんた旅の途中なんでしょ。旅を経験して大切な物が見つかるといいわね。」
咲「うん、絶対見つけてみせるよ。それで愛麗子ちゃん。私次の旅の目的地を決め・・・」
麗「ああ、琴海にも頼んだってやつね。そうねえ・・・
大阪と京都に双子の姉妹の知人が住んでいるんだけどよかったら行ってみない?」
咲「双子・・・行くよ!会ってみたい!」
麗「そんなに物珍しいのかしら双子が・・・まあいいわ。
この先の京都駅で2人揃って待っているように連絡入れておくから。」
咲「ありがとう愛麗子ちゃんショッピングまた行こうね!」
麗「うん。あたしも楽しかったわ。空も元気でね。」

奈「空は次の目的地である京都へと向かいます。幸い京都までは新幹線が1本でつながっていたので
特に問題もなくたどり着くことができました。」
咲「ここが京都かぁ・・・東京と違って歴史のある街並みなんだね・・・」
凛「あの、すいません・・・貴方石原空さんではありませんか?」
嘉「人違いやったらすんまへん・・・」
咲「はい、石原空は私ですけど・・・あ、貴方たちが愛麗子ちゃんの言っていた双子さんの・・・」
凛「はい。私京都に住んでいる雲間悠月です!実家は呉服屋さんなんです。」
嘉「ウチは大阪に住んどる国保香織や。親父が上手いたこ焼き屋やっとるんやで!」
咲「あら?双子って聞きましたけど、苗字違うんですね。」
凛「実は私たちの両親離婚していて・・・」
嘉「ウチが親父、悠月が母さんに引き取られたんやねん。」
凛「香織ちゃんは少し前まで雲間姓だったんですよ。」
嘉「親父の方やからな婿入りしたんは・・・」
凛「だけど、お父様は古き良き時代を尊重する私の実家になじめなくて・・・」
嘉「そんで離婚してウチだけ連れて大阪に戻ってたこ焼き屋やってんねん。親父は短気やからなぁ・・・」
咲「あはは・・・なんだか愉快な家族だね。」
凛「よく言われます・・・それで、空さんは京都と大阪でしたいことがありますか?」
嘉「せやな。なんでもええんやで。」
咲「それなら、京都と大阪2つの町の歴史に触れてみたいかな・・・話でしか聞いたことはないけど
京都は歴史溢れる町で大阪は西日本の台所って言われていて・・・どっちも歴史が深いなって思ったの。」
凛「そうですか・・・なら最初は私が中心に京都の案内をします。」
嘉「その次はウチが大阪の美味いグルメを紹介するで。」
咲「うん、よろしくね2人とも。」
奈「空は2日ずつの時間、計4日をかけて京都と大阪の魅力を学びました。
最初の2日間は京都の寺院やお寺を回り、京都の歴史を深く学びました。
次の2日間は場所を大阪に移し、大阪の食文化の歴史を串カツやたこ焼きグルメを堪能しながら学びました。
そんな夢のような4日間は足早に過ぎ去り、空が次の目的地に旅立つ日がやってきました・・・
新大阪駅のホームに案内された空は、悠月と香織の知人を紹介してもらい、次の目的地長崎に向かうことになったのです。」
凛「ここから新幹線に乗れば、更に西へ行けますよ。」
嘉「ウチらが紹介した子の住所確認したほうがええか?」
咲「うん、長崎に住んでいる織田雅ちゃんだよね。」
凛「長崎にはまだ新幹線が走っていないので在来線を乗り継いでいく形にはなると思いますが・・・」
嘉「そんなに心配せんでもええよ悠月。空ちゃんなら長崎まで行けると思うで。」
凛「そうですよね・・・それでは空さん、お元気で。」
咲「いろいろありがとう2人とも。いつまでも仲良くね!」

奈「空は山陽新幹線に乗ってさらに西へ向かいます。目的地は悠月と香織の知人、織田雅が住む長崎です。
まだ長崎方面への新幹線が開通していないことから、空は博多からは特急電車に乗り換えて長崎駅まで向かいました。
空は初めて降り立つ長崎駅で織田雅を探します。」
咲「こんな遠くまで初めてきたなぁ・・・ええと織田さんはこの辺で待っててくれるって言ったはず・・・」
水「・・・あ、お前が石原空?」
咲「はい、そうですけど・・・もしかして織田雅さん?」
水「そうだよ。悠月と香織に頼まれたんだけど、観光したいんだって?」
咲「はい・・・私今実家に無理やり結婚させられそうになっていて・・・それで東京に住んでいる幼馴染の協力を得て知らない世界を知るために埼玉、愛知、京都、大阪を旅してここにたどり着いたんです。」
水「ずいぶんな長旅だな、ご苦労さん。今何日ぐらい旅してんだ?」
咲「ええと、移動時間も含めて12日ぐらいですね。」
水「ほぼ2週間か・・・お前の親父は捜索願とか出さないんだな。」
咲「たぶん出してはいると思うんですけど、私がこんなに遠くまで来ていることは分からないかと・・・」
