騎ノ風市は個性尊重をうたう都市なので人を馬鹿にしたりしない人の方が多い。
しかし、異分子という物はどんな環境にも存在するものである。平穏人生の会しかり、泥小路家しかり・・・
愛麗たちの通う水晶学園にもそんな人間がいた。彼女の名前は・・・人呼んで嫌味先輩というらしい・・・
ここは水晶学園の3年生の教室。ここにそんな一人の厄介な生徒がいた。
?「はぁ・・・なんか不祥事とかスキャンダルとかどっかに転がってないかしら・・・」
この子は嫌川ミシル。先ほど話に出てきた嫌味先輩と呼ばれている少女である。勝手に週刊誌部という部活を創りそこで活動している。
この週刊誌部部員はミシル一人だが非常に厄介でネタが見つからないと嫌味が自ら捏造した事件を作り上げて勝手に報道するという最悪レベルの活動をしているのだ。
例えば、友達といる所を勝手に写真に撮られ彼女のねつ造でこの2人付き合ってる!?禁断の同性愛!と言うような記事を書いて掲示板に貼っている。
性格も悪く、周りの人間と付き合っても悪い部分をあら捜しして説教や嫌がらせを書いたのメールを送ったり、人の好きなものを散々に貶す。
こんな性格なので友人は0。しかし嫌味自身は友人にそんなに執着していないのでどうでもいいらしい。
ミ「そういえばぁ・・・最近1年1組の連中が生意気な活動やってるって話を聞くわねえ・・・これは先輩として制裁しなきゃね。もし違ってたらいつも通り捏造でもしよっと。あいつらは・・・もう放課後だから駅前にでもいるかしらね。」
ミシルは愛用の使い捨てカメラ(デジカメもってない)を片手に学校を出て駅前へ向かった。
駅前に着いたミシルはさっそく張り込みを開始した。
ミ「さーてと、浮気や不倫している悪い子たちはどこかなー?」
彼女は自分のいいように都合や記憶を捻じ曲げるところもあるので、すでに自分が悪を裁く正義の味方だと思い込んでいるようである。
しばらく待っていると・・・騎ノ風駅前のアニメショップにある2人が入っていくのが見えた。その2人は愛麗と奈摘であった。
ミ「あれは1年1組の・・・だけどあの2人付き合ってるわけでもなかったわよね・・・なら、悪い子ちゃん発見!さ、スクープっと!」
ミシルは2人の後をつけてアニメショップの中に入って行ったのだった。
お気づきかと思うが愛麗と奈摘は別に禁断の関係になってるわけではない。単に親友として今期のアニメの関連グッズを買いに来ているだけである。
ミシルは学校の人間関係などはすべて把握しているので2人が付き合っていないことも知っている。つまり、捏造記事を作って学園を荒したいそれだけだ。
ミ「そうれカシャカシャっと・・・にしてもこの店ほんとに気持ち悪いわね・・・こんなの見て何が得られるっていうのかしら。」
アニメショップを見渡して不満を言うミシル。彼女の十八番である嫌味文句は今日も絶好調のよう。
ミ「ええと悪い子ちゃんたちはっと・・・いたいた。証拠写真げーっと。」
ミシルはアニメショップの壁の影に隠れ、楽しそうに話をしている愛麗と奈摘を撮影しまくった。
ミ「ふふ、さっそく家に帰って編集しなきゃね。」
ミシルは満足そうな表情を浮かべると、駆け足でアニメショップを出て行った。
週刊誌部はミシルが勝手に部活を名乗っているだけなので家で週刊誌(系の新聞)を作成しているのだ。
ミシルにストーキングされていたことなど知らない2人はアニメショップを堪能していた。
奈「ありましたわ。今期の作品のグッズたくさんありますわね。」
麗「そうね・・・あ、あたしこの子好きなのよね~!」
愛麗は青髪でカチューシャしたきつそうな目つきの女の子の描かれたキーホルダーを手に取って言う。
奈「その子は今季アニメ青空スカイハイ!の空久保蛍さんですわね。蛍さんはわたくしもそれなりに好きですが・・・推しはこの子ですわね。」
そういうと奈摘はピンクの髪でおっとりしていそうな垂れ目の子が描かれているキーホルダーを手に取った。
麗「奈摘は香雅里ちゃんが好きなんだ。」
奈「ええ、福生香雅里さん。この子が今期で一番好きなのですわ。」
