騎ノ風市の名物

ある日のHR。今日も1組の教室ではいつも通りの連絡事項が伝えられていた。
鮫「それでは今日の連絡は以上とする。だが最後にもう一つ。今日はみんなに話があるということである方が来ている。さ、入ってください。」
鮫川先生がそういうと教室のドアが開き女性が入ってきた。その女性はなんと・・・
咲「崇子さん!」
崇「お久しぶりね皆さん。」
教室に入ってきたのは騎ノ風市の現市長である大王崇子であった。1組のメンバーはかつて彼女の前に市長をしていた前市長に騙された際に知り合った。
麗「それで、崇子さんがあたしたちに用事って何ですか?」
崇「それなんだけど・・・今度新しい祭りの企画を考えていてね、そこで騎ノ風市の名物を前面に押し出したお祭りにしようと思っているの。」
凛「素敵ですしいいと思いますよ。ですが・・・騎ノ風市の名物って何かありましたっけ?」
水「人形じゃないのか?」
柚「それは鴻巣の名物だよ水萌ちゃん。勝手に隣の市の名物持ってきたらだめだよ。」
エ「・・・かき氷とか。」
和「それは熊谷の名物よ鷲宮。」
姫「ゼリーフライじゃないのか?」
奈「それは行田の名物ですわ・・・」
陽「こいのぼりとかぁ?」
咲「はるちゃんそれは加須の名物だよね・・・」
環「梨は?」
ア「それは久喜の名物デハ・・・つまり騎ノ風市にはこれといった名物がないということなのデスかね?」
崇「そうなのよ・・・この企画を立ち上げておいて何なんだけど騎ノ風に所縁のある貴方たちなら何か知ってるんじゃないかと思って。」
和「特に何も聞いたことないわよね・・・地酒とかなら探せばありそうだけど。」
嘉「住みやすい街騎ノ風にはこれと言った名物が無かったんやな。」
麗「・・・あ、あれがあるじゃん。」
崇「生泉さんそれって何?聞かせてくれない。」
麗「あれだよあれ。水晶。」
崇「水晶?・・・国立公園の湖に刺さっているあの巨大水晶の事?」
麗「そうよ。あれを名物にしないなんてもったいないと思う。」
環「あれか~!いいと思うし。」
和「ナイスアイデアよ生泉!」
崇「ならその水晶について私に詳しく聞かせてくれ・・・」
鮫「あー私から紹介しておいて盛り上がっている所すまないが・・・そろそろ授業を始めたいから、続きは放課後にお願いできませんか?」
崇「あら、私ったら・・・授業が始まるのに時間取ってしまってごめんなさい。一旦市役所に戻るから続きは放課後に聞かせてもらえる?」
麗「いいですよ。放課後になったら、この学校にある第三ミーティング室に来てください。先生、第三ミーティング室の利用予約入れておいてね。」
鮫「分かった。私から言っておこう。」

