ある日の放課後。愛麗は凛世と奈摘と柚歌と一緒に下校していた。
麗「それにしても柚歌があたしたちと一緒に帰るなんて珍しいわよね?」
柚「ボクは家が3人とは少し違う方向だからね。今日は駅近くの店で買い物が少しあるから一緒に行かせてもらったけど迷惑だったかな?」
奈「そんなことありませんわ。わたくしたちは誰でも大歓迎ですわよ。」
凛「大勢の方が楽しいですしね。」
家に向かって歩く愛麗達。そんな彼女たちに声をかける人物がいた。
?「あなたたちちょっと時間取れない?」
麗「誰よ・・・急に話しかけないでくれる?」
?「ちょうど貴方たちみたいな子たちを探していたの!」
話しかけてきたのは20代後半ぐらいの女性で明るそうな雰囲気だった。
凛「・・・何か用ですか?」
奈「わたくしたちはこれから少し用事があるのですが・・・」
?「じゃ私もその用事がある場所に連れてって。話はすぐ終わるからさ。」
麗「あんたみたいな人のことだしどうせろくな事じゃないんでしょ?」
凛「そうですね。貴方のような人をうかうかと信用するわけにはいきません。」
?「お願いよ・・・どうしても貴方たちが必要なの!」
奈「急に話しかけて勧誘してくる時点で怪しいですわね・・・」
?「話だけでも聞いて行ってよ。そこのカフェ入ってさ、今事業が儲かってるしお金に余裕あるから奢るし!」
女性は愛麗たちを無理やりカフェに誘い込み事業の話を始めたのだった。
?「私は黒鷺千砂。こういう事業をやっている会社の代表よ。」
黒鷺千砂は愛麗たちにポスターを見せる。そこにはコミュ障改善プロジェクトと書かれていた。
柚「コミュ障改善プロジェクト?そんなことできるの?」
千「もちろん。今いる貴方たちで言えば・・・黒髪の子と金髪の子はコミュ障に当てはまるんじゃない?」
凛「意識したことないですけどそうなのですか?」
千「そうよ!現代ではコミュ障は犯罪なのよ!」
柚「ちょっと待ってよ、それは言い過ぎ・・・」
千「言い過ぎなんかじゃないわ!実際、人扱いさせてもらえないじゃない。それに黒髪の貴方はオタク臭いわよ。そのうち彼氏ができたら困るわよ?」
凛「私の恋人は愛麗なんですけど・・・それに私の学んでいる音楽は若い人が好きなJ-popですし。」
千「いや、同性愛は認められるものじゃないわ。それにJ-popにはアニソンだって含まれているわ。貴方にだっていずれ彼氏ができるのよ!」
麗「・・・なんか幻滅した。あんた仮にも社長のくせに昭和臭い固定概念みたいな考えになってるわね。」
柚「別にアニソンだって立派な音楽だとボクは思うけど。」
千「黙ってて!これは貴方のためを思ってまともに更生させるためにプロジェクトを紹介しているのよ?」
凛「私がまともじゃないのは分かってますけどそこまで言わなくたって・・・」
千「いいえ、私はあえて厳しく言わせてもらうわ!そのままじゃ将来結婚した時も仕事するときも苦労するに決まってる!」
奈「なぜあなたは決めつけをするんですの?仮に凛世さんがコミュニケーション障害だとしても未来にはそれを気にしなくてもいいような社会が出来上がる可能性だってありますのよ?」
千「だからと言ってそういった社会が出来上がらない可能性だってあるんじゃない?だったら弱い部分を矯正した方がいいと思うわけよ。だから、プログラムだけでも受けてみて。これはあなたのためを思って言ってるのよ凛世ちゃん!」
凛「そう・・・ですか。私にそう言った自覚はないのですがそういうのでしたらやってもかまいません。」
麗「凛世!こんな怪しい話に乗ったらだめよ!」
柚「そうだよ。まだプロジェクト段階なんだから安易に話に乗ったら向こうの思うつぼだよ・・・」