水「そうか・・・まあいいや、せっかく長崎まで来たんだし何がしたい?」
咲「雅さんの音楽が聴きたいな。雅さんが背負ってるのギターですよね?」
水「そうだけど・・・俺は所謂ストリートミュージシャンでプロではないんだけどな。」
咲「それでもいいです。聞かせてください。」
水「分かった。だけどここじゃ人多いから近くの自然公園に行こう。そこで好きなだけ聞かせてやるよ。」
奈「空は雅と共に公園へ移動し、そこで雅が奏でる美しい曲を10曲聞きました。
空は雅の曲を聴くうちに心が穏やかになり、この旅を協力してくれた女の子たちに対してある思いが生まれたのでした・・・」
咲「雅さんの音楽素敵・・・私すっかりファンになっちゃったよ。」
水「はぁ・・・まさか10曲連続で演奏させられるなんて思ってもみなかった・・・だけど久しぶりにワクワクしたよ。
ちょっと俺の身の上話になんだけど聞いてくれるかな?」
咲「ええ、もちろん。素敵な曲をたくさん聞かせてくれたんだもの。」
水「俺親に捨てられてさ、ずっと姉と2人で生きてきたんだ。まだ中学生だった頃、街角で流れていた音楽を聴いて
ミュージシャンになりたいって思ってギターを買って音楽活動を始めたんだ。だけどな、姉が猛反対して・・・殴り合いの喧嘩になっちまったんだ。
姉に言われたよ、「私は自分が生きることだけを必死で考えてきたのに夢なんか見てんじゃないこのバカ妹が!」ってさ。だからキレちまって・・・俺から殴ってその日のうちに出て行った。」
咲「一番身近にいた人と一生の傷になる喧嘩をしちゃったんだね・・・」
水「ずっと好きだったもの、信じていたものを一番近くにいる存在に馬鹿にされて悔しかったんだと思う。
それで俺は姉と決別して地元の宮崎から一番離れた長崎に来たんだ。自分の実力を証明するためにな。
今はここでストリートミュージシャンして1年ぐらいなんだけど、知名度もかなり上がってきたから次は東京行って勝負かけようと思うんだ。」
咲「そうなんだ・・・その夢かなうといいね。」
水「ああ、かなえてみせるさ。そういえば石原はこれからどうするんだ?東京帰るのか?」
咲「そうだね・・・私、雅ちゃんの歌を聞いてて気づいたんだ。東京にいる幼馴染にお礼を言いたいの。だからいったん戻りたいと思う。」
水「それなら・・・俺と一緒に東京行かないか?明日実は長崎を出るんだよ。それで知人の家に同居するんだ。」
咲「そうなんだ。私東京にはそれなりに詳しいから、曲を聞かせてくれたお礼に案内するよ。」
水「助かるよ・・・それじゃ、明日出発しよう!今日はうちに泊まって行ってくれ。とはいってももう家具はほとんどないんだけどな・・・」
咲「家だけあれば十分だよ。今日はよろしくお願いします。」

奈「空はその日は荷物を発送した影響でほとんど引っ越しを済ませていた雅の住むアパートへと泊まりました。
そして次の日、空と雅は始発の東京行新幹線に乗って、空にとっては久しぶりの東京へと降り立ったのです。」
咲「東京もなんだか久しぶりだな・・・」
水「空、知人の家こっちみたいだ。」
咲「あ、あんまり足早になると危ないよ・・・東京は交通量も多いから・・・」
水「そうだったな悪い悪い・・・お、このビルの3階だわ。」
咲「へぇ・・・ここなんだ(あれ、なんか見覚えあるような・・・)」
水「おーい!苺華!」
咲「苺華ってまさか・・・」
姫「おお、雅じゃないか。今日からよろしく・・・あれ?なんで空が一緒にいるのだ?」
水「俺が長崎を出る前日に出会ったんだ・・・なあ苺華、もう本当のこと言ってもいいんじゃないかな。」
咲「本当のこと・・・?」
姫「すまない空、君が旅の中で出会った女の子たち・・・みんな私の設立した会社の仲間だったのだ。君の旅が上手くいくようあらかじめ頼んでおいたんだよ・・・」
咲「そうだったんだ。それに苺華ちゃん会社まで設立してたんだね・・・」
姫「うむ。先天的、後天的にかかわらず生きにくさを抱えた人間を支援するための活動をしているのだ。まだ小さいがね・・・」
咲「苺華ちゃん。私色々な所を旅して新しいことたくさん知ったよ。この世界には色々な人がいて私でも好きに生きていていいんだっていうのを感じたよ。」
姫「本当の気持ちに気づけたのか・・・よかったな。」
咲「それはね・・・私、苺華ちゃんのことが昔から好きだったみたい。」
姫「そっか・・・って、私のことがか!?」
咲「うん、だから・・・私を苺華ちゃんのそばにずっと置いてください!」
姫「ええっ・・・急な告白だな、私まだ心の準備ができてなくて・・・」