そして放課後。第3ミーティング室を訪れた崇子はすでに集まっていた1組全員から話を聞くことになった。
崇「それじゃさっそくだけど・・・あの水晶の事について知っていることを教えてもらえるかしら。」
麗「国立公園に刺さっているあの水晶は色々な言い伝えがあるけど、数百年前に宇宙から落ちてきたと言われているの。」
凛「さらにその水晶が墜落した場所にいつの間にか水が湧き出して、湖になったそうです。」
和「その水晶の下には鍾乳洞があってね、そこの水晶を掘り出し加工することによって騎ノ風市はここまで発展することができたそうよ。」
柚「そのおかげで今では水晶が騎ノ風市の名物として様々な形で土産物になったりしているんだよ。ネックレスとか置物とかね。」
崇「そういえば私も特産品で見たことあるわ。騎ノ風に来てもう5年近くたつのに気付かなかったなんて・・・」
水「崇子さんが来るまでにアタシたちで話し合ったんだけど、水晶で像を造って展示したらいいんじゃないかって思ってさ。」
姫「北海道の雪まつりのような感じでな。水晶で造られているから解ける心配もないのだ。」
崇「いい案ね!・・・だけど、造った像を保存しておけるような場所がないのよね。」
奈「お祭りが終わったらわたくしの家の敷地内の倉庫で厳重に保管いたしますわよ。」
崇「そこまでしてもらっちゃっていいの?」
奈「ええ。わたくしの家は広いですので。」
崇「天宮城家の皆さんには資金面でいろいろお世話になってるけど・・・ありがとう。」
凛「次にどのような像を作るかも決めたほうがいいですよね?」
柚「その前に像を造ってもらう職人さんが必要なんじゃないの?」
麗「確かにあたしたちで造れるものじゃないからね水晶の像なんて・・・崇子さん、宛てはあるの?」
崇「そうね・・・騎ノ風市中の職人さんたちに声をかけて協力を募ってみるわ。それと、皆にも少しお願いがあるの。」
咲「どんなことですか?」
崇「貴方たちに像のデザインを考えてもらいたくてね。この学校は芸術力に長けた子が多いっていうし・・・お願いできる?」
咲「みんな、どうする?」
麗「それぐらいならいいんじゃないの?芸術が苦手な子は芸術が得意な子がフォローすればいいと思う。」
柚「発想力を鍛えるのにもちょうどいいんじゃないかな。」
姫「なんか楽しそうなのだ。」
咲「みんな協力してくれるそうなのでデザインは任せてください。」
崇「ありがとう。私は早速市役所に戻って職人さんたちを手配してくるわね。」
崇子はそういうとミーティング室を飛び出していった。
柚「ボクたちは早速像のデザインを考えよう。今回は新しい考え方を見つけるために普段あまり接さない組み合わせで考えてみようか。」
陽「それいい案だねぇ。グループはいくつに分けるのぉ?」
奈「わたくしたち13人ですし4人を3つのグループに分けるぐらいでいいのではないでしょうか?」
和「それと、今回はあまり深い関係を持ってないメンバー同士でやってみるのがいいんじゃないかしら。なんか新しい考えを思いつくかもしれないし。」
凛「えっ・・・ま、まあいいではないでしょうか。」
和「(夜光の奴明らかに動揺したわね。)」
環「んー。じゃあアンが作ったこのPC電子くじで抽選するし。エンターキー押すと1から3の番号が出るから出た番号のグループが所属ね。」
杏子はノートパソコンを取り出しながらそう言った。
麗「それって大丈夫なの?」
環「自信作だから心配いらないし。」
全員で順番にくじを引くと意外なことにグループは綺愛麗に別れた。
陽「それじゃあ、らっちゃんのグループ1、さあちゃんのグループ2、わたしたちのグループ3で話し合いをそれぞれ始めてねえ。」
凛「愛麗と違うグループになってしまいました・・・ちょっと残念です。」
麗「凛世はあたしがいなくても大丈夫よ。それにしてもすごく綺愛麗に別れたわね。」
環「アンがこっちで遠隔操作したから。愛麗が引くときは1、凛世が引くときは2になるようにってね。」
杏子は小型のリモコンをこっそりと愛麗に見せてそう言った。
麗「やっぱり裏があったのね。全く・・・」
愛麗は少し呆れながらそう言ったのだった。

裏では色々あったものの、綺愛麗に別れた3つのグループごとに像のデザインの話し合いをし始めた。
グループ1 愛麗、嘉月、唯音、水萌
麗「じゃ、あたしたちのグループで像のデザイン案を出していくわよ。うちは美術に強い唯音がいるし、唯音中心で案を出し合っていこう。」
柚「ボクは絵を描くのが好きなだけでこういうのはあまりやらないんだけどね。」
水「前にエンブレムのデザインとか引き受けてなかったっけか?」
柚「あれは像とはまた違うからね・・・」
嘉「像のコンセプトはどんなのや?題材は何でもええの?」
麗「水晶で造るわけだし・・・ビルとかどう?」
水「ビルを像として造っても味気なくないか?」
柚「なら太陽とかどうかな・・・」
嘉「太陽かぁ・・・水晶でできた太陽ってロマンチックやな。」
麗「太陽かぁ・・・悪くないと思う。候補に書いとくね。他には?」
水「人が入ることができるドーム状建物を造るのはどうだ?そこで飲食物販売するとかさ。」
柚「屋台の代わりにドームで食べ物を売るってことだね。それは十分有りだと思うよ。」
麗「それも書いておこうか。他になんかある?」
嘉「流れ星とかどうや?国立公園は流星群や流れ星が見えやすい傾向にあるやん。」
麗「流れ星ね。太陽と対になっていいと思う。それにしてもなんで流れ星なんて急に・・・」
嘉「愛麗ちゃんのヘアアクセ見てたら思いついたんや。」
水「ああ確かに・・・今日愛麗は星のヘアゴムで髪結ってるから普段から着けているカチューシャと合わせて見ると流れ星っぽく見えたんだな。」
嘉「せや。」
麗「これは別に流れ星を意識したつもりはないんだけど・・・まあいいや。これで意見は出そろったかな?」
柚「そうだね。他のグループの案もあるだろうから3つも意見が出れば十分だと思うよ。」
麗「それじゃ、あたしたちのグループの意見はドーム、太陽、流れ星ってことでまとめておくからね。」