凛「いえ・・・私は少し積極的になった方がいいのではないかと最近思いますし・・・もしこのプロジェクトが良いものであるのなら改善できる可能性もありますから。」
麗「凛世・・・」
凛世は不安そうな目を向ける愛麗たちにこっそり耳打ちをした。
凛「・・・大丈夫です。私この話を聞いて黒鷺さんのプロジェクトが詐欺だった場合・・・陥れる方法を思いついちゃったんですよ。」
奈「そうなんですの?」
凛「ええ・・・なのでそんなに心配しなくたって問題ないですよ?」
千「何をこそこそやってるのよ・・・だけどまあいいわ。じゃ、明日の夕方ここで待ってるから来なさいよね!」
千砂は名刺を置き、来てほしい場所を伝えると足早に喫茶店から去って行ってしまった。
柚「ちょっと、お会計まだじゃない・・・」
奈「おごるなんて嘘だったんですのね。」
麗「ほんとあんな嘘つき社長のやっている会社なんかすぐ潰れるわよね・・・凛世、明日あいつのとこ行くなら救援頼んどく?」
凛「そうですね、お願いします。」
そして次の日の夕方・・・千砂の指定した場所に愛麗たちはやってきていた。そこはスタジオのような部屋だった。
千「よく来たわね凛世ちゃん!それにしてもなんでギャラリー多いのよ。」
麗「あたしはまだあんたのこと信用したわけじゃない。凛世に変なことしたら許さないから。」
柚「このプロジェクトがまともだっていうのならボクたちがいたところで怒ったりしないと思うんだけどなぁ。」
奈「スタジオみたいな部屋ですけど・・・何か収録でもするんですの?」
姫「こんな安っぽそうなアパートの一室にいろいろな機材があるな・・・怪しさ満点なのだ。」
嘉「せやなぁ・・・一般的なのには及ばへんけどスタジオっぽさあるなぁ。」
凛「皆さん私の用心棒として参加していただきました。いいですよね黒鷺社長?」
千「ぐぬぬ・・・勝手にすればいいわ!あ、そうだ。今回のコミュ障矯正プロジェクトには金髪のあなたも参加して。」
奈「わたくしもですの?」
千「調べたけどあんたもオタクだしアニメの事になると早口でまくしたてるキモイ奴なんだからコミュ障でしょ。さ、早くしなさい!」
奈「(わたくしはそんなことしたこともないですわ・・・それにしてもなぜわたくしの個人情報を・・・)」
千「それじゃさっそく始めるわよ・・・まずは凛世ちゃんからね。この台本に書かれている言葉をしゃべって。」
千砂はそういうと凛世に台本を渡す。
凛「はい、ええと・・・何ですかこれ・・・」
凛世が驚くのも無理はない。その台本には男性とデートしているような雰囲気の女性の台詞が書いてあったのだから。
千「コミュ障を矯正するには疑似であっても異性との恋愛が一番なのよ!さ、早くマイクに向かって読みなさい!」
凛「ええ・・・何ですかその無理やりな理由づけは・・・分かりました読みますよ・・・あの、待たせちゃってごめん。え、今来たところなんですか良かった・・・」
凛世は男があまり好きではないためセリフを読むだけでものすごく不快感を感じていた。それは聞いている愛麗たちにも伝わっていた。
一方の千砂はそんなことなど知る由もない。手元にあるパソコンを操作しながら凛世に向かって怒鳴り散らす。
千「ちょっと!そんな気持ちのこもってない読み方でコミュ障が治るとでも思ってんの!?」
凛「はっ、はいい・・・今日はどこへデートに行く・・・?」
千ヶ崎の気迫におどついてしまう凛世。しかし、千砂はパソコンの置いてある机から立ち上がると、凛世の左胸を鷲掴みにする。
凛「ひっ・・・」