雅「苺華、お前も自分の気持ちに素直になったらどうだ?前々から俺に恋愛感情を抱くくらい大切な幼馴染がいるってよく言ってたじゃないか。」
姫「・・・そうだな。空も成長したことだし、私でよければよろしくお願いします。」
咲「ほんと!?苺華ちゃん大好き!!!」
姫「ちょ、そんなに急に抱きつかないでくれよ・・・私小さいんだからさ。」
雅「よかったな。2人とも幸せそうで俺も嬉しいぜ。」
咲「見つけたよ・・・ずっと迫害されて辛かった・・・そんな私でも受け入れてくれる大切な居場所・・・」
奈「その後、空は父親と縁を切り苺華の設立した会社で表向きは苺華の会社の手伝い、裏向きでは苺華の恋人として過ごすことになりました。
これは、周りに嫌われてばかりだった少女が旅を通じて、本当の気持ちを見つけることのできた、愛の物語なのです・・・」
奈摘がそこまで読み終えると、幕が下がり2時間に及ぶ1組の演劇は終わったのだった・・・

演劇終了後、控え室となっている1組教室では演劇を終えたメンバーが戻ってきて監督のラニーを中心に反省会のようなものが行われていた。
ア「みなさんお疲れ様デス!とても素晴らしい演劇だったデス。」
咲「あんなに台詞喋って演技したの久しぶりだから疲れたよ・・・」
麗「あたしも・・・まさか自分が作った話をここまで手直しする羽目になるとは・・・」
奈「喋りつづけて疲れましたわ・・・しかもわたくしナレーターなので一度も舞台袖に引っ込んでませんし緊張の連続ってこういうことを言うのですわね・・・」
凛「メインキャストの皆さんお疲れ様です。」
嘉「お茶持ってきたから飲んでや。お菓子もあるで。」
麗「愛ー。あたし甘いお菓子食べたい。」
凛「はい。」
鮫「それにしても全員初めての演技だったにしてはすごくよくできたじゃないか。私もびっくりだ。」
水「咲彩のスパルタレッスンの成果が良かったんだな。」
咲「そんなにスパルタで演技指導したつもりはないんだけどね・・・」
姫「それは言葉のあやというやつだろ。だが、私・・・いや、我も一人称の変更が結構こたえたのだ。」
柚「元々の自分の口調とかってついつい出そうになっちゃうよね。」
環「アンも音楽を切り替えるタイミングとかで緊張の連続で肩にすごい疲れが・・・」
和「音楽の切り替えやってたんだ・・・」
環「やってなかったんなら何のための音響担当よ。文章中に描写されないだけだから!」
エ「私もずっと証明操作してた・・・照明装置ってなかなか重い・・・」
櫻「自分も何度かエレナちゃんの補助したけど、一人であれは大変だよね。」
陽「そうかなぁ。わたしは余裕だったけど・・・」
柚「陽姫ちゃんはそこそこ力があるからね・・・」
麗「それよりこの後打ち上げやらない?もうすぐ文化祭終わるし、片づけは次の日だしさ。」
凛「いいですね、もし良かったら私のお店でやりませんか?」
和「だけど夜光んち・・・黒船蕎麦を今から貸切にするわけにはいかないでしょ。」
凛「それもそうですね・・・今日は営業日でした。」
環「なら環輝のバカ親父がやってるレストラン行く?あそこならバイキングだしいくら食べても環輝の権限で何とでもできるわよ?」
水「よし、そうするか。」
麗「それが一番いいかもね・・・」
和「魚崎の店はまずいし、環輝の父親は・・・娘を簡単に捨てる最低男だしいいか。」
嘉「せやな。夜になって店が混む前に早よ行こか。」
奈「鮫川先生はどうされますの?お金はわたくしが払いますから心配しなくて大丈夫ですわよ?」
鮫「私も行かせてもらおうかな。環輝の父親には合ったことないし・・・」
環「最低な人間だから期待と違ってもがっかりしないでね~?」
鮫「ああ、このクラスは普通じゃないのは当たり前だから今更そんなことで驚かないよ。」
ア「ワタシ、今回演劇の監督が久しぶりにできて楽しかったデス。また・・・またいつか機会があったら演劇やりたいデス。」
咲「そうね。疲れたけど私も久しぶりに本格的な演技ができて楽しかったわ。もし機会があったらまたいつかやりましょうか。」
麗「あたしも演じるっていうことの楽しさが分かったような気がするし・・・またやってみるのもいいかもね。」
ア「ハイ!その時はまたワタシ、監督をするデス!」
その後、1組全員で環輝の父親のレストランに行き文化祭の打ち上げを行った。そしてバイキング形式の料理を主に大食いの環輝が中心になって食べつくしたのだった。
一方で急に娘とその仲間が押しかけてきた環輝の父親は料理作りに走り回ることになり、1組全員の押しかけ+主に環輝の大食いによって泣きを見ることになったとさ。