愛麗は気づいたらその場所にいた。その場所はビルの屋上のような場所だった。
麗「ここは・・・?」
見慣れない場所、見慣れない風景。それが彼女の心を掻き立て不安にさせる。
その時、ビルの内部につながっていると思われる扉から屈強そうな男たちが何人も出てくる。
麗「誰!?」
?「生泉愛麗だな・・・お前を見つけ次第精神を破壊してから殺すように言われている。悪く思うなよ。」
一番前にいた男がの方へ突撃してくる。しかし彼女を突き飛ばすのではなくなぜか捕まえた。」
麗「離しなさいよ!あたしをどうするつもり!?」
?「静かにしてろ!どうせお前は死ぬんだからな。」
男はそう言うとナイフを取り出し、彼女の髪にあてがう。そして・・・
ザクッ・・・
一気に切り裂いたのだった。
麗「あ、あたしの髪が・・・」
髪を切られたことで心がショックを受け、目から自然と涙がこぼれる。
愛麗はかつて小学校の頃の担任教師に無理やり髪を切られてからは散髪が大嫌いで、バリカンの音を聞くだけで固まってしまうほどである。
?「ふん、無様だな。これぐらいでいいだろ。この切られた髪もろともさっさと死ね!」
男はの身体を掴み上げ、先ほど切り裂いた髪と一緒に屋上の柵の外へ放り投げた。
投げられた愛麗はビルの屋上から地上に向かってまっさかさまに落ちていく。
麗「きゃあああああああああああああ・・・」
麗「あああああ!!!」
叫び声とともに彼女は目覚めた。身体には非常に汗をかいており、特徴のウェーブロングヘアは風呂に入ったわけでもないのにしっとりとしている。
時間は真夜中の3時。通常であれば彼女が目覚めない時間帯だ。彼女は悪夢を見ていたようである。
麗「夢・・・夢だったの・・・?」
手を頭の後ろにあてがう。髪は切られておらずちゃんと愛麗の後ろにあった。
麗「ううっ・・・怖い・・・怖いよ・・・」
愛麗は髪が切られていなかった安心感と悪夢の恐怖から泣き出してしまう。そこにいつもの気の強そうな彼女の姿はなかった。
麗「辛いよ・・・苦しいよ・・・」
すすり泣きながらも枕元にある愛用のタブレット端末を手に取り、電話アプリを起動して誰かに発信した。
その頃、愛麗が通話をかけた相手・・・和琴は眠っていた。こちらはいい夢を見ているのか寝言を言っている。
和「これが騎ノ風市の歴史がすべて書かれた伝説の書物・・・早速うちの書庫に加えなきゃうふふ・・・」
その時愛麗が発信した電波が届き、携帯の着信音とバイブがけたたましく鳴り出す。
和「ん、電話が鳴っているということはもう朝か・・・」
和琴は目を覚ますと携帯電話を確認する。時刻は3時00分と表示されており、画面には着信中 生泉愛麗と表示されていた。
凛「何よまだ夜じゃない、ったく誰から着信よ・・・相手はっと・・・生泉?あいつどうしたんだろ。」
和琴は通話ボタンを押して、電話に応答する。
和「生泉?こんな夜中にいったいどうしたのよ?」
麗「苦しいよ・・・怖いよ・・・」
和「(!?明らかに反応がおかしいわね・・・)どこか痛いの?」
麗「そういうのじゃないんだけど・・・怖い夢見てて急に悲しくなってきて、気が付いたら電話アプリを起動して凛世に発信してて・・・あれ?凛世じゃないの?」
和「悪かったわね夜光じゃなくて。だけど、心理的な苦しみならあたしで良ければ話聞くわよ。そういうの得意だし。」
麗「うん・・・ありがとう。」
愛麗は和琴に電話越しでいろいろと話をした。悪夢を見てしまったことで怖くて悲しい気持ちに陥ってしまったこと、髪を切られた夢を見たことでトラウマを思い出してしまったこと。
誰かに今のつらく苦しい気持ちを聞いてほしいと思って電話したこと、本来は凛世に電話を掛けるつもりだったが慌ててかけたこともあって和琴にかけてしまったことなど・・・
和琴もカウンセラー活動を普段からやっているだけあって、普段の言動からは想像もつかない優しい相槌で愛麗の話を聞いてくれた。