千「な・め・て・ん・の?これはあんたのために必要だから私がわざわざ時間を割いてやってやってんだからさっさとしな?」
麗「あんたいい加減にしないさよ!さっきから凛世を傷つけるようなことばかりして!」
柚「そうだよ、ボクから見ても凛世ちゃんはコミュ障じゃないと思うよ。」
姫「そうなのだ。それに我はコミュ障という言葉自体があまり好きではない。なぜならこの言葉はコミュニケーションが得意だが性格の悪い奴らが不得意な一部をマウントするために作られた考えにしか思えんよ!ほんとのコミュ障は本音で語り合えない貴様の方なのだ!」
千「あんたたちには関係ないでしょ?これは私と凛世ちゃんの問題。口出すな!」
千砂は鷲掴みした胸にそのまま力を込めて凛世を突き飛ばして壁に叩きつける。
凛「皆さん・・・この収録が終わるまで待っていてください。絶対に終わらせますから・・・」
麗「凛世・・・」
奈「凛世さん、無理はなさらないでくださいまし。」
凛「分かってますよ。」
その後凛世は2時間近くの時間をかけ、ようやく収録を終わらせた。
千「はい、これで収録は終わりよお疲れ様。少しはコミュ障治ったんじゃない?」
麗「凛世お疲れ・・・大丈夫?」
凛「はい・・・ですがこんなにたくさんの台詞・・・しかも殿方とのスキンシップの台詞まで撮らされてつらかったです・・・」
ここでは描写していないが凛世がしゃべった収録の中には性的な表現を多く含むいわゆる18禁的な内容も含まれていたのだ。
千「ふう、これでまた社会不適合者を一人矯正できたのね・・・すがすがしいわ・・・」
姫「すがすがしいって・・・貴様がやっていることは自己満足の押し付けに過ぎないような気がするが。」
嘉「これがコミュ障矯正プログラムやなんて胡散臭いにもほどがあるで。」
千「うるさいわね。エロ全開の台詞を話させてコミュ障を治す。これが私のやり方なのよ!さ、次は金髪のあなた・・・奈摘ちゃんだっけ?早く準備しなさい!」
奈「分かりましたわ・・・」
奈摘も千砂から同じような指導を受けた。だが、さすがは萌え系の漫画家。凛世とはまた違ったものであったが、台詞をすらすら喋り収録は30分で終わった。
千「すごいわ・・・夜光さんと違ってうまいのね。」
奈「これぐらいの描写なら時折成人よりの漫画で書いてますもの。(感情を入れたつもりは一切ないですが)」
千「よし、これで私は大儲け・・・」
麗「大儲け?」
姫「貴様なにかしようとしているのではないか?」
柚「まさか、2人の録音した声で商売するとかかな?」
千「そっ、そんなこと考えてるわけないでしょ!?これは私が人のためを思って立ち上げたプロジェクトなのよ!?さ、今回の利用料は無料でいいから今日はもう帰ってね!」
千砂はそういうと愛麗たちに帰宅するように促し部屋の外に出した。
千「ふう、少し危なかったわね。だけどこれで2人の生声が手に入ったわ。これを使ってエロゲーを作って売れば大儲けよ。間抜けな男どもは清楚系美人と強気系美人に弱いからね・・・さ、早速音声を作っておいたゲームに読み込ませようっと。それにしても、コミュ障改善プロジェクトなんて嘘をつけば誰だって乗ってくれるんなら他の奴にもやってみようっと!」
千砂はウハウハ顔で音声データをゲームに読み込ませ始めたのだった。
一方、無理やり外に出された愛麗たちは千砂のいるアパートを離れ、とある場所に電話していた。
麗「・・・一応嘘つき社長のアパートの見えやすそうな場所にカメラ仕掛けたけど・・・問題ない?」
環「ばっちり映ってるし。音声もダダ漏れだよ。」
電話の相手は環輝だった。愛麗たちは凛世が収録している間に千砂の部屋に環輝がエレナと以前作った小型カメラを設置し、千ヶ崎の部屋を監視しているのだった。