麗「凛世は赤姫ちゃんが好きって言ってたけど・・・このアニメのキャラってみんな火に関係ある名前付いてるんだよね。」
奈「タイトルが青空スカイハイ!なのにキャラの名前が空ではなく火に関係しているものばかりだなんて不思議ですわよね。」
とまあこんな話をしていたのだが・・・ミシルには会話の内容などどうでもよく騒ぎを起こせるのなら会話内容などなんでもいいのだ。
次の日・・・水晶学園の入り口前に設置されている掲示板前は大騒ぎになっていた。
麗「今日は掲示板前が騒がしいなぁ・・・」
凛「愛麗っ!どういうことなんですかこれは!?」
麗「凛世?そんなに慌ててどうした・・・」
凛「愛麗、私がいるのに天宮城さんとデートしてたんですか・・・?」
麗「奈摘と!?そんなわけないでしょ!昨日は2人アニメショップ行くって凛世に言ったじゃない!」
凛「それなら、これはなんなのですか・・・」
凛世は一枚の新聞を見せる。そこには生泉、天宮城と不倫!?理由は金かという文字が書かれていた。
麗「これは昨日の・・・」
凛「やっぱり、2人で何かをしていたのですね・・・」
麗「いや違う!昨日奈摘とアニメショップ行くって言ってたでしょあたし!」
凛「そうですけど・・・ならこの新聞は・・・」
麗「これってまさか週刊誌部の仕業じゃ・・・」
ミ「あら、1年1組の不倫女さんがいらっしゃるわ。」
愛麗と凛世の前にこの事件を引き起こした黒幕であるミシルが堂々と現れた。
麗「貴方は・・・」
ミ「私は週刊誌部の嫌川ミシル。生泉さん貴方不倫するなんて最低ね。天宮城さんも悪いけど。不倫されて悲しんでいる夜光さんの気持ち、少しは考えたらどうなの?」
麗「こんなでっち上げの記事書いて・・・あんたマスコミより最低なことしてるの分かってるの!?」
ミ「あーら、先輩に立てつくなんて生意気なのは噂通りみたいね。ま、私は事実を書いているだけだから、自分の身が心配ならさっさとこの学校からいなくなるのね。」
ミシルは嫌味っぽくそういうと去って行った。
麗「こういう時、どうすればいいんだろ・・・」
凛「愛麗、この新聞に書かれていることは本当の事じゃないんですよね?」
麗「うん、奈摘とはあくまで漫画と作家としての関係だし、一線も越えたことないし親友止まりだから。」
凛「その言葉、愛麗から聞けて安心しました。さ、教室に行きましょう。そこで皆様も交えて今後を話し合わないと・・・」
麗「そうね・・・この学校が自分の意志を持った生徒が多いとはいえしばらくは辛いかもしれないからね・・・」
愛麗と凛世が1組の教室に行くと、当然のように大騒ぎになっていた。しかし、奈摘を攻めるような批判的な騒ぎではなかったが。
咲「なんでこんなことに・・・」
水「新聞に書いてあるってことは新聞部か?だけどこの学校に部活動はないはずだよな。」
和「こんなことして馬鹿みたいよね。何が楽しいのかしら・・・」
姫「奈摘君と愛麗君が付き合っているなんて・・・でっち上げもいい所なのだ。」
柚「この人は記者向いてないよね。」
環「環輝の方がもっと正確な記事作れると思うし。」
嘉「なっちゃん、ウチはこんな記事信じてへんから、気を確かになぁ。」
奈「分かってますわ・・・ですが今は少し気持ち悪いですわ。」
そんな話をしていた所、愛麗と凛世が教室に入ってきた。
凛「皆さん!」
咲「あ、りんちゃん。おはよう・・・って言っている場合じゃないよね。」
陽「大変なことになっちゃったねぇ・・・」
エ「人の噂も七十五日って言うけど・・・でたらめが七十五日も噂になってるのは辛い・・・」
嘉「ほんま誰なん!こんな記事書いたんは・・・」
麗「週刊誌部の嫌川ミシル先輩みたい。」
環「週刊誌部・・・嫌味な先輩が一人でやってるっていうあの自称部活?」
ア「あの部活は適当なことをでっちあげていると聞くデス。」
奈「愛麗さんごめんなさいですわ・・・昨日わたくしとアニメショップに行かなければこんなことには・・・」
麗「なんで奈摘が謝んのよ・・・あんたもあたしも悪くない、悪いのは嫌川先輩でしょ!」