グループ2 咲彩、杏子、環美、和琴、ラニー
咲「私たちはどんなの考えよっか?」
凛「そうですね・・・騎ノ風の生産量の高い食品を像で表現するのはどうでしょうか?」
環「この市の名産の食品ってなんかあったっけ?」
和「蕎麦とかどうかしら?」
凛「あの・・・それって私の家の蕎麦ですか・・・?」
和「そうよ。夜光の家の蕎麦美味しいじゃない。」
凛「確かにいいかもしれませんが、うちは蕎麦の生産をしているわけではないんですよ?」
環「それに蕎麦が名産だなんて聞いたことないし。凛世の叔父さんがそば作りうまいってだけじゃん。」
和「確かにそれもそうよね・・・」
凛「私の意見出してもいいですか?水晶で楽器を造るのはどうでしょう?」
咲「楽器?具体的にはどんな楽器を造るの?」
凛「バイオリンとかサックスのようなクラシックの楽器です。普通の楽器は金属でつくられていますが水晶で作ることによってとても立派な芸術作品になると私は思います。」
咲「それじゃ、楽器を案の一つとして挙げておくね。他に何かある?」
和「そうね・・・あえて車とか作ってみるのはどう?好きな人多いだろうしさ。」
環「車いいじゃん。車マニアが喜んで見に来そう。」
咲「車種とかは崇子さんたちに任せるとして・・・像の案はこれぐらいでいいかな。」
凛「はい、二種類も出せれば十分だと思いますよ。ほかの班が出した意見もあるでしょうし。」

グループ3 奈摘、苺瑠、陽姫、エレナ
奈「早速制作をする水晶像についてわたくしたちも話し合っていきましょう。」
姫「動物系はどうかな?像としても立体感が出せていいような気がするのだ。」
陽「いいねえ。どんな動物かなぁ?」
姫「勇猛果敢な闘牛バッファローとかどうなのだ?」
エ「あえてライノンや虎や熊を出さずにバッファローを出すその意見いい・・・私だったら即採用。」
奈「ならそれは決まりですわね。それとわたくし今いい案を思いつきましたわ。」
姫「うむ、なら発表をお願いするのだ。」
奈「巨大な本をオブジェにするのはどうでしょう?騎ノ風市図書館は蔵書の数がかなり多いですし、資料の豊富さをアピールするのにもいいと思いますの。」
陽「あまり目がいかない所に目をつけるなんて奈摘ちゃんはさすがだねえ。」
エ「本のページがめくれるギミックがあると面白そう・・・」
姫「材料が水晶だしそこまでは造れないだろう。だけど、水晶でできた本って面白そうなのだ。この意見は採用でいいんじゃないかな?」
奈「では、わたくしたちの班はこれぐらいで終わりましょう。出しすぎても崇子さんたちの制作が間に合わなくなると思いますもの。」

その後、各グループで出し合った案を全員で集計した。
咲「グループ全体で出た案は7つだね。太陽、流れ星、ドーム、楽器、バッファロー、巨大な本、車。これで全部かな。」
麗「全部で7つだけどこれぐらいで良かったのかな・・・」
凛「まあ、国立公園は広いですし7つぐらいなら置けると思いますよ?」
姫「むしろ公園の広さから考えると足りないのではないだろうか・・・」
水「ドームを複数造ればいいだろ。ドームごとに飲食、土産販売みたいな感じで分ければいいさ。」
エ「それにあの公園は広いとはいえ、たぶん像を置けるのは湖の手前にある広場だけ・・・」
ア「つまりは、たくさんあっても置けないということデスね!」
陽「これだけ出たんだから崇子さんに送ってみようかぁ。」
陽姫は決定案を書いたホワイトボードを撮影し崇子にメールで送った。
陽「これでしばらくすれば返事が来るはずだよぉ。」
柚「陽姫ちゃんなんで崇子さんのメールアドレス知ってるの?」
陽「おじいちゃんとの関係で市役所に行ったときに教えてもらったんだよぉ。」
水「すごいな西園寺家は・・・」
そんな話をしていると崇子からメールの返事が帰ってきた。
陽「あ、返事帰ってきたよ。ええと、「みんなありがとう。どれも素晴らしい案だと思うわ!職人さんたちとも連絡が取れたから、全部作らせてもらうから!」だって。」
柚「返事帰ってくるの早いんだね。さすが市長だよ。」
陽「それとお祭りは1か月後に国立公園でやることに決まったんだって。」
凛「ですが1ヶ月弱で水晶像作れるんですかね・・・?」
陽「メールに書いてあるけどもうすでに着工の準備始めてるって。」
和「そんなに早く着工するならもっとたくさんの案を出しておいた方が良かったかしら・・・」