環「この社長の目的は凛世と奈摘の声を利用してエロゲーを作ることみたい。人の声を勝手に奪って・・・最低だし。」
麗「他になんか変わった動きはない?」
環「それ以外には今ん所ないかなぁ・・・明日アンの家に来て。動画見せるからさ。」
麗「分かった、付き合ってくれてありがとう。それじゃね。」
愛麗はそういうと電話を切った。
凛「どうでしたか・・・?」
麗「・・・アンが見たことが正しければたぶん騙された。嘘つき社長は凛世と奈摘の声を使ってエロゲーを作って売る目的があったみたい。」
凛「酷いです・・・」
柚「2人の声は綺愛麗だからキャラクターに当てるのなら持ってこいだと思うよ。鈴声って奴だね。」
姫「人をコミュ障という言葉で脅して声を撮らせ、それを使ってもうけを得る・・・明らかにこれは窃盗罪なのだ。」
奈「わたくしたちの声をそんなことに利用しようとしていたなんて・・・許せませんわね。」
嘉「明日環輝ちゃんちいこ。ウチらは自分たちの目で真実を確かめなあかんから。」
次の日。愛麗たちは環輝の家に来ていた。
環「皆わざわざ来てくれてありがと。んじゃこれが動画だし。再生するよ。」
環輝は手際よくパソコンを操作し動画を再生した。動画には嬉しそうな声を出して喜ぶ千ヶ崎が映っていた。
千「ふう、少し危なかったわね。だけどこれでちょうどいい生声が手に入ったわ。これを使ってエロゲーを作って売れば大儲けよ。間抜けな男どもは清楚系美人と強気系美人に弱いからね・・・さ、早速音声を作っておいたゲームに読み込ませようっと。それにしても、コミュ障改善プロジェクトなんて嘘をつけば誰だって乗ってくれるんなら他の奴にもやってみようっと!このデータを読み込ませて・・・よしっできた。金髪ツインテと黒髪ロングのキャラにしておいてよかった。テンプレキャラをモデルに作ってノンケ寄りに調整したキャラだから2人の声がぴったりマッチするわね。この調子で色々な奴の声を撮ってエロゲーにして売りまくるわようひゃひゃ!」
麗「思った以上に醜いこと考えてんのねあいつ・・・」
凛「酷いです・・・私をコミュ障だとあんなに脅して声を奪って利用しようと考えていたなんて・・・」
姫「うむ、こいつがやってることは詐欺師と何も変わらないな。」
柚「それでどうするの?警察に通報する?それともボクたちで報復する?」
凛「私に・・・考えがあります。皆さん協力してください。」
奈「もちろんですわ・・・ですけど今の凛世さん・・・」
嘉「ちょっと怖いやん・・・」
凛「そうですか?たぶんあれだけ指導したくせにやってることは詐欺師だった社長さんへの怒りが表情に出ているのかもしれません。」
環「ねえ愛麗、これって・・・」
麗「アンもそう思う?たぶん間違いないと思うよ・・・決して表情には出さないけど、怒り狂ってる状態だよ。ウチの馬鹿親父に切れた時と同じ・・・」
凛「あ、皆さんには何もしないので怖がらなくても大丈夫ですよ?」
柚「うん、それはわかってるよ。」
奈「それでどんな報復をするんですの?」
凛「説明しますね。まず、花蜜さんはあの人のパソコンにアクセスしてデータを破壊してください。」
環「ハッキングしてデータを破壊すればいいのね。了解だし。」
凛「私たちはあの人のアパートに乗り込みます。多勢に無勢ですし、大勢で行きましょう。」
一方、そんなことは知る由もない千砂はこの世の幸せを謳歌していた。
千「ギャルゲーの最終調整終わったわ!後はCD-ROM一万本にデータを焼き付けて販売すればいいだけよ!予約も殺到しているし、余裕で完売できるわね。さ、早速データの焼き付けに取りかかって・・・あら?」
