愛麗の朝はそれなりに早い。なぜなら、生泉家の食事を作っているのは彼女だからである。
眠い体を起こして私服に着替え、洗面所に行って愛用のブラシで髪を梳かす。
麗「ふぁ~・・・うちはみんな遅勤務が多いからいいけど、もっと早く出勤する主婦は大変なんだろうなぁ・・・」
愛麗はそんなことを思いながら、ブラシで髪を梳かし続けるが今日はいつもと様子が違う。
麗「あれ・・・癖が治らない・・・」
愛麗の髪はお嬢様のような天然のウェービーヘアであり、癖が強い。そのためいくら梳かしても中々直らないことも多いのである。
麗「ああどうしよ・・・もういいや、今日は結んでいくか。」
愛麗は諦めたようにお気に入りのカチューシャを着けると、髪を耳より下で二つに分け結んだ。
麗「ちょっと和琴っぽいかな・・・まいいや、食事の支度しよっと。」
髪を結った愛麗はいつも通り朝食作りを始めたのだった。
朝食を作り終え水晶学園へ向かう途中、恋人兼幼馴染の凛世と遭遇した。
凛「あ、愛麗。おはようございます。」
麗「おはよう凛世。一緒に登校する?」
凛「はい・・・あら、今日は髪型がいつもと違うんですね。」
麗「ちょっと今日は纏まんなくて・・・変?」
凛「いえ、似合ってますよ。(すごくかわいいです・・・)」
麗「凛世みたいなストレートだったら癖の強さに悩まなくてもいいのかな・・・」
凛「ストレートですと纏まりが悪いので色々な髪型があまり楽しめないですけどね。」
麗「水着の時とか色々な髪型してるじゃん凛世。」
凛「あれはハードスプレーで固めたのを纏めてますから。」
麗「そうだったんだ・・・変なこと聞いてごめん。」
凛「いえ別に気にしてないです・・・困っているのなら少し短く切ってみるのは・・・」
麗「嫌嫌嫌!美容室怖い・・・」
凛「そうですよね。愛麗は小学校の頃のころから美容室苦手ですものね・・・」
愛麗は過去にクズな男性教師に無理やり髪を切られたことがあり、その時の恐怖から散髪に拒否反応を示すのである。
麗「分かってんならあんまり言わないで。それにしても、どうやったら髪を落ち着けることができんだろ・・・」
凛「学校に着いたら他の皆さんに聞いてみればいいのではないでしょうか?」
麗「それいいわね。さっそく聞いて見ようっと。」
愛麗は凛世と一緒に髪のケアについて友人たちに訪ねることにした。まず最初に聞いたのは2人と一緒にいることが多い和琴だ。
和「・・・へぇ。それでまずあたしなわけね。」
麗「そうなのよ。和琴は髪に気を使っていることとかある?」
和「うーんこれと言って何もしてないわね。あたしいつも三つ編みだから元々ストレートだったのが癖毛みたいになっちゃってるし。しいて言うのなら、夜はまとめて寝てるところかな。」
凛「磨伊さんは夜も髪を結って寝てるんですね。」
和「そーよ。2つに分けて纏めておけば次の日編みやすいのよ。」
麗「確かに一理あるかも・・・」
和「ってか長髪の女って普通そうやって寝てるんじゃないの。」
麗「あたしは纏めるのが大変だからそのままで寝てるわね。」
和「それがダメなんじゃないの・・・生泉はただでさえ天然ウェーブなんだからそんな感じのケアがより大切なんじゃないの?」
麗「纏めて寝ると癖付きやすいのよ・・・」
和「それもそうか・・・あたしがアドバイスできるのはこれぐらいね。それに髪の事ならあたしよりも適任者がいるんじゃない?」
麗「適任者・・・それって誰よ?」
和「ここで一番髪に気を使っているって言ったら・・・あいつしかいないでしょ。」
奈「・・・それでわたくしに話を聞きたいんですのね。」
和「天宮城なら、何か生泉にアドバイスできることがあるんじゃないかって思ってね。」
奈「確かにわたくしはいつも適切なツインテールを保つために髪の手入れはしっかりやっていますわ。
主なことはそうですわね・・・髪を解いたら、愛用のオイルを塗ってケアしていますの。」
麗「へぇ、オイルか。凛世も椿油でよくやってるんだっけ?」
凛「はい。塗りこんでしっかりつけると、つやつやになりますよ。費用の問題で毎日はできませんが・・・」
奈「ですが、オイルは髪によって相性があるのです。なので、自分の髪になじむものでないとあまり効果がありませんわ。
それにわたくしたちはロングヘア。髪に塗り込むためにはかなりの量が必要になってくるんですの。」
麗「奈摘はどういうの使ってるの?」
奈「わたくしは基本ホホバオイルを使ってますが、それがないときはオリーブオイル使っていますの。量も多めに消費してますわ。」
和「さすが金持ち・・・」
奈「あら、わたくしが金持ちとはいえオリーブオイルは高級品ではなくスーパーで手に入るものですわよ。
それに粗悪品でもなければ十分に効果があるんですの。今日からでもやってみたらどうでしょうか?」
麗「分かった、今日からやってみるよ。帰りにスーパーでオリーブオイル買っていかないと・・・」
和「良かったわねよさそうな方法が見つかって。」
凛「愛麗の悩みが解決したみたいでよかったです。」
麗「まあね・・・ちょっとまだ効果があるのか不安だけど。」
その日の夜。愛麗は浴室で奈摘から教わった通り、オリーブオイルを髪に塗って、しばらくなじませた。
麗「なんか気持ち悪い感覚だな・・・それにこれ油だからしっかり落とさないとだめなのよね・・・」
十分に時間をかけてなじませた後、油分が髪に残らないようしっかり洗って流した。もちろん乾かすのも忘れず念入りにドライヤーをかけた。
麗「うーん・・・これで纏まるようになるのかな・・・」
一通りのことをやったが、愛麗自身は髪に変化を感じられず半信半疑のまま寝床に着いた。
そして次の日。休日だが、いつもの感覚で朝早く目覚めてしまったようだ。
麗「朝か・・・とはいっても今日は休みだからいい・・・そうだ髪!」
愛麗は寝起きのまま自分の髪に触れてみる。
麗「今日は広がってない。よかった・・・それに髪も少し滑らかになってる。奈摘にお礼しなくっちゃ。」
愛麗はスマホを手に取ると、奈摘へ電話を掛ける。
奈「はい、わたくし奈摘ですわ・・・朝早くからどうしたんですの愛麗さん。」
麗「あ、奈摘起きてた?オイルパックすごく効果あったのよ。だから今日は少しお礼がしたくて、時間ある・・・?」