環「それよりどうすんの。もしよければ環輝の力でこのデマ情報の真相を水晶学園のSNSに上げるけど。」
姫「いや、それだけでは意味がないような気がするぞ・・・」
その時、急に教室のドアが開いて誰かが入ってくる。
麗「こんな時に誰よ。」
嘉「鮫川先生やないの?もうすぐ朝のHRやし・・・」
エ「いや、違う。あの人・・・」
ミ「ここかしら?不倫の馬鹿どもがいる水晶学園の中でも最低の生徒が集まる教室って。」
入ってきたのはミシルであった。しかも複数枚新聞の原稿と思われる紙を持っている。
凛「あなた・・・愛麗と天宮城さんを嵌めて何がしたいんですか!?」
ミ「え?何言ってるの淫乱女の夜光さん。貴方も所詮低俗なビッチのくせに。」
凛「なっ・・・」
ミ「聞いたわよ。貴方黒い下着ばかり着けてるんですってね。生泉さんを誘惑するためかしら?そ・れ・と・も・・・貴方が淫乱なビッチ・・・」
麗「それ以上その腐った言葉を発する口を開くな!!!」
凛「愛麗・・・」
ミ「あらあら威勢のいいこと・・・それに他の1組のみなさん。貴方たちの悪徳情報も持っているから全部週刊誌部がばらしちゃおうかな~。」
水「卑怯な奴だな・・・そんな下らねえことをしようだなんて。」
ミ「卑怯は私にとって最高の褒め言葉なのよ!ありがとう!それじゃあね不祥事だらけの欠陥さんたち!」
ミシルは高らかにそういうと去って行った。先ほど持っていた複数枚の新聞の原稿を置き忘れるという大失態をして。
咲「新聞置いて行ったね。」
ア「この際新聞を調べてみるのはどうでしょうかネ。」
柚「捏造の手がかりが見つかるかもしれないよ。」
咲「レナちゃん、タマちゃん。調べられる?」
エ「もちろん。」
環「ちょうどパソコン持ってるし。」
2人は小型のパソコンとスキャナーをセッティングするとミシルがうっかり置いていった新聞を読み込んで分析し始める。
麗「何かわかった?」
環「まあね・・・この新聞デマ情報ばっかりだし。和琴の家の本屋は破損本しか置いてないとか、陽湖の実家西園寺家は先祖代々からの詐欺師集団だとか
咲綾の家の神社でお祓いすると逆に呪われるとか・・・どれもこれもこじつけでしかないし。」
エ「それに・・・この新聞に使われている写真全部画像加工されて都合のいいように作られている奴ばかり・・・」
水「それにしても、嫌川っていつ頃からこんな活動してたんだろうな?」
和「あたしたちが入学したころには週刊誌部なんて部活なかったはずよね。」
嘉「ということは過激な活動をしているのはごく最近なんやないの。」
奈「これを証拠として先生に提出すれば、学校条例第18条の「人を傷つけるような言葉、表現を用いた制作物を作成した者、部活には処分を科す」を基に嫌川先輩の停学と週刊誌部の廃部を求めることができますわね。」
咲「だけど、嫌川先輩って本気でこう言った新聞作っているのかな・・・」
櫻「どういうこと?」
咲「嫌川先輩の方でも納得できないことや理不尽なことがあって暴走してこんな捏造新聞を作っているんじゃないのかなって・・・」
姫「咲綾君は優しいのだな・・・だが、やっていいことと悪いことがあるし、これを見る限りだと嫌川先輩はやりすぎなのだ。」
奈「それに今回の新聞の内容から見ても・・・わたくしと愛麗さんにとっては名誉棄損もいい所ですわ。」
麗「デマだとしても、悪い噂には反射的に叩きまくるやつとか多いし、これがきっかけで奈摘に漫画のオファーが来なくなる可能性だってあるからね。」
柚「そうだね。ボクたちみたいな個人で色々やっていきたい人間にとって大事なのは信頼だからね。」
環「おっし、この新聞の写真をねつ造の証拠になるようしっかり加工できたし。これ先生の所に持っていけば
アンたちの側から証拠ありってことで嫌川先輩を訴えられるっしょ。」
環輝は加工が終わった捏造新聞を見てそう言った。
咲「私が分かりやすいように嫌川先輩の行為についてのメモ書き書いたからこれも一緒に出して。」
姫「いつの間にそんなものを作っていたのだ・・・」