データの焼き付けに取りかかろうとした千砂はパソコンの異常に気付く。
千「ここに置いておいたデータが見当たらない・・・?」
千砂が気付いた時にはもう遅かった。苦労して作り上げたデータが次から次へと消えていく。
千「え!?なんでデータが消えていくの!?音声データも消えちゃう早くバックアップを・・・」
これは千砂のパソコンにこっそりハッキングしていた環輝の仕業であり、データを削除し始める。
環「音声データとゲームのデータはこれかな?削除・・・っと。いやーデータを一気に消すのって爽快じゃん!」
千砂はバックアップを撮ろうとしたが環輝の素早いデータ破壊に追いつくことができず、作り上げたエロゲーのデータを全て消されてしまった。
千「そんな、一攫千金を狙った私のプロジェクトが・・・まずい、早く家賃払わないとここから追い出される!」
麗「その必要はないと思う。だってあんたを訴えるから。」
千「あなたたち、仕組んだわね!!!」
奈「さあ?そんなことは知りませんわ。それよりも・・・貴方に話がある方がいますわよ?」
千「誰よ・・・」
凛「社長さん・・・ちょっとお話ししましょうか・・・?」
千「どうしたのよ凛世ちゃん・・・あんた怖いわよ?」
凛「お話したいことがいっぱいあるんです。特にこの事とか・・・」
凛世は先ほどの動画の音声が入ったボイスレコーダーを再生した。
千「なんで・・・なんでその言葉ががそこに・・・」
凛「私をコミュ障と煽って声を収録。そして声を無断でエロゲーのキャラボイスにする・・・ですか。どんだけ腐ってるんですかこら。」
千「違うのよ!これは・・・」
凛「違いません。音声データはすでに消えたと思いますが・・・その腐ったサービス、今すぐ辞めてもらえますか?」
姫「そうだな。人をコミュ障だと煽ってエロい台詞を無理やり言わせて声を収録・・・詐欺と何も変わりないと思うのだ。」
千「だからこれは詐欺じゃないって・・・私の考えた立派なコミュ障更生プロジェクトなの!」
凛「へぇ・・・」
千「ひっ・・・」
凛「録音した音声を聞く限り貴方が人のことを思ってこのプロジェクトをやっていると私は思えませんよ?そ・れ・に・・・貴方がやっていることは善意と悪意の入り混じった押し売りでしかありません。人の欠点を貶して声を奪って自分はゲームに声を読み込ませて大金持ちですか・・・人を思いやれる方がやることとは思えませんね。」
麗「ほんとそういうことするやつほど自分が見えてないのよね。」
凛「愛麗もこう言ってますし・・・私、貴方に制裁をしますね?」
千「お願い命だけは助けて・・・」
凛「命は奪いませんよ?そ・の・か・わ・り・・・地獄を見せてあげましょうか。皆さん、この人を逃げられないよう縛ってください。」
姫「わかったのだ。」
柚「あの柱のあたりでいいかな。あ、君に逃げる権利はないからね。」
千砂は部屋の一角に縛り付けられた。
千「動けない・・・」
凛「さぁ社長さん・・・あなたはこれでもう逃げられませんからね?」
千「何をする気よ。」
凛世は千砂に台詞が書かれた台本を見せられた。
凛「これ音読してください。こんなプロジェクトを推し進めているコミュ強なあなたなら読めますよね?」
千「何よこれ・・・ひっ!」
千ヶ崎が驚くのも無理はない。そこには凛世に読ませたものよりももっと卑猥な言葉が並んでいたのだから。
凛「こういうものに詳しい天宮城さんに書き下ろしてもらいました。さ、読んでください。」
奈「書くの大変だったんですの。もちろん読んでくださいますわよね?」
千「よ、読めるわけないでしょこんなの!」