そして1か月後・・・祭り会場である騎ノ風国立公園広場には水晶でできた像がいくつも並んでいた。
像のデザインは中央に太陽の像が置かれ、その周りに流れ星、バッファロー、楽器、本、車の像が配置されている。その手前にはいくつかの水晶でできたドームが設置されており、中は特設のレストランや土産物屋が営業していた。愛麗たちも特別協力者として崇子から祭りに招待されたので来ていた。
麗「たった1ヶ月でここまでできるなんてすごすぎでしょ・・・」
咲「職人さんたちも忙しかったんじゃないかな。」
ア「水晶がキラキラ輝いていて、まるで雪が降っているロシアに帰ってきたような気分デス!」
奈「わたくしたちの案がこれでもかとばかりに形になっているのを見ると信じられませんわよね。」
陽「ええと、崇子さんは・・・あ、あそこにいるよぉ。」
崇「あ、皆!像のデザイン考えてくれて助かったわ!」
崇子は本部テントの代わりに設置されたと思われる小型のドームの中にいた。
崇「いやー貴方たちが象の案を出してくれたおかげで政策もスムーズに進んでね。こんなに立派な祭りになったのよ。」
環「それにしても、1ヶ月でこれだけの水晶像どうやって作ったわけ?」
崇「それは企業秘密ってことで。それよりも、良かったら色々料理も考えたからここで食べて行ってよ。」
凛「料理って、何の素材を使ったんですか?」
崇「食べてからのお楽しみよ。ささ、皆底のテーブルに座って!」
崇子は愛麗たちをあらかじめ準備しておいたと思われるテーブルに案内した。テーブルの上には何かが注がれたお椀が用意されている。
水「なんだこれ・・・スープか?」
環「ちょっと食べてみるし。」
杏子は謎のスープを少し口に運んで食べた。
環「これ・・・寒天スープ?」
崇「正解!寒天も水晶のように透明だから、名物にするのがいいんじゃないかなって会議で話し合ったのよ!」
和「元々寒天はこの市ではそれなりに作られているけど名物ってほど紹介されているわけでもなかったわよね。」
奈「そもそも寒天自体は長野や岐阜のような山奥の町で造られることがほとんどですわよね?」
姫「それでこれを機に寒天を名物にするということなのだな。」
崇「そうなのよ。(とはいっても寒天の素材であるオゴノリ自体は長野や岐阜から取り寄せたものだけどね・・・)」
陽「このスープも深みがあってわたしは好きだなぁ。」
崇「このみんなに今食べてもらったのはコンソメ味なんだけど、しょうゆ味やシーフード味やみそ味も今開発しているの。」
麗「あたしはいいと思う。ブロック状の寒天をスープにすることによって春雨スープとはまたちょっと違う感じが出てておいしい。」
柚「使われているのが麺状の寒天じゃなくてブロック状の寒天を使っているっていうのがポイントだね。」
凛「最初に食べたときは意外性を感じましたが・・・美味しいですし商品化を考えてもいいのではないでしょうか?」
咲「私たちは新しい名物誕生の瞬間に立ち会ったんだね。」
崇「もう少し商品改良を進めたら、絶対売り出してこのお祭りと一緒にこの市が誇る名物にするわね!」
こうして、騎ノ風市には新たなイベント水晶像祭りと新たな名物寒天ができたのであった。
その裏には市の働きかけだけでなく1組生徒たちの協力があったことを知るのは市長である崇子と生徒たちだけなのである・・・