麗「それで、ビルの屋上から突き落とされたところで目が覚めて・・・起きたら怖くて悲しくて・・・」
和「そうだったのね・・・生泉、悪夢っていうのは精神状態が悪いと一時的にみることが多いの。だけどあんたは一人じゃない。
夜光や神宿、天宮城や雷久保だっているでしょ。もちろんあたしだっているわ。また怖い夢見たら言いなさい。あたしたちが一緒にいてあげるから。」
麗「うん・・・うん・・・」
和「あたしたちは知ってるから。生泉が強気なのは昔からあたしたちを守ろうと少しだけ無理しちゃっているだけだってこと。」
麗「ありがとう和琴・・・ちょっと落ち着けた。」
和「良かった。もう大丈夫?」
麗「うん、こんな夜中に電話しちゃってごめん。おやすみなさい。」
和「そう。ならおやすみなさい。」
和琴は優しくそういうと、愛麗との通話を切った。和琴と話をしたことで愛麗の気持ちは憑きものが落ちたかのようにすっきりしていた。
麗「・・・眠くなってきたなぁ。次は怖い夢見ませんように。」
愛麗はそんなことを考えながら眠りについた。次第に意識は闇に落ちていった。
そして次の日。愛麗は地下書庫で夢のことにそれなりに詳しい苺瑠に夢の話を話してみることにした。
麗「・・・という悪夢を見たんだけど苺瑠から見てどんな感じに思う?」
姫「髪を切られてビルから突き落とされる夢か・・・髪っていうのは夢の定義では健康・精神状態を表していて、
ビルから突き落とされるというのは今自分が自信を無くしているっていう兆候があると言われているのだ。」
麗「そうなんだ・・・」
凛「愛麗が最近自信を無くしているものって何かありますか?」
麗「特にない・・・あ、あれかもしれない。」
姫「何か心辺りがあるのか?」
麗「この前数学検定準1級の資格試験受けたんだけど回答をずらして書いちゃって不合格になって・・・それが原因かな?」
姫「症状としては軽いようなきもするが、愛麗君がそう思うんならそうなんじゃないだろうか。」
凛「何か、悪夢を避ける方法はないんですか?」
姫「そうだな・・・」
和「好きなものの写真を枕の下に入れると好きな夢が見られるって話があるけど、あれはどうなの?」
姫「確実に効果があると証明はされていないが、試してみるのは悪くないのではないか?」
凛「他に方法はないんですか?」
姫「そうだな・・・あとはリラックスした状態で眠るといいらしいのだ。」
麗「リラックスかぁ・・・最近一番忘れてたかも。」
和「なんだかんだで水晶学園は忙しい場所だからね。」
姫「あとは明晰夢を獲得すれば自分の好きな夢を見られるようになるって言うぞ。」
麗「明晰夢かぁ・・・ありがとう苺瑠。色々試してみるよ。」
姫「少しでも力になれたのならよかったのだ。」
凛「それにしても愛麗・・・なんで悪夢で怖いときに私ではなくて眞武さんに電話したんですか?」
麗「あ・・・最初は凛世にかけたつもりだったんだけど、間違えて和琴に発信しちゃって・・・」
和「あの時の生泉可愛かったわよ。普段からは想像できないような可愛らしい声で・・・」
麗「それ以上いうな!!!」
凛「羨ましいです・・・私も悪夢見て怖がった愛麗の話を優しく聞いてあげたいです・・・」
麗「ごめん、今度は真っ先に凛世に電話するからさ。」
凛「ありがとうございます。愛麗大好きです!」
凛世はいつものように愛麗に抱き着く。
麗「(凛世の胸が腕に当たって緊張しちゃう・・・)」
和「全く、相変わらずラブラブなんだから・・・」
姫「だけど大切な人が自分のことを思ってくれているということ、それはとても幸せなことだと思うのだ。」
和「そうね。生泉には夜光はもちろん、あたしたちもついているしもう悪夢にも負けたりしないんじゃないかしら。
もし怖くなってもあたしたちが一人じゃないってことをしっかり教えてあげればきっと大丈夫だと思うわ。」
姫「今気づいたが、我たち今日はいい争いせずに普通に話しているな・・・」
和「そういえばそうね。たぶん生泉と夜光のおかげかもね。」