凛「へえ・・・コミュ強なのに読めないんですね。嘘つきなんですね貴方。」
千「なんでそこまで言われなきゃならないのよ・・・」
凛「あなたは同じことを私にして同じ言葉を言った癖に何を言ってるんですか?あ、私は胸をつかんで脅したりはしませんよ。女の子にとって大切な部分を乱雑に扱うのなんて一切理解できませんからね。」
奈「もうこの時点で詐欺の罪を認めて警察に出頭したらどうですの?あなたがこの詐欺で他にも何人もの声データを持っていることは判明していますわよ?」
千「自首なんてするもんですか・・・私は悪いことしてないし、このプロジェクトを中止したら無一文になる・・・」
凛「自首しないならさっさと読め。それができないなら貴方を訴えます。」
千「分かったわよ読むわよ読めばいいんでしょ!」
千砂はいやいや台本に書かれた台詞を読み始めた。
千「私をめちゃくちゃにして~!」
凛「感情がこもってませんね、もう一回!」
千「私を・・・私をめちゃくちゃにしてくださいいいいい!!!」
警察に自首するのを嫌がった千砂はその後なんとか台本を読み切った。
千「これでいいんでしょ・・・」
凛「はい、お疲れ様でした。台本を読み切ってその台詞はボイスレコーダーに収録させてもらいましたから。」
麗「二度とこんな馬鹿な真似するんじゃないわよ。」
柚「たぶん次はないよ。」
嘉「報復なんて考えたらウチらは今度こそあんたを訴えるで?」
姫「じゃ、我らは家に帰るのだ。」
凛「それでは千砂さん。貴方が心を入れ替えてくれることを祈ってますね。」
愛麗たちはそういうと千砂の部屋から出て行った。
千「うう、どうしてこうなるのよ・・・」
逆に自分がゲームのデータを消された上にエロい台詞を読まされて録音までされて、弱みを握られてしまった千砂は落胆するのであった。
数日後。愛麗たちはいつも通りの平穏な日々を取り戻した。
麗「凛世に奈摘、あれから嘘つき社長に脅されたりしてない?」
凛「はい。特に何も問題ないです。」
奈「わたくしも特に問題ないですわ。」
柚「それなら良かったよ。それにしてもあの人はなんであんなことをしたんだろう?」
凛「あの家にある機材は簡易的な物だけでした。だから、おそらくお金がなかったか、莫大な借金を抱えていたのではないでしょうか?」
柚「なるほど。声を奪ったのは借金を返すためだったってわけか。」
嘉「環輝ちゃんのデータ消された直後に家賃がどうとかとか言うてたもんなぁ。」
麗「ったく、ああいう人間は滅んでほしいものだわ・・・それと凛世。」
凛「何ですか?」
麗「あたしはさ・・・別に凛世のことコミュ障だなんて思ってないから。もし凛世が一定の基準を満たしててコミュ障に該当する場合だったらあたしがカバーするから・・・だからあんな危険なことは二度としないで。」
凛「ありがとうございます。愛麗にそう言ってもらえるだけで嬉しいですよ。」
柚「2人は本当に仲がいいんだね。妬けちゃうなぁ。」
嘉「(せやけどウチらテロ組織と何度も戦っとるし、結構危険なことに足突っ込んでる気がするんやけどね・・・)」
一方、家賃の払えなくなった千砂は騎ノ風市をさまよっていた。
千「他にだまし取った奴の音声データも消されたから家も家具も差し押さえられた・・・機材も借金までして買ったのに全部失った・・・」
家賃を払えず、手持ちの機材などを全て差し押さえられた千砂の手元には何も残らなかったのである。
千「もういいわ・・・どうせ何もかも失ったのよ。旅に出よう・・・」
千砂はフラフラとした足取りでどこかへ向かって歩き出す。その後騎ノ風で彼女の姿を見たものはいない。