エ「証拠はそろったけど・・・誰に提出する・・・?」
嘉「鮫川先生でええと思うよ。ウチらが酷い目にあったって言うたら真っ先に相談載ってくれる人やし。」
和「それにもうすぐここ(教室)に来るだろうし、厄介ごとは早いうちに済ませましょ。」
その後、朝のHRをやろうと思ってやってきた鮫川先生に全員で週刊誌部による捏造新聞とミシルからの嫌がらせについて伝えたのだった。
当然鮫川先生は静かながらに怒りを見せた。何か処分を考えなければならないな・・・と。
一方、新聞を置き忘れたことに気が付いたミシルは大急ぎで1組へ向かっていた・・・
ミ「まずい、あのクラス全員が得意分野に関しては全員が大学レベルの知識を持っているクラスだったの忘れてたわ・・・もしあの新聞を調べられて、教師に提出されたら一生の終わりよ・・・」
ミ「貴方たち、私の忘れ物・・・」
ミシルはそこまで言いかけて言葉を失った。なぜなら・・・すでに教室には鮫川先生が来ていて、愛麗たちから話をすべて聞いていたのだから。
奈「犯人は現場に戻ってくるってあながち間違いではないのかもしれませんわね。」
鮫「嫌川、こいつらから話は聞いたぞ。私のクラスの子たちを悪評した捏造新聞を書いて掲示板に張ったそうじゃないか。」
ミ「いえ、違うんです・・・浮気していた現場をたまたま見かけたんで正義のために・・・」
鮫「私はお前がやっていることはスクープを作りたいがために大げさな記事を作る週刊誌の記者と何も変わらない卑怯なやり方だと思うがな。
それに愛麗と奈摘は別に恋愛関係じゃないし、今回は2人に本当に浮気しているかどうかを確認もせずに新聞を作って報じたお前の方に非があるんじゃないか?」
ミ「報道の自由って言葉知らないんですか?」
鮫「今回の事は事実ではなくお前が勝手に勘違いして作った捏造なんだろ?それに咲綾の神社でお祓いをしていると呪われるとか、自分で確かめもしていない
ことも新聞に書いているじゃないか。私は前に咲綾の神社でお祓いをしてもらったことがあるが、特にその後呪いなんてかかったことなかったぞ。」
ミ「報道の自由は私にとってゆるぎない正義なのよ!」
鮫「報道の自由が正義か・・・だがお前の正義で愛麗と奈摘は言われもない風評被害を受けた。もし事実無言の話が周りに流れて2人の将来が閉ざされることになったり、
精神的苦痛となって漫画や小説が書けなくなってしまったらどうするつもりだったんだ?それでも私は間違っていない報道は自由なんだと高らかに叫び続けるのか?」
ミ「そうよ・・・ゴシップ記事を作るのは私にとって最高のこと。だから誰も不祥事起こさないなら捏造するしかないじゃない!」
鮫「嫌川、今お前がした罪を認めれば退学は免れる。3年間積み上げてきた知識を無駄にしなくて済むんだ。それでも・・・反抗するか?」
ミ「うっ・・・そんなにいい争いしたいなら勝手にすればいいじゃない!堅物優等生集団が!」
ミシルはそういうと新聞を取り返すこともなく教室から出て行った。
鮫「全く・・・困った奴だ。」
凛「鮫川先生、今回はありがとうございました。」
鮫「いや、私は教師として生徒を守るという当たり前のことをしたまでさ。」
その後、ミシルが話し合いに応じることはなかったので1組は彼女を訴えた。
結局ミシルは停学1ヶ月と週刊誌部の廃部を言い渡された。本人は不服だったようだが、水晶学園では上告などというシステムはないので、彼女はもう捏造記事を作ることもできないだろう。
それに加え、愛麗と奈摘の捏造記事を信じてしまった生徒たちの多くが1組に謝罪に来た。
場を荒した元凶の停学によって、しばらくはまた平和になりそうである。
ミシルが自宅謹慎を言い渡されてから数日後のこと・・・彼女は自宅で反省の色もなく新たな捏造記事を作っていた。
ミ「ふっふーん。あの学校も1組の連中もみんな馬鹿ね。私が捏造記事づくりを辞めるわけないじゃない。
水晶学園ではもう活動できなくなっちゃったけど・・・今度は街の掲示板で大騒ぎにしてやるわ。私の停学が解けたら覚悟しなさい・・・復讐でもしようかしら・・・」